アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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「気分を変えよう。売店でお菓子と飲み物を買って、移動しよう。ここでのお小遣いは、一人1ドラゴニア金貨ね。ノワールに両替してもらって」

 アキラは、さっきホワイティ・ハウルで支払いをしようとして驚かれたことを思い出す。店主の驚きの顔が、頭から離れない。

 アキラはルナも含めて、お小遣いを手渡す。ルナの分は、今回はノワールに渡すことにした。ルナの瞳は興奮に輝き、今から何を買おうかと胸を躍らせている。みんなそれぞれ、思い思いに買い物を楽しんだ。

「胡桃とフルーツのお菓子よ。独特の味付けで、美味しかった」とノクスが、嬉しそうに頬を緩ませながら言った。
「ワオーン!」ルナが勝利の雄叫びをあげる。ノワールが袋に抱えた干し肉の山は、まるで小山のようだ。乾燥した肉の香ばしい匂いが、周囲に漂っている。
「ルナさんがたくさん味見して決めたの。買った干し肉は完売したわ」ノワールが笑いながら言うと、ルナは得意げに胸を張った。

「ところで、ノワールさんは何を買ったの?」
「ヴァイオレット様の好物のお菓子を少々」彼が見せたのは、幼児が舐めたくなるようなカラフルな飴。小さな包みからは、光を受けてキラキラと輝く飴玉が覗いている。
「それで、セレナは?まさか、お金を落としたの?」彼女は手に何も持っていない。周りの仲間たちが不思議そうに顔を見合わせる。

「ふふふ。誰にも盗まれないし、無くならないもの!」彼女の目は、秘密を抱えた子供のようにキラキラしている。
 彼女が裏通りの食堂に駆け込んで行ったのを見ていたが、営業は終了の看板がかかり、料理は全て売り切れだったはずだ。

「まさか、レシピとか?」
「正解!さすがアキラ!」セレナの後ろから、食堂の看板娘ロロが顔を出した。
「友達になった」
 彼女は笑顔で「お見送りに来ました! また、来てくださいね!」と言いながら、手と尻尾を振った。

 すでに騎士団もいなくなっているので、かち合うこともないだろう。アキラたちは安心しながら、ウエストグレンへの峠に向かった。



 峠は急勾配だった。頂上付近には倒木の跡があり、道路の両端には道を塞ぐ石や木が片付けられていた。どうやら先ほどの騎士団が作業をしたらしい。奴らが話していたゴブリンの足跡や矢もすべて隠されていた。

「ここで、ゴブリンの襲撃がありました。」ノワールが説明する。
「そして、転移してきたのですね。」
「はい。なぜそれを隠そうとするのかはわかりません。」王女の追跡と襲撃の隠蔽、王国騎士団の目的は不透明だった。

 物見をしながら歩いていると、途中、幾つもの荷車や旅客馬車が追い越していった。アキラは、状況を整理しながら歩いていた。

「あれはマリスティア家の紋章が入っています。」ノワールが指摘すると、西の公爵家の馬車が通り過ぎた。王国四大貴族の中で一番の富豪とされる彼らの馬車は、少し速度を落とし、峠の様子とアキラたちを確認したが、興味を失ったように再び速度を上げていった。

 しばらく歩いていると、セレナが急に慌てた声を上げる。
「アキラ、逃げよう!」
 彼女の声には緊急性があり、アキラは思わず振り向いた。セレナはアキラを掴み、道路脇の高い崖の上に放り投げた。ノクスが石の矢で階段を作り、セレナとノクスも駆け上る。ルナもノワールを乗せ、「跳躍」で崖を登った。

 全員が崖の上に退避できたところで、ノクスが石の矢でできた階段を崩し始めた。まるで山崩れが起きたように見えるだろう。

「いったい何が?」アキラは驚き、心臓が高鳴った。生き物としての勘が全く働いていなかった。
「今までで一番強いかも。ここで会うのは危険」セレナの言葉には重みがあった。
 急いでマップ情報を確認したが、敵対でも魔物でもなく、人らしい反応が数個近づいてくるだけだった。
 ノワールが物凄い速さで近づいてくる馬車を視界の隅で捉える。「あの立派な馬車と紋章は、ネグラロサ商会のものです」

 馬車は急減速し、アキラたちの近くで止まった。御者の顔は蒼白で、恐怖が滲んでいる。馬車の大扉から、海賊のような風貌の大男が姿を現し、地面に降り立った。彼は鋭い目で周囲を見回し、威圧感を放っている。

「アキラ、離れよう!ルナ、お前は囮だ」セレナは珍しく小声で指示を出し、ルナを残してノワールを背負い側道を探し始めた。

「セレナ、ルナは?」
「大丈夫、逃げ足は早い。それに、いつでも合流できる」セレナの言葉には確信があった。先導して移動を続けるセレナの姿は頼もしく、アキラは彼女に従った。



 ネグラロサ商会の副会長であるアルマダは、ウエストグレンのコール支店長からの連絡を受け、ウエストグレンへの道を急いでいた。

「くそ!間違えた!本当に外せない重要な用事なんて、そんなにあるわけがないのに」アルマダはここ数日、つまらない案件に振り回され、身動きが取れなくなっていた。

「コールからの第一報を受けたとき、すぐに動くべきだった。」昔の自分なら、こんな失敗はしなかった。そう思うと、忸怩たる思いが彼を支配した。そして、決断した。

 隠密活動をする時間は終わった。ネグラロサ商会は商会の仮面を脱ぎ捨て、今ここに新たな決意を抱えている。

「全支店、全従業員に告ぐ! 本日をもって、商会としての業務はすべて連合商会に移管する。移管を選ぶか、ネグラロサに残るかは自由だ。ただし、ネグラロサは明日から、海賊として生きる!」

 目を疑うような通告が全世界に発信された。世界最大の商社が一日で消え、大海賊が復活する。

 だが、現場は意外にも混乱しなかった。現場で働く若手の多くが、そのまま連合商会に移ったからだ。さらに、連合商会はネグラロサの傀儡に過ぎない。地に潜んでいた蛇が脱皮しただけに過ぎなかった。

 ただし、各支店の中堅以上の社員は忽然と姿を消した。そして、ネグラロサ商会の潤沢な資金も共に消えた。消えた海賊団員の元には、最初の指示が飛び込んだ。

「やはり、魔物が襲撃した跡がある。消したのは、王国か」アルマダは峠の道を確認し、急に落ちてきた山崩れの崖を見上げた。
「あれは狼…いや、フェンリルだな」ルナの姿をめざとく見つけると、アルマダは笑った。
「どうしますか?追いますか?」御者と数人の男たちが崖を登る準備を終えている。
「いや、無駄だ。追いつけるわけがない。いずれ会うだろう。それよりも、ウエストグレンに向かおう。」


※※※
 物語が始まる。主要人物が、各自のスタート地点に向けて移動を始めているように見える。
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