アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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緊急会議

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 ホテルのラウンジで、緊急会議が始まった。大きな窓の外には穏やかな川が流れ、そのせせらぎが微かに聞こえる。

 眩しいほどの昼の日差しが室内を照らし、川向こうの緑が鮮やかに映り込んでいる。アキラ、ノクス、ヴァイオレット、フェニックス、アゼリア、そしてノワールが、緊張した面持ちで席についていた。

「事情は、以上です」
 ノワールが長い説明を終えると、フェニックスとアゼリアが重く深いため息をついた。
「まったく、なんて愚かな連中だ」
 フェニックスが苛立ちを隠せない様子で言った。

「許せない……」
 アゼリアは、ノワールが記録した王国の公文書に視線を落とし、拳を固く握りしめた。その眼差しには、怒りと憤りが込められている。

「それで、手に入れた造船所と本ですが、アストリア様の物です。どうしましょうか?」
 アキラが少し間を置いて、皆の意見を促すように問いかけた。

「うーん、皆で共有しましょう」
 ヴァイオレットは穏やかな表情で提案したが、その瞳には覚悟が宿っていた。

「それでは、武器倉庫と図書館を設置しましょう」
「……作るのですか?」フェニックスが疑念を浮かべると、
「いえ、持っているんですよ!」とアキラが即答した。

 その突飛な返答に、ヴァイオレットが思わず笑い出し、他の者たちも釣られて和やかに笑みを浮かべた。緊迫した空気が少し和らいだ瞬間だった。

 そこへステラがお茶を運んできて、一同はひとまずブレイクタイムに入った。お土産のチョコや菓子がテーブルに並び、川のせせらぎが響く静かなラウンジに和やかな空気が漂う。しかし、心の奥底には、魔物や王国に対する重い課題が横たわっている。



 やがてアキラが再び視線を上げ、静かだが確かな口調で切り出した。 

「まず、ヴァイオレット様の意向をお伺いしてもよろしいでしょうか? ここで対立は避けたいと思います」

 彼の一言に、全員が表情を引き締めた。
「私たちは、この地に亡命してきた身。アキラさんの指示に従います。ただ、私たちが王国と魔物の争いに関与すれば、さらなる混乱を招きかねませんよね、フェニックス?」

 ヴァイオレットが慎重な視線をフェニックスに向けた。
「ええ、その通りです。ただし、もし我々が圧倒的な力を示せば、相手の態度も変わるでしょう」

 フェニックスは自信に満ちた口調で応じた。
 その間、アキラは冷静に、しかし慎重に次の手を考え続けていた。彼の決断が、この場に集う皆の行く末を左右する。全員がその重みを理解し、息を飲んで彼を見守っている。

「残念ながら、私にはそのような力はありません。……彼らは本当に、魔物の脅威を理解しているのでしょうか?」

 ヴァイオレットは少し悲しげに目を伏せ、遠くを見つめながら呟いた。
「そうですね。理解していないかもしれません」
 フェニックスが静かに応じたが、その瞳には深い悲しみが映っていた。

「私は、ヴァイオレット様の意見に賛成です」「私も同感です」

 ノワールとアゼリアが同時に頷いた。
「つまり、我々としては静観の立場を取るということですね。ただし、アキラさんの判断には従います」
 ノワールが皆の心を代弁するかのように言った。

「ありがとうございます。私も同意です。ただ、セレナから託された南西の森だけは、守ろうと決めています。皆さんにもご協力をお願いできますか?」

 アキラは一瞬、全員を見回しながら言葉に力を込めた。
「ええ、もちろん。いつまでも小さなノワールでは困りますもの」
 ヴァイオレットが微笑みながらノワールに目を向けた。

「あなたがそれを言いますか?」
 ノワールが照れ笑いを浮かべ、一同はまた軽く笑い合った。
アキラさん。……次は、アゼリアをパーティに入れてくれませんか?」

 一瞬の静寂が場を満たした。
 アゼリアは俯き、そっと唇を噛む。
 その視線は揺れ、けれど――その声には確かな意志が宿っていた。

「……私に、できるでしょうか……」
 声は細くかすれていたが、まるで心の底から掬い上げられたようだった。

「血が滲むほど努力してきました。歯を食いしばって、ここまで来たんです。なのに……誰も、私の努力を見てくれなかった。天才だって言われて、それで終わり。もしまた同じことを一からやれって言われたら――もう、自信がない……」

 言葉が落ちるたび、空気が重くなる。
 誰もが息を呑み、彼女の心の震えに耳を傾けていた。

「馬鹿ね。私は、貴女の努力を、小さな頃からずっと見てたわ」
 沈黙を破ったのは、ヴァイオレットの穏やかな声だった。

 「だから――私を信じて」
 アゼリアは一瞬目を見開き、それからゆっくりと頷いた。
 かすかに、けれど確かに。

「大丈夫。やり直した私が、太鼓判を押すわ」
 ノワールが柔らかく微笑み、言葉を繋ぐ。
 「生まれ変わった先で、きっと本当に大切なものを手に入れられる」
「……ありがとうございます」
 アゼリアはそっと微笑み、まぶたを伏せた。
 「もう少しだけ……自分なりに考えてみます」
 柔らかな空気が流れる。

 それは、短くもあたたかなひと時だった。
 だが、その静けさの奥には――
 誰にも気づかれぬまま、胸に秘めた小さな決意が、いくつも芽吹いていた。

 川の流れは今日も穏やかだ。
 けれど、その水面の下では、目には見えない波紋が、静かに、静かに広がり始めていた。
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