アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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魔導船

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 アキラがエリシオン村を離れなかった理由――

 それは、ハートフェルトから届いた伝令鳥メッセリウスがもたらした、ただ一つの報せだった。

 ネグロクサ商会が船を準備し、峠道の奥にある川へと運び込んだ――と。

「……どうやら、この村の存在に気づかれたようです」
 アキラの言葉に、室内の空気がわずかに張り詰めた。
「それと、運んできた古い武器庫――アストリア様の家紋だけではありません。ネグロクサ商会の紋章も見つかりました」

沈黙の中、ダリオスが報告する。
「この地は、魔物との大戦の頃、アストリア軍とネグロクサ商会が共同で陣を敷いたのでしょう。陣地というより、前線基地だったのかもしれません」

「そうなんですか?」アキラが尋ねる。
「私も、その時期にウエストグレンへ入って商いを始めました」
老商人が静かに口を開く。

「新たに開かれた町。アストリアとネグロクサの出資で築かれた……ですが、峠から先は徹底して秘匿されていた。警備も、異常なほど厳重でした」

 アストリアの関係者なら、ヴァイオレット王女と無関係ではない。味方である可能性も高い。
「島の灯台に監視を置くべきだな。接近があれば、即座に動けるようにした方が良いかもしれない」

「すでに、コボルトたちが監視に入っています」
ダリオスが微笑を浮かべた。
「あれは、どうも彼らの習性らしくて。異変があれば、すぐに知らせが届くでしょう」
「便利ですね……」
アキラは苦笑しながら立ち上がる。

「では、王女のもとへ」


 ホテルのラウンジで、アキラはヴァイオレット王女たちと会談をした。
「ネグロクサ商会が、こちらに向かってきています」
「そうですか」

 王女の横顔は、微動だにしなかった。
 フェニックスやノワールたちは、驚きと期待の入り混じった表情で互いを見た。
 彼らの反応の理由は、すぐに明かされる。

「……実は、彼らには以前、経済的な支援を受けていたのです」
フェニックスが答える。
「私たちにとって、決して無関係な存在ではありません」
「ならば、敵ではない可能性が高いですね」

 アキラは表情を緩めたが、フェニックスの目は鋭さを失わなかった。

「ですが、王女を守る立場として警戒は怠れません。それに、我々は今、王国から指名手配されている身です」

 アキラが沈黙すると、ヴァイオレットがふっと微笑んだ。

「……問題ないでしょう」
 そう言って、窓の向こうへ視線を送る。
 その声には、確かな確信が感じられた。
「王女は、そうお考えに?」
ノワールが尋ねると、ヴァイオレットは首を傾げ、小さく答えた。

「ええ。楽しみですね。……お母様の知り合いに会えるでしょうから」

 たった一言。けれど、その響きにノワールは全てを悟った。
――ああ、この人は、知っている。未来を。



「アキラさん、この紋章をアキラさんの紋章と並べて、塔に上げてください!」
それは、ヴァイオレット王女の紋章だった。
「わかりました」

受け取ると、アキラは塔へ向かった。
「それでは、準備ができ次第、私たちも向かいます」
「念のため、戦闘の準備を」

 フェニックスやアゼリアは武具を身につけに部屋へ向かう。
 ノワールは「ヴァイオレット王女の準備を!」とリリィと共に張り切って動き出した。
 アダムは馬車を取りに出ていく。
「危ないとわかったら、逃げてくださいね!」
俺の声に、ヴァイオレットは笑って会釈していた。

「俺の村の紋章なんて、あったっけ!」
小さな村だ。そんなものは――

「もちろん、ありますよ!」
 久しぶりに、ラピスの声が聞こえてきた。
「あ! ラピさん、何してたの? 大変なことになってるよ!」

「ええ、どうなってるんでしょう!」
 ラピスのわざとらしい戸惑う声を、初めて聞いたかもしれない。

 彼女はネグロクサの動きを監視していたから、そこまでの脅威とは思っていなかった。
 だが、物語がこのように進むとは……あの馬鹿狼がヒントを出すから……。

 そして、慌ててまた、デザイン作業に没頭していたのだ。

「アキラさん、倉庫画面で、国旗が買えるようになっています」
アキラは興味津々に取り出した。

「あれ?」
「どうしました?」
「シンプルじゃないか? 
でも、綺麗だ」

碧、白、翠の縦三色。、
「よかった」
ラピスは、ほっとしたように笑った。


 塔を登ると、そこにはアリアとステラが川を眺めていた。
「アキラさん、それ、何を持ってるんですか?」
ステラが覗き込む。
「ああ、これをそのポールにつけたいんだ。手伝ってくれる?」

 手には、白百合に鍵――ヴァイオレット王女の紋章。

 もう一つは、さっき手に入れたアキラ国の三色旗。

白百合は、高貴と純潔。
鍵は、導きと信頼の象徴。

ポールを登り、風にたなびく二つの旗。
ステラが嬉しそうに三色旗を掲げている。

「こんな旗、どこにあったんですか?」少女が聞いてくる。

「ああ、倉庫にあったんだよ」
 アキラは誤魔化したが、倉庫整理を任されている彼女が知らないはずがない。

「ふうん。でも嬉しい。私も大好き!」
彼女は意味深に呟いた。

 旗を見上げたアキラの胸に、ひとすじの思いが灯る。

――そうか。これは、始まりなんだ。
風が大きく吹いた。

 魔物の森が、急に慌ただしくなる。

そして、大地を揺らすような重低音。
森の奥――川の方角から、波を裂く音が近づいてくる。

その姿は、木々の影を抜けて、ようやく現れた。

黒金の板を幾重にも重ねた艦体。
魔道の灯が、その側面に複雑な文様を走らせている。

それは――
大魔道船だった。
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