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エリシオン村の発展
しおりを挟む「ただいま帰りました」
ノクスがエリシオン村へと戻ったその瞬間、目に飛び込んできたのは、かつての穏やかさとはまるで違う、喧騒と熱気に包まれた光景だった。
村の中心には大きな荷車が何列にも並び、川では魔力で動く大魔道船が何隻も行き交っている。人、物資、金、そして――武器。
あらゆるものが次々と運び込まれ、かつての静かな村は、今や小さな交易都市のような賑わいを見せていた。
原因は明白だった。ネグロクサ(商会)が、この村への「完全移住」を決めたのだ。
しかも、それは一部の部署や支部だけの話ではない。大陸全土に展開していたすべての人員、資産、機構を引き連れての、前代未聞の大移動だった。
「もう商会連合に商売はすべて移管してあるからな、ははは!」
豪快に笑いながら次々と命令を飛ばすのは、アマルダ。ネグロクサの副商会長にして、大戦を生き延びた古参の商戦士――戦場を渡り歩いたその眼差しは、ただの商人には到底出せない鋭さと胆力を帯びている。
鍛え抜かれた体躯、軍務を思わせる癖の残った所作。それらすべてが、彼のただ者ではない過去を物語っていた。
その背後では、ウエストグレンから到着した輸送部隊が黙々と荷下ろしを続けている。村の地形そのものが変わってしまう勢いだ。
「アマルダさん! この村の規則は、守ってもらいますよ!」
声を張り上げたのは、村の運営を一手に任されている元商人のダリオスだった。
額に汗を浮かべながら、必死に帳簿と人の波の両方をさばいている。
「もちろんだ、ダリオス。アキラ様には従うさ。ただな――この場所は“使っていい”って許可が出てるんだよ」
アマルダが顎をしゃくった先では、ギルドホールの隣地で、ネグロクサの巨大屋敷の建設がすでに始まっていた。
鉄骨が組まれ、魔導式のリフトが資材を吊り上げ、職人たちが怒号を飛ばしながら作業を進めている。
「それで、道と他の屋敷の件はどうするんだ? 指示を出さないと勝手に建てるぞ!」
部下たちはすでに村の再整備案を持ち出している。ホテルとの間には舗装された大通りを敷き、ギルドホールの周辺には店舗と住宅を並べるというのだ。
「ヴァイオレット様とアキラ様の許可はちゃんとある。それと船舶と武器、すぐに準備してくれ」
「……今、ドワーフたちが整備中だ。もうじき完成するはずだが――」
「悠長なことを言ってる場合か! 南の森からいつ敵が攻めてくるかわからんのだぞ! 国防プランはあるのか!」
「……フェニックス様に相談を……」
その一言に、ダリオスは言葉を失った。顔が引きつり、肩からどっと力が抜ける。
「……俺は、こんな怪物と……商売で競ってたのか……?」
かつては誠実さと人徳で客を集めていた。だが今、この暴力的とも言える物流と資金力を目の当たりにして、彼の心は折れかけていた。
しかも肝心のアキラは、「全部任せたよ」と軽く言ってのけ、アリアは「手伝うね」と言いながら、薬草集めと図書館の往復ばかり。誰も彼も、村の運営はダリオスに丸投げ状態だった。
「アキラさん! 話があります!」
限界寸前の表情でアキラハウスを訪ねたダリオス。だが扉を開けると、アキラはノクスと数人の女エルフたちと会談中だった。
「では、エリオンさんと御婦人方の住まいや仕事については……ダリオスが調整してくれるから」
また俺の名前が出た……。無条件の信頼のようで、実は完全な業務依頼でしかない。
人徳で乗り切れる段階は、とうに過ぎていた。
「アキラさん、お願いがあります! いえ、お願いじゃなくて……やってくれないと本当に困るんです!」
その悲鳴のような声を聞きながら、画面の向こうで部屋を片づけていたラピスが、ふっと笑った。
「……仕事、投げすぎでは?」
その的確すぎる一言に、アキラも口をつぐむしかなかった。
※
「だからさ、ラピさんが探索に行けって言ったんだってば」
アキラは、責められる筋合いはないとばかりに肩をすくめた。
確かに町を離れていたが、それはサボっていたわけではない。牙狼の森で、ラピスの助言どおり、しっかりレベル上げに励んでいたのだ。
同行していたのは、ノワールとアゼリア。ヴァイオレット王女の近衛であるアゼリアは、命令によってレベルリセットを受け、まっさらな状態からの再スタートを強いられていた。
「うん、小さい時を思い出すわね」
ヴァイオレット王女は、ノワールの時と同じ、王女の時の子供服を着せ連れ回している。
「本当に、可愛らしいわよ」
ノワールは、どこか愉快そうに笑う。過去にされたからかいへの、ささやかな仕返しだった。
数日間の探索と実戦を経て、アキラは魔術師としてレベル12に到達。ノワールも2レベル上がって6に。
そしてアゼリアは、そのわずかな期間で聖騎士のジョブを獲得した。
アキラ 魔術師 レベル12
ノワール 鞭使い レベル 6
アゼリア 聖騎士 レベル 4
「アゼリアさん、こちらが……エリス神よりの祝福です」
ラピスが差し出したのは、白銀の鎧と、純白のマント。そして、柄に聖印が刻まれた一振りの聖剣だった。
「……え? こ、こんなに立派な装備を、私が……?」
アゼリアは思わず口元を押さえ、わずかに目を潤ませた。
王女の命に背けず、誇りを捨ててまで受け入れたリセット。それが、報われたのだと思えた。
テントの奥で装備を身に着け、姿を現したアゼリアは、まるで別人のようだった。
額に銀のディアデムを戴き、聖剣を腰に携え、清廉なる白銀の鎧が陽光を跳ね返す。
「……見違えましたね。これこそ、真の聖騎士ですね」
ヴァイオレット王女の言葉に、アゼリアは小さく頷いた。
「私は、ヴァイオレット様の盾であり、剣でもあります。……この力、必ずお役に立ててみせます」
少女の姿のまま、それでも背筋を真っすぐ伸ばした彼女は、凛として美しかった。
※
ノクスの帰還を受け、すぐさま会議の招集を決めた。ラピスの予測通り、事態は動いていた。
「……わかったよ、ダリオス。緊急会議をやりましょう。主要メンバーを招聘して」
疲れきった顔のダリオスの肩を、アキラはぽんと叩いた。
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