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蠱惑の魔剣
蜘蛛の糸
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ラゼル王子は朝から酒を飲みたがっていたが、作業が始まってしまい、不満げに頬を膨らませていた。
「もしよろしければ、採掘をお手伝いさせてください!」
そんな彼の言葉も、ロッカたちと一緒に帰れると知ると、機嫌はすぐに直る。
「まあ、俺がしっかり守ってやる」
誇らしげにそう言ったラゼルの視線は、いつもとは違い、ロッカではなくシルヴィアとリーヴァに向けられていた。
ノルドはそんなラゼルを横目に見ながら、いつもとは逆にほっとしたような表情で居営地を後にする──普段なら、居営地を出る時は張り詰めるのだが。
「荷運び! いい採掘場所を選べ! 二つのパーティ分、しっかり稼げるところをな!」
ラゼルの命令に、ノルドは心の中でため息をつく。
(だったらお前が前を歩け……)
二階層の開拓済み区画はノルドにとって庭のようなものだ。しかし今は王子パーティの荷運びとして同行中。
索敵も安全確認も罠のチェックも──すべてノルド任せだ。
「確認です。危険な未開拓領域に進みますか? それとも、安全で安定した採掘場所を取りますか?」
皮肉を込めて尋ねると、ラゼルは鼻で笑った。
「決まっているだろう。俺たちは冒険者だ。未開拓領域に決まってる!」
その言葉に、フィオナやカリス、シルヴィアたちがちらりと視線を交わし、ロッカは苦笑を浮かべた。
「では、先頭をお譲りします。どんな魔物が潜んでいるか分かりません。お気をつけて」
ノルドは一礼し、最後尾に下がった。
その背に、ラゼルが小さく「臆病者が」と吐き捨て、先頭に立つ。
「ラゼル様、護っていただかなくては。シルヴィアたちが怖がっております」
フィオナの言葉に、ラゼルは咳払いして歩調を緩めた。
合図のように、フィオナが補助魔法を詠唱し、カリスが光魔法で洞窟を照らす。
未開拓域には光源がなく、数歩先すら闇に沈んでいた。
(こんなところに、初心者混じりで踏み入るのか……)
ノルドは隊列の背後から空間の歪みを見据え、気配を探る。
「……来ます」
ノルドが警告した直後、サラが叫ぶ。
「……大きな魔物です! 大蜘蛛──!」
一階層でも見かける蜘蛛に似ていたが、ひと目で違いが分かる。炎を纏っていないのに、ただならぬ威圧感があった。
「普通の大蜘蛛とは種類が異なります。警戒を」
ノルドの言葉に応じ、ヴァルが前へとにじり出る。
その時だった。洞窟の奥から、土色の大蜘蛛がゆっくりと姿を現す。
──そして、ラゼルが叫んだ。
「動けん……っ! 剣が……抜けない!?」
ラゼルの身体が不自然に揺れ、細い糸のようなもので吊り上げられていた。
「くっ、あれは──」
カリスが咄嗟に火球を放つ。──ぼっ、と音を立てて火が散る。
「蜘蛛の巣、です!」
目を凝らせば、薄暗闇の中に何層にも重なった透明な糸が張り巡らされている。
細く、無数に絡み合い、まるで空間を支配する巨大な網のようだった。
「聖女ネフェルだったら、こともなげに使役するだろうな……」
ノルドが小声で呟く。
カリスとフィオナが連携して、さらに火球を撃ち込む。
──ぼっ。ぼわっ。ぽわっ。
火球が巣に当たるたび、熱で撓むが、燃え落ちはしない。異様な耐久性だ。
「くっそ、蜘蛛の糸は火に弱いはずじゃ……!」ラゼルが怒鳴る。
「この蜘蛛、ただの大蜘蛛じゃない!」
ロッカが盾を構えて突撃しようとするが、ノルドが即座に制止した。
「待ってください。それでは盾を取られるだけです」その声は冷静だった。
この糸──粘着性、弾力、耐火性、すべてが常軌を逸している。
(……使ってみたいな。あの蜘蛛の子供。できれば飼いたいくらいだ……)
ノルドの呟きに、カリスが怒鳴った。
「馬鹿なこと言ってないで、どうすればいいのよ!」
フィオナはそのやり取りにくすりと笑う。
「す、すみません。あいつ──ヴァントレイス。頭が良いので、勝てないと判断したら逃げます」
「なら、集中砲火ね。効くといいけど……!」
「構いません。狙いは時間稼ぎです。ラゼル王子には当てないよう、気をつけて!」
ノルドは空間魔法で小型の投石器を取り出した。さらに、小袋を取り出し、石を配り始める。
「……ちょっと。まさかその石まで……?」カリスが呆れたように言う。
「はい。投石器だけあっても、石がなければ撃てませんから」
「そんな荷運び人、聞いたことないんだけど……」
「よく言われます」
ノルドは手本を見せるように石を装填し、蜘蛛の胴体へと放った。──しゅっ、と鋭い音。
石は命中したが、長い体毛が衝撃を吸収し、手応えは薄い。
ヴァントレイスは巣から、音もなく地上へと舞い降りてきた。
その姿は、まるで「かかってこい」と挑発しているかのようだ。
冒険者たちは一斉に石を投げつける。だが、大蜘蛛はその長い脚を次々と繰り出し、巧みに攻撃をいなしていく。
まるで舞うように、触れさせもしない――。
「ワオーン!」
ヴァルが吠え、駆け出す。ラゼルを絡めとる糸に向かって一直線だ。
だが、大蜘蛛も即座に反応し、新たな糸を吐く。ラゼルの腕に巻きついていた糸が、補強されていく。
ヴァルは跳び上がり、鋭い戦闘用の爪を閃かせ、補強された太い糸ごと断ち切った。ラゼルの右腕が自由になる。
その瞬間、ラゼルは背中から大剣を抜き放った。
「どりゃあああああっ!」
叫びとともに、鬱憤を晴らすように剣を振るい、全身にまとわりつく糸を力任せに断ち切っていく。
振るうたびに生まれる風圧で、蜘蛛の巣が大きく撓み、
男はそのまま巣を破って突進した――!
「もしよろしければ、採掘をお手伝いさせてください!」
そんな彼の言葉も、ロッカたちと一緒に帰れると知ると、機嫌はすぐに直る。
「まあ、俺がしっかり守ってやる」
誇らしげにそう言ったラゼルの視線は、いつもとは違い、ロッカではなくシルヴィアとリーヴァに向けられていた。
ノルドはそんなラゼルを横目に見ながら、いつもとは逆にほっとしたような表情で居営地を後にする──普段なら、居営地を出る時は張り詰めるのだが。
「荷運び! いい採掘場所を選べ! 二つのパーティ分、しっかり稼げるところをな!」
ラゼルの命令に、ノルドは心の中でため息をつく。
(だったらお前が前を歩け……)
二階層の開拓済み区画はノルドにとって庭のようなものだ。しかし今は王子パーティの荷運びとして同行中。
索敵も安全確認も罠のチェックも──すべてノルド任せだ。
「確認です。危険な未開拓領域に進みますか? それとも、安全で安定した採掘場所を取りますか?」
皮肉を込めて尋ねると、ラゼルは鼻で笑った。
「決まっているだろう。俺たちは冒険者だ。未開拓領域に決まってる!」
その言葉に、フィオナやカリス、シルヴィアたちがちらりと視線を交わし、ロッカは苦笑を浮かべた。
「では、先頭をお譲りします。どんな魔物が潜んでいるか分かりません。お気をつけて」
ノルドは一礼し、最後尾に下がった。
その背に、ラゼルが小さく「臆病者が」と吐き捨て、先頭に立つ。
「ラゼル様、護っていただかなくては。シルヴィアたちが怖がっております」
フィオナの言葉に、ラゼルは咳払いして歩調を緩めた。
合図のように、フィオナが補助魔法を詠唱し、カリスが光魔法で洞窟を照らす。
未開拓域には光源がなく、数歩先すら闇に沈んでいた。
(こんなところに、初心者混じりで踏み入るのか……)
ノルドは隊列の背後から空間の歪みを見据え、気配を探る。
「……来ます」
ノルドが警告した直後、サラが叫ぶ。
「……大きな魔物です! 大蜘蛛──!」
一階層でも見かける蜘蛛に似ていたが、ひと目で違いが分かる。炎を纏っていないのに、ただならぬ威圧感があった。
「普通の大蜘蛛とは種類が異なります。警戒を」
ノルドの言葉に応じ、ヴァルが前へとにじり出る。
その時だった。洞窟の奥から、土色の大蜘蛛がゆっくりと姿を現す。
──そして、ラゼルが叫んだ。
「動けん……っ! 剣が……抜けない!?」
ラゼルの身体が不自然に揺れ、細い糸のようなもので吊り上げられていた。
「くっ、あれは──」
カリスが咄嗟に火球を放つ。──ぼっ、と音を立てて火が散る。
「蜘蛛の巣、です!」
目を凝らせば、薄暗闇の中に何層にも重なった透明な糸が張り巡らされている。
細く、無数に絡み合い、まるで空間を支配する巨大な網のようだった。
「聖女ネフェルだったら、こともなげに使役するだろうな……」
ノルドが小声で呟く。
カリスとフィオナが連携して、さらに火球を撃ち込む。
──ぼっ。ぼわっ。ぽわっ。
火球が巣に当たるたび、熱で撓むが、燃え落ちはしない。異様な耐久性だ。
「くっそ、蜘蛛の糸は火に弱いはずじゃ……!」ラゼルが怒鳴る。
「この蜘蛛、ただの大蜘蛛じゃない!」
ロッカが盾を構えて突撃しようとするが、ノルドが即座に制止した。
「待ってください。それでは盾を取られるだけです」その声は冷静だった。
この糸──粘着性、弾力、耐火性、すべてが常軌を逸している。
(……使ってみたいな。あの蜘蛛の子供。できれば飼いたいくらいだ……)
ノルドの呟きに、カリスが怒鳴った。
「馬鹿なこと言ってないで、どうすればいいのよ!」
フィオナはそのやり取りにくすりと笑う。
「す、すみません。あいつ──ヴァントレイス。頭が良いので、勝てないと判断したら逃げます」
「なら、集中砲火ね。効くといいけど……!」
「構いません。狙いは時間稼ぎです。ラゼル王子には当てないよう、気をつけて!」
ノルドは空間魔法で小型の投石器を取り出した。さらに、小袋を取り出し、石を配り始める。
「……ちょっと。まさかその石まで……?」カリスが呆れたように言う。
「はい。投石器だけあっても、石がなければ撃てませんから」
「そんな荷運び人、聞いたことないんだけど……」
「よく言われます」
ノルドは手本を見せるように石を装填し、蜘蛛の胴体へと放った。──しゅっ、と鋭い音。
石は命中したが、長い体毛が衝撃を吸収し、手応えは薄い。
ヴァントレイスは巣から、音もなく地上へと舞い降りてきた。
その姿は、まるで「かかってこい」と挑発しているかのようだ。
冒険者たちは一斉に石を投げつける。だが、大蜘蛛はその長い脚を次々と繰り出し、巧みに攻撃をいなしていく。
まるで舞うように、触れさせもしない――。
「ワオーン!」
ヴァルが吠え、駆け出す。ラゼルを絡めとる糸に向かって一直線だ。
だが、大蜘蛛も即座に反応し、新たな糸を吐く。ラゼルの腕に巻きついていた糸が、補強されていく。
ヴァルは跳び上がり、鋭い戦闘用の爪を閃かせ、補強された太い糸ごと断ち切った。ラゼルの右腕が自由になる。
その瞬間、ラゼルは背中から大剣を抜き放った。
「どりゃあああああっ!」
叫びとともに、鬱憤を晴らすように剣を振るい、全身にまとわりつく糸を力任せに断ち切っていく。
振るうたびに生まれる風圧で、蜘蛛の巣が大きく撓み、
男はそのまま巣を破って突進した――!
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