148 / 238
蠱惑の魔剣
チョコと毒薬
しおりを挟む
清算金額は、千ゴールドにもなった。
「取り分は、半分でもいいが」
ラゼルが二つのパーティの取り分について提案する。
「さすがに……そこまでは頂けません」
ロッカたちも多少は報酬を期待していたが、さすがにその金額を聞けば尻込みせざるを得ない。
「じゃあ、六四にしよう」
それでも十分に破格だった。通常、サポート役は三割が相場なのだから。
「……ありがたく、頂きます」
「まあ、その代わり、次も一緒に同行してもらうよ」
「喜んで!」
ラゼルは、シルヴィアとリーヴァに親しげに話していた。二つの冒険者グループは商人との清算を終えると、一緒に街に繰り出して行った。
ノルドは、ドラガンに報告と食料や酒の手配を頼んでいた。
「ああ、わかった。……あれだけ儲かったんなら、少しはギルドに還元して欲しいよな」
ダンジョン内での飲食費、ポーション代、火消薬、入場料――すべてギルド、正確にはシシルナ島の負担だった。
「それでは……」
ノルドには、向かう場所があった。サルサのサナトリウムだ。
途中で、ふと思い出したように足を止める。
「そうだ。母さんたちに、お菓子を買って行こう」
※
「これなんです」
サナトリウムの一室で、ノルドは天才医師のサルサに小さな薬玉を見せた。黒く、鈍い光を帯びたそれは、カリスから預かったものだ。
「つまりこの解毒薬を作ってほしいと……そう頼まれたのか? で、症状は?」
ノルドは、ダンジョンでのラゼル一行の様子を語った。
「……じゃあ、その馬鹿王子が女たちに、この薬を飲ませてるってことだな?」
「ええ。でも……他にも事情があるみたいなんです。ラゼル王子とカリスさんの関係を聞いても、教えてくれませんでした」
サルサは鋭い目をして、しばし黙考した。やがて、ふっと息を吐く。
「ああ、なるほどな。それで、ノルド。お前はどうしたいんだ?」
ノルドの胸中には、カリスを助けたいという思いと、薬師としての知的好奇心があった。一方で、ラゼル一行に深入りすることへの躊躇も拭いきれない。
「……わかりません」
自分でも、整理のつかない気持ちだった。
サルサは静かにうなずいた。
「いずれにせよ、現物がひとつしかない以上、成分の完全解析は困難だ。だが、症状の推移から類推すれば、可能性はある。……預かってもいいか?」
「もちろんです」
ノルドは、ようやく重い荷を下ろすような顔で薬玉を渡した。
「……そんなことより、セラに会ってこい。今日は泊まっていけ」
「はいっ」
ノルドは、来た時とは打って変わった軽い足取りで部屋を出ていった。
サルサは、わずかに笑みをこぼすと、天井を仰いだ。
「まったく……ガレアのやつ、なんて相手に子供をつけてるんだ」
彼女の頭には、大陸の要人に関する情報がすべて入っている。
公国の王子に、忌むべき職業の天啓が下った者がいた。その職業は――「奴隷商人」。
ラゼルが、その王子で間違いない。
サルサは職業に偏見を持たない。だが、そうなると彼の一行にいた女たちは――
「……奴隷」
薬の服用は、選べるものではなかったということだ。
症状から見て、あの薬は間違いなく猛毒性の媚薬。中毒性があり、体に負担もかかるものだ。
「……さて。ノルドには、どう話すべきか」
あの清らかな少年に、どこまでを、どう伝えるべきか。サルサは迷っていた。
だが、心の中ではすでに決めていた。まずはセラに相談するのが先だと。
「まったく……ガレアめ。セラに怒鳴られてくればいいのに!」
※
翌日。ノルドが帰って間もなく、妖精ビュアンがセラの病室に現れた。
「聞いてよ、セラ! 今回の荷運びの仕事、ノルド、ぜんっぜん割に合わないの!」
ノルドは彼女に負担をかけまいと、面白くない話は決してしない。
セラは、ノルドにもらった素朴なチョコの入った箱をそっと差し出した。
ビュアンは鬱憤が溜まっていたらしく、怒りながら、それでもチョコをつまみ、ラゼル一行とのダンジョン探索の顛末を、すべて打ち明けてくれた。
聞いているうちに、セラの顔色が、じわじわと変わっていく。
「……そんな、そんなこと……」
彼女の拳が震える。小さな手が、チョコの包み紙を握りつぶしていた。
「そろそろ、行くわ、セラ!」
「ええ。……ノルドを、よろしくね」
ひとしきり会話を終えて妖精が飛び去ると同時に、サルサがセラの部屋を訪ねてきた。
「サルサ様、ノルドからのお土産です。どうぞ」
「頂くよ。……ところで、ノルドが荷運びしていた連中の話、聞いたか?」
「ええ。けれど、彼は話したがりません。でも――ある方から事情を」
セラの声は、静かな怒りを含んでいた。
サルサはうなずき、ラゼルの正体と薬の分析結果について、持っている情報を彼女に伝えた。
「グラシアスに聞いてみます。彼なら裏も取れるはずです。それに……薬の出所も」
「そうだな。ノルドなら、解毒薬を作れるかもしれない。だが……」
サルサは、ほんのわずかに表情を曇らせた。
「彼には、こういう現実に関わってほしくない気持ちもあるんだ」
「……わかります。でも、彼はもう踏み出してしまった。なら私たちが――」
「支えるしかない、か。……ああ、そうだな」
サルサは微笑んだ。
まだ知らぬ、痛みと選択の先に。
ノルドは、静かに歩き始めている。
「取り分は、半分でもいいが」
ラゼルが二つのパーティの取り分について提案する。
「さすがに……そこまでは頂けません」
ロッカたちも多少は報酬を期待していたが、さすがにその金額を聞けば尻込みせざるを得ない。
「じゃあ、六四にしよう」
それでも十分に破格だった。通常、サポート役は三割が相場なのだから。
「……ありがたく、頂きます」
「まあ、その代わり、次も一緒に同行してもらうよ」
「喜んで!」
ラゼルは、シルヴィアとリーヴァに親しげに話していた。二つの冒険者グループは商人との清算を終えると、一緒に街に繰り出して行った。
ノルドは、ドラガンに報告と食料や酒の手配を頼んでいた。
「ああ、わかった。……あれだけ儲かったんなら、少しはギルドに還元して欲しいよな」
ダンジョン内での飲食費、ポーション代、火消薬、入場料――すべてギルド、正確にはシシルナ島の負担だった。
「それでは……」
ノルドには、向かう場所があった。サルサのサナトリウムだ。
途中で、ふと思い出したように足を止める。
「そうだ。母さんたちに、お菓子を買って行こう」
※
「これなんです」
サナトリウムの一室で、ノルドは天才医師のサルサに小さな薬玉を見せた。黒く、鈍い光を帯びたそれは、カリスから預かったものだ。
「つまりこの解毒薬を作ってほしいと……そう頼まれたのか? で、症状は?」
ノルドは、ダンジョンでのラゼル一行の様子を語った。
「……じゃあ、その馬鹿王子が女たちに、この薬を飲ませてるってことだな?」
「ええ。でも……他にも事情があるみたいなんです。ラゼル王子とカリスさんの関係を聞いても、教えてくれませんでした」
サルサは鋭い目をして、しばし黙考した。やがて、ふっと息を吐く。
「ああ、なるほどな。それで、ノルド。お前はどうしたいんだ?」
ノルドの胸中には、カリスを助けたいという思いと、薬師としての知的好奇心があった。一方で、ラゼル一行に深入りすることへの躊躇も拭いきれない。
「……わかりません」
自分でも、整理のつかない気持ちだった。
サルサは静かにうなずいた。
「いずれにせよ、現物がひとつしかない以上、成分の完全解析は困難だ。だが、症状の推移から類推すれば、可能性はある。……預かってもいいか?」
「もちろんです」
ノルドは、ようやく重い荷を下ろすような顔で薬玉を渡した。
「……そんなことより、セラに会ってこい。今日は泊まっていけ」
「はいっ」
ノルドは、来た時とは打って変わった軽い足取りで部屋を出ていった。
サルサは、わずかに笑みをこぼすと、天井を仰いだ。
「まったく……ガレアのやつ、なんて相手に子供をつけてるんだ」
彼女の頭には、大陸の要人に関する情報がすべて入っている。
公国の王子に、忌むべき職業の天啓が下った者がいた。その職業は――「奴隷商人」。
ラゼルが、その王子で間違いない。
サルサは職業に偏見を持たない。だが、そうなると彼の一行にいた女たちは――
「……奴隷」
薬の服用は、選べるものではなかったということだ。
症状から見て、あの薬は間違いなく猛毒性の媚薬。中毒性があり、体に負担もかかるものだ。
「……さて。ノルドには、どう話すべきか」
あの清らかな少年に、どこまでを、どう伝えるべきか。サルサは迷っていた。
だが、心の中ではすでに決めていた。まずはセラに相談するのが先だと。
「まったく……ガレアめ。セラに怒鳴られてくればいいのに!」
※
翌日。ノルドが帰って間もなく、妖精ビュアンがセラの病室に現れた。
「聞いてよ、セラ! 今回の荷運びの仕事、ノルド、ぜんっぜん割に合わないの!」
ノルドは彼女に負担をかけまいと、面白くない話は決してしない。
セラは、ノルドにもらった素朴なチョコの入った箱をそっと差し出した。
ビュアンは鬱憤が溜まっていたらしく、怒りながら、それでもチョコをつまみ、ラゼル一行とのダンジョン探索の顛末を、すべて打ち明けてくれた。
聞いているうちに、セラの顔色が、じわじわと変わっていく。
「……そんな、そんなこと……」
彼女の拳が震える。小さな手が、チョコの包み紙を握りつぶしていた。
「そろそろ、行くわ、セラ!」
「ええ。……ノルドを、よろしくね」
ひとしきり会話を終えて妖精が飛び去ると同時に、サルサがセラの部屋を訪ねてきた。
「サルサ様、ノルドからのお土産です。どうぞ」
「頂くよ。……ところで、ノルドが荷運びしていた連中の話、聞いたか?」
「ええ。けれど、彼は話したがりません。でも――ある方から事情を」
セラの声は、静かな怒りを含んでいた。
サルサはうなずき、ラゼルの正体と薬の分析結果について、持っている情報を彼女に伝えた。
「グラシアスに聞いてみます。彼なら裏も取れるはずです。それに……薬の出所も」
「そうだな。ノルドなら、解毒薬を作れるかもしれない。だが……」
サルサは、ほんのわずかに表情を曇らせた。
「彼には、こういう現実に関わってほしくない気持ちもあるんだ」
「……わかります。でも、彼はもう踏み出してしまった。なら私たちが――」
「支えるしかない、か。……ああ、そうだな」
サルサは微笑んだ。
まだ知らぬ、痛みと選択の先に。
ノルドは、静かに歩き始めている。
3
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる