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蠱惑の魔剣
黄金の扉
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バーニングモール──炎を吐く巨大モグラ型の魔物──の最後の死骸を、ラゼルは炎の穴へと蹴り飛ばし、息を吐いた。
「……よし、これで片がついたな」
「うん、もういない。お腹減った」
サラが周囲を見回す。彼女の鋭い五感にも、魔物の気配はもう一つも引っ掛からなかった。
炎の穴を越えた先で、一行は足を止め、小休憩を取ることにした。
ノルドが薄い蜂蜜水のボトルと、サンドイッチなどの軽食を取り出す。だが、ヴァルとサラを除き、暑さと緊張のせいで食は進まない。
「そうだ、シルヴィアさんとリーヴァさん、コートを交換しましょう。裂けてます」
「……どうしましょう。高価なコートを破いてしまって」
ふたりは肩を落とす。
「破いたのはモグラです。替えはまだありますから」
ノルドは軽く笑いながら答えた。
※
東方旅団が持ってきた消化薬コート──の原料は、荷馬車二台分にも及ぶ。
「多すぎますよ。皆さんの予備を作っても余ります。買取ましょうか?」
ノルドの提案に、旅団員たちは首を横に振った。
「やるよ。色々使い道があるんだろ? でも加工代を値引きなんてしないでくれよ。お前の母さんの内職なんだろ?」
「ええ。でも急ぎなら他の職人にも頼めますよ。母の加工代は高いですから」
「確かにな。だが妥当な金額だ。俺たちが、大陸有数の装飾人──セラ・グラシアス──の名前を知らないとでも?」
その名前を聞いた瞬間、ノルドの顔がひきつった。
……当たり前だ。母は確かに最高の装飾家だが、そんな名前ではない。
「ははは、消化薬コートを頼むのは俺たちくらいだろうな。でも一度くらいは着たいんだよな、セラ・グラシアスの作品を」
繰り返される謎の偽名に、ノルドの顔はさらに赤く染まる。
だが東方旅団の面々は、それを照れ隠しだと勘違いしているらしい。
「グラシアスさん、許さない」
後日、密告したセラから、グラシアスはしっかり怒られていた。
「いや、その方が身元を隠せるだろう?」
「ふざけないでよ」
まるで恋人たちの痴話げんかのようで、ノルドはなんとも言えない気分になった。
※
休憩を終えた一行は先へ進む。
熱気に包まれていたはずのダンジョンは、やがて壁から海水が滲み出すエリアへと変わっていた。このダンジョンの外は海だろうか。
「未開拓エリアになります。気をつけて行きましょう」
ノルドの忠告にもかかわらず、ラゼルは彼の進みたい方向とは逆を選び、結果このゾーンに来てしまった。
しかし不思議なことに、魔物の気配がまったくない。
「おい、ここらの壁……光ってないか?」
ロッカが目を丸くする。
「確かに……ここは採掘に向いてそうだ。ただし警戒は怠るな」
ラゼルの声に、ロッカたちが採掘を始める。フィオナとラゼルは通路を眺めたり、採掘の様子をちらりと見る程度だ。
採掘は順調だった。ノルドは掘り出された鉱石や原石を手際よく整理し、収納していく。
短時間で、かなりの高額収入が見込めそうだ。
魔物が現れることもなく、警備に飽きたヴァルとサラは、壁を登ったり飛び跳ねたりして遊び出す。
「今日は四階層初日です。これくらいにしましょう」
疲労は目に見えない形で蓄積していくものだ。ノルドは帰還の準備を始めた。
そのとき、奥から声がした。
「おい! 荷運び、これはなんだ?」
いつの間にかラゼルが一人で先行していた。
彼の声は、ノルドの敏感な耳にしっかり届く。
「ラゼル様が何かを見つけたようです。団体行動が基本です、全員で行きましょう」
ノルド一人では、別れてしまうパーティを保護ず危険だ。
「はーい!」「ワオーン!」
サラとヴァルが仲良く駆け出す。
※
ラゼルが待つ場所は、壁が黄金色に輝いていた。
ノルドは、それが何かすぐに分かった。四階層以下の四隅にだけ存在する古代遺跡──精霊王の小祭壇。冒険者の間では公然の秘密とされている休憩所だ。
「扉っぽいが……開かん」
ラゼルは額に汗をにじませながら壁を押したり叩いたりしている。
「わたしらもやってみるか!」
ロッカが笑い、ダミアーノも肩をすくめて加わる。
ノルドは思わず深く息を吐いた。――やれやれ、ほんと不勉強な連中だ。
「それは、あなたたちでは開きません」
「は? 仕掛けか? 早く教えろ、荷運び」
ラゼルの声音は鋭い。だがノルドは首を横に振る。
「仕掛けじゃない。資格を持つ者にしか開かない。この中では……フィオナさんだけです」
「え、私?」
フィオナが目を見開く。
ノルドは心の中で続ける──俺も開けられるけど、それは見せたくない。
「フィオナさん、扉に触れてください」
彼女は戸惑いながらも、一歩前に出た。
黄金の光の壁に指先が触れた瞬間──カン、と鈴のような高い音が響く。
ギギギギ……と古代の石が軋み、扉がゆっくりと開く。
フィオナは、光魔法で部屋の中を照らした。
奥には、静謐な空間が待っていた。
「ここは……精霊王様の祭壇……」
フィオナは息を呑む。
「その通りです。四階層より下には必ずあります。聖職者のジョブを持つ者しか開けません。あなたが必要なんです」
室内はひんやりと心地よく、他の祭壇と全く同じ造りをしていた。
「今日はここで一泊だな」
ラゼルの言葉に、皆が安堵の息をついた。
祭壇の光がなぜかノルドは気になった。
「……よし、これで片がついたな」
「うん、もういない。お腹減った」
サラが周囲を見回す。彼女の鋭い五感にも、魔物の気配はもう一つも引っ掛からなかった。
炎の穴を越えた先で、一行は足を止め、小休憩を取ることにした。
ノルドが薄い蜂蜜水のボトルと、サンドイッチなどの軽食を取り出す。だが、ヴァルとサラを除き、暑さと緊張のせいで食は進まない。
「そうだ、シルヴィアさんとリーヴァさん、コートを交換しましょう。裂けてます」
「……どうしましょう。高価なコートを破いてしまって」
ふたりは肩を落とす。
「破いたのはモグラです。替えはまだありますから」
ノルドは軽く笑いながら答えた。
※
東方旅団が持ってきた消化薬コート──の原料は、荷馬車二台分にも及ぶ。
「多すぎますよ。皆さんの予備を作っても余ります。買取ましょうか?」
ノルドの提案に、旅団員たちは首を横に振った。
「やるよ。色々使い道があるんだろ? でも加工代を値引きなんてしないでくれよ。お前の母さんの内職なんだろ?」
「ええ。でも急ぎなら他の職人にも頼めますよ。母の加工代は高いですから」
「確かにな。だが妥当な金額だ。俺たちが、大陸有数の装飾人──セラ・グラシアス──の名前を知らないとでも?」
その名前を聞いた瞬間、ノルドの顔がひきつった。
……当たり前だ。母は確かに最高の装飾家だが、そんな名前ではない。
「ははは、消化薬コートを頼むのは俺たちくらいだろうな。でも一度くらいは着たいんだよな、セラ・グラシアスの作品を」
繰り返される謎の偽名に、ノルドの顔はさらに赤く染まる。
だが東方旅団の面々は、それを照れ隠しだと勘違いしているらしい。
「グラシアスさん、許さない」
後日、密告したセラから、グラシアスはしっかり怒られていた。
「いや、その方が身元を隠せるだろう?」
「ふざけないでよ」
まるで恋人たちの痴話げんかのようで、ノルドはなんとも言えない気分になった。
※
休憩を終えた一行は先へ進む。
熱気に包まれていたはずのダンジョンは、やがて壁から海水が滲み出すエリアへと変わっていた。このダンジョンの外は海だろうか。
「未開拓エリアになります。気をつけて行きましょう」
ノルドの忠告にもかかわらず、ラゼルは彼の進みたい方向とは逆を選び、結果このゾーンに来てしまった。
しかし不思議なことに、魔物の気配がまったくない。
「おい、ここらの壁……光ってないか?」
ロッカが目を丸くする。
「確かに……ここは採掘に向いてそうだ。ただし警戒は怠るな」
ラゼルの声に、ロッカたちが採掘を始める。フィオナとラゼルは通路を眺めたり、採掘の様子をちらりと見る程度だ。
採掘は順調だった。ノルドは掘り出された鉱石や原石を手際よく整理し、収納していく。
短時間で、かなりの高額収入が見込めそうだ。
魔物が現れることもなく、警備に飽きたヴァルとサラは、壁を登ったり飛び跳ねたりして遊び出す。
「今日は四階層初日です。これくらいにしましょう」
疲労は目に見えない形で蓄積していくものだ。ノルドは帰還の準備を始めた。
そのとき、奥から声がした。
「おい! 荷運び、これはなんだ?」
いつの間にかラゼルが一人で先行していた。
彼の声は、ノルドの敏感な耳にしっかり届く。
「ラゼル様が何かを見つけたようです。団体行動が基本です、全員で行きましょう」
ノルド一人では、別れてしまうパーティを保護ず危険だ。
「はーい!」「ワオーン!」
サラとヴァルが仲良く駆け出す。
※
ラゼルが待つ場所は、壁が黄金色に輝いていた。
ノルドは、それが何かすぐに分かった。四階層以下の四隅にだけ存在する古代遺跡──精霊王の小祭壇。冒険者の間では公然の秘密とされている休憩所だ。
「扉っぽいが……開かん」
ラゼルは額に汗をにじませながら壁を押したり叩いたりしている。
「わたしらもやってみるか!」
ロッカが笑い、ダミアーノも肩をすくめて加わる。
ノルドは思わず深く息を吐いた。――やれやれ、ほんと不勉強な連中だ。
「それは、あなたたちでは開きません」
「は? 仕掛けか? 早く教えろ、荷運び」
ラゼルの声音は鋭い。だがノルドは首を横に振る。
「仕掛けじゃない。資格を持つ者にしか開かない。この中では……フィオナさんだけです」
「え、私?」
フィオナが目を見開く。
ノルドは心の中で続ける──俺も開けられるけど、それは見せたくない。
「フィオナさん、扉に触れてください」
彼女は戸惑いながらも、一歩前に出た。
黄金の光の壁に指先が触れた瞬間──カン、と鈴のような高い音が響く。
ギギギギ……と古代の石が軋み、扉がゆっくりと開く。
フィオナは、光魔法で部屋の中を照らした。
奥には、静謐な空間が待っていた。
「ここは……精霊王様の祭壇……」
フィオナは息を呑む。
「その通りです。四階層より下には必ずあります。聖職者のジョブを持つ者しか開けません。あなたが必要なんです」
室内はひんやりと心地よく、他の祭壇と全く同じ造りをしていた。
「今日はここで一泊だな」
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祭壇の光がなぜかノルドは気になった。
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