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蠱惑の魔剣
緊急招集と大商談
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翌日、冒険者ギルドの扉を押し開けた瞬間、ノルドは空気の異変に気づいた。
酒に酔った荷運び人の笑い声が響くのが日常のはずの広間は、妙な熱気とざわめきに包まれている。普段なら半分もいない荷運び人がほぼ全員集まり、冒険者たちもこぞって顔をそろえていた。
ここにいないのは、今まさにダンジョン探索中の者と、その同行荷運びくらいだろう。
「……何があったんです?」
ノルドは荷運び仲間に声をかける。
「ああ、緊急招集だってよ。ただ、俺たち荷運びには直接関係ないらしい」
「けどよ、休憩所設営の手伝いすりゃ飲み会に混ざれるんだと。しかも日当付きだぜ」
「馬鹿言え。冒険者なんぞと酒を酌み交わして楽しいか? どうせ俺たちを見下してる連中だ」
不満を吐き捨てた男が、壁のクエストボードを顎でしゃくる。
そこには一枚の紙──《緊急告知》だけが貼られており、他の依頼はすべて剥がされていた。
「……どういうことだ」
掲示を読み終えた冒険者たちが受付へと押し寄せていた。カウンターの向こうで応対するのは、ミミをはじめ数人の受付嬢。彼女たちは同じ説明を繰り返すばかりだ。
「島主様のご指示です。冒険者は全員、参加が義務付けられています」
「ダンジョンは封鎖されたんじゃないのか!」
「詳しいことは、副ギルド長ドラガンが島庁から戻り次第──」
必死の応対にもかかわらず、冒険者たちのざわめきは収まらない。
そんな中、ノルドに気づいた冒険者が駆け寄ってきた。
「ノルド! 昨日ダンジョンに潜ってただろ? 何か異常はなかったのか?」
「……いえ、特別なことはありませんでした」
「じゃあ何だ、この緊急クエストって? 低階層の魔物はマルカス様が掃討したばかりじゃないか」
冒険者たちは訝しげに顔を見合わせる。ノルドは答えを探すように視線を巡らせた。
だが、この場にいるはずの人物──まとめ役のアレンの姿が見当たらない。
「アレンか? あいつならまだ来てねぇぞ」
「こんな事態なのに? 誰かが呼びに行ってるはずだろ」
冒険者たちの間に小さな不安が広がる。アレンの家はギルドのすぐ近くだ。遅れる理由などない──そのことが、かえって胸にざらついた不安を残した。
張り紙の前が空いたのを見計らい、ノルドは歩み寄ろうとする。だがそのとき、カウンターの奥で商人たちが肩を寄せ合い、のんびり談笑しているのが目に入った。
「これじゃしばらく商売あがったりだな。──お、ノルド。昨日ダンジョン帰りだろ? 高く買い取るぜ!」
「いやいや、俺に先に声をかけろ!」
商人たちは一斉に手を伸ばす。ノルドとの取引は儲かるのだ。彼は鉱石の種類を間違えず、品質の等級まで正確に見抜く。もはや彼らよりも目利きが上だと評判だった。
「まったく、いつの間にか俺たちより知識を増やしやがって」
「まあ、誤魔化して儲けようって奴がいなくなった分、やりやすくはなったけどな」
カウンターには笑いが絶えない。緊迫した広間の空気とは対照的に、そこだけは温かい雰囲気があった。
「それはお互い様です」
ノルドが苦笑すると、商人の一人が茶化すように言った。
「ノルド、お前いい加減に手数料を取れよ。冒険者や俺たちから、がっつりな!」
「遠慮します。お金には困っていませんから」
「そういうとこだよなぁ。だから俺たちは、代わりにヴァル君に貢ぐしかないんだ!」
いつの間にか、小狼ヴァルの前には最高級の干し肉が積まれていた。
「こら、ヴァル。もらっちゃ駄目だって」
ノルドが叱っても、ヴァルはしらん顔で肉をかじっている。
「よし、じゃあ商人ギルドの部屋に行こう!」
「ちょうど今回の探索代表代理のフィオナさんとロッカさんが来たようだ。事情を聞きながら取引しよう」
この異様さを確かめるように、ギルドの入口からフィオナとロッカが姿を現し、ノルドに向かって手を振る。彼女たちの表情には、やはり不安が色濃く浮かんでいた。
「大商いの予感だな」
商人たちは一斉に「閉店」の札を掲げると、奥のアジトへと歩みだした。
「全員で行くんですか?」
「当たり前だ。ヴァル君に留守番を頼んだよ。それに、お前の持ち帰った量なら全員で相手するしかないだろ?」
「……ばれましたか。その通りです」
ノルドは微笑む。安く売る気も、高値をふっかける気もない。
※
「……ありえん量だな」
商人たちは、最初こそ競り合うように入札していたが、やがて顔色を失っていった。
「無理なら、グラシアスさんに頼みますけど?」
「ふざけるな、ノルド。ここはシシルナ島だ。俺たちだけで捌いてみせる」
フィオナとロッカは、こらえきれずに笑っていた。壁にもたれて商談を眺めるだけで、口を挟むことはないが――
数千万ゴールドになるんじゃ無いだろうか。この金額を超えたのは、東方旅団との最後の旅の時だけだ。
あの時は、シシルナ島の商人だけでは受けきれず、グラシアスに頼んで、精算して貰った。
表のギルドが騒ぎ出したのは、 ノルドたちの精算が何とか全て終了した後だった。
「ドラガンが戻ったようだな」商人が言った。
酒に酔った荷運び人の笑い声が響くのが日常のはずの広間は、妙な熱気とざわめきに包まれている。普段なら半分もいない荷運び人がほぼ全員集まり、冒険者たちもこぞって顔をそろえていた。
ここにいないのは、今まさにダンジョン探索中の者と、その同行荷運びくらいだろう。
「……何があったんです?」
ノルドは荷運び仲間に声をかける。
「ああ、緊急招集だってよ。ただ、俺たち荷運びには直接関係ないらしい」
「けどよ、休憩所設営の手伝いすりゃ飲み会に混ざれるんだと。しかも日当付きだぜ」
「馬鹿言え。冒険者なんぞと酒を酌み交わして楽しいか? どうせ俺たちを見下してる連中だ」
不満を吐き捨てた男が、壁のクエストボードを顎でしゃくる。
そこには一枚の紙──《緊急告知》だけが貼られており、他の依頼はすべて剥がされていた。
「……どういうことだ」
掲示を読み終えた冒険者たちが受付へと押し寄せていた。カウンターの向こうで応対するのは、ミミをはじめ数人の受付嬢。彼女たちは同じ説明を繰り返すばかりだ。
「島主様のご指示です。冒険者は全員、参加が義務付けられています」
「ダンジョンは封鎖されたんじゃないのか!」
「詳しいことは、副ギルド長ドラガンが島庁から戻り次第──」
必死の応対にもかかわらず、冒険者たちのざわめきは収まらない。
そんな中、ノルドに気づいた冒険者が駆け寄ってきた。
「ノルド! 昨日ダンジョンに潜ってただろ? 何か異常はなかったのか?」
「……いえ、特別なことはありませんでした」
「じゃあ何だ、この緊急クエストって? 低階層の魔物はマルカス様が掃討したばかりじゃないか」
冒険者たちは訝しげに顔を見合わせる。ノルドは答えを探すように視線を巡らせた。
だが、この場にいるはずの人物──まとめ役のアレンの姿が見当たらない。
「アレンか? あいつならまだ来てねぇぞ」
「こんな事態なのに? 誰かが呼びに行ってるはずだろ」
冒険者たちの間に小さな不安が広がる。アレンの家はギルドのすぐ近くだ。遅れる理由などない──そのことが、かえって胸にざらついた不安を残した。
張り紙の前が空いたのを見計らい、ノルドは歩み寄ろうとする。だがそのとき、カウンターの奥で商人たちが肩を寄せ合い、のんびり談笑しているのが目に入った。
「これじゃしばらく商売あがったりだな。──お、ノルド。昨日ダンジョン帰りだろ? 高く買い取るぜ!」
「いやいや、俺に先に声をかけろ!」
商人たちは一斉に手を伸ばす。ノルドとの取引は儲かるのだ。彼は鉱石の種類を間違えず、品質の等級まで正確に見抜く。もはや彼らよりも目利きが上だと評判だった。
「まったく、いつの間にか俺たちより知識を増やしやがって」
「まあ、誤魔化して儲けようって奴がいなくなった分、やりやすくはなったけどな」
カウンターには笑いが絶えない。緊迫した広間の空気とは対照的に、そこだけは温かい雰囲気があった。
「それはお互い様です」
ノルドが苦笑すると、商人の一人が茶化すように言った。
「ノルド、お前いい加減に手数料を取れよ。冒険者や俺たちから、がっつりな!」
「遠慮します。お金には困っていませんから」
「そういうとこだよなぁ。だから俺たちは、代わりにヴァル君に貢ぐしかないんだ!」
いつの間にか、小狼ヴァルの前には最高級の干し肉が積まれていた。
「こら、ヴァル。もらっちゃ駄目だって」
ノルドが叱っても、ヴァルはしらん顔で肉をかじっている。
「よし、じゃあ商人ギルドの部屋に行こう!」
「ちょうど今回の探索代表代理のフィオナさんとロッカさんが来たようだ。事情を聞きながら取引しよう」
この異様さを確かめるように、ギルドの入口からフィオナとロッカが姿を現し、ノルドに向かって手を振る。彼女たちの表情には、やはり不安が色濃く浮かんでいた。
「大商いの予感だな」
商人たちは一斉に「閉店」の札を掲げると、奥のアジトへと歩みだした。
「全員で行くんですか?」
「当たり前だ。ヴァル君に留守番を頼んだよ。それに、お前の持ち帰った量なら全員で相手するしかないだろ?」
「……ばれましたか。その通りです」
ノルドは微笑む。安く売る気も、高値をふっかける気もない。
※
「……ありえん量だな」
商人たちは、最初こそ競り合うように入札していたが、やがて顔色を失っていった。
「無理なら、グラシアスさんに頼みますけど?」
「ふざけるな、ノルド。ここはシシルナ島だ。俺たちだけで捌いてみせる」
フィオナとロッカは、こらえきれずに笑っていた。壁にもたれて商談を眺めるだけで、口を挟むことはないが――
数千万ゴールドになるんじゃ無いだろうか。この金額を超えたのは、東方旅団との最後の旅の時だけだ。
あの時は、シシルナ島の商人だけでは受けきれず、グラシアスに頼んで、精算して貰った。
表のギルドが騒ぎ出したのは、 ノルドたちの精算が何とか全て終了した後だった。
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