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蠱惑の魔剣
ビュアンの懇願
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ノルドたちが、シシルナ島を去る前の話。
「ノルド、お願いがあるの!」
ビュアンが珍しく困った顔で、話を始めた。
「どうしたの?」
製薬の手を止めて、彼は尋ねた。
「私も、ノルドと旅をしたいの、構わないかしら」
「もちろん、そのつもりだよ!」
「良かった。実は……」
ビュアンの話では、精霊王の許可が降りないのだと言う。
「そうか……」
彼女の性格を知っている精霊王も頭ごなしにダメだとは言わないらしい。
そこで、条件を出した。
定期的に、シシルナ島に戻ること。同行者であるノルドが力を示すこと。
「わかった。どうやって示せば良いのかな?」
「ダンジョンのボスであるスケルトンキングを倒すこと」
「……」
それは、シシルナ島のダンジョンの完全制覇を意味する。ノルドが荷運びの仕事をして、三年以上。その間に、八階層のボスである、スケルトンガーディアンを倒すのに同行したことが一度だけある。
東方旅団と呼ばれる冒険者パーティだ。
だが、それ以上は進まなかった。
理由は、九階層の特殊な造りにあった。
地獄の釜。落ちれば即死の火口の間の滑りやすい道。しかも、その道は迷路なだけでなく、絶えず変化をしている。もちろん、魔物もいる。
「倒すだけならできるだろう、だが戦闘で疲れた体で帰還するが難しい」
彼らは、実力はあるが、極めて慎重な冒険者たちだ。彼らの出した結論がそれだった。
「ノルド、ここまでにするよ」
そう言って去った彼らのことを思い出していた。
「わかった。挑戦しよう」
「良かった。ありがとう」
ビュアンは、嬉しそうにくるくると空を踊った。
きっと、旅に出れば無理をしないといけない場面も出てくる。先輩の東方旅団のやり方を見習って、ノルドは準備を始めた。
※
ダンジョンを迷わずに進む。
「僕たちの問題は、攻撃力だ。奥の手が効くかどうかわからない」
「ワオーン!」
「うん。九階層は、ヴァルに任せるから」
圧倒的な走破能力を誇るヴァルの背に乗り、駆け抜ける。
ひと回り大きく成長し、もはや“小狼”とは呼べない体躯だ。
落ちないように紐で体を固定し、狼の毛には防火クリームを塗って備える。
「迷路の規則性さえ、見抜けばこっちのもんだ」
東方旅団が残した迷路の変遷に関する資料を調べて導き出した結論だった。
その資料に残されていた走り書きが、確かにヒントになっていた。
あっという間に、苦労する迷路を超えて、ラストボスの間の十階層へと、ノルドたちは降り立った。
※
荒れ狂うスケルトンキングの大骨剣が、ノルド目がけて豪快に振り下ろされた。衝撃で身体は宙を舞い、ボス部屋の岩壁に叩きつけられる。骨の隙間を走る痛みに息を詰め、舞い上がる粉塵が視界をかすめる。
だが、最後の斬撃は確かに効いていた。スケルトンの体は一瞬、崩れ落ち、骨が床に散乱する。勝利の予感が脳裏をよぎったその瞬間――罠だった。
「危なかった……知恵もあるんだな」
ノルドは息を整え、岩陰に身を隠す。手早くポーションを取り出し、体力を回復。戦いはまだ序盤で、即死の可能性も十分にあった。
スケルトンキングはゆっくりと再生を始める。二つの顔が周囲を警戒し、大剣を握る両腕、肩の小さな腕は弓を構える。どの攻撃も受け流され、瞬時に修復される。骨だけの体だが、「エターナル・リストア」の力で傷はゆっくりと再生されるのだ。
「ワオーン!」
ヴァルが吠え、スケルトンの周囲を駆け回る。標的となり、ノルドの回復時間を稼ぐ役割を果たしていた。
「ノルド、不用意に近づきすぎよ!」
ビュアンの声が荒く響く。小さな妖精の体から溢れる魔力が壁との衝撃を和らげ、ノルドの命を守った。光の粒が舞い、壁に反射して幻想的に揺れる。
「ごめん、ビュアン」
「名前呼ばれて少しは落ち着くた?」
小さな息遣いに、ノルドはわずかに安堵する。
「倒さなきゃここから出られない。勝たない理由もない」
ノルドは楽観的に言いながらも、頭の中で戦略を組み立てる。未使用の手札はまだ複数ある。投網だけではなく、もっと大きな戦術を温存している。
「私はあの骨とは相性が悪いわ。矢を外すくらいしかできない」
ビュアンの力は限られるが、その存在は戦局を左右するほど重要だ。
「でも、手伝ってもらってもいいのかな?」
「駄目だなんて言われてないもの」
「それは助かるよ」
ノルドは完全に復活したスケルトンキングを観察する。大剣を振る両腕、肩の小さな腕で放たれる矢、二つの顔で全方位を監視する敵に死角はない。
骨の体は完全に再生されるが、その間には一瞬のタイムラグがある。そこを突けば突破の糸口になる。
スケルトンは部屋の中央で荷運び人を認識し、ゆっくりと迫る。一歩ごとに床が振動し、微かに岩壁が揺れる。
ビュアンの暴風はスケルトンを押し返すにはまだ力不足だ。しかし、スケルトンの矢は風に翻弄され、狙った標的には届かない。
「本体も吹き飛ばされてくれれば……」
ノルドは心の中で祈る。しかし現実は甘くない。ビュアンの力はまだ未熟で、完全には操れないのだ。
「ワオーン!」
ヴァルの合図で不要な網を片付け、戦闘の準備を整える。ノルドは空間倉庫から爆薬を取り出し、火をつけてスケルトンに投げつけた。
どかーん、どかーん。
爆風が部屋の隅々まで波及し、粉塵が舞い視界を奪う。しかしビュアンの風で、ノルド自身は無傷。脚には微細なひびが入り、スケルトンの体がわずかに揺れる。
「まだ威力が足りない。次も行くぞ!」
ノルドは戦術的に爆薬を投げ続け、部位を狙う。ヴァルは背後に回り、両腕の片方を攻撃に使わせる。
スケルトンは片腕で爆弾を受け流すが、残る片腕での攻撃は制限される。ヴァルの鋭い爪が確実に傷を刻む。
やがて腕はちぎれ飛び、骨の粉が舞い上がった。
ノルドの爆弾も大剣に迎撃されるたび、剣を削り小さくしていく。両脚も全身の骨も、戦闘の衝撃で次第にボロボロになった。
スケルトンは二度目の再生を試みるが、結果は変わらない。傷ついたまま、悲しそうな目でノルドを見つめる。二つの顔に浮かぶ哀愁は、戦う者としての知性と感情を伝えていた。
「悪いな!」
ヴァルの前脚の一閃で、スケルトンキングはついにただの骨と化した。
ボス部屋後方の宝物庫の重い扉がゆっくりと開く。ノルドは宝物庫には目もくれず、戦場の片付けに取りかかった。爆弾の塵を拾い、網を倉庫に放り込む。
「終わった!」
「ねえ、宝物庫を見ましょう!」
ビュアンは嬉しそうに飛び回る。
そこには、想像を超える財宝が積まれていた。
※
魔物の森、精霊王の古き神殿。ノルドとヴァルは礼拝堂と神殿周りの掃除を続けていた。ビュアンの姿はまだない。
ノルドは意を決して精霊王に尋ねる。
「僕たちの冒険の餞別を贈るために、仕組んだんですか?」
祭壇の蝋燭が僅かに揺れる。
「ありがとうございます!」
「ビュアンを頼む、泣かすことは許さん。そして無事に戻ってこい!」
精霊王の声が、ノルドたちの耳に優しく残った。
「ノルド、お願いがあるの!」
ビュアンが珍しく困った顔で、話を始めた。
「どうしたの?」
製薬の手を止めて、彼は尋ねた。
「私も、ノルドと旅をしたいの、構わないかしら」
「もちろん、そのつもりだよ!」
「良かった。実は……」
ビュアンの話では、精霊王の許可が降りないのだと言う。
「そうか……」
彼女の性格を知っている精霊王も頭ごなしにダメだとは言わないらしい。
そこで、条件を出した。
定期的に、シシルナ島に戻ること。同行者であるノルドが力を示すこと。
「わかった。どうやって示せば良いのかな?」
「ダンジョンのボスであるスケルトンキングを倒すこと」
「……」
それは、シシルナ島のダンジョンの完全制覇を意味する。ノルドが荷運びの仕事をして、三年以上。その間に、八階層のボスである、スケルトンガーディアンを倒すのに同行したことが一度だけある。
東方旅団と呼ばれる冒険者パーティだ。
だが、それ以上は進まなかった。
理由は、九階層の特殊な造りにあった。
地獄の釜。落ちれば即死の火口の間の滑りやすい道。しかも、その道は迷路なだけでなく、絶えず変化をしている。もちろん、魔物もいる。
「倒すだけならできるだろう、だが戦闘で疲れた体で帰還するが難しい」
彼らは、実力はあるが、極めて慎重な冒険者たちだ。彼らの出した結論がそれだった。
「ノルド、ここまでにするよ」
そう言って去った彼らのことを思い出していた。
「わかった。挑戦しよう」
「良かった。ありがとう」
ビュアンは、嬉しそうにくるくると空を踊った。
きっと、旅に出れば無理をしないといけない場面も出てくる。先輩の東方旅団のやり方を見習って、ノルドは準備を始めた。
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ダンジョンを迷わずに進む。
「僕たちの問題は、攻撃力だ。奥の手が効くかどうかわからない」
「ワオーン!」
「うん。九階層は、ヴァルに任せるから」
圧倒的な走破能力を誇るヴァルの背に乗り、駆け抜ける。
ひと回り大きく成長し、もはや“小狼”とは呼べない体躯だ。
落ちないように紐で体を固定し、狼の毛には防火クリームを塗って備える。
「迷路の規則性さえ、見抜けばこっちのもんだ」
東方旅団が残した迷路の変遷に関する資料を調べて導き出した結論だった。
その資料に残されていた走り書きが、確かにヒントになっていた。
あっという間に、苦労する迷路を超えて、ラストボスの間の十階層へと、ノルドたちは降り立った。
※
荒れ狂うスケルトンキングの大骨剣が、ノルド目がけて豪快に振り下ろされた。衝撃で身体は宙を舞い、ボス部屋の岩壁に叩きつけられる。骨の隙間を走る痛みに息を詰め、舞い上がる粉塵が視界をかすめる。
だが、最後の斬撃は確かに効いていた。スケルトンの体は一瞬、崩れ落ち、骨が床に散乱する。勝利の予感が脳裏をよぎったその瞬間――罠だった。
「危なかった……知恵もあるんだな」
ノルドは息を整え、岩陰に身を隠す。手早くポーションを取り出し、体力を回復。戦いはまだ序盤で、即死の可能性も十分にあった。
スケルトンキングはゆっくりと再生を始める。二つの顔が周囲を警戒し、大剣を握る両腕、肩の小さな腕は弓を構える。どの攻撃も受け流され、瞬時に修復される。骨だけの体だが、「エターナル・リストア」の力で傷はゆっくりと再生されるのだ。
「ワオーン!」
ヴァルが吠え、スケルトンの周囲を駆け回る。標的となり、ノルドの回復時間を稼ぐ役割を果たしていた。
「ノルド、不用意に近づきすぎよ!」
ビュアンの声が荒く響く。小さな妖精の体から溢れる魔力が壁との衝撃を和らげ、ノルドの命を守った。光の粒が舞い、壁に反射して幻想的に揺れる。
「ごめん、ビュアン」
「名前呼ばれて少しは落ち着くた?」
小さな息遣いに、ノルドはわずかに安堵する。
「倒さなきゃここから出られない。勝たない理由もない」
ノルドは楽観的に言いながらも、頭の中で戦略を組み立てる。未使用の手札はまだ複数ある。投網だけではなく、もっと大きな戦術を温存している。
「私はあの骨とは相性が悪いわ。矢を外すくらいしかできない」
ビュアンの力は限られるが、その存在は戦局を左右するほど重要だ。
「でも、手伝ってもらってもいいのかな?」
「駄目だなんて言われてないもの」
「それは助かるよ」
ノルドは完全に復活したスケルトンキングを観察する。大剣を振る両腕、肩の小さな腕で放たれる矢、二つの顔で全方位を監視する敵に死角はない。
骨の体は完全に再生されるが、その間には一瞬のタイムラグがある。そこを突けば突破の糸口になる。
スケルトンは部屋の中央で荷運び人を認識し、ゆっくりと迫る。一歩ごとに床が振動し、微かに岩壁が揺れる。
ビュアンの暴風はスケルトンを押し返すにはまだ力不足だ。しかし、スケルトンの矢は風に翻弄され、狙った標的には届かない。
「本体も吹き飛ばされてくれれば……」
ノルドは心の中で祈る。しかし現実は甘くない。ビュアンの力はまだ未熟で、完全には操れないのだ。
「ワオーン!」
ヴァルの合図で不要な網を片付け、戦闘の準備を整える。ノルドは空間倉庫から爆薬を取り出し、火をつけてスケルトンに投げつけた。
どかーん、どかーん。
爆風が部屋の隅々まで波及し、粉塵が舞い視界を奪う。しかしビュアンの風で、ノルド自身は無傷。脚には微細なひびが入り、スケルトンの体がわずかに揺れる。
「まだ威力が足りない。次も行くぞ!」
ノルドは戦術的に爆薬を投げ続け、部位を狙う。ヴァルは背後に回り、両腕の片方を攻撃に使わせる。
スケルトンは片腕で爆弾を受け流すが、残る片腕での攻撃は制限される。ヴァルの鋭い爪が確実に傷を刻む。
やがて腕はちぎれ飛び、骨の粉が舞い上がった。
ノルドの爆弾も大剣に迎撃されるたび、剣を削り小さくしていく。両脚も全身の骨も、戦闘の衝撃で次第にボロボロになった。
スケルトンは二度目の再生を試みるが、結果は変わらない。傷ついたまま、悲しそうな目でノルドを見つめる。二つの顔に浮かぶ哀愁は、戦う者としての知性と感情を伝えていた。
「悪いな!」
ヴァルの前脚の一閃で、スケルトンキングはついにただの骨と化した。
ボス部屋後方の宝物庫の重い扉がゆっくりと開く。ノルドは宝物庫には目もくれず、戦場の片付けに取りかかった。爆弾の塵を拾い、網を倉庫に放り込む。
「終わった!」
「ねえ、宝物庫を見ましょう!」
ビュアンは嬉しそうに飛び回る。
そこには、想像を超える財宝が積まれていた。
※
魔物の森、精霊王の古き神殿。ノルドとヴァルは礼拝堂と神殿周りの掃除を続けていた。ビュアンの姿はまだない。
ノルドは意を決して精霊王に尋ねる。
「僕たちの冒険の餞別を贈るために、仕組んだんですか?」
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