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蠱惑の魔剣
斜塔のある村
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「それじゃ、ピサリオン村に寄って行きます」
聖王国に真っ直ぐ向かうグラシアスたちと別れ、ノルドたちは山間の村を経由することにした。
「どうして?」
ノゾミが不思議そうに尋ねる。
「実は、ある人に頼まれごとがありまして」
「わかった。気をつけてね」
あっさりと別れを告げると、ノルドは馬車を取り出した。サン=マリエルから山道を半日ほど進んだ先にある村だ。
「別に走って行けるけどな」
「ワオーン!」
「わかったよ! ヴァル、お願いね!」
坂道をもろともせず、ヴァルはノルドたちを乗せた馬車を力強く引っ張って走った。途中、何度も道に魔物が現れたが、退治しながら進む。
「結構厄介だな」
「そうね、でも練習には丁度いい」
人の領域の道にまで出てくる魔物にしては強いのが少し気になった。
ピサリオンは村に過ぎないのだが、立派な都市国家連邦の一員であり、エルフの村として最も歴史のある国家だ。森の向こうに、村の中心にそびえる村の大きさに不釣り合いな高い塔が見えた。
「あれが有名な斜塔ね! 精霊王も登ったんだって」
ビュアンが小さく呟く。
「傾いて立ってる。どうして? 地震かな」
リコが首を傾げた。
「違うよ、ああやって建てたんだ。元からだって。理由は、天上に向かって建てるとか神の怒りをかうからだって!」
「本当に?」
「もっと別の理由もあるはず」
やがて、ピサリオン村の入り口では、人族の警備兵が立っていた。退治に時間がかかり、村に着いたのは夜も遅かった。
「何の用だ?」
「イルヴァーナさんに届け物です」
「待ってろ!」
警備兵は警備長を呼びに行ったらしい。
「待たせたな。イル長老のことかな。じゃあ入っていいぞ!」
屈強だが温和な感じの警備長は、ノルドたちを見るとあっさり中に入れてくれた。
「どちらにお住まいでしょうか?」
「案内してやろう。今、村には気の荒い冒険者が多いからな。ついて来い!」
警備長の名はグリーン。エルフと人のハーフだった。郊外ではほとんど見かけなかった人族やエルフ、獣人すら、村の中では多く見かけた。
「子供だけでよく辿り着けたな? 立派な狼のおかげか?」
「子供じゃありません!」
ノルドは少しムッとした。背が低いのは気にしているのだ。
「そうか、悪かったな。ここだ」
村のはずれにある一際大きな木の上に、ツリーハウスがあった。
「イル婆さん、客だ!」
警備長が大声で叫ぶと、家の扉が開き、長い梯子が降りてきた。
「登れるか?」
「問題ありません」
ヴァルが器用に駆け上り、リコも続いた。
「ほぉ!」
その素早い動作に、グリーンは感心の声を漏らした。
「案内、ありがとうございました」
ノルドも負けじと梯子を登った。
「何のようだい?」
リジェに似た顔に落ち着いた雰囲気、まさにハイエルフの女性、イルヴァーナがそこにいた。
「ノシロとリジェからのお届け物です」
ノルドは収納魔術で格納庫から、手紙やお土産、果物、魚を取り出した。
「お前、収納魔術を使えるのか。だが、こんなにもすまなかったね」
「いえ、たいした量ではありません」
「山の中だから、新鮮な魚を食べるのは久しぶりだ。ありがとう」
彼女は家の収納庫にしまいながら、ノルドに尋ねた。
「この後、どこに行くんだい?」
「この村で一泊して、塔に登ってから、聖王都に向かいます」
「ああ、残念だが今は塔には冒険者しか入れないんだ。それと宿は、どこも一杯だ。よければ家に泊まっていくといい。この家は今は私しか住んでいないからね」
「やったぁ、そうしようよ! ノルド」
尻尾をパタパタと振るリコが微笑む。
「ご迷惑をお掛けします」
「使ってない部屋だから、掃除も行き届いてないが」
リコは持ち前の人懐こさを発揮した。
「イルばあちゃん、料理手伝うよ。ノルドは部屋の掃除ね」
「わかったよ。でもまず部屋着に着替えようね」
ノルドは上階の借りる部屋に入り、部屋の掃除と武器の手入れを始めた。
部屋を整え終えると、階下には素朴な田舎料理の香ばしい匂いが漂っていた。
「料理できたよ。降りてきて!」
食卓を囲みながら、シシルナ島のこと、自分たちのことを話した。
「ノシロさんに、最初に魔兎を買ってもらったのが始まりだったんです」
「買い叩かれたかい?」
「いえ、逆です」
「そうだろうね。あの子は商売に向いていない」
全員で声を出して笑った。
「私は、聖王国から移住したの。それで、孤児院に捕まった」
リコが自分語りを始める。
「まるで、リジェと同じだな。ヴァレンシアには世話をかけた。最後に会えなかったな」
「でも、小さいニコラは元気だよ。泣き虫だけど」
「リジェはニコラを産むために里帰りしていてね。今日泊まってもらう部屋は、あの子の部屋だよ」
話題は自然とエルフの裁縫に移った。
「じゃあ、イルばあちゃん、教えて! 荷物届けた駄賃の代わりに」
「ああ、もちろんだ」
ノルドは料理の後片付けを受け持ち、部屋に戻るとビュアンと夕食会を楽しんだ。
その夜のエルフの村は、なぜか静かで穏やかだった。月明かりに照らされる塔のシルエットが、旅の疲れを優しく癒してくれるようだった。
「ワオーン!」
ヴァルは元気に吠えていた。
聖王国に真っ直ぐ向かうグラシアスたちと別れ、ノルドたちは山間の村を経由することにした。
「どうして?」
ノゾミが不思議そうに尋ねる。
「実は、ある人に頼まれごとがありまして」
「わかった。気をつけてね」
あっさりと別れを告げると、ノルドは馬車を取り出した。サン=マリエルから山道を半日ほど進んだ先にある村だ。
「別に走って行けるけどな」
「ワオーン!」
「わかったよ! ヴァル、お願いね!」
坂道をもろともせず、ヴァルはノルドたちを乗せた馬車を力強く引っ張って走った。途中、何度も道に魔物が現れたが、退治しながら進む。
「結構厄介だな」
「そうね、でも練習には丁度いい」
人の領域の道にまで出てくる魔物にしては強いのが少し気になった。
ピサリオンは村に過ぎないのだが、立派な都市国家連邦の一員であり、エルフの村として最も歴史のある国家だ。森の向こうに、村の中心にそびえる村の大きさに不釣り合いな高い塔が見えた。
「あれが有名な斜塔ね! 精霊王も登ったんだって」
ビュアンが小さく呟く。
「傾いて立ってる。どうして? 地震かな」
リコが首を傾げた。
「違うよ、ああやって建てたんだ。元からだって。理由は、天上に向かって建てるとか神の怒りをかうからだって!」
「本当に?」
「もっと別の理由もあるはず」
やがて、ピサリオン村の入り口では、人族の警備兵が立っていた。退治に時間がかかり、村に着いたのは夜も遅かった。
「何の用だ?」
「イルヴァーナさんに届け物です」
「待ってろ!」
警備兵は警備長を呼びに行ったらしい。
「待たせたな。イル長老のことかな。じゃあ入っていいぞ!」
屈強だが温和な感じの警備長は、ノルドたちを見るとあっさり中に入れてくれた。
「どちらにお住まいでしょうか?」
「案内してやろう。今、村には気の荒い冒険者が多いからな。ついて来い!」
警備長の名はグリーン。エルフと人のハーフだった。郊外ではほとんど見かけなかった人族やエルフ、獣人すら、村の中では多く見かけた。
「子供だけでよく辿り着けたな? 立派な狼のおかげか?」
「子供じゃありません!」
ノルドは少しムッとした。背が低いのは気にしているのだ。
「そうか、悪かったな。ここだ」
村のはずれにある一際大きな木の上に、ツリーハウスがあった。
「イル婆さん、客だ!」
警備長が大声で叫ぶと、家の扉が開き、長い梯子が降りてきた。
「登れるか?」
「問題ありません」
ヴァルが器用に駆け上り、リコも続いた。
「ほぉ!」
その素早い動作に、グリーンは感心の声を漏らした。
「案内、ありがとうございました」
ノルドも負けじと梯子を登った。
「何のようだい?」
リジェに似た顔に落ち着いた雰囲気、まさにハイエルフの女性、イルヴァーナがそこにいた。
「ノシロとリジェからのお届け物です」
ノルドは収納魔術で格納庫から、手紙やお土産、果物、魚を取り出した。
「お前、収納魔術を使えるのか。だが、こんなにもすまなかったね」
「いえ、たいした量ではありません」
「山の中だから、新鮮な魚を食べるのは久しぶりだ。ありがとう」
彼女は家の収納庫にしまいながら、ノルドに尋ねた。
「この後、どこに行くんだい?」
「この村で一泊して、塔に登ってから、聖王都に向かいます」
「ああ、残念だが今は塔には冒険者しか入れないんだ。それと宿は、どこも一杯だ。よければ家に泊まっていくといい。この家は今は私しか住んでいないからね」
「やったぁ、そうしようよ! ノルド」
尻尾をパタパタと振るリコが微笑む。
「ご迷惑をお掛けします」
「使ってない部屋だから、掃除も行き届いてないが」
リコは持ち前の人懐こさを発揮した。
「イルばあちゃん、料理手伝うよ。ノルドは部屋の掃除ね」
「わかったよ。でもまず部屋着に着替えようね」
ノルドは上階の借りる部屋に入り、部屋の掃除と武器の手入れを始めた。
部屋を整え終えると、階下には素朴な田舎料理の香ばしい匂いが漂っていた。
「料理できたよ。降りてきて!」
食卓を囲みながら、シシルナ島のこと、自分たちのことを話した。
「ノシロさんに、最初に魔兎を買ってもらったのが始まりだったんです」
「買い叩かれたかい?」
「いえ、逆です」
「そうだろうね。あの子は商売に向いていない」
全員で声を出して笑った。
「私は、聖王国から移住したの。それで、孤児院に捕まった」
リコが自分語りを始める。
「まるで、リジェと同じだな。ヴァレンシアには世話をかけた。最後に会えなかったな」
「でも、小さいニコラは元気だよ。泣き虫だけど」
「リジェはニコラを産むために里帰りしていてね。今日泊まってもらう部屋は、あの子の部屋だよ」
話題は自然とエルフの裁縫に移った。
「じゃあ、イルばあちゃん、教えて! 荷物届けた駄賃の代わりに」
「ああ、もちろんだ」
ノルドは料理の後片付けを受け持ち、部屋に戻るとビュアンと夕食会を楽しんだ。
その夜のエルフの村は、なぜか静かで穏やかだった。月明かりに照らされる塔のシルエットが、旅の疲れを優しく癒してくれるようだった。
「ワオーン!」
ヴァルは元気に吠えていた。
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