完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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蠱惑の魔剣

迷いなき手

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医師は安堵し、診察を続けながら言った。
「数は覚えておいてくれ。水で薄めたりとか……」
「するわけないですよ。効果が落ちるでしょう。それに、全員に飲ませましょう。実は、まだまだありますから」
 ノルドは、さも当然のように答えた。

「何だって!」

 安いと言っても、売れば一個一ゴールドはする薬だ。一箱百個、それが数箱。さらに、先ほどの薬草も決して安くはない。数百ゴールド――いや、桁が違う。
 この若い青年は、大商人なのかもしれない。ジョゼはそう思った。

「リコ、飲ませて!」
「はい、はーい」

 リコは手慣れた手つきで、患者たちに薬を飲ませて回る。バンの両親にも。
 そして、あっという間に効果が現れ始めた。

 ただの弱いヒールポーションのはずだ。
 だが、死の淵にあった者は呼吸が落ち着き、頬に血の色が戻る。そこまで重くない者は、目に見えて元気を取り戻していく。

「嘘だろ……」

 ジョゼは思わず、薬液を舐めた。
「間違いない。本物だ。だが、初級ポーションじゃない。中級、いや、それ以上の代物だ……こんなものを、こんなに持っているなんて……」

 考え込んでいる医師のもとへ、バンが駆け寄ってきた。
「父さんが目を覚ました! 母さんも、俺に話しかけたんだ。『バン』って!」

 夜の看護はリコとヴァルに任せ、ノルドはジョゼと共に屋敷へ戻ることにした。
 だが、その前に、ノルドは患者たちに告げる。

「元気そうに見えますが、皆さん、まだ病気です。ここから出ることは許しません」
「ワオーン!」
「出た瞬間、この狼に捕まりますから」
「……わ、わかった」

 患者たちの顔は、なぜか一斉に青ざめていた。

 帰り道、疲れと安心で眠ってしまったバンを背負い、村長の家でもある祖父の屋敷へ送り届ける。立派な屋敷だった。
 扉を叩くと、執事と村長が姿を現す。

 眠りこけているバンを、執事に預ける。
「どうした、ジョゼ。息子はもう駄目なんだな。覚悟はしていたが……」
「いえ、昏睡状態から回復しました。それもすべて、こちらのノルド君のお陰です。ただし……大金が必要です」
「金なら糸目はつけん! どれくらいだ?」
「一億……それくらいでしょうか。ノルド君?」
「へ?」

 ノルドは言葉を失った。完全に誤解されている。
 どう説明しようか考えていると、村長が続ける。

「その代わり、これ以上、誰一人死なせるな! このままでは、俺もお前も、いや村ごと、聖教国軍に焼き払われる!」
「……何という無知。ですが、ノルド君に売ってもらった薬草があれば、治療薬は作れます。あとは、優秀な薬師が必要です。私のスキルでは……」

 ジョゼと村長は、難しい顔で黙り込んだ。

「もしお金の話をされるのでしたら、リコとお願いします。僕には決定権がありません」

 ノルドが金を管理しているとはいえ、会計担当はリコだ。セラが入院してから決めたルールである。

「そうなのか。てっきり商人だと思っていた」

 ジョビたちは揃って頷いた。

「僕は商人じゃありません。薬師です。優秀かどうかは別ですが」
「え……? それじゃあ、あのポーションは……」
「僕が作りました」

 薬師であること、人前で調薬すること。その二つを、ノルドはサルサやセラに固く禁じられていた。身の危険が及ぶからだ。

「村長、それなら上手くいく。いや、必ず治療薬が作れる!」

 ジョビは、初めてノルドに満面の笑みを向けた。

「ただし、僕が薬師であることは絶対に秘密にしてください。それが協力の条件です」
「もちろんだ」

 村長は、ノルドに握手を求めた。

「だが、なぜ秘密に?」
 ジョビが尋ねる。
「サルサ様との約束です」
「シシルナ島のサルサ様が……ああ、天恵じゃ!」

 老人は、飛び跳ねて喜んでいる。

「どういうことだ?」
 村長が改めて聞く。
「天才医師である、私の師匠が隠しておられる薬師ですよ。正真正銘、本物です。さあ、屋敷に戻りましょう」

 ノルドにも、隠したくない理由があった。
 目の前にある製薬作業が、あまりにも魅力的だったのだ。難易度が高く、面白そうで仕方がない。
 根っからの薬師だった。

「それでは、始めます」

 ジョゼのノートを基に、ノルドは思考を巡らせ、製薬を開始した。

「早い……しかも的確だ。迷いがない」
「製薬量については、自信があります」

 ジョゼも初級ながら製薬スキルを持つ医師だ。だからこそ、その異常さがよく分かる。
 新薬の開発は、作っては試すという、気の遠くなる作業だ。

「難しい調薬だ……どれほど成功するか……」

 新しい配合は、ジョゼには成功させられなかった。

「全部成功しています。それと、配合も少しずつ変えています」

 まるで、薬の神が目の前にいるようだった。
 ――いや、そういうことか。薬師じゃない。彼は聖薬師なのだ。

 楽しそうに、飽きることなく作業を続けるノルド。

「疲れないのかい? 魔力は尽きないのかい?」

 薬をガラスに垂らし、魔物の反応を見るだけのジョゼの方が、先に疲れてしまった。

「少し休んでいてください」

 その言葉に甘えることにする。

「助手をお願いできるかい? ビュアン!」
「もちろんよ!」

 だが言うまでもなく、ビュアンの役目は、ほぼ雑談だった
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