シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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サナトリウム、再び

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 シシルナ島最大の祭り、冬の祝祭は、一週間続く。
 
 シシルナ島の祭りの三日目、偽物保湿クリームの被害者がぱたりと姿を消したのは、この小さな町ならではの噂の早さゆえだった。
 
 二日間の混乱を経て、ノルドたちは全ての被害者を治療し終え、ようやく一息つけるようになった。
 
 四日目になると、ヴァレンシア孤児院の本物の保湿クリームが評判を呼び、倉庫に積まれていた在庫が全て売り切れた。その勢いは町中の話題になるほどだった。

「ノルド、お疲れ様。本当に助かったわ」

 リコが満面の笑みでノルドに感謝の言葉を伝える一方で、ふと困った顔を見せた。

「でも、次はお菓子を売らないといけないの……」

 垂れた尻尾がリコの本音を物語る。それでも、すぐに小さな笑顔を浮かべる彼女に、ノルドは肩の力を抜いた。

「大変だね。でも冬休みになったら、泊まりにおいでよ」

「うん、そうする。これ、セラ母さんに」

 リコはメグミたちと作ったお菓子の詰め合わせを差し出した。それを受け取るノルドの隣で、ヴァルは鼻先でリュックをつつきながら、どこかつまらなさそうにしている。

 だが、ノルドにはわかっていた。祭りの間中、ヴァルがあちこちの屋台を巡り、何かしら食べ物をもらい歩いていたことを。

「まったく、君は食いしん坊だね。でもちゃんとお返しをしないと」

 そう言って、ノルドはヴァルのリュックに『蜂蜜飴』の小箱を詰め込んだ。

「これを配るんだよ。わかった?」

「ワオーン!」

 嬉しそうに尻尾を振るヴァルは、一目散にまた出店のある通りへと向かっていった。その後ろ姿を見送りながら、ノルドは肩をすくめて笑みを浮かべた。

「まったく、祝祭を一番楽しんでるのは君じゃないか」



 祝祭の賑やかな雰囲気。しかしノルドはどうにも馴染めず、静かにその場を離れた。

「そうだ、サナトリウムに遊びに行こう!」

 満腹になって戻ってきたヴァルを連れ、サナトリウムのある丘を目指す。途中、ノルドははっと気づいた。

「でも、困ったな。アマリに何もプレゼントが無いじゃないか」

「ワオーン」ヴァルがリュックを指し示す。

「何だこれは?」

 リュックの中には、ヴァルが興味を持たなかった豪華そうなチョコレートが入っていた。

「これと、リコにもらったお菓子をお裾分けしよう」
 
丘を登り、サナトリウムの門番に訪問を告げると、すぐに門が開く。

「問題ありません。お通りください」

 サナトリウムの玄関では、アマリが元気に出迎えてくれた。ヴァルはその姿を見るなり駆け出していく。
「風邪ひいちゃうよ。中で待っててくれたら良かったのに」

「噂に聞いた腕の立つ薬師さんだもん。大丈夫よ!」

 サナトリウムのリビングで、二人のお茶会が始まる。話の中心は偽物クリーム事件のことだ。
「それで、それで……」とアマリは目を輝かせながら聞き入る。

「私も手伝いしたかったなぁ」

「次の機会に手伝ってくれればいいよ」

「うん」アマリの答えは、少し暗かった。

「ところで、ネフェルさんはどこ?」

「お姉ちゃんなら用事で出掛けたの。もうすぐお別れだよ」

「寂しくなるね」

「でもね、次の春にはお姉ちゃんが迎えに来るんだって!だから、それまでに私も強くなるって決めたんだ」

「病気は大丈夫なの?」

「うん、サルサ先生の治療のおかげ。それに……」アマリは少し俯き、力強く続けた。「姉さんに心配をかけたくないから、強くなりたいの」

「ワオーン」ヴァルが協力を約束する。「わかった」ノルドも頷いた。

 しんみりとした空気を破るように、悪戯好きの老人三英雄が現れる。

「丁度よかった。遥か東の国のゲームでな、四人じゃないと面白くないのだ。やろう!」

「ルールは簡単じゃ。この牌というのをだな……」

「そうそう、これが点棒といってな……」

 全然簡単ではないゲームのルールに戸惑いながらも、ノルドは老人たちとゲームを始めることになった。思いのほか熱中してしまい、結果的にはノルドの大勝ち。

「勝ち逃げはダメだ、もう半荘!」

 アマリはその様子を見ながら眠そうな顔をしており、メイドが寝かしつけに来る。

「じゃあ、ノルド。またね!」執事に背負われ、アマリは部屋へ戻っていった。

 ゲームは夜遅くまで続き、ヴァルはノルドの伝言を母親に届けるため、一足先に帰ることになった。

「ワオーン!」退屈から解放されて嬉しそうに、駆け出して行った。

 深夜になってネフェルが帰宅する。珍しく疲れた様子だ。

「あ、ノルドだ!何してるの?」

「ゲームをして……」

「おじさん達、いじめちゃダメよ、ほどほどにね。じゃあ、ノルド、アマリが待ってるからまたね!」

 まともに会話もできず、ネフェルはそのまま部屋へ向かった。

 元英雄の老人たちは眠そうなのに勝つまでやめようとせず、ゲームは深夜に突入する。ノルドは、牙狼族、夜中になる程、目や頭が冴える。

 執事達も、世話を焼きながら、ゲーム観戦をしている。彼らの間でチップが‘やり取りされているようだが……

「もう一回じゃ」

「こやつ、ドラゴンよりも手強いぞ」

「悪魔の手先か!」

 最終局面。ノルドは最下位だったが、手は役満。勝利目前だったその時――

「おい!何してんの?」

 早朝の散歩に降りてきたサルサ医師に見つかり、ようやくゲームは終了。勝利はふいになったが、解放された。

「ノルド、またな!」

 逃げ足の早い老人たちはすぐに姿を消した。

 サルサ医師と庭を歩きながら、ノルドは薬や呪いについての話をする。わからなかったことが解決し、有意義な時間だった。母を苦しめる呪い……

「そうだ、セラが体調を崩したら連れておいで」

 その言葉だけが、ノルドの心に深く残った。
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