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祝祭
しおりを挟む「やっと、終わったぁ」
数日がかりで、保湿クリームを作り直し、ようやく商品として販売できる形になった。
リコ、メグミ、孤児院の子供たち、母さん、そして少しだけヴァル。みんなの協力があったからこそ、ここまでこぎつけた。
セラは、ニコラ達と話して以来、以前にも増して元気になった気がする。何か吹っ切れたような笑顔を見せる彼女に、ノルドは少し安心していた。
そんな空気の中、外から力強い声が響いた。
「おーい、お代わり、持って来たぞ!」
ノシロの声だ。ノルドが急いで外に出ると、荷台にぎっしり積まれた木箱を目にして、その場に座り込んでしまった。
「これ、全部……?」
木箱の中身は、見覚えのあるクリームの容器ばかりだった。ノルドは驚きと疲労で動けなくなる。
「馬鹿じゃないの、兄さん」
能天気なノシロに苛立ちを抑えきれないメグミが毒を吐いた。「これ、偽物クリームでしょ? どれだけ持ってきたのよ」
ノシロは肩をすくめて、「そんな言い方しなくても……取り押さえた奴らから没収したんだ」と小声で返した。
ニコラが間に入り、ノシロに向き直る。
「よくやったわ。お疲れさん!」
その言葉に、ノシロは照れくさそうに頭を掻いた。「ああ……」
「で、偽造業者はどうしたの?」
「居合わせた警備総長に連れていかれたよ。これで偽造は止まるだろう」
ニコラは荷台を指して言った。
「それなら、この荷物は倉庫に運んでおきなさい。祝祭が終わったら、その後の対応を考えよう」
その一言で場の空気が和らいだ。
※
「いらっしゃいませ、保湿クリームの実演販売をしています!」
港町の広場では、シシルナ島中から集まった人々で賑わう冬の祝祭が始まった。
エリス神と精霊王に捧げる、一週間に及ぶ祝祭。
一等地にあるヴァレンシア孤児院の屋台前で、声を張り上げるリコたち孤児院の子供に、通りかかった買い物客が足を止める。
「これ、本当に効くの?」
「もちろんです! 冬の乾燥にぴったりです。一度試してみませんか?」
差し出された試供品を手に取り、物見の客は半信半疑で手に塗り始めた。
「でも評判悪かったしな……」
「あれは偽物です。使ってみてください!」
リコは気にせずに勧め、試した人たちの間から歓声が上がる。
「これはいい。一つください!」
そこに、深刻な顔をした農家の親子が現れた。
「俺の母ちゃんに買ったら、手が腫れたぞ。どうしてくれるんだ?」
日焼けした体格のいい男の隣には、具合の悪そうな老婆。
リコが言葉を詰まらせた瞬間、メグミがすっと対応を代わった。
「それは大変でしたね。こちらにどうぞ」彼女は仕切られたテントの中に親子を手招きする。
「おい! 口止めなんてさせないぞ!」農夫が声を荒らげるも、メグミは冷静に応じる。
「薬師様に診てもらいましょう」中では、ノルドが居心地が悪そうに椅子に座っていた。
「おい、こんな子供に何ができる?」
ノルドがいつものように手を動かそうとした瞬間、メグミが制して告げる。
「この方は、ニコラ様の薬師です。ご安心ください」
懐からニコラのサイン入り証文を取り出し、農夫に見せると、彼は黙り込んだ。
ノルドは老婆の手を取り、腫れ上がり、痒みで掻きむしられた跡にクリームを丹念に塗った。
「馬鹿野郎、母ちゃんになにしやが……ん……だ」
老婆の口から安堵の声が漏れ、周囲の空気が和らぐ。
「ああ、治った。痒くない」
「お大事に」ノルドは小声で告げ、少し俯いた。
「ありがとう、坊主」
農夫がつぶやくと、メグミが手元の商品を差し出す。
「今使ったのは特別製です。販売しているものも効果はありますが、そこまでではありません。それでも、冬の乾燥には十分ですので、ぜひお試しください」
「いや、買わせてくれ」
農夫は感謝の気持ちを込めて代金を支払い、老婆を支えながらその場を去っていった。
※
近くの雑貨店の出店では、リジェが看板娘として、その美しさで集客している。
「ハイエルフか……美しい……」
感嘆の声を上げる客たちをよそに、ノシロは面白くなさそうな顔で黙々と商品を売っていた。
「まあ、これなら休んだ分の損は取り返せそうだな」
シロノのそんな声はかき消せるほど、店の賑わいは盛況だった。
広場の中心の舞台では、楽団の演奏が始まり、鮮やかな衣装の踊り子たちが舞い踊る。
精霊王の伝説を描いた芝居が、この祝祭で一番の人気演目だ。
「見て見て、すごい!」
子供たちが歓声を上げ、大人たちも足を止めてその光景に目を奪われる。
「警備員さん、これ食べる?」
出店のチュコを差し出す店主に、巡回中の警備総長が笑顔を見せた。
「頂きます!」
ここで断らないのが、シシルナ島の警備員魂である。
市場も舞台も、人々の笑顔であふれ、シシルナ島は喜びと感謝の一週間を迎えていた。
※
「島の入国管理はどうだ?」
ニコラは、港を眺める島主に声をかけた。
「ああ、今年は聖女様も来られるからな。厳重にしているつもりだが……」
島主は少し難しい顔をしながら答える。
「心配いらん。うちの連中も総動員している。もう散って見回りしているはずだ」
「飲み歩いているの間違いじゃないのか?」
「ははは、そうかもしれんがな! それにしても、そっちは人材不足だな。お前の警備員、弱いんじゃないか?」
「何を言う! 母さんが見どころのある奴を全部手下にしてるせいだろうが」
「確かに、それは否定できん」
二人は笑いながら、島主の部屋から次々と入港してくる船を眺めていた。
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
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