完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
36 / 221

プレゼント

しおりを挟む

 早朝、サナトリウムの門をくぐると、セラとヴァルが出迎えてくれた。

「ごめんね、母さん、あのね……」

 朝日が昇る静かな冬の海を眺めながら、手を繋いでゆっくりと丘を下っていった。

 疲れ果てていたのか、朝食をとるとそのまま夜までぐっすり眠ってしまった。

「ノルド、起きて! ご飯ができたよ!」

 ほんのり甘い香りと、リコの元気な声で、ようやく目を覚ました。

「リコ、お休み取れたのか?」

「うん、頑張ってお菓子を完売したんだ。看板娘のおかげだよー」

 リコは少し自慢気に言ったが、ノルドにはうまく伝わらず、少し不機嫌そうに見えた。
「あれ、グラシアスさんも来てるの?」

「さすがノルド、そうだよ、さあ起きて」

 ノルドは慌ててリビングに向かう。そこには、祝祭の準備が整っていた。

「どう、ノルド。私の飾りつけは?」

「ああ、すごいよ!まるで祝祭の広場みたいだ」

 リコは孤児院で使って余った装飾品を持ってきて、セラから余った布をもらって飾り付けを施した。

 窓辺には様々な色のガラス細工が並び、ほのかな灯りが冬の寒さを和らげていた。
「へへへ、わかればいいのよ」

「ノルド君、久しぶりだね」商人の声が聞こえた。

「グラシアスさん……」ノルドは、彼に依頼されていた商品のうち、いくつかがまだ完成していないことを思い出し、焦った。

「あ! これから準備しますね」

「大丈夫だよ。祝祭で売る予定だったんだけど、到着が遅れちゃってね。それに、シシルナ島での販売はニコラ様に禁止されちゃったから」

「それじゃ、売れないんじゃ……」

「心配しないで。聖王国で売るよ。シシルナ島の特産品としてね」

「リコ、料理を運んで頂戴。今日はリビングで食べましょう!」セラの声がかかった。

「はーい! ノルド、机の上を片付けて!」
 運ばれてきた料理は、シシルナ島ならではの冬の味覚が並んでいた。

 島で獲れた貝や白身魚が豊かに入ったスープ。島特産の柑橘ソースのかかった焼きたてのチキン。季節のキノコとクリームのパイ包み焼き。

「このスープ、久しぶり……」

 ノルドが感慨深くつぶやくと、セラが微笑んだ。

「冬になると、やっぱりこれが食べたくなるわね」

 ヴァルには特製の骨付き肉がグラシアスより供され、満足そうに耳をぴんと立てながら静かに食事を楽しんでいる。

「エリス神と大精霊に感謝を」

 セラの言葉に続き、みんなが手を合わせる。

 そして、デザートには、モンブランケーキ。
 あっという間にデザートも平らげ、セラは立ち上がり、にこやかに言った。

「それじゃあ、私から皆んなにプレゼントよ。持ってくるわ」

 そう言って、彼女は奥の部屋から荷物を抱えて戻ってきた。

「似合うかしら」

 まず、リコには冬用のコートが手渡された。その場で羽織ったリコは、フードをつまんでかぶると、軽く裾を広げながら嬉しそうにくるりと回った。

「うわ、これ超暖かい! こんなにカッコいいの、呪文とか唱えたくなる! ほら、『光の精霊よ、集まれー!』とか!」

 セラはくすっと笑い、「リコにはぴったりね。寒い冬も、魔法使いみたいにみんなを元気にしてくれそう」と応じた。

 リコは照れながらも満足げにフードを整えた。

 次にノルドにはスーツが手渡された。

「これ、僕に?」

「そうよ! 明日のチャリティ用よ。着てみて!」

 ノルドは渡されたスーツを手に取り、布の感触を確かめるように指先で撫でた。

「うわ、なんか緊張してきた…本当に僕がそんな場に出ていいのかな?」

 自分の胸元を見下ろしながら、戸惑いがその顔に滲む。

 セラは穏やかな微笑みを浮かべ、彼の肩を軽く叩いた。

 「心配しなくても大丈夫よ。ノルドなら、ちゃんとみんなを安心させられるはずだから」

 リコも元気よく声を上げる。

「そうそう! ノルド、ピンと背筋を伸ばして! きっと、めっちゃカッコいいよ!」

 ノルドは小さく頷きながら、スーツを手にして奥の部屋へ向かった。

 着替えを終えた彼が戻ってくると、やや緊張した面持ちながらも、背筋を伸ばして立っていた。その姿を見たセラは満足げに目を細める。

「ほら、似合うじゃない。立派になったわね」

 リコは目を輝かせ、驚いたように手を叩いた。

「ノルド、すごい! なんかいつもの優しい感じも残ってるけど、それでいて超大人っぽい!」

 ノルドは少し照れながらも、スーツの袖を引っ張って整えた。「……そんなに?」

 リコが即座に力強く頷く。「うん! 完璧だよ! 絶対注目される!」

 セラはそのやりとりを見守りながら、柔らかな声で続けた。

「明日は笑顔を忘れず、あなたらしくいればそれで十分よ。リコも私も、ちゃんと見ているからね」

 ノルドはセラの言葉に安心したように深く息を吸い込み、拳をぎゅっと握りしめた。「…うん、頑張ってみるよ」



「それから、グラシアスさんにはこれを」
 セラが手渡したのは、ふわふわのマフラー。

「ありがとうございます。まさかこんなに素敵なものをいただけるとは思っていませんでした」

「冬の行商は寒いですからね」

 聖王国の大商会の会長が赤面して、喜ぶのを見て、リコとノルドはくすくすと笑った。

グラシアスは赤面しながら反撃を開始した。

「じゃあ、俺からもだ!」

 グラシアスは収納魔法で、貴重品を入れている空間から取り出した。

「リコには、料理のレシピ本だ」

「やったぁ」リコは飛び上がって喜んだ。

「ノルド君にも、本だよ」

「え! これは?」

 ノルドに手渡されたものは、中級ポーションの作成手順書だった。

「これは、受け取れませんよ! とても高価な物です」

 セラの顔に焦りが出る程だった。ノルドは、そんな母親を見たことがなかった。

「ははは、これで私の勝ちですね」グラシアスは勝ち誇った。

「いけません。受け取れませんよ」

 セラは拒否していたが、ノルドは既に彼らの会話も耳に入らず、必死に本を読んでいる。

「セラさん、これは、ノルド君への投資です。商人ですから、儲けさせてもらいますよ。それに、彼から本を取り上げれますか?」

ノルドの様子を見て、セラも観念したようだった。

「ノルドには、恩を返すよう努力させます」

「ははは、それと、これは美味しい食事のお礼です」

「これは?」

 グラシアスはセラにネックレスを渡した。
 セラはそれを手に取ると、すぐに気づいた。

「これは…防御魔法がかかっている」

「その通りです」

 グラシアスは静かに頷き、真剣な表情でセラを見た。

「気をつけてください。実は、良くない噂を聞きました。到着が遅れたのも、それが理由です」

「良くない噂?」

「有名な暗殺集団が祝祭を狙っているという話です」


【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...