シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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祝祭チャリティ 後

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 「それでは、只今よりシシルナ島祝祭の歓迎会を行います。司会はオルヴァ村、村長のクライドが務めさせていただきます」

 会場は既に多くの招待客で溢れそうだった。貴族や富豪、その付き添いが集い、華やかな雰囲気が広がっている。

「乾杯を致します。飲み物は行き届いていますでしょうか?」

 メグミやリジェ、さらに応援に来たメイドたちが飲み物を配り歩く。ホットワイン、赤白のワイン、ジュース――様々な飲み物が用意されていた。

「行き渡りましたか? それでは、乾杯の挨拶を島主のガレアよりお願い致します」

「ガレア・シシルナです。よくお越しくださいました。どうぞ、シシルナ島を存分に楽しんでください。乾杯!」

 短い挨拶に抑えたのは、「お前は話が長い!」とニコラに叱られた経験があるからだ。

「乾杯!」

 歓声とともに、会場にはシシルナ島ならではの料理が並べられる。ビュッフェ形式のテーブルには新鮮な魚介や果物がずらりと揃い、彩りも鮮やかだ。

 貴族や富豪たちにとっても、シシルナ島でしか味わえない食材を楽しむのはこの催しの醍醐味の一つだった。

 それぞれが挨拶を交わしながら料理を楽しむ中、次々と声が上がる。

「え? この料理、驚くほど美味いぞ」

「待て待て、料理長が変わったのか? 味が絶妙だ」

「お代わりだ! 早くしろ、無くなっちまう!」

 次第に貴族や富豪たちの顔色が変わっていく。

 いつもより多くの客が集まったとはいえ、十分な量を用意していたはずの料理が、あっという間に尽きそうな勢いだった。

「すいません、料理の追加をお願いします!」
「なんだって!」

 一息ついていた調理場が再び混乱に包まれる。
「どうしよう……高級食材はもう無い……」

 料理長やノシロが青ざめて呟く。

「打ち上げ用の賄い料理を出しましょう。シシルナ島風リゾットとチーズ入りライスコロッケを用意できます。任せてください」

 セラの機転が状況を救い、会場の混乱も徐々に落ち着きを取り戻していった。

 会場のあちこちで、談笑や歓声が響き渡る。

「そこで儂はドラゴンをバサッと……」

 老人勇者パーティの周りには、若かりし頃の冒険談に耳を傾ける貴族たちの姿があった。その目は子供のように輝いている。

「それで、グラシアス様のお好みの髪型は?」
 若い貴族の娘たちが、美形の青年実業家で資産家でもあるグラシアスを取り囲む。

「皆さん、とてもお似合いですよ。流行の髪型がよく映えていますね」

 彼の穏やかな言葉に、娘たちは頬を染め、うっとりとした表情を浮かべる。

 さらに別の場所では、島主ガレアが富豪たちの質問攻めにあっていた。

「そろそろ新しい航路を我々にも開放していただけませんか?」

「ダンジョンで獲れる魔石の詳細を教えていただきたいのですが」

 その様子を見たグラシアスとガレアが一瞬目を合わせる。にやりと笑い合うが、その目には微かな緊張感が見え隠れしていた。

 二人とも、室内にいるにもかかわらず、色違いのマフラーを巻いている。

 そして二人が目を逸らした先には、聖王国の司祭とその付き人である執事とメイドの姿があった。そう、暗殺者首領と刺青女だ。

「司祭様、これでは暗殺は難しいです」

「なぜだ?」

「元勇者が会場におります。老いたとはいえ、勝てる相手ではありません」

「別に奴らを殺せとは命じていないだろう」

「いえ、殺意を出しただけでも気づかれます」

「そうか……まあ良い。今日は標的の様子を見るだけだ。もうすぐ現れる。その姿を確認したら退散するぞ」

 司祭の低い声が、ざわめく会場の一角でひっそりと響いた。



「それでは、毎年恒例の、会場に併設していますヴァレンシア孤児院からのチャリティの時間です。一品でも構いません。ぜひともご購入ください」

 それは、孤児院からの在籍者や卒院生が作った、さまざまな商品だ。中には、大陸で知られる高名な作家の作品も含まれており、それなりの値段で購入されていく。

ついにノルドの出番が来た。

「最後は、今年より売り出しました保湿クリームです。すでに祝祭の会場でも販売しております」

 会場から、少しがっかりしたような声が漏れる。
「なんだ、もううちの使用人たちが買ってたぞ」

「偽物騒動があったらしいな。病気になるとか」

「良い品だが、高くは買えんな。庶民向けだ」

「それでは、監修した薬師をご紹介します。ノルド薬師です」

 舞台に注がれる視線。ノルドの敏感な耳には、会場のざわめきが入り込んでくる。

「薬師と言っても、まだ子どもじゃないか?」

「本当に信用できるのかね」

(嫌だ、怖い、怖い、かあさん、助けて)

 しかし、セラが助けに来ることは無かった。彼女は、会場の隅で、唇を噛み、血を流しながら、必死に耐えていた。

 ノルドは思わず立ち尽くしてしまう。その時――
「ノルド、頑張って。あなたなら大丈夫よ」

 背後からアマリとリコの声。二人の手が彼の両手をぎゅっと包む。

「ああ」

 ノルドは重い足を引きずるようにして舞台に上がった。いつも以上に猫背で、引き締まらない表情。それでも、足元だけはしっかりと踏みしめている。
「こんなに小さいですが、凄い冒険者でもあります。それでは、ノルド薬師、説明を」

 クライドの明るい声が、彼の背を押すように響く。

「はい。今日持ってきた保湿クリームは、祝祭の会場で売られていたものとは違います。会場限定品です」

 ざわざわと再び会場がざわめく。

 英雄達やグラシアス、島主は、雑談を始める観客をたしなめる。

「静かに! 話を聞こうじゃ無いか!」

 会場が、再び静かになる。

「このクリームには、保湿以外にも体力回復、魔力回復、解毒効果、治癒効果があります」

「三つのポーションと解毒が? たかがクリームに?」

「どうせ、たいした効果はないさ」

 ノルドは胸の内で深く息を吸った。

(いつもの反応だ。だが、この場で見せなければならない)

「効果ですが、もちろん人によって異なります。私が試してみましょう」

 そう言ってナイフを抜こうとしたその時――
「ノルド、私、手を切ってしまったの。しかも血が止まらないの。どうにかならないかな」

 舞台に颯爽と現れたのはネフェルだった。その手からは滴るように血が流れている。

「あれは聖女様では?」

「間違いない、聖女様だ!」

 どよめきが起きる中、ネフェルは笑顔を浮かべたままノルドに歩み寄った。

「ノルド! ノルド!」

 ニコラの声が会場を貫く。

「悪いんだが、聖女様が手を切った。治してくれないか!」

 呆然としていたノルドは、慌ててクリームを差し出そうとした。

「つけていただけないかしら?」ネフェルが微笑む。

「はい」

 ノルドが震える手で傷口をなぞると、傷跡は瞬く間に消え去った。

「ありがとう。元気になったわ。御礼よ」

ネフェルは舞台の中央に立ち、両手を広げた。「祝福」の光が会場中に降り注ぐ。

「聖女様の祝福だ……!」

「こんなに近くで……」

 眩い光に包まれる中、ノルドはようやく背筋を伸ばした。心の中に、小さな自信の芽生えを感じながら。
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