52 / 238
外伝
リコと秘密基地
しおりを挟むリコが目指しているのは、オルヴァ村の外れにある古ぼけた家だ。
外観は古びているが、家の中は手入れが行き届いている。誰も住んでいないこの家は、今はリコが留守を預かっている。
セラ親子の家だ。
ノルドはシシルナ島の中央にあるダンジョンの町に引っ越してしまった。冒険者稼業を優先するためだ。
「リコ、家の管理をお願い! 休みには帰るから」
時間があると、リコはこの家に足を運び、簡単な掃除を済ませると裏の魔物の森へ出かける。
家には落とし穴や罠が仕掛けられていて、簡単には入れない。家の中にも罠があり、ノルドらしい工夫が至るところに見られる。
「ノルドらしいなぁ」と思いながら、リコはひょいひょいと罠を回避し、家の前に到着した。
ノルドから預かった鍵を使って扉を開ける。無理に開けようとすれば、大怪我は避けられないだろう。
「異常なし!」
リコはメイド服を脱ぎ、セラが作ってくれた冒険者の服に着替える。気持ちが引き締まるのを感じた。
次にノルドの薬が詰まったポシェットを探し出し、襷掛けにする。薬はノルドが帰るたびに補充してくれている。
「さっすが、ノルド。今日も頑張って行こう!」
裏庭の小屋に向かい、必要な道具を袋に入れて背負うと、魔物の森へ足を踏み入れる。仕掛けた罠を一つずつ確認していく。
「あちゃー、また逃げられてるよ~」
なかなかノルドのように魔兎をうまく捕まえられない。それでも、いくつかの罠には数匹の魔兎がかかっている。
習った通り、川に行き魔兎を綺麗に捌く。
「へへん。ノシロにお高く買い取ってもらいましょう」
そう言いながら、魔兎をノルド特製の保管箱に入れた。
「さて、次は経験値稼ぎの時間ですな~」
リコは持ち前の素早さを活かし、目につく魔物を次々と倒していく。最初は毒蛇や蝙蝠などに噛まれて失敗ばかりだった。心配性のノルドはリコの為に山ほど薬を準備した。
それがさっきのポシェットだ。セラが作ってくれた服は、動きやすくて頑丈だったが、さらに改良してくれて、両腕にアームガードが追加された。ノルドの心配性は、セラ譲りかも知れない。
「お前さんの動きは、わかってますよ~」
ナイフを手に、敵の死角から静かに近づくと、素早く仕留めた。春になり、魔物も活発に動き出す季節となったので、気を抜く暇もない。
しかし、それがリコにとっては心地よい刺激となっていた。
「あー、疲れた。休憩ターイム」
森の中にある、湖に面した小屋につくと、ひと休憩だ。ノルドの第二作業小屋である。ここも、ノルドから預かった鍵で開ける。
「異常なし!」
リコは安心し、お湯を沸かし、紅茶に蜂蜜を入れてゆっくり飲む。少し落ち着いたところで、「あ、忘れてた……」と蜂蜜を見て思い出した。冒険を切り上げ、ノルドの裏庭にある蜂の巣箱を目指した。
作業小屋で、養蜂用の服装に着替える。
「お世話、お世話と」春になるので、蜂の活動が活発になっている。巣箱を綺麗にしないと、美味しい蜂蜜にならないもんね。
川の対岸に咲き始めた花畑と巣箱を行き交う蜂達の姿を見守りながら、リコは作業を進める。
「よしよし!」あと数日で帰ってくるノルドに、きっと褒められるだろうと心の中で頷く。作業を終えると、日も傾いて夕方になっていた。
鍵をかけて、メイド服に着替え、早足で町に向かう。
※
「ノシロさーん! 魔兎ですよ!」
目的地のノシロの雑貨店に到着すると、赤ちゃんのニコラを抱いたリジェがにこやかに出迎えてくれる。しかし、店内には大きな泣き声が響き渡る。
「おおっと、すみませんね~」リコの声に反応したみたいだ。
リジェは慌ててニコラをあやそうとするが、泣き声はなかなか収まらず、彼女の顔には少し焦りの色が見える。ニコラは元気に泣きながらも、リジェの胸に顔を埋めている。
「ほら、こうやって……」
リコはニコラを軽く抱き上げ、穏やかな声でゆっくり揺らしながら言う。「ん~、大丈夫だよ、泣かないで~」
すると、ニコラはぴたりと泣き止んだ。
「おお、流石ですね、リコ」
リジェは感心した様子で笑いながら、ほっとした表情を浮かべる。
「それにしても、随分と店舗が広くなった! 食べ物以外も色々ある!」
リコは店内を見渡しながら言う。
リジェは微笑んで頷く。「取り扱い品を増やしたのよ。ノシロが『ニコラにちゃんと食べさせないとね』って。でも、従業員も増やしたから……」
リコはその言葉を聞いて、少し考え込む。
『きっと、働き口がない子供を頼まれて雇ったんだろうね。商売下手なノシロらしい』
リジェはその表情を見て、苦笑しながら頷いた。
リコは魔兎を売りつけ、お菓子を買って帰る。
「まいど!」
ノルドの能天気な声を背後に聞きながら、孤児院への道を歩き出す。
夕日がシシルナ島の彼方の海に沈んでいくのを見ながら。
リコの休みの一日は、このように静かに終わりを迎えた。
9
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か
織部
ファンタジー
記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!
ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。
新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。
しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。
ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。
一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。
異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!
小説家になろう様でも連載しております
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる