完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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外伝

島主と怪しげな屋敷

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島主は、オルヴァ村に馬車で乗りつけると、クライド村長の家に向かった。

 家の扉は固く閉ざされており、入り口には数人の村民が鋤を武器のように構えて立っていた。

「何があった?」ガレアは村民に尋ねた。

「へい。ローカン様とクライド様が吸血鬼に吸われて倒れました。いつ吸血鬼になるかもしれません。地下の倉庫に閉じ込めております」

 島主は頭を抱えた。

「俺が見に行く。開けろ!」

「しかし、島主様に何かあれば大変です」

「大丈夫だ。任せておけ!」

 しぶしぶ扉と地下倉庫の鍵を開けさせると、島主は倒れているクライドとローカンの様子を見た。

 顔は青白く、血の気がすっかり引いている。
 
 彼らの首には吸血された跡が残っていたが、他にも腕や足に同じような傷がいくつも見つかった。

「ああ、これは……いかんな、急がねば」

 島主は、彼らを馬車に乗せると、森の上の丘にあるサナトリウムに運ぶことを決めた。

 この島の普通の医師では対応は難しいだろう。そこで、サルサに治療を依頼した。

「受け入れてくれるとよいが。特殊な毒が回っている」

 そのサナトリウムは特殊な場所であり、特別な事情を抱えた患者にしか対応しないのだ。

「ちょうど病院にいる。そういう事情なら、受け入れる。但し、患者二名のみだ。門にて引き渡しを受ける」

 サルサからの返事は、迅速かつ協力的なものだった。

「あれは、吸血蝙蝠の仕業だ。しかも、かなり大きい」

 ガレアは、大陸で冒険者をしていた頃に洞窟で遭遇したことがあった。そのときは、傷口をすぐに洗い、蝙蝠用の毒消し薬を飲んだおかげで事なきを得た。

 しかし、今回のように放置されて毒が全身に回ると、治療は格段に難しくなる。

「この島にも現れたか……いや、昔から潜んでいたんだな」

「それと思い出した。全てを知っているのはきっと、あの人だ」

 島主は、邸宅に帰る途中でヴァレンシア孤児院に立ち寄った。

「あれ! 珍しい。仕事中毒のガレア様が何用ですか?」孤児院長のメグミが出迎えた。

「リコはいるか?」

「いえ、お休みで出かけてますよ。どうかしました?」

「いや、怪我とかしてないかなと」

メグミは思わず吹き出した。

「まるで、ノルドみたい。彼女には心配症の天才薬師がついてますよ」

 ガレアも軽く笑い、少しだけ視線を外して口を開いた。

「ところで、ニコラ母さんには、古くからの友人がいたよな」

「ええ。たくさんいるわ」

「そうじゃない。親友だ?」

「それなら、私よりガレア様の方が知ってるでしょ。親友と呼んでたのは、サルサ様だけよ」

「そうだっけか? サルサ様はこの島に来てからの知り合いじゃ……」

「違うわよ。彼女はこの島の出身のはずよ。母さんとよく昔話をしてたわ」

「でも年齢が?」

「あの人、歳を取らないのよね。ずっと若いわよ。そんなことより、せっかく来たんだから子供たちと遊んであげてね」

「ああ……」

 ガレアは子供たちに魔法を見せたり、本を読み聞かせて寝かしつけてから邸宅に帰った。

 そして、遠い記憶を呼び起こそうとしながら眠りについた。

 翌朝、ガレアは予定をすべてキャンセルし、島庁の記録保管室にこもった。半世紀前の資料を探し始める。

「全く、爺さんときたら……」

 やっとのことで見つけた古びた資料をめくりながら、ガレアは深いため息をついた。そして夕方になり、旧エルヴァ村に向かうことにした。

 オルヴァ村から地図を頼りに、草木の生い茂る道や人の踏み跡を探しながら進む。

 ようやくたどり着いたときには日はすっかり沈んでいた。準備していた暗闇でも視界がきく目薬をさし、周囲を見渡す。

 村にはヴィスコンティ家の邸宅と見られる建物が一軒残っているだけだった。他の建物は跡形もなく消失しているが、石の掘りで区画が残されており、確かに村の存在を証明していた。

 奇妙なことに、その邸宅の周囲だけは雑草がまったく生えていなかった。

「行くしかないな」

 ガレアは意を決し、邸宅の門をくぐった。そして扉を叩く。

「すいません。誰かいませんか?」

 しばらく待ったが反応はなく、ガレアは仕方なく中に入ることにした。

「島主のガレアです。入ります」

 屋敷の中の空気は驚くほど新鮮で、廃屋のような湿った空気ではなかった。

「人が住んでいる……のか?」

 ガレアは室内を慎重に歩き回りながら調べた。幾つかの足跡を見つける。大人の足跡、子供の足跡、そして……それ以外のもの。

 さらに進むと、床に夥しい血痕が残されているのを発見した。緊張感が高まる中、裏庭に面した部屋へと足を踏み入れた瞬間、大きな影が視界を覆った。

「っ!」

気づいたときには、大きな毒蝙蝠が目の前に迫っていた――。
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