54 / 221
外伝
島主と怪しげな屋敷
しおりを挟む
島主は、オルヴァ村に馬車で乗りつけると、クライド村長の家に向かった。
家の扉は固く閉ざされており、入り口には数人の村民が鋤を武器のように構えて立っていた。
「何があった?」ガレアは村民に尋ねた。
「へい。ローカン様とクライド様が吸血鬼に吸われて倒れました。いつ吸血鬼になるかもしれません。地下の倉庫に閉じ込めております」
島主は頭を抱えた。
「俺が見に行く。開けろ!」
「しかし、島主様に何かあれば大変です」
「大丈夫だ。任せておけ!」
しぶしぶ扉と地下倉庫の鍵を開けさせると、島主は倒れているクライドとローカンの様子を見た。
顔は青白く、血の気がすっかり引いている。
彼らの首には吸血された跡が残っていたが、他にも腕や足に同じような傷がいくつも見つかった。
「ああ、これは……いかんな、急がねば」
島主は、彼らを馬車に乗せると、森の上の丘にあるサナトリウムに運ぶことを決めた。
この島の普通の医師では対応は難しいだろう。そこで、サルサに治療を依頼した。
「受け入れてくれるとよいが。特殊な毒が回っている」
そのサナトリウムは特殊な場所であり、特別な事情を抱えた患者にしか対応しないのだ。
「ちょうど病院にいる。そういう事情なら、受け入れる。但し、患者二名のみだ。門にて引き渡しを受ける」
サルサからの返事は、迅速かつ協力的なものだった。
「あれは、吸血蝙蝠の仕業だ。しかも、かなり大きい」
ガレアは、大陸で冒険者をしていた頃に洞窟で遭遇したことがあった。そのときは、傷口をすぐに洗い、蝙蝠用の毒消し薬を飲んだおかげで事なきを得た。
しかし、今回のように放置されて毒が全身に回ると、治療は格段に難しくなる。
「この島にも現れたか……いや、昔から潜んでいたんだな」
「それと思い出した。全てを知っているのはきっと、あの人だ」
島主は、邸宅に帰る途中でヴァレンシア孤児院に立ち寄った。
「あれ! 珍しい。仕事中毒のガレア様が何用ですか?」孤児院長のメグミが出迎えた。
「リコはいるか?」
「いえ、お休みで出かけてますよ。どうかしました?」
「いや、怪我とかしてないかなと」
メグミは思わず吹き出した。
「まるで、ノルドみたい。彼女には心配症の天才薬師がついてますよ」
ガレアも軽く笑い、少しだけ視線を外して口を開いた。
「ところで、ニコラ母さんには、古くからの友人がいたよな」
「ええ。たくさんいるわ」
「そうじゃない。親友だ?」
「それなら、私よりガレア様の方が知ってるでしょ。親友と呼んでたのは、サルサ様だけよ」
「そうだっけか? サルサ様はこの島に来てからの知り合いじゃ……」
「違うわよ。彼女はこの島の出身のはずよ。母さんとよく昔話をしてたわ」
「でも年齢が?」
「あの人、歳を取らないのよね。ずっと若いわよ。そんなことより、せっかく来たんだから子供たちと遊んであげてね」
「ああ……」
ガレアは子供たちに魔法を見せたり、本を読み聞かせて寝かしつけてから邸宅に帰った。
そして、遠い記憶を呼び起こそうとしながら眠りについた。
翌朝、ガレアは予定をすべてキャンセルし、島庁の記録保管室にこもった。半世紀前の資料を探し始める。
「全く、爺さんときたら……」
やっとのことで見つけた古びた資料をめくりながら、ガレアは深いため息をついた。そして夕方になり、旧エルヴァ村に向かうことにした。
オルヴァ村から地図を頼りに、草木の生い茂る道や人の踏み跡を探しながら進む。
ようやくたどり着いたときには日はすっかり沈んでいた。準備していた暗闇でも視界がきく目薬をさし、周囲を見渡す。
村にはヴィスコンティ家の邸宅と見られる建物が一軒残っているだけだった。他の建物は跡形もなく消失しているが、石の掘りで区画が残されており、確かに村の存在を証明していた。
奇妙なことに、その邸宅の周囲だけは雑草がまったく生えていなかった。
「行くしかないな」
ガレアは意を決し、邸宅の門をくぐった。そして扉を叩く。
「すいません。誰かいませんか?」
しばらく待ったが反応はなく、ガレアは仕方なく中に入ることにした。
「島主のガレアです。入ります」
屋敷の中の空気は驚くほど新鮮で、廃屋のような湿った空気ではなかった。
「人が住んでいる……のか?」
ガレアは室内を慎重に歩き回りながら調べた。幾つかの足跡を見つける。大人の足跡、子供の足跡、そして……それ以外のもの。
さらに進むと、床に夥しい血痕が残されているのを発見した。緊張感が高まる中、裏庭に面した部屋へと足を踏み入れた瞬間、大きな影が視界を覆った。
「っ!」
気づいたときには、大きな毒蝙蝠が目の前に迫っていた――。
家の扉は固く閉ざされており、入り口には数人の村民が鋤を武器のように構えて立っていた。
「何があった?」ガレアは村民に尋ねた。
「へい。ローカン様とクライド様が吸血鬼に吸われて倒れました。いつ吸血鬼になるかもしれません。地下の倉庫に閉じ込めております」
島主は頭を抱えた。
「俺が見に行く。開けろ!」
「しかし、島主様に何かあれば大変です」
「大丈夫だ。任せておけ!」
しぶしぶ扉と地下倉庫の鍵を開けさせると、島主は倒れているクライドとローカンの様子を見た。
顔は青白く、血の気がすっかり引いている。
彼らの首には吸血された跡が残っていたが、他にも腕や足に同じような傷がいくつも見つかった。
「ああ、これは……いかんな、急がねば」
島主は、彼らを馬車に乗せると、森の上の丘にあるサナトリウムに運ぶことを決めた。
この島の普通の医師では対応は難しいだろう。そこで、サルサに治療を依頼した。
「受け入れてくれるとよいが。特殊な毒が回っている」
そのサナトリウムは特殊な場所であり、特別な事情を抱えた患者にしか対応しないのだ。
「ちょうど病院にいる。そういう事情なら、受け入れる。但し、患者二名のみだ。門にて引き渡しを受ける」
サルサからの返事は、迅速かつ協力的なものだった。
「あれは、吸血蝙蝠の仕業だ。しかも、かなり大きい」
ガレアは、大陸で冒険者をしていた頃に洞窟で遭遇したことがあった。そのときは、傷口をすぐに洗い、蝙蝠用の毒消し薬を飲んだおかげで事なきを得た。
しかし、今回のように放置されて毒が全身に回ると、治療は格段に難しくなる。
「この島にも現れたか……いや、昔から潜んでいたんだな」
「それと思い出した。全てを知っているのはきっと、あの人だ」
島主は、邸宅に帰る途中でヴァレンシア孤児院に立ち寄った。
「あれ! 珍しい。仕事中毒のガレア様が何用ですか?」孤児院長のメグミが出迎えた。
「リコはいるか?」
「いえ、お休みで出かけてますよ。どうかしました?」
「いや、怪我とかしてないかなと」
メグミは思わず吹き出した。
「まるで、ノルドみたい。彼女には心配症の天才薬師がついてますよ」
ガレアも軽く笑い、少しだけ視線を外して口を開いた。
「ところで、ニコラ母さんには、古くからの友人がいたよな」
「ええ。たくさんいるわ」
「そうじゃない。親友だ?」
「それなら、私よりガレア様の方が知ってるでしょ。親友と呼んでたのは、サルサ様だけよ」
「そうだっけか? サルサ様はこの島に来てからの知り合いじゃ……」
「違うわよ。彼女はこの島の出身のはずよ。母さんとよく昔話をしてたわ」
「でも年齢が?」
「あの人、歳を取らないのよね。ずっと若いわよ。そんなことより、せっかく来たんだから子供たちと遊んであげてね」
「ああ……」
ガレアは子供たちに魔法を見せたり、本を読み聞かせて寝かしつけてから邸宅に帰った。
そして、遠い記憶を呼び起こそうとしながら眠りについた。
翌朝、ガレアは予定をすべてキャンセルし、島庁の記録保管室にこもった。半世紀前の資料を探し始める。
「全く、爺さんときたら……」
やっとのことで見つけた古びた資料をめくりながら、ガレアは深いため息をついた。そして夕方になり、旧エルヴァ村に向かうことにした。
オルヴァ村から地図を頼りに、草木の生い茂る道や人の踏み跡を探しながら進む。
ようやくたどり着いたときには日はすっかり沈んでいた。準備していた暗闇でも視界がきく目薬をさし、周囲を見渡す。
村にはヴィスコンティ家の邸宅と見られる建物が一軒残っているだけだった。他の建物は跡形もなく消失しているが、石の掘りで区画が残されており、確かに村の存在を証明していた。
奇妙なことに、その邸宅の周囲だけは雑草がまったく生えていなかった。
「行くしかないな」
ガレアは意を決し、邸宅の門をくぐった。そして扉を叩く。
「すいません。誰かいませんか?」
しばらく待ったが反応はなく、ガレアは仕方なく中に入ることにした。
「島主のガレアです。入ります」
屋敷の中の空気は驚くほど新鮮で、廃屋のような湿った空気ではなかった。
「人が住んでいる……のか?」
ガレアは室内を慎重に歩き回りながら調べた。幾つかの足跡を見つける。大人の足跡、子供の足跡、そして……それ以外のもの。
さらに進むと、床に夥しい血痕が残されているのを発見した。緊張感が高まる中、裏庭に面した部屋へと足を踏み入れた瞬間、大きな影が視界を覆った。
「っ!」
気づいたときには、大きな毒蝙蝠が目の前に迫っていた――。
8
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる