完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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外伝

島主と新たな盟約

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「あわわわ!」慌てたガレアは、風魔法で毒魔物の大きなコウモリを振り払った。

 だが、それは塵のように飛び、家の壁にぶつかり、そのまま落ちていった。

「ん、死んでたのか……だから気づかなかったのか。恥ずかしいな」

 一人で来て、誰にも見られていなかったのが幸いだった。

 島主は魔物の死骸を調べる。体には致命的な傷が残っている。

「この爪跡は狼だな。あの足跡も、狼……この島にいる狼は、ヴァル君だけだし」

 ふうっと息を吐き、緊張から解放された。

「また、解決してもらっていたのか」

 裏庭の扉を開けると、そこには洞窟が現れていた。

「ここに魔物の蝙蝠が巣食っていたのか」

 洞窟の入り口には、古くに閉ざされた木の扉があり、その一部は最近行われた大工仕事によって完全に塞がれていた。

「この手際、ノルド君に違いない! 仕事の丁寧さは彼らしいし、家の周りを片付けているのも、やはり彼らしい」

「となると、答え合わせだけか」

 島主は、安心してヴィスコンティ家を後にした。
まあ、どうでも良いことだが、知識欲が彼を駆り立てていた。

 その様子を、屋敷の中から隠れて見ている者がいることには、全く気づかなかった。



 夜中に帰宅した島主は、疲れ果てて邸宅に戻り、翌朝寝過ごしてしまっていた。

「ローカン、クラウド両名とも退院出来ました。迎えに来てください。邪魔です」

 サナトリウムから、邸宅に連絡が入った。

「迎えに行きます」

島主は、自ら足を運んだ。

「島主様、ご迷惑をおかけしました!」

 ローカンとクラウドは、すっかり元気を取り戻していた。特にクラウドが元気そうだ。 

「それで、どうだった?」

島主は、蝙蝠に襲われた時の状況を聞いた。

「はい、セラ様と楽しくお話をして過ごしました。心配していただいて、あ、お菓子も作ってもらいました」 

「はぁ」

「ですから、セラ様は元気でしたよ」

 島主は、その能天気さに、思わず顔に出ていたのだろう。ローカンが、引き攣った顔をしている。

「ガレア、なんて顔してるのよ!」

 サナトリウムの医師、サルサが笑いながら言った。
「ははは」

「話があるんでしょ、入りなさい!」 

 報告書を提出するように指示して、ローカンたちを帰すと、島主はサナトリウムに入った。

 芝生が一面に敷き詰められた手入れの行き届いた中庭には、茶会のための椅子と机が準備されていた。

「落ち着く、静かな場所ですね」

「たまたまよ、療養者の方々は、賑やかな方が多いわよ」

 島主が、話しを切り出そうとした時

「お茶と茶菓子はいかがですか?」とメイドが声をかけてきた。

「いや……セラさん……」

 そこに立っていたのは、そのサナトリウムに入院している、ノルドの母親。

 いつもは、黒衣に身を包み、黒いスカーフを被っていた。メイド姿に、白のスカーフだった。

「どうぞ、お召し上がり下さい!」

「頂きます。気がつきませんでした。お体は大丈夫ですか?」

「はい。ご心配をおかけしました」

 セラの手作りだろうクッキーが、机に並べられた。

 数ヶ月前、入院した時は、歩くこともおぼつかなかったのだ。今は、声にもはりが感じらた。

「旨いです。それと失礼ですが、似合っています」

「ありがとうございます。もう、十年前に着て以来だったので」セラは、恥ずかしかったのか、顔を下に向いた。

「ヴァレンシアに対抗して、今年は祝祭で売ろうかな。全く現金なやつだな、ガレアは、ははは」

「それでは、ごゆっくり」セラは、下がって、サルサと二人きりになった。

「まだまだ、セラは体力が無くてな。教えて欲しいこととは何だ?」

 サルサの顔が真剣なものに変わった。

「私、ガレア・シシルナは、シシルナ島主です。もちろん、興味もありますが、島の運営の為に、知っておく必要があります。教えて下さい」

「ははは、立派なことを言うようになったな、ニコラ様が聴いたら喜ぶよ。言える範囲で教えるよ、ガレ」

「あなたは、ヴィスコンティ家の一族なのですね?」

「ああ、私の名は、サルヴァトーレ・ヴィスコンティ。ヴィスコンティ家の当主だ」

 それから、幾つかの質問をした。半世紀前の事件についてだ。

「悪いが、私も生まれたばかりで、伝え聞くことだけだが」

 ヴィスコンティ家は、政争に破れて、この島に逃げてきた。だが、当主は、呑気に夜な夜な饗宴をやっていた。

 噂になることを嫌がった、当時の島主は慌てて禁止した。

 だが、同時に、吸血鬼騒動が起こってしまった。旧エルヴァ村の裏手の洞窟が、吸血蝙蝠の巣があったのだが、誰にも知られていなかったからだ。

 噂が、噂を呼び、大陸にまで広がった。

 ヴィスコンティ家が、シシルナ島に移住したことを聞きつけたルナティス公国の敵対者は、使節を派遣した。

「そこで、返り討ちにしたと?」

「そうね、そして村にも火をつけて証拠も消して、消息不明にした」

 ガレアの探した古い資料にも、使節と事故と記載されていたが、重要なところは黒く塗られていた。

「でも、島に残っていた?」

 このサナトリウムが、その跡地なのだろう。建築様式が同じだ。

「ガレは忘れたのかな。読み聞かせをしてあげたのに。泣いて、ニコラ様のところに……」

「……」

「ヴィスコンティ家の一族は、二十年前にはルナティス公国に戻った。私も一度はね、だけど、この島に戻ってきた」

「あなたは、特別な存在なのですね」

「いや、悠久の時を過ごすのは寂しいものだ」

 サルサにしか見えない風景があるのだろう。

「島に税金もたくさん収めてるし、この場所が有れば、他の国も手を出せないわよ」

「いきなり具体的ですね。もちろん、母さんの親友だ。飽きるまでここに居るといい。正式に、新たな盟約を結んで下さい」



 次の日、島主は、港の釣り場にいた。

 犬人族のリコが軽快に声をかけてきた。

「釣れてる? 島主様」

「いや、久しぶりだからな。そっちは大丈夫か?」

「へ? ノルド達と修行してたんだよ。もっと堤防近くに行った方が釣れるよ! あ、待って、ノルド!」

 リコが、ノルドの後を追って道を走って行く。リコの言葉を受けて、ガレアは場所を少し移動した。

「ん?…来たか?」

 釣り竿が大きくしなる。手応えの強い魚を引き上げると、それは春の朝日にきらめきながら輝いていた。

 ガレアは穏やかな笑みを浮かべながら、魚の美しさを眺めていた。

 シシルナ島の恵みを。
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