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外伝
カノンと彼女の過去
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聖女が祝うという歴史的な祝祭の翌日。
強盗団、暗殺集団の刺青女、カノンは、シシルナ島に亡命を正式に許された。
それは極めて超法規的な処置だった。
島庁舎で、島主ガレアは厳しい表情で告げる。
「前にも言ったが、この島で一つでも法を犯せば、すぐに捕まえるからな!」
「わかってるわよ」
「好きな時に島から出て行ってもいいんだぞ」
「島から出た瞬間、捕まるじゃない。逃げ回る生活なんてまっぴらよ。それに、二度と島には入れないつもりでしょ!」
そう言い返し、カノンは島主の部屋を後にした。
廊下を歩きながら、これまでの人生が頭をよぎる。碌でもない、思い出したくもない過去だ。
いろんな男に騙され、利用され、彼女自身も男たちを騙し、利用してきた。汚れた体だ。
犯罪も犯した。時には人を殺し、仲間も殺された。血塗られた手だ。
「さて、どこに行こうか?」
カノンは荷物一つ持たず、ただ歩き出した。
「待てよ!」
警備総長のローカンが、慌てて後を追ってきた。
「まだ何かあるの?」
「お前なぁ、話の途中だろう」
「そうなの?」
「ああ。お前は監視対象だからな。どこに行くつもりだ?」
ローカンは深く息を吐く。
「別に……」
本当に行く当てなんてない。ただ、不思議なことに、彼女の足は迷いなくある場所へ向かっていた。
※
彼女の目的地、それは、オルヴァ村の村はずれにあるセラ親子の家だった。ローカンも仕方なく跡をついて行く。
「何しに来た?」
家の前に、牙狼の子が現れた。不機嫌な顔を浮かべ、鋭い声をぶつけてくる。
「別に……」
カノンがそっけなく答えたその時、家の中からセラの声が聞こえてきた。
「あら、カノンさん、いらっしゃい」
病み上がりの様子ではあるが、声にはしっかりとした張りがある。セラは戸口に現れると、すぐにノルドに声をかけた。
「ノルド、ヴァルとローカンさんと出かけてらっしゃい」
不満げな顔をしながらも、ノルドはしぶしぶと魔物の森へ向かって出かけて行った。家の中には、カノンとセラだけが残る。
※
静かな空間に包まれた家の中で、セラはキッチンに向かいながら声をかけた。
「飲み物は、これで良いかしら?」
手に持っていたのは蜂蜜酒だった。カノンは軽く頷く。
「はい」
セラはグラスに酒を注ぐと、満足げに微笑んだ。
「じゃあ、私も一杯頂くわ」
「セラ、体に悪いんじゃ?」
カノンが少し心配そうに言うと、セラはおどけたように笑った。
「ノルドが、私のために作ったのよ」
その声には嬉しさがにじんでいた。
カノンは差し出されたグラスを受け取り、口元に運んだ。芳醇な甘さが口の中に広がり、表情がわずかに和らぐ。
「美味しい。あの子狼にはこんな才能もあるのね。ポーションも入っている。天才ね」
「褒めてくれるのね。ノルドは努力家の天才なの」
その後は、沈黙が続く。窓の外からは、鳥のさえずりが微かに聞こえる。セラはふとグラスを置き、カノンの方を見た。
「話したいことあるから来たんでしょ?」
セラが微笑みながら問いかけた。
カノンは一瞬言葉に詰まったが、軽くため息をついてグラスを置いた。
「……まあ、そうね。少し聞きたいことがあって」
セラは静かに頷き、腰を深くかけ直した。
「いいわ、話して!」
「別に大した話じゃないわ」
カノンは一瞬迷ったように視線を窓の外に向けたが、意を決したように口を開いた。
「どうして、あなたは、あの子をそこまでして庇い育てたの?」
その言葉に、セラは少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「私の息子だからよ」
「でも、血が繋がってない」
「ええ、大切な人に託された子。でも、今はそれだけじゃない、私の愛しい子よ」
セラの慈愛に満ちた言葉に、カノンは少し肩の力を抜いた。
再び沈黙が二人を包む中、セラがグラスを軽く傾けた。
「……私にはわからない」とカノンはつぶやきながら、蜂蜜酒を一気に飲んだ。
「ねえ、私の物語を聞いて欲しいの」
「私に、あなたの話を?」
カノンは少し頷きながら、再び口を開いた。
その小さな声は、少しずつ部屋の中に静かに広がり始めた。
※
カノンは、ヴァルターク王国の西方、共和国となる以前の、数多の小国がひしめく中の一つ、山間の小国の貴族の家に生まれ育った。慣例に従い、若くして政略結婚を果たし、子を授かった。
「嫁ぎ先は、バレアルナ諸島だった」
「じゃあ、シシルナ島と同じね」
「シシルナほど大きな島ではないけど、気候はほとんど同じだったわ」
カノンは淡々と答えた。政略結婚ではあったが、夫婦仲は悪くなく、その時期は穏やかで幸せな日々だった。
だが、その平穏も長くは続かなかった。小国同士の争いが激化し、蹂躙が繰り返された。富を持つ国は傭兵を雇い、戦乱はさらに激しさを増した。
やがて、カノンの住む島国も敗北した。傭兵たちは戦利品を求め、当然の権利のように村を、そして人々を荒らしまわった。
あの日、カノンたちは古代の神を祀る小さな教会に逃げ込み、隠れていた。だが、傭兵たちに見つかり、カノンは惨劇を目の当たりにした。
「私は、あなたと違って、息子を守れなかった……」
カノンがうつむきながら言うと、セラは静かに首を振った。
「いいえ、ノルドも片目を失い、片手と片足も不自由になった。私だって守り切れなかったのよ。彼が生き延びたのは、加護と運。それだけのこと」
カノンの嫁ぎ先の一族は、男たちが全員殺され、女たちは商品として売られた。混乱の中で、カノンの息子と彼女は引き裂かれた。
「母さん、助けて!」
カノンの耳に響いた。
強盗団、暗殺集団の刺青女、カノンは、シシルナ島に亡命を正式に許された。
それは極めて超法規的な処置だった。
島庁舎で、島主ガレアは厳しい表情で告げる。
「前にも言ったが、この島で一つでも法を犯せば、すぐに捕まえるからな!」
「わかってるわよ」
「好きな時に島から出て行ってもいいんだぞ」
「島から出た瞬間、捕まるじゃない。逃げ回る生活なんてまっぴらよ。それに、二度と島には入れないつもりでしょ!」
そう言い返し、カノンは島主の部屋を後にした。
廊下を歩きながら、これまでの人生が頭をよぎる。碌でもない、思い出したくもない過去だ。
いろんな男に騙され、利用され、彼女自身も男たちを騙し、利用してきた。汚れた体だ。
犯罪も犯した。時には人を殺し、仲間も殺された。血塗られた手だ。
「さて、どこに行こうか?」
カノンは荷物一つ持たず、ただ歩き出した。
「待てよ!」
警備総長のローカンが、慌てて後を追ってきた。
「まだ何かあるの?」
「お前なぁ、話の途中だろう」
「そうなの?」
「ああ。お前は監視対象だからな。どこに行くつもりだ?」
ローカンは深く息を吐く。
「別に……」
本当に行く当てなんてない。ただ、不思議なことに、彼女の足は迷いなくある場所へ向かっていた。
※
彼女の目的地、それは、オルヴァ村の村はずれにあるセラ親子の家だった。ローカンも仕方なく跡をついて行く。
「何しに来た?」
家の前に、牙狼の子が現れた。不機嫌な顔を浮かべ、鋭い声をぶつけてくる。
「別に……」
カノンがそっけなく答えたその時、家の中からセラの声が聞こえてきた。
「あら、カノンさん、いらっしゃい」
病み上がりの様子ではあるが、声にはしっかりとした張りがある。セラは戸口に現れると、すぐにノルドに声をかけた。
「ノルド、ヴァルとローカンさんと出かけてらっしゃい」
不満げな顔をしながらも、ノルドはしぶしぶと魔物の森へ向かって出かけて行った。家の中には、カノンとセラだけが残る。
※
静かな空間に包まれた家の中で、セラはキッチンに向かいながら声をかけた。
「飲み物は、これで良いかしら?」
手に持っていたのは蜂蜜酒だった。カノンは軽く頷く。
「はい」
セラはグラスに酒を注ぐと、満足げに微笑んだ。
「じゃあ、私も一杯頂くわ」
「セラ、体に悪いんじゃ?」
カノンが少し心配そうに言うと、セラはおどけたように笑った。
「ノルドが、私のために作ったのよ」
その声には嬉しさがにじんでいた。
カノンは差し出されたグラスを受け取り、口元に運んだ。芳醇な甘さが口の中に広がり、表情がわずかに和らぐ。
「美味しい。あの子狼にはこんな才能もあるのね。ポーションも入っている。天才ね」
「褒めてくれるのね。ノルドは努力家の天才なの」
その後は、沈黙が続く。窓の外からは、鳥のさえずりが微かに聞こえる。セラはふとグラスを置き、カノンの方を見た。
「話したいことあるから来たんでしょ?」
セラが微笑みながら問いかけた。
カノンは一瞬言葉に詰まったが、軽くため息をついてグラスを置いた。
「……まあ、そうね。少し聞きたいことがあって」
セラは静かに頷き、腰を深くかけ直した。
「いいわ、話して!」
「別に大した話じゃないわ」
カノンは一瞬迷ったように視線を窓の外に向けたが、意を決したように口を開いた。
「どうして、あなたは、あの子をそこまでして庇い育てたの?」
その言葉に、セラは少し驚いたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「私の息子だからよ」
「でも、血が繋がってない」
「ええ、大切な人に託された子。でも、今はそれだけじゃない、私の愛しい子よ」
セラの慈愛に満ちた言葉に、カノンは少し肩の力を抜いた。
再び沈黙が二人を包む中、セラがグラスを軽く傾けた。
「……私にはわからない」とカノンはつぶやきながら、蜂蜜酒を一気に飲んだ。
「ねえ、私の物語を聞いて欲しいの」
「私に、あなたの話を?」
カノンは少し頷きながら、再び口を開いた。
その小さな声は、少しずつ部屋の中に静かに広がり始めた。
※
カノンは、ヴァルターク王国の西方、共和国となる以前の、数多の小国がひしめく中の一つ、山間の小国の貴族の家に生まれ育った。慣例に従い、若くして政略結婚を果たし、子を授かった。
「嫁ぎ先は、バレアルナ諸島だった」
「じゃあ、シシルナ島と同じね」
「シシルナほど大きな島ではないけど、気候はほとんど同じだったわ」
カノンは淡々と答えた。政略結婚ではあったが、夫婦仲は悪くなく、その時期は穏やかで幸せな日々だった。
だが、その平穏も長くは続かなかった。小国同士の争いが激化し、蹂躙が繰り返された。富を持つ国は傭兵を雇い、戦乱はさらに激しさを増した。
やがて、カノンの住む島国も敗北した。傭兵たちは戦利品を求め、当然の権利のように村を、そして人々を荒らしまわった。
あの日、カノンたちは古代の神を祀る小さな教会に逃げ込み、隠れていた。だが、傭兵たちに見つかり、カノンは惨劇を目の当たりにした。
「私は、あなたと違って、息子を守れなかった……」
カノンがうつむきながら言うと、セラは静かに首を振った。
「いいえ、ノルドも片目を失い、片手と片足も不自由になった。私だって守り切れなかったのよ。彼が生き延びたのは、加護と運。それだけのこと」
カノンの嫁ぎ先の一族は、男たちが全員殺され、女たちは商品として売られた。混乱の中で、カノンの息子と彼女は引き裂かれた。
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カノンの耳に響いた。
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