55 / 238
外伝
島主と新たな盟約
しおりを挟む「あわわわ!」慌てたガレアは、風魔法で毒魔物の大きなコウモリを振り払った。
だが、それは塵のように飛び、家の壁にぶつかり、そのまま落ちていった。
「ん、死んでたのか……だから気づかなかったのか。恥ずかしいな」
一人で来て、誰にも見られていなかったのが幸いだった。
島主は魔物の死骸を調べる。体には致命的な傷が残っている。
「この爪跡は狼だな。あの足跡も、狼……この島にいる狼は、ヴァル君だけだし」
ふうっと息を吐き、緊張から解放された。
「また、解決してもらっていたのか」
裏庭の扉を開けると、そこには洞窟が現れていた。
「ここに魔物の蝙蝠が巣食っていたのか」
洞窟の入り口には、古くに閉ざされた木の扉があり、その一部は最近行われた大工仕事によって完全に塞がれていた。
「この手際、ノルド君に違いない! 仕事の丁寧さは彼らしいし、家の周りを片付けているのも、やはり彼らしい」
「となると、答え合わせだけか」
島主は、安心してヴィスコンティ家を後にした。
まあ、どうでも良いことだが、知識欲が彼を駆り立てていた。
その様子を、屋敷の中から隠れて見ている者がいることには、全く気づかなかった。
※
夜中に帰宅した島主は、疲れ果てて邸宅に戻り、翌朝寝過ごしてしまっていた。
「ローカン、クラウド両名とも退院出来ました。迎えに来てください。邪魔です」
サナトリウムから、邸宅に連絡が入った。
「迎えに行きます」
島主は、自ら足を運んだ。
「島主様、ご迷惑をおかけしました!」
ローカンとクラウドは、すっかり元気を取り戻していた。特にクラウドが元気そうだ。
「それで、どうだった?」
島主は、蝙蝠に襲われた時の状況を聞いた。
「はい、セラ様と楽しくお話をして過ごしました。心配していただいて、あ、お菓子も作ってもらいました」
「はぁ」
「ですから、セラ様は元気でしたよ」
島主は、その能天気さに、思わず顔に出ていたのだろう。ローカンが、引き攣った顔をしている。
「ガレア、なんて顔してるのよ!」
サナトリウムの医師、サルサが笑いながら言った。
「ははは」
「話があるんでしょ、入りなさい!」
報告書を提出するように指示して、ローカンたちを帰すと、島主はサナトリウムに入った。
芝生が一面に敷き詰められた手入れの行き届いた中庭には、茶会のための椅子と机が準備されていた。
「落ち着く、静かな場所ですね」
「たまたまよ、療養者の方々は、賑やかな方が多いわよ」
島主が、話しを切り出そうとした時
「お茶と茶菓子はいかがですか?」とメイドが声をかけてきた。
「いや……セラさん……」
そこに立っていたのは、そのサナトリウムに入院している、ノルドの母親。
いつもは、黒衣に身を包み、黒いスカーフを被っていた。メイド姿に、白のスカーフだった。
「どうぞ、お召し上がり下さい!」
「頂きます。気がつきませんでした。お体は大丈夫ですか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
セラの手作りだろうクッキーが、机に並べられた。
数ヶ月前、入院した時は、歩くこともおぼつかなかったのだ。今は、声にもはりが感じらた。
「旨いです。それと失礼ですが、似合っています」
「ありがとうございます。もう、十年前に着て以来だったので」セラは、恥ずかしかったのか、顔を下に向いた。
「ヴァレンシアに対抗して、今年は祝祭で売ろうかな。全く現金なやつだな、ガレアは、ははは」
「それでは、ごゆっくり」セラは、下がって、サルサと二人きりになった。
「まだまだ、セラは体力が無くてな。教えて欲しいこととは何だ?」
サルサの顔が真剣なものに変わった。
「私、ガレア・シシルナは、シシルナ島主です。もちろん、興味もありますが、島の運営の為に、知っておく必要があります。教えて下さい」
「ははは、立派なことを言うようになったな、ニコラ様が聴いたら喜ぶよ。言える範囲で教えるよ、ガレ」
「あなたは、ヴィスコンティ家の一族なのですね?」
「ああ、私の名は、サルヴァトーレ・ヴィスコンティ。ヴィスコンティ家の当主だ」
それから、幾つかの質問をした。半世紀前の事件についてだ。
「悪いが、私も生まれたばかりで、伝え聞くことだけだが」
ヴィスコンティ家は、政争に破れて、この島に逃げてきた。だが、当主は、呑気に夜な夜な饗宴をやっていた。
噂になることを嫌がった、当時の島主は慌てて禁止した。
だが、同時に、吸血鬼騒動が起こってしまった。旧エルヴァ村の裏手の洞窟が、吸血蝙蝠の巣があったのだが、誰にも知られていなかったからだ。
噂が、噂を呼び、大陸にまで広がった。
ヴィスコンティ家が、シシルナ島に移住したことを聞きつけたルナティス公国の敵対者は、使節を派遣した。
「そこで、返り討ちにしたと?」
「そうね、そして村にも火をつけて証拠も消して、消息不明にした」
ガレアの探した古い資料にも、使節と事故と記載されていたが、重要なところは黒く塗られていた。
「でも、島に残っていた?」
このサナトリウムが、その跡地なのだろう。建築様式が同じだ。
「ガレは忘れたのかな。読み聞かせをしてあげたのに。泣いて、ニコラ様のところに……」
「……」
「ヴィスコンティ家の一族は、二十年前にはルナティス公国に戻った。私も一度はね、だけど、この島に戻ってきた」
「あなたは、特別な存在なのですね」
「いや、悠久の時を過ごすのは寂しいものだ」
サルサにしか見えない風景があるのだろう。
「島に税金もたくさん収めてるし、この場所が有れば、他の国も手を出せないわよ」
「いきなり具体的ですね。もちろん、母さんの親友だ。飽きるまでここに居るといい。正式に、新たな盟約を結んで下さい」
※
次の日、島主は、港の釣り場にいた。
犬人族のリコが軽快に声をかけてきた。
「釣れてる? 島主様」
「いや、久しぶりだからな。そっちは大丈夫か?」
「へ? ノルド達と修行してたんだよ。もっと堤防近くに行った方が釣れるよ! あ、待って、ノルド!」
リコが、ノルドの後を追って道を走って行く。リコの言葉を受けて、ガレアは場所を少し移動した。
「ん?…来たか?」
釣り竿が大きくしなる。手応えの強い魚を引き上げると、それは春の朝日にきらめきながら輝いていた。
ガレアは穏やかな笑みを浮かべながら、魚の美しさを眺めていた。
シシルナ島の恵みを。
9
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる