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外伝
ノルドと競犬新聞
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「すいません、時間ですので、出場犬を連れて飼い主の方は、お集まり下さい!」
競犬場の係員が慌てて、リコのところにやってきた。ノルドが尋ねた。
「飼い主って何をするの?」
「レース前に、薬物検査の立ち会いと、パドックでの紹介にお付き合いをお願いしてます。」
「えー。リコ、お願い! 行ってきて!」
ノルドは人前に立ちたくなくて、リコに頼んだ。
ヴァルは、シシルナ犬と一緒にされたことが何よりもプライドを傷つけたらしく、その場に座り込んだまま、目を細めて不満そうな顔をしていた。
「もう、ノルドったら。仕方ないな。ヴァル、行くよ!」
リコはヴァルを宥めるように頭を撫でた。
着いた検査会場で血を抜かれ、無作法に触れられると、ヴァルは目をつむり、歯をむき出して唸り声をあげる。
「ごめん、ヴァル。こんなことになるなんて思わなかったんだ」リコは苦笑しながら謝る。
「ワオーン!」
ヴァルは怒りを叫び声に変え、身を震わせたが、暴れることはなかった。さすがに、騒ぐのは控えめだった。
※
パドックでの紹介が始まる。すでに多くの観客、賭け客が集まっている。競犬たちが一匹ずつ紹介され、サークルをゆっくり回る。
「一枠、ゼファー、シシルナ犬、十戦九勝、リドリー厩舎、レイラ調教師」……
「大外、十八枠、ヴァル、狼、初参戦。招待枠、ノルド厩舎、リコ調教師」
観客たちは、ヴァルが不機嫌そうにしているのを見て、評価を下げていった。ヴァルは客を観察しているのだが、それが落ち着きのなさに映る。
「大外枠はアリーマ記念じゃ不利なんだよな」
「レース慣れしてないし、気性が荒くちゃかついてるな」
観客たちは競犬たちをじっくり観察し、年末の運試しに大金を賭ける。必要な情報を集めるのも、特に金持ちほど貪欲だ。
「だがな、今までアリーマ記念で狼が負けたことはないって、この新聞に載ってるぞ」
「珍しいな、競犬新聞なんてあるのか!」
「ああ。店でたくさん売ってるぞ。これは、新聞売りの子から買った安物だ」
「手作りっぽいな。木版印刷だな。犬の絵が実物に似てるぞ」
ノルドは、ヴァルの勇姿を目に焼き付けようとパドックに近づいた。そのとき、ふと会話が気になり、男の持っている新聞に目をやる。
え? ヴァルにすごく似てる……俺も記念に一枚買おうかな。俺の絵は……
「すいません、この新聞、どこで手に入れましたか?」
ノルドは購入場所を聞き、そこに向かった。競馬場の門と、ノシロたちがいる特設市場の間。ここには、新聞を売っている店は無い。
——確かに、ここなら誰も文句を言わないな。
「競犬新聞です! 銅貨三枚だよ。記念にどうですか?」
地元の小さな子供たちが、数人で一生懸命売っている。
「一つください」
ノルドが銅貨三枚を手渡す。
「どうぞ! 返品できないからね。それと、内容については……えーと……そう、出版先にお問い合わせして! 私たちは売ってるだけだから」
「もちろん」
もちろん、内容に文句を言うつもりはない。間違いがあったら、それはそれで笑いのネタにするつもりだった。——だが。
手に入れた新聞を開いた瞬間、ノルドは息を呑んだ。
《競犬新聞 アリーマ記念特別版》
◎十八枠 ヴァル
狼の子供。まだ幼い。だが、本物の牙狼だ。大切なことなので、もう一度言う——牙狼だ。
確かに、速度だけならシシルナ犬に勝てない時もある。だが、アリーマ記念は長距離だ。牙狼のヴァルは、最高速度で走り続けてもバテることがない。しかも、仕掛けられた大抵の罠も見破る。
さらに、契約の証が胸に見えた。つまり、人との関係は強い。何をすべきかわかっている。
肌艶も良い。これは、大事にされている証拠だろう。怪我も病気も無いだろう。
過去に牙狼がアリーマ記念で負けた記録がないのは、彼らが賢狼だからだ。
そして、ヴァルもその一匹だろう。
《責任編集者:マルカス》
「……マルカス?」
ノルドは思わず新聞を握りしめた。
もしかして——。
「ねえ、マルカスさんはどこにいる?」
売子たちは顔を見合わせる。
「ついてきなよ。お前、悪い奴じゃなさそうだし会わせるよ!」
その中の、一番大きな少年——カイと呼ばれる子供たちのボスが、ノルドを手招きした。敵意は感じない。同じくらいの年齢だろうか。
案内されたのは、村の外れにある小さな古い小屋だった。中では子供たちが作業している。何をしているのかは、すぐに分かった。インクと紙の匂いがノルドが手にしている新聞と同じものだったからだ。
「あれ? マルカスさんは?」
「いないよ。アクセサリーを売りに行った」
子供たちは忙しそうに印刷作業をしながら答えた。競犬新聞を刷っているのだ。
「いつ帰ってくるの?」
「うーん、そのまま競犬場に行くってさ」
「じゃあ、もうここには戻ってこないのかもな。悪いな、ノルド」
カイに詳しい話を聞いた。
マルカスとは、数日前に初めて会ったらしい。ここはもともと彼らの遊び場だったのだが、マルカスが現れ、話しかけてきたという。「作業を手伝ってくれたら、小遣いをやる」と約束され、それ以来、新聞作りを手伝うようになった。
マルカスはとても器用な人間らしく、あっという間に新聞の原稿を書き上げ、印刷の仕方を教えたらしい。
「マルカスおじさんから伝言があるよ。売上は全部持ってくけど、これからの分は、全て俺たちの小遣いにしていいんだって。あと、道具も材料もくれるって!」
作業していた子が、嬉しそうに言った。
その時、子供の一人がインクをこぼし、慌てて拭き取っている。カイも、気づいて、一緒に綺麗にしている。
「手を洗っておいで」優しく声をかけている。
「それじゃあ、カイ。俺は競犬場に戻るよ。ありがとう」
「ああ、じゃあな、ノルド。……そうだ、俺たち、ヴァルに賭けるよ!」
ノルドは、ヴァルについて話したのだ。つい、自慢したくなって……
「子供は賭けられないよ」
ノルドが真顔で答えると、カイは歯を見せて笑った。
「ははっ、大丈夫だって! やり方はいくらでもある」
「それじゃあ、行くね! カイ、ありがとう」
ノルドは、急いで競犬場に急いだ。
競犬場の係員が慌てて、リコのところにやってきた。ノルドが尋ねた。
「飼い主って何をするの?」
「レース前に、薬物検査の立ち会いと、パドックでの紹介にお付き合いをお願いしてます。」
「えー。リコ、お願い! 行ってきて!」
ノルドは人前に立ちたくなくて、リコに頼んだ。
ヴァルは、シシルナ犬と一緒にされたことが何よりもプライドを傷つけたらしく、その場に座り込んだまま、目を細めて不満そうな顔をしていた。
「もう、ノルドったら。仕方ないな。ヴァル、行くよ!」
リコはヴァルを宥めるように頭を撫でた。
着いた検査会場で血を抜かれ、無作法に触れられると、ヴァルは目をつむり、歯をむき出して唸り声をあげる。
「ごめん、ヴァル。こんなことになるなんて思わなかったんだ」リコは苦笑しながら謝る。
「ワオーン!」
ヴァルは怒りを叫び声に変え、身を震わせたが、暴れることはなかった。さすがに、騒ぐのは控えめだった。
※
パドックでの紹介が始まる。すでに多くの観客、賭け客が集まっている。競犬たちが一匹ずつ紹介され、サークルをゆっくり回る。
「一枠、ゼファー、シシルナ犬、十戦九勝、リドリー厩舎、レイラ調教師」……
「大外、十八枠、ヴァル、狼、初参戦。招待枠、ノルド厩舎、リコ調教師」
観客たちは、ヴァルが不機嫌そうにしているのを見て、評価を下げていった。ヴァルは客を観察しているのだが、それが落ち着きのなさに映る。
「大外枠はアリーマ記念じゃ不利なんだよな」
「レース慣れしてないし、気性が荒くちゃかついてるな」
観客たちは競犬たちをじっくり観察し、年末の運試しに大金を賭ける。必要な情報を集めるのも、特に金持ちほど貪欲だ。
「だがな、今までアリーマ記念で狼が負けたことはないって、この新聞に載ってるぞ」
「珍しいな、競犬新聞なんてあるのか!」
「ああ。店でたくさん売ってるぞ。これは、新聞売りの子から買った安物だ」
「手作りっぽいな。木版印刷だな。犬の絵が実物に似てるぞ」
ノルドは、ヴァルの勇姿を目に焼き付けようとパドックに近づいた。そのとき、ふと会話が気になり、男の持っている新聞に目をやる。
え? ヴァルにすごく似てる……俺も記念に一枚買おうかな。俺の絵は……
「すいません、この新聞、どこで手に入れましたか?」
ノルドは購入場所を聞き、そこに向かった。競馬場の門と、ノシロたちがいる特設市場の間。ここには、新聞を売っている店は無い。
——確かに、ここなら誰も文句を言わないな。
「競犬新聞です! 銅貨三枚だよ。記念にどうですか?」
地元の小さな子供たちが、数人で一生懸命売っている。
「一つください」
ノルドが銅貨三枚を手渡す。
「どうぞ! 返品できないからね。それと、内容については……えーと……そう、出版先にお問い合わせして! 私たちは売ってるだけだから」
「もちろん」
もちろん、内容に文句を言うつもりはない。間違いがあったら、それはそれで笑いのネタにするつもりだった。——だが。
手に入れた新聞を開いた瞬間、ノルドは息を呑んだ。
《競犬新聞 アリーマ記念特別版》
◎十八枠 ヴァル
狼の子供。まだ幼い。だが、本物の牙狼だ。大切なことなので、もう一度言う——牙狼だ。
確かに、速度だけならシシルナ犬に勝てない時もある。だが、アリーマ記念は長距離だ。牙狼のヴァルは、最高速度で走り続けてもバテることがない。しかも、仕掛けられた大抵の罠も見破る。
さらに、契約の証が胸に見えた。つまり、人との関係は強い。何をすべきかわかっている。
肌艶も良い。これは、大事にされている証拠だろう。怪我も病気も無いだろう。
過去に牙狼がアリーマ記念で負けた記録がないのは、彼らが賢狼だからだ。
そして、ヴァルもその一匹だろう。
《責任編集者:マルカス》
「……マルカス?」
ノルドは思わず新聞を握りしめた。
もしかして——。
「ねえ、マルカスさんはどこにいる?」
売子たちは顔を見合わせる。
「ついてきなよ。お前、悪い奴じゃなさそうだし会わせるよ!」
その中の、一番大きな少年——カイと呼ばれる子供たちのボスが、ノルドを手招きした。敵意は感じない。同じくらいの年齢だろうか。
案内されたのは、村の外れにある小さな古い小屋だった。中では子供たちが作業している。何をしているのかは、すぐに分かった。インクと紙の匂いがノルドが手にしている新聞と同じものだったからだ。
「あれ? マルカスさんは?」
「いないよ。アクセサリーを売りに行った」
子供たちは忙しそうに印刷作業をしながら答えた。競犬新聞を刷っているのだ。
「いつ帰ってくるの?」
「うーん、そのまま競犬場に行くってさ」
「じゃあ、もうここには戻ってこないのかもな。悪いな、ノルド」
カイに詳しい話を聞いた。
マルカスとは、数日前に初めて会ったらしい。ここはもともと彼らの遊び場だったのだが、マルカスが現れ、話しかけてきたという。「作業を手伝ってくれたら、小遣いをやる」と約束され、それ以来、新聞作りを手伝うようになった。
マルカスはとても器用な人間らしく、あっという間に新聞の原稿を書き上げ、印刷の仕方を教えたらしい。
「マルカスおじさんから伝言があるよ。売上は全部持ってくけど、これからの分は、全て俺たちの小遣いにしていいんだって。あと、道具も材料もくれるって!」
作業していた子が、嬉しそうに言った。
その時、子供の一人がインクをこぼし、慌てて拭き取っている。カイも、気づいて、一緒に綺麗にしている。
「手を洗っておいで」優しく声をかけている。
「それじゃあ、カイ。俺は競犬場に戻るよ。ありがとう」
「ああ、じゃあな、ノルド。……そうだ、俺たち、ヴァルに賭けるよ!」
ノルドは、ヴァルについて話したのだ。つい、自慢したくなって……
「子供は賭けられないよ」
ノルドが真顔で答えると、カイは歯を見せて笑った。
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ノルドは、急いで競犬場に急いだ。
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