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二部
死闘の決着とピュアンの懇願
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リコはヴァルの背に大人しく乗っていた。ヴァルの意思は揺るがない。ならば、一刻も、一瞬でも早く援軍を連れて戻るしかない。
来た時とは違い、森の中は静寂に包まれていた。まるで恐怖から逃げるように、魔物たちの気配がすっかり消えている。
凄まじい速さで疾走するヴァル。三つ目のエルフツリー――カリスを見つけ、二つ目のエルフツリー――アルテカを目指す。だが、おかしなことに、昼間にはいないはずの精霊の子たちがエルフツリーの周りを回っていた。しかし、今は立ち止まって観察している時間はない。
走る。走る。やがて、目の前にアルテカが姿を現した。ここまで来たら一本道だ。
だが、その時だった。
突然、ヴァルが動きを止めた。
まるで光が弾け飛ぶように、ヴァルを包んでいた輝きが消え失せる。同時に、彼の体に刻まれていた契約紋が、跡形もなく消滅した。
「ワオーン!」
それは悲鳴に近い鳴き声だった。
「どうしたの、ヴァル?」
リコが尋ねても、ヴァルは困惑した表情を浮かべるだけ。繋がりが消え、契約が失われた――一緒に最後を迎えるつもりだったのに。
その時だった。
森が揺れた。地の底から響くような轟音と共に、大地が軋む。
「……何?」
遠くで、木々がなぎ倒される音がする。まるで巨大な何かが暴れ回っているようだった。
「戻りましょう、ヴァル。私たちだけ助かるつもりはないわ。急ぎましょう」
救助を求めて戻るのが正解かもしれない。いや、正解だろう。だが、そんな選択はしたくなかった。
リコとヴァルは来た道をひたすら駆ける。
――その時、森の奥から殺気が迫った。
巨大な魔物、グリムエイプのボスがこちらに向かって逃げてくる。
リコとヴァルは顔を見合わせた。
「何かあったに違いない。一瞬で仕留めて、首を晒してやる!」
ヴァルは鳴き声をこらえ、首を振る。
「私が、絶対に行く手を塞ぐわ」
リコはノルドから預かったアダマンタイトのナイフを見つめ、決意する。これを遺品にはさせない。
リコの数倍もある巨大な体躯。長い腕を持つ大猿が、森の枝を器用に飛び移りながら移動していた。
「やぁ!」
リコは飛び移ろうとしたグリムエイプの腕を狙い、力強くナイフを放つ。
「グサッ!」
鋭い刃が手に突き刺さり、グリムエイプは姿勢を崩して木から落ちた。だが、空中で体勢を立て直し、地面に着地する。そして、ナイフを投げた方向を鋭く睨みつけた。
リコはすっくと姿を現す。
「ギャギャギャー!」
大猿は嘲るような大声を上げ、笑顔で犬人を見た。
――だが、それが奴の終わりだった。
復讐を誓う暗殺者が、大木よりも太いグリムエイプの首を、鋭い爪で切り裂く。
鮮血が飛び散り、獣の絶叫が森に響く。
リコは躊躇なくもう一撃を加え、さらにもう一撃。
刃のような爪が深く食い込み、ついに――
「ゴキンッ!」
頸骨が砕ける音と共に、グリムエイプの首が吹き飛んだ。
「ころり」
大猿の首は、胴体を離れ、地面を転がった。
※
ノルドの声に、ビュアンの小さな体が、わずかに震えた。
「セラとも約束した。ノルドを守るのは、私よ!」
風が渦を巻き、吹き荒れた。だが、ビュアンの力だけでは足りない。
突風はすぐに消え、グリムエイプが再び動き出す。ビュアンは小さな拳を握りしめ、天に向かって叫んだ。
「妖精ビュアンが懇願する! 精霊王よ、我が願い叶えたまえ! さすれば王の元に帰るだろう!」
大地が震えた。轟音とともに、岩窪の地面が波打つ。
ノルドの周囲に、鋭い岩の壁が立ち上がり、グリムエイプとの間を遮断した。
そして──
「ギャアアアアア!」絶叫が響く。
地面から飛び出した岩が、次々と魔猿を貫いていく。
慌てて岩をよじ登る者もいたが、壁から突き出す岩に弾かれ、深い闇へと落ちた。
ノルドを守る岩柵の上に、小さな老人の影が映った。
──誰だ?
これほどの魔法を操る者が、ただの冒険者とは思えない。
いや、人ではない。
「なんだ? 小さき狼、わしか? わしの名はガイア。土の精霊、大地の守護者にして、精霊王に仕えし者だ」
「……どうして、ガイア様が?」
「そこのお嬢ちゃんの懇願だからな。大人しくしておれ」
──今のうちに。
ノルドは急いで二つのポーションを飲んだ。だが、貸し与えた生命力は戻らない。
次の瞬間。轟音とともに、炎の柱が立ち上った。
「ギャアアアッ! ウアアアァッ! アアアアッ!」
魔猿たちの悲鳴が、岩窪全体に響き渡る。
焦げる肉の臭い。弾ける音。炎が、全てを焼き尽くしていた。
「臭いわね」
ビュアンが風を巻き起こし、煙を散らす。
ノルドはゆっくりと立ち上がり、ビュアンに感謝を告げた。
「ありがとう、ビュアン……」
だが──
ビュアンの姿が、どんどん薄くなっていく。
岩柵の向こうでは、巨大なサラマンダーが生き残りのグリムエイプを殺戮していた。
その威容に、ノルドは思わず尻もちをついた。
「あわわわ……」
「大丈夫、ノルド!」
「あ、ああ……」
ノルドは、落ちていたナイフを拾う。
「イグニスは、サラマンダーにして火の精霊よ。怖い顔してるけど、優しいおじさんよ!」
ビュアンの言葉に、ノルドは半信半疑で相手を見た。
「半分はわしの獲物だぞ、イグニス」
「老人、お前が抜け駆けしたんだろう!」
「ふん」ガイアはそっぽを向き、手にした杖を振るった。
惨劇の場から逃げようとした魔猿に、岩の槍が突き刺さる。
さらに、ガイアが土の中の触手を掘り起こすと、イグニスがそれを焼き払った。
──そして、すべてが終わった。
生きているものは、もう、ノルドだけだった。
※
リコ達が岩窪に戻ったとき、目の前に広がっていたのは、戦場の跡が変わり果てた光景だった。荒れ果てた土地には、グリムエイプの姿は一匹も見当たらず、死体さえも消え去っている。
「ノルド! どこ?」リコは呼びかけながら、微かに残る彼の匂いを頼りに目を凝らす。
そして、ようやく岩の柵の中で横たわるノルドの姿をヴァルが発見した。疲れ果てて眠っているようだ。何があったのか—答えを知る余裕は、今はない。
「ヴァル、ノルドの武器を集めて!」リコは指示を出し、ボロボロになったリュックに武器を詰める。
「さあ、帰ろう」リコは眠っているノルドに話しかける。ヴァルが意気揚々と先導する。
リコはグリムエイプの首を強く蹴り飛ばすと、ノルドを担ぎ上げ、その場を後にした。
来た時とは違い、森の中は静寂に包まれていた。まるで恐怖から逃げるように、魔物たちの気配がすっかり消えている。
凄まじい速さで疾走するヴァル。三つ目のエルフツリー――カリスを見つけ、二つ目のエルフツリー――アルテカを目指す。だが、おかしなことに、昼間にはいないはずの精霊の子たちがエルフツリーの周りを回っていた。しかし、今は立ち止まって観察している時間はない。
走る。走る。やがて、目の前にアルテカが姿を現した。ここまで来たら一本道だ。
だが、その時だった。
突然、ヴァルが動きを止めた。
まるで光が弾け飛ぶように、ヴァルを包んでいた輝きが消え失せる。同時に、彼の体に刻まれていた契約紋が、跡形もなく消滅した。
「ワオーン!」
それは悲鳴に近い鳴き声だった。
「どうしたの、ヴァル?」
リコが尋ねても、ヴァルは困惑した表情を浮かべるだけ。繋がりが消え、契約が失われた――一緒に最後を迎えるつもりだったのに。
その時だった。
森が揺れた。地の底から響くような轟音と共に、大地が軋む。
「……何?」
遠くで、木々がなぎ倒される音がする。まるで巨大な何かが暴れ回っているようだった。
「戻りましょう、ヴァル。私たちだけ助かるつもりはないわ。急ぎましょう」
救助を求めて戻るのが正解かもしれない。いや、正解だろう。だが、そんな選択はしたくなかった。
リコとヴァルは来た道をひたすら駆ける。
――その時、森の奥から殺気が迫った。
巨大な魔物、グリムエイプのボスがこちらに向かって逃げてくる。
リコとヴァルは顔を見合わせた。
「何かあったに違いない。一瞬で仕留めて、首を晒してやる!」
ヴァルは鳴き声をこらえ、首を振る。
「私が、絶対に行く手を塞ぐわ」
リコはノルドから預かったアダマンタイトのナイフを見つめ、決意する。これを遺品にはさせない。
リコの数倍もある巨大な体躯。長い腕を持つ大猿が、森の枝を器用に飛び移りながら移動していた。
「やぁ!」
リコは飛び移ろうとしたグリムエイプの腕を狙い、力強くナイフを放つ。
「グサッ!」
鋭い刃が手に突き刺さり、グリムエイプは姿勢を崩して木から落ちた。だが、空中で体勢を立て直し、地面に着地する。そして、ナイフを投げた方向を鋭く睨みつけた。
リコはすっくと姿を現す。
「ギャギャギャー!」
大猿は嘲るような大声を上げ、笑顔で犬人を見た。
――だが、それが奴の終わりだった。
復讐を誓う暗殺者が、大木よりも太いグリムエイプの首を、鋭い爪で切り裂く。
鮮血が飛び散り、獣の絶叫が森に響く。
リコは躊躇なくもう一撃を加え、さらにもう一撃。
刃のような爪が深く食い込み、ついに――
「ゴキンッ!」
頸骨が砕ける音と共に、グリムエイプの首が吹き飛んだ。
「ころり」
大猿の首は、胴体を離れ、地面を転がった。
※
ノルドの声に、ビュアンの小さな体が、わずかに震えた。
「セラとも約束した。ノルドを守るのは、私よ!」
風が渦を巻き、吹き荒れた。だが、ビュアンの力だけでは足りない。
突風はすぐに消え、グリムエイプが再び動き出す。ビュアンは小さな拳を握りしめ、天に向かって叫んだ。
「妖精ビュアンが懇願する! 精霊王よ、我が願い叶えたまえ! さすれば王の元に帰るだろう!」
大地が震えた。轟音とともに、岩窪の地面が波打つ。
ノルドの周囲に、鋭い岩の壁が立ち上がり、グリムエイプとの間を遮断した。
そして──
「ギャアアアアア!」絶叫が響く。
地面から飛び出した岩が、次々と魔猿を貫いていく。
慌てて岩をよじ登る者もいたが、壁から突き出す岩に弾かれ、深い闇へと落ちた。
ノルドを守る岩柵の上に、小さな老人の影が映った。
──誰だ?
これほどの魔法を操る者が、ただの冒険者とは思えない。
いや、人ではない。
「なんだ? 小さき狼、わしか? わしの名はガイア。土の精霊、大地の守護者にして、精霊王に仕えし者だ」
「……どうして、ガイア様が?」
「そこのお嬢ちゃんの懇願だからな。大人しくしておれ」
──今のうちに。
ノルドは急いで二つのポーションを飲んだ。だが、貸し与えた生命力は戻らない。
次の瞬間。轟音とともに、炎の柱が立ち上った。
「ギャアアアッ! ウアアアァッ! アアアアッ!」
魔猿たちの悲鳴が、岩窪全体に響き渡る。
焦げる肉の臭い。弾ける音。炎が、全てを焼き尽くしていた。
「臭いわね」
ビュアンが風を巻き起こし、煙を散らす。
ノルドはゆっくりと立ち上がり、ビュアンに感謝を告げた。
「ありがとう、ビュアン……」
だが──
ビュアンの姿が、どんどん薄くなっていく。
岩柵の向こうでは、巨大なサラマンダーが生き残りのグリムエイプを殺戮していた。
その威容に、ノルドは思わず尻もちをついた。
「あわわわ……」
「大丈夫、ノルド!」
「あ、ああ……」
ノルドは、落ちていたナイフを拾う。
「イグニスは、サラマンダーにして火の精霊よ。怖い顔してるけど、優しいおじさんよ!」
ビュアンの言葉に、ノルドは半信半疑で相手を見た。
「半分はわしの獲物だぞ、イグニス」
「老人、お前が抜け駆けしたんだろう!」
「ふん」ガイアはそっぽを向き、手にした杖を振るった。
惨劇の場から逃げようとした魔猿に、岩の槍が突き刺さる。
さらに、ガイアが土の中の触手を掘り起こすと、イグニスがそれを焼き払った。
──そして、すべてが終わった。
生きているものは、もう、ノルドだけだった。
※
リコ達が岩窪に戻ったとき、目の前に広がっていたのは、戦場の跡が変わり果てた光景だった。荒れ果てた土地には、グリムエイプの姿は一匹も見当たらず、死体さえも消え去っている。
「ノルド! どこ?」リコは呼びかけながら、微かに残る彼の匂いを頼りに目を凝らす。
そして、ようやく岩の柵の中で横たわるノルドの姿をヴァルが発見した。疲れ果てて眠っているようだ。何があったのか—答えを知る余裕は、今はない。
「ヴァル、ノルドの武器を集めて!」リコは指示を出し、ボロボロになったリュックに武器を詰める。
「さあ、帰ろう」リコは眠っているノルドに話しかける。ヴァルが意気揚々と先導する。
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