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二部
カノンの生活
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次の朝、すっかり元気を取り戻したノルドとヴァルは、セラが待っている家へ向けて急ぎ足で駆け出していった。ただし、歩くより少し早い程度だったが。
サナトリウムの警備門では、門番と若い神学生が言い争っていた。
「だから、私はネフェル聖女の随行員の神学生です。この紋章がその証拠です!」
「それはわかりました。確認しましたが、通過の許可はもらっていません。今夜にはお戻りになると言われているので、待っていてください。ネフェル聖女はお怒りのようですよ!」
食い下がる神学生に、門番はうんざりした表情を浮かべていた。
巻き込まれないようにと通り過ぎようとしたその時、声をかけられる。
「あ! ノルドじゃないか?」
「セイ? こんなところでどうして?」
神学生と一緒にいたセイが、ノルドに声をかけてきた。ノルドはすぐに察した。ああ、この神学生がカノンの息子なのか。
「ノルド、カノンさんはサナトリウムにいるのか?」
どう答えるべきか、ノルドは少し悩む。事情はセラたちの話からなんとなく聞いていた。
「いないよ」
「本当か?」
「嘘は言わないよ」ノルドは目を見て答えた。
セイと神学生は顔を見合わせ、がっかりした様子で肩を落とした。
「昨日から探してたけど、もうここしか残ってなかったんだ」
「となると、魔物の森だろうけど、危険だよな」セイが心配そうに尋ねた。
ノルドの家の裏手に広がる魔物の森は、今のノルドたちにとって難しい場所ではない。しかし、どんな森も完全に安全だとは言い切れない。それに、彼らの冒険者としての腕前次第だ。
ノルドが悩みながら口を閉ざしていると、セラが現れた。
「母さん、ごめん。行かなくちゃ」ノルドはその場を去ると、セラの言葉に答えることなく急いで去った。
※
「さて、これからどうする?」
セイがガブリエルに尋ねた。ここまでの三日間、二人はカノンを探し、手がかりを辿ってきた。しかし、結局彼女の姿を見つけることはできなかった。それでも、少しだけ彼女の人となりがわかった。
噂の風俗店にも行ってみた。年齢を理由に追い返されそうになったが、「取材です」とセイが頭を下げると、店の人は渋々ながらも話をしてくれた。
「優しい人ですよ。困ったお客にも対応してくれますし」
「子供の相談にも乗ってくれるんです」
「でも、たまにとても寂しそうな顔をしてるんですよ」
そして、彼女が住んでいるという古びたアパートメント。そこには彼女は居なかったが、どんな場所で暮らしているのか、少しだけ垣間見ることはできた。
「三日もつき合わせちゃって、ごめん」ガブリエルが言うと、セイは首を振った。
「いや、俺のほうこそ。夏祭りで新聞が無ければ、全員で探せたんだが」
セイは微笑みながら言った。
「自由に動けるのは今日が最後だろ。だったら、できるだけ付き合うさ」
シシルナ島は広大で、しかも祭りの時期。島内外から観光客が集まり、港町は賑わっていた。
「ローカン警備総長に聞けば、行き先がわかるかもしれないな。カノンとよく一緒にいたって聞いたし」
探し出して事情を説明すると、ローカンは「島主様には内緒だぞ」と笑いながら、全島の警備員に捜索指令を出してくれた。
「……あいつは、今さら顔を合わせたくないと思ってるんだろうな」ローカンはぽつりと呟いた。「けど、どこにいても、祭りには来るさ。シシルナ島まで来たんだ、せっかくだから美味い飯でも奢らせてくれ」
「ありがとうございます」
ガブリエルは少し口ごもった後、問いかけた。
「母のこと、知ってるんですね?」
「ああ、もちろんだ」ローカンは、ふいに頬を赤らめた。
待つという手もあったが、ただ待っているだけではカノンの姿を見つけられないかもしれない。そう考えたガブリエルは、再び歩き出す決意を固めた。
「やはり、魔物の森に入ろうと思う。セイの友達、ノルドだっけ。彼の答え方が気になる」
「おい、俺たちだけじゃ危険かもな」
「いや、俺一人で行こうと思う。これでも、共和国にいたときはよく魔物の森に入っていたんだ。セイを危険に合わせたくない」
「馬鹿にするなよ。俺もカニナ村では森に入ってたんだ」セイが不満げに言う。
二人はノルドの家の裏に広がる魔物の森に向けて、準備を始めた。
※
夏祭りの初日、空は高く、雲一つない晴天だった。広場には、島内外から集まった商店が店を開く。シシルナ島の人々は、前日までに準備を終えることはなく、お店が整うのは昼前後となった。
朝一番の船が大陸から観光客を運び、次々に船が到着する。警備に駆り出された全島の警備兵たちも、慣れた手つきで働いている。
「今のところ、問題はなさそうだな」島庁舎から島主が、満足げに様子を伺う。
「ローカン、お前、勝手に捜索指示を出したな?」顔を一変させて、厳しい目で警備総長を睨む島主。
「……」ローカンは大汗をかきながら、言葉を濁す。
「見つかったのか? カノンは?」
「いえ、残念ながら。ですが、島からは出ていないはずです」ローカンは首を振った。
「だろうな」島主としては冷たく答え、再び広場の方へ目を向けた。
サナトリウムの警備門では、門番と若い神学生が言い争っていた。
「だから、私はネフェル聖女の随行員の神学生です。この紋章がその証拠です!」
「それはわかりました。確認しましたが、通過の許可はもらっていません。今夜にはお戻りになると言われているので、待っていてください。ネフェル聖女はお怒りのようですよ!」
食い下がる神学生に、門番はうんざりした表情を浮かべていた。
巻き込まれないようにと通り過ぎようとしたその時、声をかけられる。
「あ! ノルドじゃないか?」
「セイ? こんなところでどうして?」
神学生と一緒にいたセイが、ノルドに声をかけてきた。ノルドはすぐに察した。ああ、この神学生がカノンの息子なのか。
「ノルド、カノンさんはサナトリウムにいるのか?」
どう答えるべきか、ノルドは少し悩む。事情はセラたちの話からなんとなく聞いていた。
「いないよ」
「本当か?」
「嘘は言わないよ」ノルドは目を見て答えた。
セイと神学生は顔を見合わせ、がっかりした様子で肩を落とした。
「昨日から探してたけど、もうここしか残ってなかったんだ」
「となると、魔物の森だろうけど、危険だよな」セイが心配そうに尋ねた。
ノルドの家の裏手に広がる魔物の森は、今のノルドたちにとって難しい場所ではない。しかし、どんな森も完全に安全だとは言い切れない。それに、彼らの冒険者としての腕前次第だ。
ノルドが悩みながら口を閉ざしていると、セラが現れた。
「母さん、ごめん。行かなくちゃ」ノルドはその場を去ると、セラの言葉に答えることなく急いで去った。
※
「さて、これからどうする?」
セイがガブリエルに尋ねた。ここまでの三日間、二人はカノンを探し、手がかりを辿ってきた。しかし、結局彼女の姿を見つけることはできなかった。それでも、少しだけ彼女の人となりがわかった。
噂の風俗店にも行ってみた。年齢を理由に追い返されそうになったが、「取材です」とセイが頭を下げると、店の人は渋々ながらも話をしてくれた。
「優しい人ですよ。困ったお客にも対応してくれますし」
「子供の相談にも乗ってくれるんです」
「でも、たまにとても寂しそうな顔をしてるんですよ」
そして、彼女が住んでいるという古びたアパートメント。そこには彼女は居なかったが、どんな場所で暮らしているのか、少しだけ垣間見ることはできた。
「三日もつき合わせちゃって、ごめん」ガブリエルが言うと、セイは首を振った。
「いや、俺のほうこそ。夏祭りで新聞が無ければ、全員で探せたんだが」
セイは微笑みながら言った。
「自由に動けるのは今日が最後だろ。だったら、できるだけ付き合うさ」
シシルナ島は広大で、しかも祭りの時期。島内外から観光客が集まり、港町は賑わっていた。
「ローカン警備総長に聞けば、行き先がわかるかもしれないな。カノンとよく一緒にいたって聞いたし」
探し出して事情を説明すると、ローカンは「島主様には内緒だぞ」と笑いながら、全島の警備員に捜索指令を出してくれた。
「……あいつは、今さら顔を合わせたくないと思ってるんだろうな」ローカンはぽつりと呟いた。「けど、どこにいても、祭りには来るさ。シシルナ島まで来たんだ、せっかくだから美味い飯でも奢らせてくれ」
「ありがとうございます」
ガブリエルは少し口ごもった後、問いかけた。
「母のこと、知ってるんですね?」
「ああ、もちろんだ」ローカンは、ふいに頬を赤らめた。
待つという手もあったが、ただ待っているだけではカノンの姿を見つけられないかもしれない。そう考えたガブリエルは、再び歩き出す決意を固めた。
「やはり、魔物の森に入ろうと思う。セイの友達、ノルドだっけ。彼の答え方が気になる」
「おい、俺たちだけじゃ危険かもな」
「いや、俺一人で行こうと思う。これでも、共和国にいたときはよく魔物の森に入っていたんだ。セイを危険に合わせたくない」
「馬鹿にするなよ。俺もカニナ村では森に入ってたんだ」セイが不満げに言う。
二人はノルドの家の裏に広がる魔物の森に向けて、準備を始めた。
※
夏祭りの初日、空は高く、雲一つない晴天だった。広場には、島内外から集まった商店が店を開く。シシルナ島の人々は、前日までに準備を終えることはなく、お店が整うのは昼前後となった。
朝一番の船が大陸から観光客を運び、次々に船が到着する。警備に駆り出された全島の警備兵たちも、慣れた手つきで働いている。
「今のところ、問題はなさそうだな」島庁舎から島主が、満足げに様子を伺う。
「ローカン、お前、勝手に捜索指示を出したな?」顔を一変させて、厳しい目で警備総長を睨む島主。
「……」ローカンは大汗をかきながら、言葉を濁す。
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