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二部
再契約
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灯火台の周囲に、ふわりと光が揺れた。
生まれたばかりの精霊の子たちが姿を現す。空を舞い、瞬きするたびに違う色へと姿を変える。続いて、少し成長した精霊たちが現れ、舞い踊るように祭壇の周りをゆっくりと回る。
アマリが祭壇に立ち、一人讃美歌を歌い出す。
それは祝祭の度に歌われる、この島に伝わる古き祈り。
柔らかく澄んだ声が、まるで神殿の空間全体に染み渡っていくようだった。
「風の島よ、精霊の島よ 穏やかな海を抱く島よ 今、歌い出すは精霊の歌 光を導く、エリスのしもべ」
「風の島よ、精霊の島よ 命を紡ぐ大地の力 目覚めし王よ、我らを守れ 天へ祈りを、捧げる時」
最初は稚拙にも聞こえるその歌は、繰り返されるたびに真実を帯び、精霊の子らを次々と呼び出していく。
風の精霊が旋回し、火の精霊がぱちぱちと舞い、水の精霊が滴を散らし、土の精霊が地面を震わせる。
子供達のような小さな存在が、数え切れないほど現れる。外周を回る精霊が大きくなるほど、速度も増し、神殿内に渦を巻くような感覚を生み出す。
何度も祭壇に立ち会ったノルドですら、思わず息を呑んだ。やがてアマリの唄がやみ、静寂が訪れる。
彼女は祭壇を下り、厳粛に告げる。
「牙狼族の子ノルドと牙狼ヴァルが、再び盟約を結ぶことを願い出ております」
祭壇の場をネフェル聖女に譲り、アマリは静かに退く。
白き衣をまとう聖女ネフェルの足音が、静かな石床にひとつずつ落ちる。
今までに見たことのない厳しい表情で、彼女は問うた。
「聖女ネフェルが、創造神エリスの代わりに問う。お前達に、その資格はあるのか。盟約を破った者に、再び神の加護が降ると、なぜ信じられる?血の、命の盟約は、神が与えし契り。決して、人の都合で破ってよいものではない」
神の言葉を代弁するその声には、重く、逃れようのない響きがあった。
ノルドとヴァルは向かい合い、視線を交わす。全身の筋肉が凍るような緊張の中で、ノルドは必死に口を開いた。
「……ヴァルとの盟約を破棄したのは、私の間違いでした。ともに生き、ともに死にたい。ヴァルは、私の一部、いえ、私そのものです。二度と、決して二度と、この絆を裏切らないと誓います」
「ワオーン、ワオーン、ワオーン」
「本当にそう思っているのか?」
ネフェルの声が、深く魂に沈んでくる。
「再契約は破棄できない。今度間違えれば、その時は、お前が、ヴァルを、互いを――死に追いやる。それでも、なお誓うのか? それはただの我儘ではないのか?」
精霊のざわめきすら静まる中、ノルドとヴァルは揺れる心を必死に支え合っていた。
すると、ビュアンが飛び出してきた。
「うるさいわね! ノルドはね、優しいから破棄したの!でも反省したの、それが間違いだったって。ちゃんと向き合おうとしてるのよ。ね、ノルド、ヴァル!」
「……はい。それでも私たちは永遠を誓います」ノルドは、しっかりと答えた。
「ワオーン」ヴァルも同意する。
ネフェルの顔に、ようやく静かな笑みが戻る。
「ならば――聖女ネフェルが、この二人の仲介者として誓います。彼らが盟約を違えれば、我が命を以って償いとしましょう」
「え、ネフェルそれは……!」ノルドが驚く。
「もちろん、私も仲介者よ!」ビュアンが威勢よく名乗りを上げた。
精霊の子らが消え、神殿全体に透明な光が満ちる。
天より声が降りるように、妖精王の言葉が響いた。
「我が母にして、創造神であるエリス神の許可は得られた」と一言。
「エリス神よ、今ここに、新たな盟約を願います。血と魂によって結ばれし、人と獣の絆を――永遠の誓いとならしめたまえ」
聖女は神殿の中央に置かれた儀剣を手に取る。ノルドが進み出て、震える手のひらを差し出す。
刃が肌をかすめ、ひとすじの赤が床に滴る。続いて、ヴァルも前足を差し出した。
その瞳には、穏やかさと揺るぎない決意が宿っていた。刃が毛を裂き、流れた血がノルドのものと重なり合う。
瞬間、床に刻まれた紋が淡く輝き出す。
それはこの島に古より伝わる、重く、神聖な盟約の証。神の目の前で交わされる、永遠の契り。
聖女が最後の言葉を告げる。
「いまここに、牙狼族の子ノルドと牙狼ヴァル、互いの命を重ね、絆を結ぶ。この盟約、エリス神の加護によりて、永遠に破れず。誰にも、何にも、砕かれぬように」
ノルドとヴァルはそっと額を寄せ合った。
それが、彼らの契約の証――誰にも壊せぬ、心と魂の誓い。
※
ノルドの元に、失われた生命力が戻ってくる。そして、手の甲には、見慣れた契約紋が現れた。
だが、急激な回復で、ノルドは体調が悪くなり、ヴァルもつられて悪くなった。
「儀式は終わりよ。サナトリウムに運びましょう」ネフェルが終わりを告げた。
アマリが、セラとグラシアスに報告に階段を上がっていく。
「妖精様、ご助力ありがとうございました。貴女は、ノルドの?」
「ふふふ、許嫁よ。覚えておいて」
動じないネフェルが、驚いて儀剣を落とした。ビュアンは笑って消えていった。
セラとグラシアスが、ノルドとヴァルを、ネフェルの従魔のグリフォンに乗せた。
「様子を見るだけです。儀式は上手く行きました。明日の朝、起きたら返します」
「ありがとう! ネフェル。これ、夜食みんなで食べて」セラは安堵の表情を浮かべた。
生まれたばかりの精霊の子たちが姿を現す。空を舞い、瞬きするたびに違う色へと姿を変える。続いて、少し成長した精霊たちが現れ、舞い踊るように祭壇の周りをゆっくりと回る。
アマリが祭壇に立ち、一人讃美歌を歌い出す。
それは祝祭の度に歌われる、この島に伝わる古き祈り。
柔らかく澄んだ声が、まるで神殿の空間全体に染み渡っていくようだった。
「風の島よ、精霊の島よ 穏やかな海を抱く島よ 今、歌い出すは精霊の歌 光を導く、エリスのしもべ」
「風の島よ、精霊の島よ 命を紡ぐ大地の力 目覚めし王よ、我らを守れ 天へ祈りを、捧げる時」
最初は稚拙にも聞こえるその歌は、繰り返されるたびに真実を帯び、精霊の子らを次々と呼び出していく。
風の精霊が旋回し、火の精霊がぱちぱちと舞い、水の精霊が滴を散らし、土の精霊が地面を震わせる。
子供達のような小さな存在が、数え切れないほど現れる。外周を回る精霊が大きくなるほど、速度も増し、神殿内に渦を巻くような感覚を生み出す。
何度も祭壇に立ち会ったノルドですら、思わず息を呑んだ。やがてアマリの唄がやみ、静寂が訪れる。
彼女は祭壇を下り、厳粛に告げる。
「牙狼族の子ノルドと牙狼ヴァルが、再び盟約を結ぶことを願い出ております」
祭壇の場をネフェル聖女に譲り、アマリは静かに退く。
白き衣をまとう聖女ネフェルの足音が、静かな石床にひとつずつ落ちる。
今までに見たことのない厳しい表情で、彼女は問うた。
「聖女ネフェルが、創造神エリスの代わりに問う。お前達に、その資格はあるのか。盟約を破った者に、再び神の加護が降ると、なぜ信じられる?血の、命の盟約は、神が与えし契り。決して、人の都合で破ってよいものではない」
神の言葉を代弁するその声には、重く、逃れようのない響きがあった。
ノルドとヴァルは向かい合い、視線を交わす。全身の筋肉が凍るような緊張の中で、ノルドは必死に口を開いた。
「……ヴァルとの盟約を破棄したのは、私の間違いでした。ともに生き、ともに死にたい。ヴァルは、私の一部、いえ、私そのものです。二度と、決して二度と、この絆を裏切らないと誓います」
「ワオーン、ワオーン、ワオーン」
「本当にそう思っているのか?」
ネフェルの声が、深く魂に沈んでくる。
「再契約は破棄できない。今度間違えれば、その時は、お前が、ヴァルを、互いを――死に追いやる。それでも、なお誓うのか? それはただの我儘ではないのか?」
精霊のざわめきすら静まる中、ノルドとヴァルは揺れる心を必死に支え合っていた。
すると、ビュアンが飛び出してきた。
「うるさいわね! ノルドはね、優しいから破棄したの!でも反省したの、それが間違いだったって。ちゃんと向き合おうとしてるのよ。ね、ノルド、ヴァル!」
「……はい。それでも私たちは永遠を誓います」ノルドは、しっかりと答えた。
「ワオーン」ヴァルも同意する。
ネフェルの顔に、ようやく静かな笑みが戻る。
「ならば――聖女ネフェルが、この二人の仲介者として誓います。彼らが盟約を違えれば、我が命を以って償いとしましょう」
「え、ネフェルそれは……!」ノルドが驚く。
「もちろん、私も仲介者よ!」ビュアンが威勢よく名乗りを上げた。
精霊の子らが消え、神殿全体に透明な光が満ちる。
天より声が降りるように、妖精王の言葉が響いた。
「我が母にして、創造神であるエリス神の許可は得られた」と一言。
「エリス神よ、今ここに、新たな盟約を願います。血と魂によって結ばれし、人と獣の絆を――永遠の誓いとならしめたまえ」
聖女は神殿の中央に置かれた儀剣を手に取る。ノルドが進み出て、震える手のひらを差し出す。
刃が肌をかすめ、ひとすじの赤が床に滴る。続いて、ヴァルも前足を差し出した。
その瞳には、穏やかさと揺るぎない決意が宿っていた。刃が毛を裂き、流れた血がノルドのものと重なり合う。
瞬間、床に刻まれた紋が淡く輝き出す。
それはこの島に古より伝わる、重く、神聖な盟約の証。神の目の前で交わされる、永遠の契り。
聖女が最後の言葉を告げる。
「いまここに、牙狼族の子ノルドと牙狼ヴァル、互いの命を重ね、絆を結ぶ。この盟約、エリス神の加護によりて、永遠に破れず。誰にも、何にも、砕かれぬように」
ノルドとヴァルはそっと額を寄せ合った。
それが、彼らの契約の証――誰にも壊せぬ、心と魂の誓い。
※
ノルドの元に、失われた生命力が戻ってくる。そして、手の甲には、見慣れた契約紋が現れた。
だが、急激な回復で、ノルドは体調が悪くなり、ヴァルもつられて悪くなった。
「儀式は終わりよ。サナトリウムに運びましょう」ネフェルが終わりを告げた。
アマリが、セラとグラシアスに報告に階段を上がっていく。
「妖精様、ご助力ありがとうございました。貴女は、ノルドの?」
「ふふふ、許嫁よ。覚えておいて」
動じないネフェルが、驚いて儀剣を落とした。ビュアンは笑って消えていった。
セラとグラシアスが、ノルドとヴァルを、ネフェルの従魔のグリフォンに乗せた。
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「ありがとう! ネフェル。これ、夜食みんなで食べて」セラは安堵の表情を浮かべた。
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