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二部
ネフェル聖女の使者 アマリ
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ネフェル聖女が来島して二日目。ノルドの家に、使者がやって来た。
小さな使者――アマリだ。
「ここが、ノルドのお家なのね」
「ああ」ノルドは、照れ隠しに頭を掻きながら答えた。
「どうぞ、お入りください!」
セラは優しく微笑んで、アマリを招き入れる。ヴァルが、ついて来いとばかりにリビングへと案内した。
「わぁ、ノルドのお部屋はどこ?」
アマリは好奇心いっぱいに家の中を見渡し、敷布や家具に目を輝かせている。
「あとで案内するよ。まずはリビングへ行こう」
セラは先に入り、パイとケーキを用意してくれていた。ノルドは、自分の家での歓迎に少し照れていた。
昨晩、アマリが訪れるとの連絡を受けていたので、セラは手際よく支度してくれていた。料理はアマリだけでなく、付き人やメイド達にもふるまわれる。
「つまらないものですが、お好きなだけ」
セラは笑顔で言った。
飲み物は、もちろん、ノルド特製の冷えた蜂蜜水だ。
「私達にまで恐縮です」
「美味しいです、セラ様」
「作り方を教えてください!」
アマリは夢中で食べることを楽しみ、最初は遠慮していたメイド達も、最後にはおかわりを求めるほどだった。
お腹が満たされたアマリは、少し背筋を伸ばして表情を引き締める。
「ごほん。アマリと申します。本日は、ネフェル聖女様よりご伝言をお届けするために参りました。本日、夜、森の精霊王の神殿にて、ネフェル聖女が仲介人となり、ノルド様とヴァル様、お二方の絆の盟約を結ぶ儀式を行います」
ノルドは言葉を失い、しばしアマリを見つめた。
「えー」
「ワオーン」
内心では飛び跳ねたいほど嬉しかったが、セラの冷静な表情に気づき、慌てて気を引き締める。瞬時に顔を整え、感謝の言葉を口にした。
「わが請願にお応えいただき、お忙しい中、本当にありがとうございます。アマリ様も、使者としてお越しいただき感謝申し上げます!」
ノルドは深く頭を下げた。
「ふふふ」
「ははは」
アマリの明るい笑顔が、その場の空気をさらに温かくした。ネフェルに願いを届けてくれたのだろう。
まさか、ネフェル聖女がノルド達のためにシシルナ島へ来てくれるとは思っていなかったが、アマリの伝えた言葉は、ノルドにとって何よりも嬉しい知らせだった。
一仕事を終えたアマリは、ノルドの部屋や作業小屋で遊ぶことにした。ノルドが説明し、アマリが楽しそうに聞き入る。そんな、穏やかな時間だった。
そのとき、新たな来訪者がやって来た。グラシアスだった。
※
「グラシアス、来るの遅かったわね?」
セラが出迎える。
「お迎え、嬉しいですね。ネフェル聖女の随行者のアテンドをしたり、夏祭りの準備をしたりしていて」
「そうですか?」セラが、探るような視線を向ける。
「話さないといけないことが、ありそうですね」グラシアスは穏やかに微笑んだ。
「お願いするわ、グラシアス」
彼らの間に、隠し事はない。ガブリエルとカインの件を、まず共有する。
「ところで、ネフェル聖女に契約の仲介人をお願いすると、どれくらいかかるのかしら?」
セラがぽつりと呟いた。
「誰の契約?」
今日、アマリから持ちかけられたノルドとヴァルの再契約の話を、セラは説明する。
「じゃあ、夏祭りがあるからネフェル聖女が来たんじゃないんだな。聖女が来るから、夏祭りが開かれたのか」
「何を今さら言ってるの? シシルナ島に夏祭りなんて、過去に一度もなかったでしょう。きっと、このために来てくれたのよ。だから……申し訳なくて」
「ああ……これは誰にも言えないな。それに、いくらかかるかは見当もつかない。ネフェルに聞いてくれ」
もし聖王国から正式に依頼されたものであれば、天文学的な金額になるだろう。
「そうするわ」
契約を破棄した後、ノルドは明らかに疲れやすくなった。顔色も、声の張りも、ほんの少しずつ沈んでいる。彼は何も言わない。だが、セラにはわかっていた。
だから金額の問題ではない。
彼女が幾らかの代償を請求するなら、一生をかけてでも払う。そう思えるだけの理由が、彼女にはあった。
※
その夜。
「この儀式の進行役なの」
アマリも同行すると言い出した。
主役のノルドとヴァルに加え、セラとグラシアスが護衛役として森に入ることになる。
夜目の効く目薬を、セラにさしてもらいながら、アマリは「梟になった気分」とはしゃいでいた。冷たい液が瞼にしみ、世界が静かに青く染まっていく。もちろん、彼女はグラシアスに背負われている。
「ネフェルは?」
「先に行くって。グリフォンを呼び寄せて、出かけて行ったよ」
やがて、森の霧の向こうに、いつもと違う光を纏った神殿が浮かび上がった。精霊王の神殿。
儀式が終わるまで、セラとグラシアスは神殿の入り口で待つことになっている。
「心配いらないわ。私もついてるから」
セラの耳元に、ビュアンの囁くような声がした。葉擦れの音の中から、ふと聞こえた気もした。
「頼むわ、ビュアン」
「ん?」
グラシアスが、不思議そうに首を傾げる。
ヴァルが先に進み、ノルドとアマリは手を取り合って、階段を一段ずつ踏みしめながら降りていく。
神殿の内は、深い静寂に包まれていた。
そこに、ネフェルがいた。
セラが仕立てた聖女の衣。月光のような布が、ほのかに揺れている。
彼女は神殿の中心に立ち、まるで最初からそこにいたかのような佇まいだった。
「アマリ、進行役よ。立派に務めてね」
「はい、頑張ります」
アマリは肩に力が入っていたが、ネフェルは変わらず、風のように自然体だった。
ノルドは、手にした燭を灯火台へと差し出す。
小さな炎が静かに広がり、神殿の壁に、揺らめく影が生まれた。
小さな使者――アマリだ。
「ここが、ノルドのお家なのね」
「ああ」ノルドは、照れ隠しに頭を掻きながら答えた。
「どうぞ、お入りください!」
セラは優しく微笑んで、アマリを招き入れる。ヴァルが、ついて来いとばかりにリビングへと案内した。
「わぁ、ノルドのお部屋はどこ?」
アマリは好奇心いっぱいに家の中を見渡し、敷布や家具に目を輝かせている。
「あとで案内するよ。まずはリビングへ行こう」
セラは先に入り、パイとケーキを用意してくれていた。ノルドは、自分の家での歓迎に少し照れていた。
昨晩、アマリが訪れるとの連絡を受けていたので、セラは手際よく支度してくれていた。料理はアマリだけでなく、付き人やメイド達にもふるまわれる。
「つまらないものですが、お好きなだけ」
セラは笑顔で言った。
飲み物は、もちろん、ノルド特製の冷えた蜂蜜水だ。
「私達にまで恐縮です」
「美味しいです、セラ様」
「作り方を教えてください!」
アマリは夢中で食べることを楽しみ、最初は遠慮していたメイド達も、最後にはおかわりを求めるほどだった。
お腹が満たされたアマリは、少し背筋を伸ばして表情を引き締める。
「ごほん。アマリと申します。本日は、ネフェル聖女様よりご伝言をお届けするために参りました。本日、夜、森の精霊王の神殿にて、ネフェル聖女が仲介人となり、ノルド様とヴァル様、お二方の絆の盟約を結ぶ儀式を行います」
ノルドは言葉を失い、しばしアマリを見つめた。
「えー」
「ワオーン」
内心では飛び跳ねたいほど嬉しかったが、セラの冷静な表情に気づき、慌てて気を引き締める。瞬時に顔を整え、感謝の言葉を口にした。
「わが請願にお応えいただき、お忙しい中、本当にありがとうございます。アマリ様も、使者としてお越しいただき感謝申し上げます!」
ノルドは深く頭を下げた。
「ふふふ」
「ははは」
アマリの明るい笑顔が、その場の空気をさらに温かくした。ネフェルに願いを届けてくれたのだろう。
まさか、ネフェル聖女がノルド達のためにシシルナ島へ来てくれるとは思っていなかったが、アマリの伝えた言葉は、ノルドにとって何よりも嬉しい知らせだった。
一仕事を終えたアマリは、ノルドの部屋や作業小屋で遊ぶことにした。ノルドが説明し、アマリが楽しそうに聞き入る。そんな、穏やかな時間だった。
そのとき、新たな来訪者がやって来た。グラシアスだった。
※
「グラシアス、来るの遅かったわね?」
セラが出迎える。
「お迎え、嬉しいですね。ネフェル聖女の随行者のアテンドをしたり、夏祭りの準備をしたりしていて」
「そうですか?」セラが、探るような視線を向ける。
「話さないといけないことが、ありそうですね」グラシアスは穏やかに微笑んだ。
「お願いするわ、グラシアス」
彼らの間に、隠し事はない。ガブリエルとカインの件を、まず共有する。
「ところで、ネフェル聖女に契約の仲介人をお願いすると、どれくらいかかるのかしら?」
セラがぽつりと呟いた。
「誰の契約?」
今日、アマリから持ちかけられたノルドとヴァルの再契約の話を、セラは説明する。
「じゃあ、夏祭りがあるからネフェル聖女が来たんじゃないんだな。聖女が来るから、夏祭りが開かれたのか」
「何を今さら言ってるの? シシルナ島に夏祭りなんて、過去に一度もなかったでしょう。きっと、このために来てくれたのよ。だから……申し訳なくて」
「ああ……これは誰にも言えないな。それに、いくらかかるかは見当もつかない。ネフェルに聞いてくれ」
もし聖王国から正式に依頼されたものであれば、天文学的な金額になるだろう。
「そうするわ」
契約を破棄した後、ノルドは明らかに疲れやすくなった。顔色も、声の張りも、ほんの少しずつ沈んでいる。彼は何も言わない。だが、セラにはわかっていた。
だから金額の問題ではない。
彼女が幾らかの代償を請求するなら、一生をかけてでも払う。そう思えるだけの理由が、彼女にはあった。
※
その夜。
「この儀式の進行役なの」
アマリも同行すると言い出した。
主役のノルドとヴァルに加え、セラとグラシアスが護衛役として森に入ることになる。
夜目の効く目薬を、セラにさしてもらいながら、アマリは「梟になった気分」とはしゃいでいた。冷たい液が瞼にしみ、世界が静かに青く染まっていく。もちろん、彼女はグラシアスに背負われている。
「ネフェルは?」
「先に行くって。グリフォンを呼び寄せて、出かけて行ったよ」
やがて、森の霧の向こうに、いつもと違う光を纏った神殿が浮かび上がった。精霊王の神殿。
儀式が終わるまで、セラとグラシアスは神殿の入り口で待つことになっている。
「心配いらないわ。私もついてるから」
セラの耳元に、ビュアンの囁くような声がした。葉擦れの音の中から、ふと聞こえた気もした。
「頼むわ、ビュアン」
「ん?」
グラシアスが、不思議そうに首を傾げる。
ヴァルが先に進み、ノルドとアマリは手を取り合って、階段を一段ずつ踏みしめながら降りていく。
神殿の内は、深い静寂に包まれていた。
そこに、ネフェルがいた。
セラが仕立てた聖女の衣。月光のような布が、ほのかに揺れている。
彼女は神殿の中心に立ち、まるで最初からそこにいたかのような佇まいだった。
「アマリ、進行役よ。立派に務めてね」
「はい、頑張ります」
アマリは肩に力が入っていたが、ネフェルは変わらず、風のように自然体だった。
ノルドは、手にした燭を灯火台へと差し出す。
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