シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
108 / 238
外伝

海賊の島

しおりを挟む
獣王国からの親書が、ガレアのもとに届いたのは、ニコラが亡くなった翌年のことだった。

「そちらに亡命している犯罪者を引き渡せ」
 一方的で高圧的な文面だった。しかも、記された罪状は理解に苦しむものだった。当時まだ赤子だったノルドが、どうやって罪を犯せるというのか。

「くそっ、馬鹿にしやがって……」
 ニコラの死と共に、シシルナ島の国際的な影響力が落ちていることを、まざまざと突きつけられた瞬間だった。

 セラたちが亡命してきた当初、まだガレアが島主代行を務めていた時にも、同様の要請があった。そのとき、彼はニコラに相談した。

「正式に亡命してきた者は、もはやシシルナ島の住民だ。お前はその住民を、敵国に差し出すつもりか?」
「いいえ、ですが……最悪、戦争になりますよ!」
「聖王国に使いを出せ。グラシアスを通じて話をしろ」
「それで解決しますか?」
「――少し、出掛けてくる」
 そう言い残すと、ニコラは姿を消した。

 その日、彼は部下を連れて、漁船の大型整備場――かつて島の海賊たちが黒船を仕立てた場所へ向かった。


 それから間もなく、はるか北方、獣王国の海岸に黒船が姿を現した。その船がどこの国のものかは明かされなかったが、拿捕に向かった獣王国の軍船は、ことごとく沈められた。

「くそっ、たかが民間船数隻じゃないか……」
 そう呟いた国王に、海軍司令官が答える。
「そう“見える”だけです。あれは最新鋭の軍船ですよ」
「ふん。そのうちいなくなるさ。水も食糧も弾薬も、補給できまい」

 黒船は商船に手を出すことはなかったが、それを恐れた商人たちは、獣王国への寄港を次々と取りやめた。その代わりに、獣王国沖の小島と商売を始めたようだ。

「……あの黒船は、ニコラ様の船だ。つまり、“獣王国とは取引するな”ということだ」

 商人たちは悟ったように獣王国との商売を控え、小島に築かれた商会の拠点へと舵を切った。もちろん、黒船もそこに寄港している。
「おい、その小島はうちの領土じゃなかったか?」と国王が問いただすと、財務大臣が皮肉交じりに答えた。

「はい、確かに領土でした。しかし元々は何もない土地でしたので……グラシアス商会に売却いたしました。高く売れたと、陛下もご満悦だったはずです」

「ちっ……仕方ない。あの黒船と商会がぐるなのは、誰の目にも明らかだ。島へ攻め込む!」
 国王が戦闘開始を宣言しかけたとき、海軍司令官が冷静に口を開いた。

「それこそ、彼らの狙いではないでしょうか。勝てれば良いのですが、領民の目の前で負けることになれば――取り返しがつきません。戦の結果は誰の目にも明らかになります」

 国王は黙り込んだ。元より、彼らは陸の民であり、海戦は不得手だった。もし大敗すれば、世論は確実に揺らぐ。そして、最悪の場合、聖王国とシシルナ島との全面戦争だ。

「……今は足元を固める時期です。将来の不安を潰すことも大切ですが、ここはむしろ、シシルナ島に恩を売りましょう」

「恩だと? 脅されているのはこちらなんだぞ!」
 荒々しいが馬鹿ではない国王は、唇を噛んで拳を握りしめた。そして、次の機会を心の奥底に仕舞い込んだ。


 ――そして今、再び、同じ構図が姿を見せ始めていた。
「同じ手が通じるかな」

 ガレアは悩んだが、その反面、楽しみでもあった。準備を始めるとともに、グラシアスに手紙を送った。

 それと、セラ親子の保護を、サルサに頼んだ。
「実はな、セラの体はサナトリウムで集中的に治療が必要な状態なのだ。これを理由に入院させよう。我が保養所ほど、安全な場所は無いからな。精神的にも負担がなくなるだろう」

「ノルドはどうしますか?」
「彼ならいつでも迎え入れるよ。彼ほど優秀な薬師はいないからな。まあ、この件のことははなさんとしても、セラが落ち着くまで理由をつけて預かろう」

 セラをサナトリウムに入院させた後、急いで聖王国へと戻ったグラシアスから連絡があり、獣王国との間で交渉が成立したとの知らせが届いた。

「ネフェル聖女が、急遽、獣王国への訪問し祈りを捧げる。その代わり、獣王国の出した親書は破棄する」

 のちに、グラシアスから聞いた話では、ネフェル聖女から、獣王国の聖教会に激しい働きかけがあったらしい。

 ノルドが、シシルナ島を出ない限り、危害は加えない。との密約が交わされた。


 サナトリウムのセラの病室を、島主が訪ねた。問題が解決したことを伝えに来たのだ。
「ありがとう! ガレア!」
「いえ、でも私は何もしてないですよ」

 少し残念そうに笑う島主に、セラも微笑みを返した。
「いいえ、心配なので行かなくて良かったですよ。実は、簡単な料理を作ったんですよ。食べていって下さい」

「無理をせず、体を大事にしてください」
「いえ、何もしないのも疲れるものですから」
「……それなら、出撃しなくてよかったです」

 二人は目を合わせて、笑った。



 二人が食事をする、サナトリウムの庭から、青々とした海に白い雲が映っていた。風は穏やかで、島全体が静かな午後に包まれていた。



 シシルナ島――過去に多くの敵を迎え撃ったその小さな島は、今日も、静かに、何かを守り続けている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!

あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。 モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。 実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。 あらゆるモンスターへの深い知識。 様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。 自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。 降って湧いた凶悪な依頼の数々。 オースはこれを次々に解決する。 誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。 さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。 やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。

アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部
ファンタジー
 記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!  ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。  新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。    しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。  ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。  一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。  異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!  小説家になろう様でも連載しております  

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

処理中です...