113 / 221
外伝
エルフツリーの治療
しおりを挟む
「さて、ノルド、お願いだ。エルフツリーを治療してほしい。私とマルカスは引き続き、島民の治療を行う」
「見てみないと……」
ノルドは自信なさげに答えた。
「すいません……お願い致します」
キサラギが現れた。顔は青ざめ、手はかすかに震えていた――彼女の背後に、島の異変の深刻さが滲んでいた。
島の魔物の森――そこに足を踏み入れることになった。サルサたちが同行しない理由は、はっきりしているが、他に理由もありそうだ。
森は、まるで死の森のようだった。緑はすべて、黒く染められている。
中にいる魔物ですら、苦しんでいるか、あるいは狂っているようだ。異様な鳴き声が森にこだまする。
リコは思わず耳を塞ぎ、ノルドの腕にしがみついた。
ヴァルとともに、エルフツリーの元へ辿り着いた。
そこに、かつて見た他の森の女王のような気高き姿はなかった。あったのは、真っ黒に染まり、今にも朽ち果てそうな細く弱った木――それが、エルフツリーだった。
木の枝には魔烏の群れが止まり、ギャアギャアと不快な奇声を上げている。バサバサと羽音が響く。
「なんてことだ……!」
ノルドは今にも倒れそうな木を前に、言葉を失った。
「ワオーン! ワオーン!」
ヴァルが威嚇するように吠えるが、魔烏たちは飛び立たない。
すると、妖精ビュアンが怒りの表情で姿を現した。
「馬鹿烏ども、そこを離れなさい!」
「ビュアン、魔物避けを。奴らにぶつけて」
ノルドは薬瓶を取り出し、逆さにして液体を流す。それを、ビュアンが風と水の魔法で魔烏たちに吹きつけた。
魔烏たちは一瞬とどまり、こちらを睨みつけた。しかし、一羽、また一羽と飛び立ち、やがて全てが去っていった。
「どうしようか……手の施しようがない……」
ノルドは困り果て、オロオロとした様子で木を見上げた。
「ノルド、落ち着いて。人族と同じよ。この子はまだ幼い。だから、ちゃんと治療すれば大丈夫よ」
「わかった。リコ、ヴァル、手伝って」
ノルドはそう言って、エルフツリーの周囲の土地を除染するよう命じた。いつも罠掘りをしているヴァルは手慣れた様子で、根を傷つけぬよう周囲の土を取り除いていく。
「ノルド、汚れていない土はどこにあるの?」
「土を深く掘っていけば、奥の方は汚れていない気がする。調べてほしい!」
「へえええ、ヴァルお願い!」
リコが頼むと、ヴァルは顔で「ここを二人で掘ろう」と合図を送った。
幹には、イルが導液嚢を刺した無数の跡が残っていた。ノルドは愕然とする。
「これはひどい……なんて傷のつけ方だ……!」
ノルドは幹をさすりながら、自分の手がわずかに震えていることに気づいた。傷ついた子どもの体に注射を打つような気分だった。ヒールと魔力のポーションを、慎重に、迷いなく選ばなければならない。
「ごめんね。痛いけど我慢して」
その瞬間、エルフツリーの内部から汚れた魔力が渦巻くように噴き出した。ノルドはもろに受けて膝をつく。
まずい。このままでは、魔力が枯れ、木も死んでしまう――。
「嫌だ、怖い、嫌だ、怖い、嫌だ、怖い」
どこからともなく、小さな子供の声が聞こえた。ノルドが周囲を見回すが、誰もいない。
「ノルド、この子の声よ」
ビュアンが静かに教えてくれる。そして木に近寄り、やさしく語りかけた。
「落ち着いて。痛かったわね。怖かったわね。でももう大丈夫よ。私たちが助けてあげる」
「私、死んじゃうの? 殺すの?」
「何を言ってるの? あなたは、私たち精霊の友達。精霊の木じゃない!」
「でも、どの子も顔を見せてくれない……私が変になったから、嫌われて……」
エルフツリーは泣き出してしまった。
「よしよし、大丈夫。だから私たちが来たの。あなたを治すためにね」
ビュアンはにっこりと笑い、語りかける。
「私の名はビュアン。妖精にして、精霊王の子。精霊王が、あなたを癒すために、私をここへ送ったのよ」
「……そうなの? 精霊王様、見たことない。強いの?」
「もちろんよ。私がお話してあげる」
ビュアンがノルドにウインクを送る。それを合図に、ノルドはすかさず作業を進めた。
「あっ」エルフツリーが声を漏らした。
「もう、終わったよ。これで、少しは楽になると思う」
「だって。それでね、精霊王ってね、実は怒りん坊なんだけど……」
ビュアンと幼い精霊木の会話は、楽しげに続いていく。
ノルドが用意したポーション袋から、少しずつ液が点滴のように木に注がれていく。同時に、根からは汚れた魔力が流れ出していた。
「あー。また汚れちゃったぁ」
リコとヴァル、そしてノルドも加わって、敷き詰めた土を入れ替えていく。木が吐き出す魔力を、新しい土が吸い取っていく。
「ビュアン、持ってきたポーションが尽きそうだ。急いで、作成に戻らないと」
「それならその前に、ちょっと私に考えがあるわ」
ビュアンが、木に向かって微笑む。
「見てみないと……」
ノルドは自信なさげに答えた。
「すいません……お願い致します」
キサラギが現れた。顔は青ざめ、手はかすかに震えていた――彼女の背後に、島の異変の深刻さが滲んでいた。
島の魔物の森――そこに足を踏み入れることになった。サルサたちが同行しない理由は、はっきりしているが、他に理由もありそうだ。
森は、まるで死の森のようだった。緑はすべて、黒く染められている。
中にいる魔物ですら、苦しんでいるか、あるいは狂っているようだ。異様な鳴き声が森にこだまする。
リコは思わず耳を塞ぎ、ノルドの腕にしがみついた。
ヴァルとともに、エルフツリーの元へ辿り着いた。
そこに、かつて見た他の森の女王のような気高き姿はなかった。あったのは、真っ黒に染まり、今にも朽ち果てそうな細く弱った木――それが、エルフツリーだった。
木の枝には魔烏の群れが止まり、ギャアギャアと不快な奇声を上げている。バサバサと羽音が響く。
「なんてことだ……!」
ノルドは今にも倒れそうな木を前に、言葉を失った。
「ワオーン! ワオーン!」
ヴァルが威嚇するように吠えるが、魔烏たちは飛び立たない。
すると、妖精ビュアンが怒りの表情で姿を現した。
「馬鹿烏ども、そこを離れなさい!」
「ビュアン、魔物避けを。奴らにぶつけて」
ノルドは薬瓶を取り出し、逆さにして液体を流す。それを、ビュアンが風と水の魔法で魔烏たちに吹きつけた。
魔烏たちは一瞬とどまり、こちらを睨みつけた。しかし、一羽、また一羽と飛び立ち、やがて全てが去っていった。
「どうしようか……手の施しようがない……」
ノルドは困り果て、オロオロとした様子で木を見上げた。
「ノルド、落ち着いて。人族と同じよ。この子はまだ幼い。だから、ちゃんと治療すれば大丈夫よ」
「わかった。リコ、ヴァル、手伝って」
ノルドはそう言って、エルフツリーの周囲の土地を除染するよう命じた。いつも罠掘りをしているヴァルは手慣れた様子で、根を傷つけぬよう周囲の土を取り除いていく。
「ノルド、汚れていない土はどこにあるの?」
「土を深く掘っていけば、奥の方は汚れていない気がする。調べてほしい!」
「へえええ、ヴァルお願い!」
リコが頼むと、ヴァルは顔で「ここを二人で掘ろう」と合図を送った。
幹には、イルが導液嚢を刺した無数の跡が残っていた。ノルドは愕然とする。
「これはひどい……なんて傷のつけ方だ……!」
ノルドは幹をさすりながら、自分の手がわずかに震えていることに気づいた。傷ついた子どもの体に注射を打つような気分だった。ヒールと魔力のポーションを、慎重に、迷いなく選ばなければならない。
「ごめんね。痛いけど我慢して」
その瞬間、エルフツリーの内部から汚れた魔力が渦巻くように噴き出した。ノルドはもろに受けて膝をつく。
まずい。このままでは、魔力が枯れ、木も死んでしまう――。
「嫌だ、怖い、嫌だ、怖い、嫌だ、怖い」
どこからともなく、小さな子供の声が聞こえた。ノルドが周囲を見回すが、誰もいない。
「ノルド、この子の声よ」
ビュアンが静かに教えてくれる。そして木に近寄り、やさしく語りかけた。
「落ち着いて。痛かったわね。怖かったわね。でももう大丈夫よ。私たちが助けてあげる」
「私、死んじゃうの? 殺すの?」
「何を言ってるの? あなたは、私たち精霊の友達。精霊の木じゃない!」
「でも、どの子も顔を見せてくれない……私が変になったから、嫌われて……」
エルフツリーは泣き出してしまった。
「よしよし、大丈夫。だから私たちが来たの。あなたを治すためにね」
ビュアンはにっこりと笑い、語りかける。
「私の名はビュアン。妖精にして、精霊王の子。精霊王が、あなたを癒すために、私をここへ送ったのよ」
「……そうなの? 精霊王様、見たことない。強いの?」
「もちろんよ。私がお話してあげる」
ビュアンがノルドにウインクを送る。それを合図に、ノルドはすかさず作業を進めた。
「あっ」エルフツリーが声を漏らした。
「もう、終わったよ。これで、少しは楽になると思う」
「だって。それでね、精霊王ってね、実は怒りん坊なんだけど……」
ビュアンと幼い精霊木の会話は、楽しげに続いていく。
ノルドが用意したポーション袋から、少しずつ液が点滴のように木に注がれていく。同時に、根からは汚れた魔力が流れ出していた。
「あー。また汚れちゃったぁ」
リコとヴァル、そしてノルドも加わって、敷き詰めた土を入れ替えていく。木が吐き出す魔力を、新しい土が吸い取っていく。
「ビュアン、持ってきたポーションが尽きそうだ。急いで、作成に戻らないと」
「それならその前に、ちょっと私に考えがあるわ」
ビュアンが、木に向かって微笑む。
2
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる