19 / 28
19
しおりを挟む
それからリチャードは戦争へと向かった。
私も行きたいと言ったけれど、当然リチャードの部下たちは私が行くことを賛成することはなく、私は軟禁されたように豪華な客間で日々を過ごしていた。
幼馴染と元婚約者の戦い。
多くの人が自国のために戦い、多くの人が命を落とす。
私は小さくてよくわからなかったけれど、父の仕事の関係で他国であるザクセンブルク公国へよく訪れて、リチャードとは仲良くなれた。父の関係で優しくしてくれる大人も何人かいたけれど、小さかった私はまったく興味がなく、同年代のリチャードのことしか覚えていない。私の少女時代の思い出は戦争に行ってしまったリチャードで埋め尽くされている。
私はリチャードに勝って欲しいと思っている。
だって、エドワードのあの侮蔑するような目は赦せないし、私から何もかも奪っていった。
そして私の手にあるこの手紙の内容が真実であれば、敬愛するお父様や、お母様は事故ではなく、エドワードに近しい人が殺したのかもしれない。
けれど、私と親しかった人たちはリチャードの下にはほとんどいないけれど、もしかしたらエドワードの下にはそんな兵士がいるかと思うと、心が押しつぶされる様な思いだった。この手紙の内容が本当であれば、きっと仲良くしていた人たちはエドワードに反旗を翻していた穏健派やその家族の可能性が高く、エドワードになんか手を貸さないだろう。
でも、ほとんど情報が私に入ってこないし、中にはそんな派閥に属さずに国を守るために戦いに向かう友人もいたかもしれない。
(戦争なんて・・・嫌い)
お父様が避けたいと望んだ戦争が始まってしまった。
そして、私には何もできない蚊帳の外。
どっちが勝っても、どっちが負けても私が得るものはほとんどなく、失って悲しい想いをするのは明らかだ。
私が願えるのは、私に良くしてくれた人たちが無事でいること。ただそれだけだった。
そして、自己中心的な考えかもしれないけれど、戦争なんかよりも、私は早く手紙のことをリチャードやザクセンブルク王に聞きたいと思っていた。ただ、元々防衛のためとはいえ、ワーテル王時代から軍事にそれなりの力を入れていたワルタイト王国と、奇襲作戦を私のお父様から事前に知っており、着実な準備ができたであろうザクセンブルク公国の戦いは長期戦が必至だと思っていた。
しかし、戦争は思いがけない形で中断される。
「大変だっ」
兵士が遠くで叫んでいるのが聞こえて、私は近づいてみる。
「どうしたんだ・・・?」
疲れて地面に座り込む兵士に声をかける大臣。
「王が・・・っ、ザクセンブルク国王が、暗殺されたっ!!!」
私も行きたいと言ったけれど、当然リチャードの部下たちは私が行くことを賛成することはなく、私は軟禁されたように豪華な客間で日々を過ごしていた。
幼馴染と元婚約者の戦い。
多くの人が自国のために戦い、多くの人が命を落とす。
私は小さくてよくわからなかったけれど、父の仕事の関係で他国であるザクセンブルク公国へよく訪れて、リチャードとは仲良くなれた。父の関係で優しくしてくれる大人も何人かいたけれど、小さかった私はまったく興味がなく、同年代のリチャードのことしか覚えていない。私の少女時代の思い出は戦争に行ってしまったリチャードで埋め尽くされている。
私はリチャードに勝って欲しいと思っている。
だって、エドワードのあの侮蔑するような目は赦せないし、私から何もかも奪っていった。
そして私の手にあるこの手紙の内容が真実であれば、敬愛するお父様や、お母様は事故ではなく、エドワードに近しい人が殺したのかもしれない。
けれど、私と親しかった人たちはリチャードの下にはほとんどいないけれど、もしかしたらエドワードの下にはそんな兵士がいるかと思うと、心が押しつぶされる様な思いだった。この手紙の内容が本当であれば、きっと仲良くしていた人たちはエドワードに反旗を翻していた穏健派やその家族の可能性が高く、エドワードになんか手を貸さないだろう。
でも、ほとんど情報が私に入ってこないし、中にはそんな派閥に属さずに国を守るために戦いに向かう友人もいたかもしれない。
(戦争なんて・・・嫌い)
お父様が避けたいと望んだ戦争が始まってしまった。
そして、私には何もできない蚊帳の外。
どっちが勝っても、どっちが負けても私が得るものはほとんどなく、失って悲しい想いをするのは明らかだ。
私が願えるのは、私に良くしてくれた人たちが無事でいること。ただそれだけだった。
そして、自己中心的な考えかもしれないけれど、戦争なんかよりも、私は早く手紙のことをリチャードやザクセンブルク王に聞きたいと思っていた。ただ、元々防衛のためとはいえ、ワーテル王時代から軍事にそれなりの力を入れていたワルタイト王国と、奇襲作戦を私のお父様から事前に知っており、着実な準備ができたであろうザクセンブルク公国の戦いは長期戦が必至だと思っていた。
しかし、戦争は思いがけない形で中断される。
「大変だっ」
兵士が遠くで叫んでいるのが聞こえて、私は近づいてみる。
「どうしたんだ・・・?」
疲れて地面に座り込む兵士に声をかける大臣。
「王が・・・っ、ザクセンブルク国王が、暗殺されたっ!!!」
45
あなたにおすすめの小説
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです
柚木ゆず
ファンタジー
優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。
ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。
ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。
没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。
木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。
不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。
当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。
多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。
しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。
その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。
私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。
それは、先祖が密かに残していた遺産である。
驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。
そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。
それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。
彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。
しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。
「今更、掌を返しても遅い」
それが、私の素直な気持ちだった。
※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)
王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。
冬吹せいら
恋愛
ライロット・メンゼムは、令嬢に難癖をつけられ、王都を追放されることになった。
しかし、ライロットは、自分でも気が付いていなかったが、幸運の女神だった。
追放された先の島に、幸運をもたらし始める。
一方、ライロットを追放した王都には、何やら不穏な空気が漂い始めていた。
姉の代わりになど嫁ぎません!私は殿方との縁がなく地味で可哀相な女ではないのだから─。
coco
恋愛
殿方との縁がなく地味で可哀相な女。
お姉様は私の事をそう言うけど…あの、何か勘違いしてません?
私は、あなたの代わりになど嫁ぎませんので─。
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる