異常姦見聞録

黄金稚魚

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赤子

赤子

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 ディスクの上に赤子が乗っていた。置かれた書類の山を崩し楽しそうに笑っている。
 私は喉元まで上がってきた悲鳴を寸前で飲み込んだ。

 唾棄すべき赤子が私の前に現れた。


 まただ。
 また誰かが死ぬ。

 もう勘弁してくれないだろうか。

 暗い影に覆われて目の前がどんよりと暗がりに包まれる。



「先輩どうしたんですか?」

 オフィスでは皆、忙しなく働いている。自分のディスクの前で呆然と立ちすくむ私を後輩が怪訝そうな目で見た。

 その時だった。

 オフィスの窓を黒い影が横ぎった。数拍遅れて乾いた音が外から聞こえた。
 正面に座る後輩の顔がみるみると青ざめていく。

「先輩……いまの」


 振り返ると窓際に人が集まっていた。誰かが飛び降りたらしい。窓の下を指さす声は悲鳴に変わり、すぐに大きな騒ぎとなった。


 赤子は消えていた。




 飛び降り騒ぎは一時間もすると収まり通常の業務に戻った。
 社会とはそう言うものだ。よく知らない人間が死んだところで、一時的にショックを受けるだけ。
 どうと言う事はないのだ。オフィスの人間は青い顔をしていた後輩も含めて皆、元通りだ。

 私以外は。



 昼休みが終わると部長に呼び出された。心当たりは無かった。わざわざ別室で話という事で覚悟していたが、待っていた部長の顔は穏やかだった。

 重大な話では無いな。そう私が安心していると部長は突拍子もない事を口にした。

「どうだね? そろそろ育児休暇を取ってみては?」

「は?」

 失礼ながらそう聞き返してしまった。

「噂になっているのだよ。今の時代、咎められるような事ではない。むしろ推進すべきだ」

 部長は特に冗談を言っている様子はない。あまり見せない優しげな表情をしている。

「仕事の事は私達に任せて、君は子供のことに専念しなさい」


 私に子供はいない。結婚もしていなければ妊娠もしていない。

「少し考えさせてください」


 一週間後、私は辞表を提出した。
 

 もう会社には居られないと悟った。

 部長は悪くない。ぜんぶあの赤子が悪い。





 事の始まりは一ヶ月ほど前の日曜日。街で買い物をした帰り道の事だ。

 
 大した事では無いが個人的に良い事があり、その頃の私には余裕があった。



「ちょっとねぇちゃん。そや、ねぇちゃん。ちょっときてみぃ」

 街中で奇妙な二人組に呼び止められた。関西人風の男二人だ。片方がベビーカーを押している。

 交差点の真ん中、ちょうど中間地点で信号を待っていた私はその声に反応してしまった。

「私ですか?」

「そやそや。こっちきいや」

 男達に見覚えは無かったが人違いではなさそうだ。

「見てみぃ?」

 男がベビーカーをぐっと押した。私は言われるままにベビーカーを覗き込んだ。

「こうゆうの好きやろねぇちゃん」

「……ッ!?」

 私は息を飲んで驚き、後退りした。男達はにこやかな笑みを浮かべでいる。
 見間違いかと思いもう一度それを見た。

 赤子は緑色をしていた。頬からうねうねと動く触手のようなものが生えている。

 作り物では無い。一瞬で見てはいけないものだと悟った。


「びっくりして声もでないか?」

「どや、さわってみんか?今ならタダやで」

「おっ気に入られたみたいだよ」

「よかったなぁねーちゃん」

 男達はニタニタと笑みを浮かべて言う。

 気味が悪い。私は彼らから離れようとじりじりと後ずさる。

 トラックがすぐ後ろを通過しなければそのまま横断歩道を駆け出していたかもしれない。


 その時だった。

 ずどん。

 大きな音を立てて空から鉄塊が落ちてきた。

 角材だ。見上げると近くのビルの屋上でクレーンが千切れたワイヤーを吊り下げていた。
 ワイヤーが切れたのだ。そして縛っていた角材が私の目の前に落ちた。

 そこには……。


 男達は赤子ごと角材に押しつぶされていた。ひび割れた地面に赤い液体が流れた。

「いやぁぁあああ」



 後にニュースでこの事故の犠牲者が男性二人だけだと知った。
 その日以降、私は緑の赤子に取り憑かれた。

 赤子は私の視界に現れ、その度に人が死んだ。








 張り詰めた都会の空気から解放されのびのびと腕を伸ばした。
 住んでいたマンションを引き払い、私は実家へと戻ってきた。

「よく帰ってきたねえ」

 母さんは私を暖かく迎えてくれた。就職して以来ほとんど実家には帰っていなかった。母には都会での生活が疲れたとだけ言った。


「あぁそうだ……」

 母は大切な事を思い出したのか、私の手を握って言った。

「おめでとう」




 その日の晩、緑の赤子は私の寝室に現れた。
 押し込みの隙間から顔を覗かせてくりくりの黒目で私を見ている。

 赤子が現れる時、誰かが死ぬ。


 新品の箱を開けて包丁を取り出す。

 私は赤子に歩み寄って包丁で頭を突き刺した。確かな手応えがあった。血は出ていないが粉のようなものが傷口から吹き出している。

「………」

 私は何度も何度も包丁で赤子を刺した。



 死体は刻んで池に捨てた。
 池には外来種の雑食魚が住み着いている。きっと食べてくれるはずだ。

 沈んでいく赤子だった肉片を見て私は胸を撫で下ろした。

「良かった。これで大丈夫」

 清々しい気分だった。私は化け物を殺した。

「おおおおおおおおおおお!!」

 獣のような叫び声が深夜の湖に響き渡った。振り返るとフードを被った男が私を見ていた。

 見られた。
 咄嗟にそう思ったがなにやら様子がおかしい。男は荒々しく肩で息をしていて、酩酊しているのか千鳥足だった。


「うぉおおおおおおお!」

 男が遠吠えを上げた。立ちすくむ私目掛けて勢いよくタックルをかまし、私を押し倒した。

 とんでも無い力で男は地面に私を押さえつけた。

「うぅうううあうあうああああ」

 男は泣いていた。四十代ぐらいの壮年の男だ。全表情筋を歪ませ般若のような恐ろしい顔をしていた。


「お前が産めぇえええ」

 
 唾と涙を撒き散らし男が吠える。私の服を乱暴に掴むと力任せに引きちぎった。

「いやぁああああ!」

「ああああああああ!」

 私の悲鳴はお構いなしだ。これだけ騒いでいるのに誰かが気付く気配はない。

 男は私の顔を二回殴りつけた。ひどい痛みだった。鼻がへし折れたかと思った。

「えぐっ……えぇ……」


 私が抵抗出来なくなるとブラジャーを引きちぎり、次はショーツに手をかけた。

 剥ぎ取られた衣服は池に捨てられた。水面からはバシャバシャと魚が跳ねる音が聞こえる。


「償え! 償え!」

 男はベルトを緩め下半身を露出させた。

 そり立った立った男のペニス。血管を浮かせピクピクと動いている。自分がこれから何をされるのかもう分かっていた。

 男は私の膣口にひどい指を突き入れ、無理矢理に広げた。

「あぐぅぅ……」

 膣口に触れる亀頭は熱を持っていて焼きごてを当てられたかと思うほどだった。
 真っ赤に充血した男のペニスがメキメキと音を出てて私の中へ侵入してきた。

「痛い!!!」

 前戯も無し。その上男のペニスはデカすぎる。肉を裂いて私の膣を貫く。接合部からは泡立った体液と赤い血液が吹き出している。


「おろせぇ」

 男が私のお腹を掌で押した。

「おおっ?!」

 子宮だ。子宮を押し込まれている。私の中からじんわりとしたものが溢れ出した。
 
 自分の身体を恨めかしく思った。男に乱暴されているというのに、痛みや苦しみ以外の感覚が私の中で芽生え始めていた。

「うぐっ……うゔぅ……」


 男は私の足を掴んだ。
 両足を持ち上げられ性器を突き出した体勢を取らされた。

 身体を密着させて男が激しく腰を打ちつけた。血と先走り汁が潤滑剤となって男のピストン運動をスムーズになる。

「があああああああっ!」

 男が私に顔を近づけた。カッと見開かれた男の瞳。その中で緑の触手が蠢いている。

 ぶしゅっ。

 股から勢いよく潮を吹いて身体を電撃のような衝撃が駆け巡った。
 
「いやぁああああああ!!」

 それを見た瞬間、私は叫び出し、そして絶頂した。


「ゔぅうううううう!!」
 

 ペチン!

「あぎゃっ!」

 男が腰を叩きつけペニスを深々と差し込んだ。
 中でペニスが膨らむのが分かった。

 どくん……! どくん……!

「あ、あ、あぁ……」


 男から放たれた静液が私の子宮を泳ぎまわっている。熱い鼓動が胸の中に響き渡る。

 ……ぷつん。


 終わった。
 私の全てが今終わった。


「あはははははは! あはははは!」

 男はペニスを引き抜いて立ち上がると高笑いを上げた。そして俊敏な動作で走り出すと池へと飛び込んだ。

 大きな水音を立てて男は池へ沈んでいった。私は身体を起こすことも出来ず泡の音だけを聞いていた。
 私は何の感情も湧き上がってこなかった。


 サイレンの音が遠くから響いた。誰かが通報していたのだろうパトカーがやってきた。

 降りてきた警官が毛布を手に私を抱き起した。視界の端には救急車も見える。


「おめでとうございます」


 警官は私にそう言った。




 一年後。

 私は再び街に戻る事になった。一度都会に慣れてしまったせいか、田舎の暮らしでは物足りないものがある。

 狭いながらも駅に近いマンションを借りられた。就職先はまだ決まってないが然程問題ではなかった。

 人混みの中をベビーカーを押して歩く。
 歩行者の多いこの道の散歩は私の日課だった。

 交差点をのんびりと歩く青年が目についた。黒縁の眼鏡をかけた真面目そうな彼に私は声をかけた。

「ねぇそこの君。ちょっと見てくれない?」


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