異常姦見聞録

黄金稚魚

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反魂機械

生存者へのインタビュー

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 集団自殺。

 それは、現代社会の闇とも言えるだろう。

 自殺志願者が集まる場がインターネット上には存在する。所謂、自殺系サイトと呼ばれるものだ。
 名前も知らぬ者達が集まり、初対面の内に一斉に自殺する。そんな事件が日本各地で発生し、今尚、社会問題として深く根付いている。


 『topics:集団自殺、発見されない理由』


 暗闇に映る画像。廃屋で首を吊ってぶら下がる女。
 その傍に首を長くして覗く影が写っている。
 大型の犬に似ている。一番近いのはドーベルマンだろうか。
 細長い体だ。だがただの犬では無い。半立ちで佇むその姿は人狼のようにも見えた。そいつは闇に同化する黒色をしていた。


 これは、集団自殺を試みたグループのが撮影した写真だ。


「益田亮作さん。あなたがウェブサイト 『異界調査』の管理人ですね」

 益田は痩せた男だった。頬まで痩けていた。目の周りは薄黒くクマが染み付いていて、大きなギョロ目を際立てている。

 PC画面がプリントされたA4コピー用紙の束を益田の前に差し出す。紙の束はずっしりと重く、分厚い。

「どうしてこれを……」

 私が見せたのは『異界調査』のコピーページだった。

 増田がかっ開いた目で紙の束を凝視する。
 まさかこんな物を用意しているとは思わなかっただろう。益田にとってこれは過去の遺産だった。

 『異界調査』はブログ形式のウェブサイトだ。
 個人で運営され、主に怪談話を掲載していた。その内容はどこかで拾ってきたような話を改変したものが大多数を占めている。
 熱意はあったようで、毎日のように投稿されていたようだ。

 しかし、ウェブサイト『異界調査』はある日を境にインターネット上から突如として姿を消した。
 
 消えた所で、誰にも気付かれないようなサイトだった。訪問者も十人来れば良い方だという。
 しかし、世の中には物好きは居るものだ。

 まだサイトが運営されていた当時、更新される度に丁寧にも画面をコピーして、紙媒体で保管していた者が居た。
 奇しくもその物好きは同僚だった。

 桑村千歳。大のオカルト好きを公言する彼女だが、その癖は昔からのようだ。



「とある筋から入手しました。元のサイトは徹底的に削除されていて復元も不可能だそうです」

「へぇ。まっ、そうでしょうね」

「情報提供者は復元を試みたようですが、徒労に終わったそうです」

 これも桑村の話だ。
 まだ彼女が学生だった頃、サイトが消去された直後と、現在の再調査の過程で二度、復元を試みたそうだが完敗だったそうだ。

「僕が消したわけじゃないですよ。僕にそんな技術はありません」

「自分の意志では無かったのですか?」

「まさか、あれは奴らの……」

 はっと息を飲んで増田は言葉を止めた。

 彼が脛に傷のある人物だという事は事前の調査で分っている。タブーを持つ人間への不用意な詮索は危険だ。事によっては機嫌を損なうだけではすまない。


「言いたい事は言わなくても大丈夫ですよ。私は取り調べにきたのではありません」

 私は口元を緩めて見せた。

「あなたの身に何があったのか、それを私は聞きに来ました」


 ボイスレコーダーを机の上に置く。
 起動中であることを示す赤いランプには威圧感があった。記録されているという事実は特有の緊張感を生み出す。
 取材に対して話す内容を選ぶ事になる。

 言いたい事だけを喋ってもらう。ますは話しやすい内容、復習から始めよう。


「まずは火車のお話を伺いしたい。話して頂けますか?」


 益田は俯いて答えた。


「ぼ、僕が自殺現場に足を運ぶのはを見る為でした。正直に言ってしまえば、虜にされていました。怪談も都市伝説もぜんぶ作り物、偽物だらけの中で火車だけは本物だったんです。人が死ぬ事で現れる本物の妖怪。………火車は人気ひとけの無い場所を選んで現れます。僕は運がよかった。僕が初めて火車を見たとき、僕は本当に死にかけていました。だから火車は僕の目の前に堂々と現れてくれたのです」

 益田は一呼吸置いて続けた。


「集団自殺、ご存知ですよね。あの時、僕の興味は死後の世界にありました。今ある人生はちっぽけで、つまらなくて、死ぬ事で本当の僕が始まるのではないかと本気で考えていました。だからと言いますか、ある会に参加する事になりました」

 ある会とは、自殺サイトを表しているのだろう。益田はあえてその事を掘り下げなかった。

「集まる場所は廃墟でした。山奥の掘建て小屋です。今にも崩れそうなほどボロボロで雨も防げないような有り様でした。その日は大雨で、全員びしょ濡れになりながらそこへ集まりました。僕らの自殺の場です。人数は僕らを入れて五人、男女も年齢もバラバラで共通点なんてありません。小屋には人数分の薬が用意されていました。中身は何か知りませんが自殺薬と説明されていました」

「誰に? 一体その薬は誰が用意したんですか?」

「………主催と呼べばいいのですかね。自殺サイトを使って自殺者を支援する存在が居るんですよ。一昔前にありましたよね、自殺カルトが………。おっと、今のは記事にはしないでくださいよ。警察沙汰はごめんです」

「分かりました」

 私はメモ帳にペンで線を引いてみせた。これはジェスチャーだ。
 
「話を戻させて貰います。とにかく、僕達は廃墟に集まり自殺する事になりました。人気の無いこの場所で死ねば見つかる可能性は少ない。僕は違いましたが、他の人達はそこを気にしていたようです。死ぬ時に周りへ迷惑をかけたくなかったそうです」

「皆で一斉に薬を飲みました。薬の効果はすぐに出ます。バタバタと倒れては眠っていきました。僕は本当に運が良かった。本来この手の薬を飲む時は食事を抜いておくそうなのですが、それを知らなかった僕は最後の晩餐とばかりに焼肉をたらふく食べてから来ました。脂身を食べすぎてしまいましてね。気持ちが悪くて、何も無くても吐きそうでした。そんな僕の胃袋に自殺薬なんて劇物が入ればどうなるか。薬が完全に溶け切る前に、僕は吐いてしまいました」

 はははっと笑う益田。
 話の中でイメージするに、益田の自殺に対する姿勢は楽観的に思えた。集団自殺に集まった人々はやりきれない思いを抱え、死を選んだのだろう。その中で益田が浮いていたであろう事は想像に難しくない。

「とはいえ、自殺薬の一部は僕の体内に吸収されています。それはもう苦しかったですよ。致死量に少し届かない、ギリギリ死なないぐらいだったんでしょうね。僕は正しく死にかけていました。ずっと吐いてましたし、周りはとっとと死んでましたからね。助けを呼ぼうにも、どうしようもない状態でした。致死量を飲めていれば彼らのように安らかに死ねたのに、僕は僕の胃袋を憎みました。その時でした。火車が現れたのです」


 いよいよ火車だ。
 益田は身体を動かして座り直した。

「最初、僕はそれを野良犬だと思いました。似ていましたからね、他に形容できないほどに………ですがその所業を見てすぐにそうでは無いと分かりました。火車は遺体に対し、獰猛で荒々しく接しました。薄れて行く意識の中で幻のように火車は男を食い荒らし、女を犯し尽くしました」

 ニヤリと益田が笑う。

「まずは男です。その爪で、牙で、遺体を引き裂きバラバラに解体しました。あれ以上無残な姿は無いと思えると程、わざと散らかるようにするのです。それが終わると次は女です。男とは違い、女の場合は遺体が犯されました。冒涜的でしょう? 自殺者の中には処女のまま死ぬ事に拘る人がいます。綺麗な身体で死にたかったのでしょう。ですが結局、死んでも待っているのは獣によるレイプ 、死姦なのでした。地獄というのはあの光景のことを言うんでしょうね。本当に凄まじかったですよ。そして、最後には遺体は火車によって持ち帰られるのです」


 この経緯は、サイトのコピーに詳しく書かれていた。
 曰く、益田亮作が火車に取り憑かれた経緯だ。以降、益田は火車を見るためだけに集団自殺へ参加することとなる。

「なぜ、それを火車だと捉えたのですか?」

「それを僕が見たのは、初めての時ではないのですが………伝承通りなんですよ。火車は遺体を持ち帰る時、炎へと姿を変えるんです。遺体と一緒に、一瞬で姿を消します」

「炎へ?」

「見た目は犬みたいですが、あれは間違いなく異界の存在ですよ」


「一つ、気になる事があるのですが。良いですか?」

「えぇ」

「女性の場合、遺体を持ち帰ると仰りましたが、男性の場合も同じように?」

 バラバラになった遺体はどうするのか。
 相手は妖怪だ。特別な力でどうにかしてしまうのだろうか。

「いえ。女性の遺体を咥えて消える姿は見ましたが、男性は散らかしたままでしたね。火車が消えると、炎に燃えてなくなります。女性でも男性と同じような扱いになる時もありましたね」

「女性も?それは火車の好みの問題なのでしょうか?」

「さぁ? 僕には検討もつきません」


 そろそろ、頃合いだろう。

「火車について、貴重な体験談をありがとうございます。おかげで良い記事が書けそうです」


 私はそう言ってボイスレコーダーの電源を切った。
 
 私にとってはここからが本番だった。「火車」の取材は建前に過ぎない。

 ことの発端は桑村から渡されたファイルだ。次の異常姦見聞録に使えるだろうと渡された。中には『異界調査』のほぼ全ページがコピーされていた。

 桑村がわざわざ、古いサイトを掘り起こしたのには理由がある。
 毎日のように更新される『異界調査』だったがその最終日、サイトが消去される直前の投稿だけはコピーを取れていなかった。

 しかし、つい最近偶然にもそのを見つけることができたのだ。
 インターネットというのは不思議なもので、完全に消えたように見えてもその断片はあちこちに散らかっている。

 桑村曰く、彼女のが見つけてきたというそのページは殆どが文字化けし破損した状態だったという。

 辛うじて読める部分から、タイトルが「反魂機械」であると言うことだけは判明した。


 『異界調査』に投稿されたのは殆どネットの与太話だ。だが、桑村の嗅覚はその中に火車という本物を嗅ぎ分けた。それは確かに異常姦に相応しいテーマだった。
 だからこそ桑村は執着を見せたのだろう。『異界調査』の最後の投稿に。
 自分では探し出せなかったからこそ、私にこの案件を振ったのだ。


「ここからは私の
についてお話を聞かせて頂きたい」

「個人的? 雑誌の取材ではないのですか?」

「はい。今からお聞きする内容は記事にする予定はありません」

「へぇ。気になりますね。何を聞きたいんですか?」

「サイト『異界調査』の最後の投稿、反魂機械について……」
 

 益田の顔つきが変わった。

「だめだ」

 短くそう言うと増田は鋭い目つきで私を睨みつけた。どうやら益田のはそこにあったようだ。

 見るからに機嫌が悪くなった益田だが、私は内心ほくそ笑んだ。
 この反応は桑村の嗅覚がまたしても本物を嗅ぎ分けた証拠だった。


「何故、ダメなんでしょうか」

「あんたは何も分かってません。僕のサイトの事は調べたのでしょう? 妙だとは思いませんか?」

「はい。反魂機械と題されたトピックスが投稿された直後、サイトごと消去されています。 これがあなたの意思では無いのなら……」

「よせ、その名を言うな!」

 バン!

 益田がテーブルを叩いた。これには流石の私も驚いた。
 私はこの取材の為に、下準備をしていた。益田が全てを話せるように、私を信頼させたのだ。途中で彼のタブーに触れようとも、最後には話させる為に。

 しかし、拒絶が強い。
 一度、話題を変える必要がありそうだ。


「どうやら、話す必要がありますね。やつらの事を」

 幸いにも益田は自分から話題を変えてくれた。察するに、私に追求を諦めさせるつもりのようだ。 

「奴ら?」

「そうです。自殺サイトを裏で手引きする連中です」

「あなたのウェブサイトは全て拝見させて頂きました。明言こそしていませんが、その存在を仄めかす記述は見られました」

「そうか………そうかですか。気付いてくれたんですね。僕のに」

 益田は感嘆の声を漏らした。
 
 益田の言う奴らとは、自殺カルトの事だ。
 どうも益田はその存在を毛嫌いしているらしく、カルトに纏わる陰謀論を『異界調査』にたびたび投稿していた。それだけでは無く、自らを二重スパイと評し、その秘密を探っていたようだ。


「話ましょう。何、隠していてもいずれ辿り着く事です。なんせ僕の『異界調査』を掘り起こした人だ。時間の問題でしょう。確認ですが、この事は記事にしないで下さいよ」

「勿論です」

「火車と初めて遭遇した話の、その後のことです。僕が長い気絶から覚めた時、周りの死体は全て消えていました。ただ一つ首を吊った男の死体だけがそこにありました。全て僕の夢だったのかとも思いました。僕も死にかけていましたし、なんせ初見でしたから。幻覚だと思っても仕方が無かったでしょう。でも目の前に唯一残った首吊り死体が僕に答えをくれたんです」

「首つり死体?」


「そうです。遺体は火車によって消えた筈なのにです。そして薬による服毒死では無く、首吊り。妙だと思いますよね? 首吊り死体の足元には携帯が落ちていました。僕はそれを拾いあげて中を見ました。そこには驚くべき事が書いてありました」

「それは一体?」

「そこに入っていたのは自殺サイト主催からのメッセージでした。『おめでとうと』だとか『君は選ばれただとか』、彼を称賛する内容の文言と共にこの集団自殺の手筈が打ち明けられいました。どうやらこの集団自殺では必ず一人生き残るようになっているようです。薬の内一つが偽物だったのです。おそらくは只の睡眠剤。私がそうだったように、火車は眠っているだけの人間には手出ししません。首吊り死体はにもそのアタリを掴んだと言うわけです。ですが、せっかくアタリを掴んだ筈なのに、男は自殺してしまいました。何故だか分かりますか?」

「彼が自殺を望んでいたからでしょうか。自殺をしに来たはずなのに、飲まされたのは偽物の薬。タチの悪い冗談に感じたでしょうね」

「成る程。ですがアタリを引いた物はただ悪戯に生かされたわけではありません。からのメッセージには『完全なる安息』とかいう思想についても書かれていました。詳しくは省きますが『完全なる安息』に至るにはより多くの人間に自殺を選択させるとなる必要があるそうです。言ってしまえば次の主催をしろ、そう言う事です。自殺者志願者が新たな自殺志願者を集める。まさに自殺の連鎖です。この時に、私は自殺サイトの裏に居る存在に気付きました。奴らは最小限の干渉で自殺者を増やそうと画作しています」

「なぜ、そんな事を? 何かそのにメリットがあるのですか?」

「さぁ、知りませんよ。もしかしたら火車に遺体を与える為だったり……」

 益田はゴホンと咳払いした。

「とにかく、その日以降、僕は奴らの手先になりました。もちろん完全なる安息に心打たれたわけではありません。火車に会うためです。奴らを利用することで私は何度も集団自殺に参加する事が出来ました。警察は無能です。奴らが関わる事で、自殺者はみな行方不明者として処理されました。奴らは証拠は残さない、その上、権力を持っていました。歯車のように心が弱い人間が自殺していきました。ですが、そのお陰で私は何度も火車と出会い、その勇士を間近で見る事が出来たのです。そしてついに………!」


「火車が遺体を運ぶ先に、辿り着いたという訳ですか」


「………」


 火車とカルト、そして反魂機械には繋がりがあるようだ。
 益田は反魂機械へ関わる事でカルトに目を付けられるのだと警告しているのだ。


「そこに反魂……例の機械があったのですね?」

「まだ分からないのですか」

 益田は大きくため息をついた。

「機械をサイトに載せた二日後。僕の家は燃えていました。家には家族がいましたが皆死んでしまいました」

「なっ……?!」

「奴らの仕業ですよ。反魂機械アレは奴らにとって触れられたく無いもの言わばタブーなんです。次関われば、僕は必ず殺されてしまいます」

 益田は嘘を言っていない。
 事実、彼の実家は全焼している。そして彼自身、そこで死んだ扱いとなっている。

「だから、これ以上お話しすることは出来ません。それが………」

 長く喋ったせいか、益田は疲れていた。
 骸骨のような顔がより一層痩せて見える。

「僕をホームレスの身から救い、職を斡旋してくれたあなたの頼みであってもです」

「………」

 益田の身辺は私が全て調べた。
 公園や駅を転々とする彼を探し出すのには苦労したが、成果を上げる事が出来た。


「僕を助けたのは、この為だったんですね。あなたなら僕を分ってくれると思ったのに……」

「先程も言いましだが、これは私の個人的調査です。火車以外の話が記事になる事はありません。

「何度も言わせないでくださいよ」

「これ以上お話を聞かせて頂けないのなら、せめてーーー」


 そう言った私を益田は信じられない形相でみた。

「あんたは怖いものが過ぎる。………どうなっても知りませんからね」

 このままでは話は平行線だ。それは益田にとって、好ましくない。
 益田は一刻も早くこの件から身を引きたい様子だ。だから私は彼が妥協できるギリギリを攻めた。

 益田亮作。
 彼が話が早い男で助かった。









 現在時刻、深夜二時。

 私はとある廃工場へ足を運んでいた。益田から教えてもらった通りの場所。彼が私に耳打ちした火車が遺体を運ぶ先だ。

 つまり、ここに反魂機械はある。
 益田から話を聞けないのであれば、私自身が、この目で見れば良いのだ。

 建物の中はただ、広いだけの空間だった。錆び付いた角材や用途不明のチューブが山になって放置されている。
 ここに有益な物は何一つないと分かる。いったい何年もの間、放置されていたのだろうか。

 私は懐中電灯の光を頼りに工場内を探索する。広いが物は少なく、調査はスムーズに行われた。

「これは、ベットか?」

 一番奥の壁際まで行くとパイプ造りの粗末なベットを発見した。工場にあるどのガラクタとも同じで真っ茶色に錆び付いている。ベットの足はへこんでいて、傾いていた。

 工場にベットという組み合わせは引っかかるが、特に怪しい点はなかった。
 しかし気になったのはこれぐらいだ。

 大きな機械なんて物はどこにも無かった。あるのは廃材だけで、設備の類は全て引き払われているようだ。

「これは流石に、違うよな」

 私は焼却炉へ懐中電灯の光を向けた。焼却炉は室内用で、煙が通る配管が外へ延びている。炉の中には燃えカスの灰がそのまま放置されていた。
 原始的な造りだ。不思議な力を宿しているようには見えない。


「デマを掴まされたか? いやしかし」

 そもそも私が期待していただけで、益田は反魂機械の事など禄に知らなかったのかもしれない。
 あるいはその存在そのものが嘘だったか。
 益田の調査の為、手間を掛けただけにその可能性は無いと信じたい。


「これは?」

 諦めかけていた時、燃えカスの中に青いケースが落ちている事に気付く。
 小さなケースだ。金属であった為に燃えなかったようだ。

「小物入れ……学生のものか?」


 
 炭に汚れていたが中身は無事のようだった。
 開くと、定期券やらが入っていた。
 
 私はその中から生徒手帳を見つけると、懐中電灯で照らした。
 制服を着た少女の顔写真が貼ってあり、高校名と学年、名前が書かれていた。

「日村明日香か」

 少女の名前だった。

 私は生徒手帳をポケットに入れ、工場を後にした。
 結局、反魂機械を見つけることは出来なかったが、手に入れるべき物を見つけた気がした。

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