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反魂機械
レポート『火車』
しおりを挟むタイトル:火車
カテゴリ:妖怪
火車をご存知だろうか。
その名の通り、火の車を担いだ姿で知られ、葬式や墓場から罪人の亡骸を奪い去るという妖怪だ。
起源は古く室町時代にはもうその名が広まっていたようだ。火車に連れ去られた死体は地獄へ落ちると言われ大変恐れられた。
昔は死体の管理が今よりもずっと甘く、怪異の仕業ではなくとも死体が盗まれるという事が多々あった。
それは恨みだったり、金銭目的だったりと理由は様々だが、日常的に死体は盗まれていた。
中には死体漁りを生業とした者もいたそうだ。
火車の名が広まった裏にはそう言った時代背景があったのだろう。
雷鳴と共に死体を連れ去る妖怪。
はたして火車は本当に存在したのだろうか。
遺体が消えた時、犯人が分からなければどうなるか。
誰かが盗んだでは済まされない。頭では分かっていても納得しない者は大勢いる。
そこで登場するのが妖怪の存在だ。
雷鳴と共に遺体を盗み地獄へ落とす。連れ去られたのはその者が罪人であったからだ。
成る程、筋書きとしては申し分無い。
近年では棺桶の死体が消える事件はほぼないと言えるだろう。
人死にが出ればすぐに葬儀屋が駆けつける。
火車は何処に消えたのか。はたまた、火車は伝承の中だけの存在なのだろうか。
火車の貴重な目撃談である今回の投稿が、一つの答えを示してくれた。
話は少し変わるが、時代が進み、人口が増加すると共に増えてきている数がある。
自殺者の数だ。
悲しい事だが人生に絶望し、自ら命を絶つものは年々多くなる一方だ。
この国で年間に発生する行方不明者の数を知っているだろうか。その内の何割かは自殺者であるとされている。
人知れず自らを殺め、そのまま誰にも発見されなかったと言う訳だ。
この説に私は以前から疑問を抱いていた。それは、今の時代本当に発見され無いと言う事があり得るのかという疑問だ。
時代と共に人々の活動する範囲は大きく広がった。今や森の奥だろうが、海の底であろうが、人の手が入っている。
そう簡単に、人が消えるのだろうか。自分の意思で隠れつづけるならともかく、動くことの出来ない死体は意外にもあっさり見つかってしまう。
しかし、火車が存在しているならば話は別だ。
体験談では、自殺者の遺体の元へ火車が現れたと語られた。現代において火車は人知れず遺体を回収していたのだ。
ではなぜ、火車は自殺者の遺体を持ち去ったのだろうか。
伝承では遺体を連れ去るのは罪人に限定されているがこの「罪」が何を指すのかがキーとなるだろう。
法律か、倫理か、はたまた宗教か。
我が国では大っぴらに言う事は無いが、自殺はそれ自体が大罪と考えられる事がある。
クリスチャンが最たる例だろう。神からの救いを拒んだとして、自殺は重罪として扱われる。曰く地獄へ落ちるのだと。
そう考えれば、火車が自殺者の遺体を連れ去るのに納得がいく。
火車に攫われた者の末路とは。
伝承では地獄に落ちると言われているが体験談の中で語られたその実態はもっと具体的なものだった。
男は食い荒らし、女は陵辱する。死体損壊、死姦とどっちが罪人だと言いたくなるような酷い行いだ。
晒し首がある意味近いのかもしれない。
死体への冒涜的行為はそれを見た者に地獄を連想させる。死肉へ群がる蛆や蠅が地獄の死者と評されるのと同じ事だろう。現世に生きる我々生者が見たその光景の悍ましさが地獄を連想させるのだ。
地獄とは死体のあり様そのものなのかもしれない。
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