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反魂機械
反魂機械
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睡眠薬は飲んですぐに効果が出る。遅くとも三十分、早ければ五分後には強い眠気に襲われる。
空になった薬の箱をゴミ箱に捨てると乾いた紙が擦れる音が聞こえた。
意識しなければ聞こえていることにも気付かないような音にこの時ばかりは耳を傾けた。
日村明日香は憂鬱だった。
人生の全盛期は遠に過ぎ去ったと思った。
まだ十代の少女が至るには早すぎる結論。彼女の世界は狭く完結していた。
浴室に制服で入る。入学の為にした努力の虚しさをどうして直ぐに気づけなかったのか。
身の丈に合わない努力のために、大切なものは次々に剥がれ落ちてしまっていた。
浴槽には水が張っている。
「明日はいい子になれますように」
マンションの一室。時計の針は夜の八時を指していた。
リビングのテーブルにはクリップで抱き合わせにされたメモと一万円札が置かれている。
キッチンの戸棚は開かれて、そこに置いてあった包丁が姿を消していた。
赤い鮮血が明日香の腕から流れている。
浴槽に腕を浮かべると浮かぶ赤色がラテアートみたいで綺麗だった。
何か、最後に残そうかと、そんな気分が浮かんでは沈む。
時間はすぐにやってきた。
「おやすみなさい」
伸ばした腕を枕に、明日香は目を瞑った。胃の中で解けた錠剤が明日香を深い眠りへと誘う。
夢は見なかった。
「ごほっごほっ」
肺に溜まった空気を吐き出して、明日香は目を覚ました。
初めて覚えた感覚は両目の痛みだった。塩を塗り込まれたかのようなえぐい痛が瞳の中をぐるぐると回っている。
「はっ……あー、あー」
上手く声が出せなかった。喉が張り付いてるみたいで息苦しい。
全身がくまなく調子悪かった。手足の感覚も軟体動物のようにぐにゃぐにゃ。鉛を飲んだかのようにお腹の奥が重かった。
明日香は寝返りを打った。金属の冷たい温度が頬へ張り付いた。
「ああー……あー」
明日香の意識が次第に覚醒していく。
最後の記憶を辿ると、どうしようも無い虚無感に襲われた。
そうだ。自分は死んだはず。
手首を近づけるとリストカットの切り傷が綺麗に残っていた。
「失敗しちゃった」
最悪だ。
これからどんな顔をして生きればいいのか。
ここは病院なのか。
明日香はまだ霞む目で周囲を見渡した。
広い空間だ。
壁は錆び付いていて赤く見える。工場が何かだろうか、積まれた角材やチューブがある。
窓は天井高くに備え付けられていたがベニヤ板が打ち付けてあり、光は入ってこない。ぶら下がった白熱灯は幾つか生き残っていて、薄暗く照らしている。
明日香はパイプベットの上に寝かされていた。それも綺麗なものでは無い。ボロボロで腐食している。
ベットの隣には天井まで届く大きな機械が置いてある。
大きな機械だ。幾つものダイアルとレバーが無造作に突き出している。埋め込まれたガラスのシリンダーがごぼぼごと音を立てていた。
「びょふひんじゃなひ」
舌が上手く動かなかった。麻酔後のようにじーんと痺れる感覚だ。
重い身体に鞭打って明日香は半身を起こした。
自分がいる場所はどこなのか検討もつかなかった。
ぎぃぃぃぃ。
重い、引きずる音が聞こえた。
工場の出入り口。奥の扉が開く。
「おー、出来上がってんじゃーん」
入ってきたのは柄の悪い男達だ。
一人は大柄のタンクトップ姿の男だ。肩には蜘蛛の刺青が彫られている。
もう一人は如何にもチャラそうな金髪の男。耳にはじゃらじゃらとピアスをつけていて鼻にまで付いている。
ピアス男は刺青男の後ろをヘラヘラと笑いながら歩いている。
二人は真っ直ぐに明日香の元へやってきた。
二人の顔に明日香は面識が無かった。町で見かければ必ず避ける危険な気配を感じる。
「おっ起きてんのか」
ピアスの男が明日香の顔を覗き込んだ。
びくっと明日香の身体が竦んだ。
ギラギラとした爬虫類じみた目。顔は笑っているのに、その眼差はどこまでも冷たかった。
「ここ、どこですか?」
蚊の鳴くような小さな声で明日香が言う。その身体は震えていた。男達の威圧的な空気感に当てられたのだ。
「あ? なんだコイツ?」
「どうした?」
「いや、コイツ様子がおかしいんすよ」
「あー?」
刺青男は咥えたばかりの煙草を捨てるとズカズカと足音を立ててベットに近づいた。
明日香の顔を乱暴に掴むとペンライトを目に当てた。
「まぶしっ」
思わず目を瞑る明日香。
刺青男は舌打ちをして明日香を掴む手を投げるように離した。
「おいおいおい、どう言う事だよ。めんどくせぇな!」
刺青男がイラついた声で怒鳴る。
「これじゃ、売りもんに何なんねぇじゃねぇか」
「………うりもの?」
そう明日香が呟いた時、刺青男がベットを蹴上げた。
スカスカのベットは衝撃をよく通し、上に乗る明日香を大きく揺らした。
明日香は声にならない悲鳴を上げた。身体を丸め縮こまる。
「もしかして、設定間違えてましたか」
ピアス男は何食わぬ顔で機械をいじっていた。
「あー、そういう事か。残ってんだな、クソ」
「おらガキ。名前言ってみ?」
「か、帰して……家に」
ガンッ!
刺青男の拳が明日香の顔面に叩きつけられた。
明日香の頭は軽く、思い切り後ろに倒れ、後頭部を強く打った。
「本当に残ってんぞ、どうすんだよこれ?」
明日香は突然の暴力に、何が起きたのか分からず、ぽたぽたと垂れる鼻血をぼんやり眺めた。
「もう一回殺すってのはどうすか?」
「あー、それだ。お前天才」
パチンと指を鳴らして刺青男が笑った。
「そんじゃ、殺すか」
土足でベットに上がると明日香に跨った。
「これ以上、いい顔を台無しにしたくなきゃ抵抗すんじゃねーぞ」
刺青の男が大きな手で明日香の喉を締め上げた。
「うぐぅ………?!」
力任せに気管が潰される。
男がその逞しく隆起した筋肉に力を込めると、明日香の顔は瞬く間に赤く染まった。
熟れたリンゴのような頬の色が青く萎むものも時間の問題だった。
苦しい。
苦しいことが嫌だから、自殺を選んだのに。
遠のく意識の中、明日香はここが地獄なのでは無いかと考えた。
自殺したものが落ちる地獄。自分が生きて味わうはずの苦痛を一辺に味合わせる地獄。
「あっそうだ」
再び命を終えようとしていた明日香を引き止めたのはピアス男の一声だった。
「殺す前に回しません?」
「あぁー?」
「最近マグロばっかじゃないですか。コイツ、いい反応しそうじゃないですか」
刺青男の手が離れる。
「かっー……ごほっ、ごほっ」
解放された喉がごくんと動いた。口の中の泡を吐き出し、酸素を取り込む。
明日香にとって天から地上に叩きつけられたかのような衝撃だった。微睡に溶けかけていた目が一瞬で醒めた。
全身へ酸素を運ぼうと、心臓が大きな音を立てて鼓動する。
酸欠を起こした肺は針を刺すように痛んだ。
寸前の所で生き残った明日香は必至になって悶えている。その姿は男達にとってまな板の上で踊る魚に見えた。
新鮮な生身をどう調理してやろうか。容赦の無い捕食者の目だった。
「ひぃーっ、ひぃーっ」
笑いながらスカートを剥ぎショーツを下ろした。
「い、いやぁ」
覇気の無い叫び声だ。明日香はまだ呼吸も整っていない。
「おいお前、こっち使っていいぞ」
「いいんすか?」
「ガキは趣味じゃねんだよ」
「やりぃ」
ピアス男は太腿に手を伸ばたし。
名も知らぬ男に触れられる感触は涙が出るほど厭だった。
思わず足に力が入る。股を閉じた明日香の耳元で刺青男の舌打ちが聞こえた。
ぎろりと刺青男が睨みを効かせていた。明日香はビクリと身体を震わせた。
殴られた顔の痛みが、締められた喉の苦しみが明日香に恐怖として刻み込まれていた。
明日香は自分から足を開いた。
「ほぉ~ら。いい子いい子、可愛いいでちゅねー」
ピアス男が子犬か赤ん坊でもあやしているかのような調子で言う。その手は明日香の恥丘を嫌らしくさすっている。
誰かに触られるのは初めてだった。ざらついた男の感触に鳥肌がたった。
明日香は処女だった。
綺麗な身体の内に死にたい。かねてよりそう考えていた。
「ひぃぃっ………やめてぇぇ」
震える声で涙を流す明日香。同じように彼女の恥部も濡れ出していた。
触られている事を意識してしまうと嫌でも反応してしまう。
ムズムズとしたもどかしさをへその辺りに感じる。
嫌で嫌で仕方が無いはずなのに身体は火照り、耳まで真っ赤になっていた。
ずぶぅ。
中指と人差し指の二本が明日香の膣穴にねじ込まれた。
明日香は歯を食いしばった。未体験の感覚に身体を乗っ取られそうになったのだ。
「いいぃぃっ?!」
「いい反応するねぇ才能あるよ」
ピアス男は指先を少し曲げて高速でシェイク。ヒダと粘液をかき混ぜる。
初めて味わう快楽に明日香が抗う術は無かった。
「い、いやぁ」
「キャハハハ! 何がイヤーだ。もうこんなに濡らしてんじゃん」
ピアス男の言う通りだった。
手淫が奏でる水音は激しく、泡だった愛液が膣口から漏れ出ていた。
「あっ………あああっ」
「はいはい、おまんこ気持ちいいね~」
「ああああ!………クルッ!来ちゃっ………いやぁあああ」
潰れた喉から発せられる叫びは恥じらいのない嬌声だった。
ガクガクと痙攣し、明日香はオルガスムスに駆けあがった。頭の中でスパークが走り真っ白に焼きつく。
「優しくしすぎだバカ。何やってんだ?」
「へへっ。すみませんつい、初物久しぶりなもんで」
「初物じゃねーだろそれ」
「そうなんすか?」
「馬鹿野郎。ここにある時点であのクソ犬のお下がりだろうが」
「おっとそういやそうでしたね。あぶね、生でやる所だった」
「………い、犬ぅ?」
何か聞こえた気がした明日香だが、考える余裕も暇も無い。
絶頂の余韻に浸る明日香の顔面にペニスが突き出された。
「おいガキ。立たせろ」
「へ?」
「ちゃんとしゃぶらねぇとまた殴るぞ」
「ひぃ」
明日香の顔色が瞬時に青く染まった。刺青男の暴力を身体が覚えている。
フェラチオなんてしたことがなかったが、明日香は一心不乱にペニスを咥え込んだ。
「いただきま~す」
背後で声が聞こえた。
そう思った次の瞬間、ピアス男のペニスが明日香の膣に突き刺さる。
「んんんんっ!?」
肉と肉が擦れるのには十分すぎるほど濡れていた。
リズミカルに出たり入ったりを繰り返し、快感を高めて行く。
明日香は再びエクスタシーの階段を登りはじめた。
「ああっ!………ああああっ!」
「なにちんたらやってんだよ」
ドムッ。
刺青男の拳が明日香の腹に食い込んだ。
一瞬、胴を貫かれたと思い、明日香は目を丸くした。
次の瞬間、固まった空気が狭い気管を駆け上がり、同時に激しい痛みが渦を巻いて広る。
「うげぇぇ!!」
「ちょっと優しくしてもらってもう娼婦気取りか? あぁ? 俺のチンポ萎えさせてみろ、殺すからな」
「でた~。パイセン鬼畜っすね」
凄む刺青男をよそにピアス男は腰を振るのをやめない。
「雑魚い舌使いしてんじゃねぇぞ、鼻の穴つっこむぞ」
明日香が身体を震わせながら身体を起こす。恐怖と痛みと快楽がまざっておかしくなりそうだった。
「おら、手伝ってやんよ」
刺青男が明日香の首を掴んだ。
「………っ?!」
手に力が込められて、首が締め付けられる。
それは嫌だ!
必死に訴えようとするが声は出ず、口が間抜けに開閉しただけだった。
「おっ締まるシマルゥ~」
「出したら話してやんよ」
明日香は大きく口を開けて舌を突き出していた。
刺青男は舌の上に勃起したペニスを乗せると勢いよく滑らせて喉から奥をついた。
手加減なしの首絞めイマラチオ。男がイクのが早いか、明日香が逝くのが早いか。
それはゲームですらなかった。
明日香の命は男達の余興に消費された。
身体の痙攣は治らない。
エクスタシーによるものなのか、酸欠による禁断症状なのか、明日香にすら分からない。
二度目の酸欠に明日香の体は耐える事が出来ない。その反応は次第に弱々しくなっていくが、男達は気にするそぶりを見せなかった。
目先の穴でペニスをしごき、気持ちよくなるだけだ。
「おぉ~出るぅぅ」
ピアス男のその声は遠ざかって聞こえた。
今の明日香にはもう、全てが遅く、スローモーションのように感じた。
瞳孔の開いた瞳がその光を失う最中、明日香はそれを目撃した。
べちゃ。
水が弾けるような音がした。天井から何かが降ってきた。
黒い水の塊だ。
それは明確な意思を持っていた。ノロノロと進みながら形を変える。
顔が出来て、胴が伸び、足が生えた。
黒い大型犬。
細長い体躯はドーベルマンに似ていた。
明日香の目から光が消えると、黒いドーベルマンが吠えた。
血の底にさえ届きかねない雷鳴のような鳴き声だった。
「………クソ犬がきやがったか」
「こいつもう死んだんすか?」
「チッ。まだ出してねーのによ、だからガキはイヤなんだよ」
「おしまいすか? 残念っすね」
男達は逸物を仕舞いチャックを上げるとポケットから煙草を出して加えた。
「あぁ、臭え臭えなぁ」
煙を吐きながら毒づく。
下水じみた悪臭を黒いドーベルマンが放っている。
黒いドーベルマンは二人をすり抜けてベットの上へ登った。鼻を明日香に近づけて匂いを嗅ぐ。
瞳孔が開いた大きな黒目がドーベルマンの血走った目と合う。
にんまりと、笑うように目を細めた。
「キッモいな。アレ見学しなきゃ行けないんですか?」
「馬鹿がっ。そんなの耐えれるか、外で待つぞ。一時間もすりゃ終わってるだろ」
「そっすよね」
「待て、お前は残れ」
「何でですか?」
「設定間違えた罰だ。犬が満足したらすぐ動かせ」
そう指図して刺青男は工場から出て行く。
ピアス男は腑に落ちない様子だったが、それ以上の文句は言わなかった。
鼻が曲がりそうな匂いには慣れていたし、気分はそう悪くなかった。
「あー。犯った犯った」
外は槍のような雨が降っていた。どこかで雷鳴が聞こえる。
明日香の遺体には黒いドーベルマンが纏わりついている。
カクカクと腰を振って激しく息を荒立てていた。ドーベルマンの股には長いペニスがぶら下がっている。
何をしようとしているかは一目瞭然だった。
明日香の死体を弄ぶのだ。
「いい趣味してんなぁ~」
軽口を叩きピアス男は機械の前に座った。
ダイヤルを、レバーを、彼しか知らない設定に合わせて行く。コンピューターの類いは使用されていない、完全なアナログだった。
後ろでは犬の甲高い声が連続して聞こえる。肉と肉がぶつかる音が工場内に響き渡る。
明日香の遺体がどう陵辱されているかなんて興味が無かった。
「静かに犯れないのかね畜生は」
淡々と作業をしていたピアス男の手が止まった。
ボコボコと泡立つガラス張りの前に顔を近づけると嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お、もう一つあるじゃん」
機械の奥では裸の女が膝を抱えて眠っていた。
空になった薬の箱をゴミ箱に捨てると乾いた紙が擦れる音が聞こえた。
意識しなければ聞こえていることにも気付かないような音にこの時ばかりは耳を傾けた。
日村明日香は憂鬱だった。
人生の全盛期は遠に過ぎ去ったと思った。
まだ十代の少女が至るには早すぎる結論。彼女の世界は狭く完結していた。
浴室に制服で入る。入学の為にした努力の虚しさをどうして直ぐに気づけなかったのか。
身の丈に合わない努力のために、大切なものは次々に剥がれ落ちてしまっていた。
浴槽には水が張っている。
「明日はいい子になれますように」
マンションの一室。時計の針は夜の八時を指していた。
リビングのテーブルにはクリップで抱き合わせにされたメモと一万円札が置かれている。
キッチンの戸棚は開かれて、そこに置いてあった包丁が姿を消していた。
赤い鮮血が明日香の腕から流れている。
浴槽に腕を浮かべると浮かぶ赤色がラテアートみたいで綺麗だった。
何か、最後に残そうかと、そんな気分が浮かんでは沈む。
時間はすぐにやってきた。
「おやすみなさい」
伸ばした腕を枕に、明日香は目を瞑った。胃の中で解けた錠剤が明日香を深い眠りへと誘う。
夢は見なかった。
「ごほっごほっ」
肺に溜まった空気を吐き出して、明日香は目を覚ました。
初めて覚えた感覚は両目の痛みだった。塩を塗り込まれたかのようなえぐい痛が瞳の中をぐるぐると回っている。
「はっ……あー、あー」
上手く声が出せなかった。喉が張り付いてるみたいで息苦しい。
全身がくまなく調子悪かった。手足の感覚も軟体動物のようにぐにゃぐにゃ。鉛を飲んだかのようにお腹の奥が重かった。
明日香は寝返りを打った。金属の冷たい温度が頬へ張り付いた。
「ああー……あー」
明日香の意識が次第に覚醒していく。
最後の記憶を辿ると、どうしようも無い虚無感に襲われた。
そうだ。自分は死んだはず。
手首を近づけるとリストカットの切り傷が綺麗に残っていた。
「失敗しちゃった」
最悪だ。
これからどんな顔をして生きればいいのか。
ここは病院なのか。
明日香はまだ霞む目で周囲を見渡した。
広い空間だ。
壁は錆び付いていて赤く見える。工場が何かだろうか、積まれた角材やチューブがある。
窓は天井高くに備え付けられていたがベニヤ板が打ち付けてあり、光は入ってこない。ぶら下がった白熱灯は幾つか生き残っていて、薄暗く照らしている。
明日香はパイプベットの上に寝かされていた。それも綺麗なものでは無い。ボロボロで腐食している。
ベットの隣には天井まで届く大きな機械が置いてある。
大きな機械だ。幾つものダイアルとレバーが無造作に突き出している。埋め込まれたガラスのシリンダーがごぼぼごと音を立てていた。
「びょふひんじゃなひ」
舌が上手く動かなかった。麻酔後のようにじーんと痺れる感覚だ。
重い身体に鞭打って明日香は半身を起こした。
自分がいる場所はどこなのか検討もつかなかった。
ぎぃぃぃぃ。
重い、引きずる音が聞こえた。
工場の出入り口。奥の扉が開く。
「おー、出来上がってんじゃーん」
入ってきたのは柄の悪い男達だ。
一人は大柄のタンクトップ姿の男だ。肩には蜘蛛の刺青が彫られている。
もう一人は如何にもチャラそうな金髪の男。耳にはじゃらじゃらとピアスをつけていて鼻にまで付いている。
ピアス男は刺青男の後ろをヘラヘラと笑いながら歩いている。
二人は真っ直ぐに明日香の元へやってきた。
二人の顔に明日香は面識が無かった。町で見かければ必ず避ける危険な気配を感じる。
「おっ起きてんのか」
ピアスの男が明日香の顔を覗き込んだ。
びくっと明日香の身体が竦んだ。
ギラギラとした爬虫類じみた目。顔は笑っているのに、その眼差はどこまでも冷たかった。
「ここ、どこですか?」
蚊の鳴くような小さな声で明日香が言う。その身体は震えていた。男達の威圧的な空気感に当てられたのだ。
「あ? なんだコイツ?」
「どうした?」
「いや、コイツ様子がおかしいんすよ」
「あー?」
刺青男は咥えたばかりの煙草を捨てるとズカズカと足音を立ててベットに近づいた。
明日香の顔を乱暴に掴むとペンライトを目に当てた。
「まぶしっ」
思わず目を瞑る明日香。
刺青男は舌打ちをして明日香を掴む手を投げるように離した。
「おいおいおい、どう言う事だよ。めんどくせぇな!」
刺青男がイラついた声で怒鳴る。
「これじゃ、売りもんに何なんねぇじゃねぇか」
「………うりもの?」
そう明日香が呟いた時、刺青男がベットを蹴上げた。
スカスカのベットは衝撃をよく通し、上に乗る明日香を大きく揺らした。
明日香は声にならない悲鳴を上げた。身体を丸め縮こまる。
「もしかして、設定間違えてましたか」
ピアス男は何食わぬ顔で機械をいじっていた。
「あー、そういう事か。残ってんだな、クソ」
「おらガキ。名前言ってみ?」
「か、帰して……家に」
ガンッ!
刺青男の拳が明日香の顔面に叩きつけられた。
明日香の頭は軽く、思い切り後ろに倒れ、後頭部を強く打った。
「本当に残ってんぞ、どうすんだよこれ?」
明日香は突然の暴力に、何が起きたのか分からず、ぽたぽたと垂れる鼻血をぼんやり眺めた。
「もう一回殺すってのはどうすか?」
「あー、それだ。お前天才」
パチンと指を鳴らして刺青男が笑った。
「そんじゃ、殺すか」
土足でベットに上がると明日香に跨った。
「これ以上、いい顔を台無しにしたくなきゃ抵抗すんじゃねーぞ」
刺青の男が大きな手で明日香の喉を締め上げた。
「うぐぅ………?!」
力任せに気管が潰される。
男がその逞しく隆起した筋肉に力を込めると、明日香の顔は瞬く間に赤く染まった。
熟れたリンゴのような頬の色が青く萎むものも時間の問題だった。
苦しい。
苦しいことが嫌だから、自殺を選んだのに。
遠のく意識の中、明日香はここが地獄なのでは無いかと考えた。
自殺したものが落ちる地獄。自分が生きて味わうはずの苦痛を一辺に味合わせる地獄。
「あっそうだ」
再び命を終えようとしていた明日香を引き止めたのはピアス男の一声だった。
「殺す前に回しません?」
「あぁー?」
「最近マグロばっかじゃないですか。コイツ、いい反応しそうじゃないですか」
刺青男の手が離れる。
「かっー……ごほっ、ごほっ」
解放された喉がごくんと動いた。口の中の泡を吐き出し、酸素を取り込む。
明日香にとって天から地上に叩きつけられたかのような衝撃だった。微睡に溶けかけていた目が一瞬で醒めた。
全身へ酸素を運ぼうと、心臓が大きな音を立てて鼓動する。
酸欠を起こした肺は針を刺すように痛んだ。
寸前の所で生き残った明日香は必至になって悶えている。その姿は男達にとってまな板の上で踊る魚に見えた。
新鮮な生身をどう調理してやろうか。容赦の無い捕食者の目だった。
「ひぃーっ、ひぃーっ」
笑いながらスカートを剥ぎショーツを下ろした。
「い、いやぁ」
覇気の無い叫び声だ。明日香はまだ呼吸も整っていない。
「おいお前、こっち使っていいぞ」
「いいんすか?」
「ガキは趣味じゃねんだよ」
「やりぃ」
ピアス男は太腿に手を伸ばたし。
名も知らぬ男に触れられる感触は涙が出るほど厭だった。
思わず足に力が入る。股を閉じた明日香の耳元で刺青男の舌打ちが聞こえた。
ぎろりと刺青男が睨みを効かせていた。明日香はビクリと身体を震わせた。
殴られた顔の痛みが、締められた喉の苦しみが明日香に恐怖として刻み込まれていた。
明日香は自分から足を開いた。
「ほぉ~ら。いい子いい子、可愛いいでちゅねー」
ピアス男が子犬か赤ん坊でもあやしているかのような調子で言う。その手は明日香の恥丘を嫌らしくさすっている。
誰かに触られるのは初めてだった。ざらついた男の感触に鳥肌がたった。
明日香は処女だった。
綺麗な身体の内に死にたい。かねてよりそう考えていた。
「ひぃぃっ………やめてぇぇ」
震える声で涙を流す明日香。同じように彼女の恥部も濡れ出していた。
触られている事を意識してしまうと嫌でも反応してしまう。
ムズムズとしたもどかしさをへその辺りに感じる。
嫌で嫌で仕方が無いはずなのに身体は火照り、耳まで真っ赤になっていた。
ずぶぅ。
中指と人差し指の二本が明日香の膣穴にねじ込まれた。
明日香は歯を食いしばった。未体験の感覚に身体を乗っ取られそうになったのだ。
「いいぃぃっ?!」
「いい反応するねぇ才能あるよ」
ピアス男は指先を少し曲げて高速でシェイク。ヒダと粘液をかき混ぜる。
初めて味わう快楽に明日香が抗う術は無かった。
「い、いやぁ」
「キャハハハ! 何がイヤーだ。もうこんなに濡らしてんじゃん」
ピアス男の言う通りだった。
手淫が奏でる水音は激しく、泡だった愛液が膣口から漏れ出ていた。
「あっ………あああっ」
「はいはい、おまんこ気持ちいいね~」
「ああああ!………クルッ!来ちゃっ………いやぁあああ」
潰れた喉から発せられる叫びは恥じらいのない嬌声だった。
ガクガクと痙攣し、明日香はオルガスムスに駆けあがった。頭の中でスパークが走り真っ白に焼きつく。
「優しくしすぎだバカ。何やってんだ?」
「へへっ。すみませんつい、初物久しぶりなもんで」
「初物じゃねーだろそれ」
「そうなんすか?」
「馬鹿野郎。ここにある時点であのクソ犬のお下がりだろうが」
「おっとそういやそうでしたね。あぶね、生でやる所だった」
「………い、犬ぅ?」
何か聞こえた気がした明日香だが、考える余裕も暇も無い。
絶頂の余韻に浸る明日香の顔面にペニスが突き出された。
「おいガキ。立たせろ」
「へ?」
「ちゃんとしゃぶらねぇとまた殴るぞ」
「ひぃ」
明日香の顔色が瞬時に青く染まった。刺青男の暴力を身体が覚えている。
フェラチオなんてしたことがなかったが、明日香は一心不乱にペニスを咥え込んだ。
「いただきま~す」
背後で声が聞こえた。
そう思った次の瞬間、ピアス男のペニスが明日香の膣に突き刺さる。
「んんんんっ!?」
肉と肉が擦れるのには十分すぎるほど濡れていた。
リズミカルに出たり入ったりを繰り返し、快感を高めて行く。
明日香は再びエクスタシーの階段を登りはじめた。
「ああっ!………ああああっ!」
「なにちんたらやってんだよ」
ドムッ。
刺青男の拳が明日香の腹に食い込んだ。
一瞬、胴を貫かれたと思い、明日香は目を丸くした。
次の瞬間、固まった空気が狭い気管を駆け上がり、同時に激しい痛みが渦を巻いて広る。
「うげぇぇ!!」
「ちょっと優しくしてもらってもう娼婦気取りか? あぁ? 俺のチンポ萎えさせてみろ、殺すからな」
「でた~。パイセン鬼畜っすね」
凄む刺青男をよそにピアス男は腰を振るのをやめない。
「雑魚い舌使いしてんじゃねぇぞ、鼻の穴つっこむぞ」
明日香が身体を震わせながら身体を起こす。恐怖と痛みと快楽がまざっておかしくなりそうだった。
「おら、手伝ってやんよ」
刺青男が明日香の首を掴んだ。
「………っ?!」
手に力が込められて、首が締め付けられる。
それは嫌だ!
必死に訴えようとするが声は出ず、口が間抜けに開閉しただけだった。
「おっ締まるシマルゥ~」
「出したら話してやんよ」
明日香は大きく口を開けて舌を突き出していた。
刺青男は舌の上に勃起したペニスを乗せると勢いよく滑らせて喉から奥をついた。
手加減なしの首絞めイマラチオ。男がイクのが早いか、明日香が逝くのが早いか。
それはゲームですらなかった。
明日香の命は男達の余興に消費された。
身体の痙攣は治らない。
エクスタシーによるものなのか、酸欠による禁断症状なのか、明日香にすら分からない。
二度目の酸欠に明日香の体は耐える事が出来ない。その反応は次第に弱々しくなっていくが、男達は気にするそぶりを見せなかった。
目先の穴でペニスをしごき、気持ちよくなるだけだ。
「おぉ~出るぅぅ」
ピアス男のその声は遠ざかって聞こえた。
今の明日香にはもう、全てが遅く、スローモーションのように感じた。
瞳孔の開いた瞳がその光を失う最中、明日香はそれを目撃した。
べちゃ。
水が弾けるような音がした。天井から何かが降ってきた。
黒い水の塊だ。
それは明確な意思を持っていた。ノロノロと進みながら形を変える。
顔が出来て、胴が伸び、足が生えた。
黒い大型犬。
細長い体躯はドーベルマンに似ていた。
明日香の目から光が消えると、黒いドーベルマンが吠えた。
血の底にさえ届きかねない雷鳴のような鳴き声だった。
「………クソ犬がきやがったか」
「こいつもう死んだんすか?」
「チッ。まだ出してねーのによ、だからガキはイヤなんだよ」
「おしまいすか? 残念っすね」
男達は逸物を仕舞いチャックを上げるとポケットから煙草を出して加えた。
「あぁ、臭え臭えなぁ」
煙を吐きながら毒づく。
下水じみた悪臭を黒いドーベルマンが放っている。
黒いドーベルマンは二人をすり抜けてベットの上へ登った。鼻を明日香に近づけて匂いを嗅ぐ。
瞳孔が開いた大きな黒目がドーベルマンの血走った目と合う。
にんまりと、笑うように目を細めた。
「キッモいな。アレ見学しなきゃ行けないんですか?」
「馬鹿がっ。そんなの耐えれるか、外で待つぞ。一時間もすりゃ終わってるだろ」
「そっすよね」
「待て、お前は残れ」
「何でですか?」
「設定間違えた罰だ。犬が満足したらすぐ動かせ」
そう指図して刺青男は工場から出て行く。
ピアス男は腑に落ちない様子だったが、それ以上の文句は言わなかった。
鼻が曲がりそうな匂いには慣れていたし、気分はそう悪くなかった。
「あー。犯った犯った」
外は槍のような雨が降っていた。どこかで雷鳴が聞こえる。
明日香の遺体には黒いドーベルマンが纏わりついている。
カクカクと腰を振って激しく息を荒立てていた。ドーベルマンの股には長いペニスがぶら下がっている。
何をしようとしているかは一目瞭然だった。
明日香の死体を弄ぶのだ。
「いい趣味してんなぁ~」
軽口を叩きピアス男は機械の前に座った。
ダイヤルを、レバーを、彼しか知らない設定に合わせて行く。コンピューターの類いは使用されていない、完全なアナログだった。
後ろでは犬の甲高い声が連続して聞こえる。肉と肉がぶつかる音が工場内に響き渡る。
明日香の遺体がどう陵辱されているかなんて興味が無かった。
「静かに犯れないのかね畜生は」
淡々と作業をしていたピアス男の手が止まった。
ボコボコと泡立つガラス張りの前に顔を近づけると嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お、もう一つあるじゃん」
機械の奥では裸の女が膝を抱えて眠っていた。
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