ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

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番外編

彼女が笑っているのなら

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「なんとなく、こうなるんじゃないかと思っていたんだ……」
「オスカー、そういう言い方は良くないと思います」

オスカーは腕に抱くティナを、煌めくような青い目で甘く見つめる。

「でもね、ティナ、結婚式なんだよ?」




 一点の曇りなき空、古い教会の上に現れた魔獣に向かう一筋の銀色の光。
 魔獣の体は、一瞬にして聖剣の炎に包まれた。


 バババババババババッ!


 ( あんな派手にやる必要はない )

オスカーは空を見上げ、眉を寄せた。

 近くにいるオスカーの父親、ヴィクトール・レイナルドは妻ローズの腰を抱き、空を見上げて笑っている。

「なかなか綺麗じゃないか。思い出に残る結婚式になったな、オスカー」

「父上……」

青空に赤や白い煙が映える。
……綺麗なのか?

「まぁ、いいじゃない、竜獣人が六人もいるんだもの、魔獣だって出てくるわよ……ねぇ?」

「母上……」

「あら、エスターの結婚式でも出たのよ、気にしなくてもいいわ。寧ろ珍しくっておめでたいかも!」

「 母上 」




ーーーーーー*



 オスカー・レイナルドは、ようやく出会った『花』ティナ・マリベルと今日、二回目の結婚式を挙げている。

 二度目となる今日、結婚式を挙げているこの場所は、竜獣人が代々、式を行う古い教会だ。

 ティナは最初、結婚式を二度もせず、この教会で挙げるだけでいいと言ったが、オスカーが首を横に振った。

 この場所は険しい道の先にあり、ティナの祖父母には来ることが難しかった。

 祖父母と最近まで暮らしていた彼女は、きっと花嫁姿を見て欲しいはずだ、祖父母も見たいだろう、いや、見せてやりたい。

 どうするべきかと、父ヴィクトールに相談すると「結婚式は、一度しかやらないという決まりはない。何度でも行えばいい」と返事があった。

 オスカーは、ティナの両親が花店を営んでいる町の教会と、伝統の古い教会で二度結婚式を行う事に決めた。

 一度目の結婚式は町にある教会で、オスカーが隊長を務めるレイナルド第三騎士団とティナの親族、ヴィクトールとローズ、町の者達も呼び、賑やかに行った。

ただ、一度目にはエスターとシャーロット嬢は呼ばなかった。

……エスターは、人の多い所は苦手だ。それに少し変わった女性たち好かれる傾向がある。申し訳ないが、滅多に人前に出ない弟が来ると分かれば、何かと大変な事になりそうだと思った。

 両親に伝えると、結婚式を二度行うのだから、二度目に呼べばいいと言う。エスター本人にも聞くと、それがいいと思う、と返事があった。弟も多少は自覚がある様だ。


 
 二度目となる今日、来ているのはオスカーの両親であるレイナルド公爵夫妻、エスターとシャーロット嬢、ガイア公爵夫妻と二人の息子達。ティナの両親と魔獣術師テス・ログスト様。それにレイナルド公爵家から数名ほど。

 厳かに行われるはずの結婚式は、人数が少ないにも関わらず、なぜか騒がしかった。

 以前会った時は、まだ幼く人形の様に大人しかったガイア公爵の長男ラディリアス・ガイアが、なぜかシャーロット嬢にくっ付いて離れない。
( ……彼女も変な男に絡まれやすい所がある。ラディリアスはその分野に入るのかも知れない…… )

 それに対しエスターがイライラしている所に、なぜか魔獣が現れた。

 竜獣人が六人もいるのに、アイツはよく此処に来たものだ……


「私が行こう」

珍しく、父ヴィクトールが言う。

「いや、君は新郎の父親だ。私が行くよ」

ガイア公爵閣下が腰の聖剣に手をかける。

「ぼくが、やっつけてもいい?」

 ガイア公爵閣下の次男、四歳になったばかりのディマルカスが、最近貰った聖剣を手に、ピョンピョン飛び跳ねていた。

「誰でもいいから早く消して下さい」

 どんどん近づく魔獣を見て、ティナとシャーロット嬢は怯えている。
 母上とジュリアナ・ガイア公爵夫人は夫が側にいる安心感なのか特に気にもしていない。
長年連れ添えばそうなるのだろうか……

今、俺は正装をしている。腰に下げているのは聖剣ではない、ただの飾りのレイピアだ。飛ぶわけにはいかない。


ーーーーって言うか、誰か行けよっ‼︎

 エスターは何やってんだよ!

そう思って見ると、まだラディリアスとやり合っていた。

「ラディリアス、僕のシャーロットから離れて」
「やだっ! 僕がエスター兄さんの、大切な人を守っておくから魔獣倒して来てよ」
「……ラディリアスが行けばいいだろう、あれぐらい倒せるはずだ」
「僕はまだギリギリ十歳だぞっ! 飛び上がっての魔獣退治は危ないんだぞっ! ほら、早くしないとどんどん近づいて来るよ? シャーロット様泣いちゃうよ?」

「シャーロット……」
「エスター……」

「  ほら、エスター兄さんっ」

 ギュッと、シャーロット嬢の腰に抱きつくラディリアスに、エスターはチッと舌打ちすると、怒りを隠すことなく聖剣を握りしめ、ダンッと地面を蹴り魔獣へと飛んだ。


…………ラディリアス、何をやっているんだ……後でどうなるか……いや、この場合シャーロット嬢が大変な事になるのか?



 こうして、空に現れた体の長い魔獣は、鬱憤を撒き散らすかの様に、無駄に切り刻むエスターの聖剣によって焼き尽くされた。


 空を見上げ、その様子を見ていたテス様が豪快に笑う。

「ガハハッ! せっかく呼んでやった『キラハム』まで全部焼かれちまったな!」

 ティナの家と関わりのある、魔獣術師のテス様が「お祝いだ」と言って、害の無いチカチカと光る虫の様な魔獣を大量に飛ばしていた。テス様はそれを『キラハム』と呼んでいる。

……たぶん、魔獣が出たのはキラハムのせいだ。

「また呼ぶか? ピカリムの方が良かったか? アレはジークの方が上手く呼べるんだが、さすがにオスカーの結婚式には行かねぇって言うもんでな。何でも、王女様を見張っておくんだと」
「見張る?」
「ほら、王女は……な?」

テス様はティナに気を遣っている様だ。

「彼女はマリアナ王女様よりマシでしょう? そこまでバカな事はしない」
「まぁ、アレだ。ジークは妬いてんだよ。おお、そうだ、ティナっちにプレゼントを持って来たんだった」
「ティナっち……」

 変わった呼び名だと思いティナを見ると彼女は真っ赤になって恥ずかしがった。
……くっ、かわいい。

「もうっ、テスおじさん、その呼び方は止めて、恥ずかしい」
「なんだ、ティナっちはティナっちだろう? ティナちゃんって呼んでたら、上品な感じでオレに似合わねーって言ったのはティナっちなんだからな? オレは止めんよ。それからホレ」

 テス様は懐から小さな箱を取り出し、オスカーへと渡した。

「なぜ俺に?」
「それは最後にお前さんの力が必要でな、まず、開けてみろ」

テス様に言われ、ティナに見守られながら開けてみると小さな石の付いたネックレスが入っていた。

「そいつは魔獣避けだ。ティナの祖父母の花畑の花の根から作りあげたんだぞ。まぁ、竜獣人と一緒だから心配は要らんだろうが、万が一という事もあるだろう? そんな時コレがあれば安心だ。本当はアッチのお嬢さんの分も作りたかったんだがな、何とも難しくて、やっと完成したのはこれ一つだ」

石は小指の先ほどしかない小さな物だった。
魔獣術師が難しいという代物、すごく貴重な物だ。

「それをティナっちに着けてやって、オスカーが金色の目になり、この石に口づけを落とせば完成するはずだ」
「そんな貴重なものを、テス様ありがとう」

 テス様にお礼を述べ、オスカーはティナの首にネックレスを着けた。
 それから、ティナを見つめ、一瞬で目の色を青から蕩けるような金色に変える。

「オスカー……」
「ティナ……」

 オスカーは彼女の背中を抱き抱え、スッと顔を近づける。
 二人の唇が重なり合うその瞬間、テス様が待てっと声をかけた。

「ネックレスが先だ、オスカー、ティナっち」

「ああ、そうでしたね」

 キスの後でもよかっただろう……とオスカーは思ったが、テス様の言う通りティナの胸元にある石にキスをする。

チュ、と唇が触れた瞬間、透明だった石は真っ白になった。

「おおっ! 白くなった……ほぉ」

テス様は、手帳を取り出し熱心に書きこんでいる。

「よし! 上手くいってるか魔獣を呼び出して実験だ!」

 目を輝かせたテス様は、小走りに少し離れた高台に向かった。

「だ、ダメだ!」
「いいじゃねぇか、竜獣人が六人も集まってんだ、小さいヤツにするから、あー! エスター令息! 奥さんから離れんなよっ!」

 エスターは、突然テス様に声をかけられ何事かと思ったが、言われた通りにシャーロットを抱きしめていた。


「ちょっと待ってください! 俺帯剣してるけどコレはレイピアで、聖剣じゃないんだ!」

 オスカーは慌てて、やる気に満ちたテス様に向かって叫ぶ。

「ああ! 大丈夫だ! そこのガイアのチビ達でも始末できるヤツを呼ぶからっ、心配すんなっ! ガハハッ‼︎」

大声で笑うと、テス様は片手を空に向け呪文を唱える。

 ビビッという音と共に、空に魔法陣が描かれた。

 魔法陣を初めて見たガイア公爵の息子達は、キラキラと目を輝かせていた。

「うわーっ! カッコいいーっ!」
「父上! ぼく、まじゅうじゅつ士になりたいっ!」

 脚に絡みつきながら話す息子達に、マグディアスは苦笑している。

「残念だが、お前たちはなれないよ」
「えーっ! なんでーっ⁈ 」

 物静かなガイア公爵の息子達は誰に似たのか、天真爛漫だ。


 魔法陣から一匹の魔獣が出てきた。

ポテン、とオスカーとティナの側に落ちてきた黒く丸い毛の塊のような魔獣は、ビクッと震えすぐに後退る。

それを見たテス様がオスカーに向かって手を振った。

「おーい、オスカー、ティナっちから離れてくれ! 魔獣はお前を怖がって実験にならん」

「はっ⁈    無理に決まってるだろう」

オスカーの返事を聞いて「そうか」と呟いたテス様は、非常に悪い顔をしてガイア公爵の息子達に声をかけた。

「ラディリアス、ディマルカス! オスカーを捕まえて、ちょっとだけティナっちから離してくれたらご褒美をやるぞ!」

 それを聞いた二人は、ニヤッと笑うとあっという間にオスカーを捕まえた。

「えっ!」

オスカーを掴むと、そのまま二人でピョンと飛びティナから距離を取る。
「わっ!」

 すぐに魔法陣から、もう一匹魔獣が落ちて来た。
それと最初に出て来た魔獣が、ゆっくりとティナに近づいていく。

「ティナ!」

 オスカーは、ちびっ子二人を引きずり、彼女の下へ戻ろうとした。

その時、ティナの方へ向かっていた二匹の魔獣が、ボテボテと後退りはじめる。

「おっ! やっぱりすごいな俺! 成功してるぞっ、ガハハッ! よし、ラディリアス、ディマルカス魔獣退治していいぞ!」

「本当⁈」
「わーいっ!」

 それを聞いた二人はオスカーをパッと離し、聖剣を手に魔獣に向けてポーズを決めた。

「受けてみろっ! 僕の必殺技、ラディリアス! イナズマ突きーっ!」
「ひっさ~つ、ディマルカスじゅうじぎりーっ!」

ラディリアスとディマルカスは魔獣を突き、切り裂いていく。

ポシユッ、パフッ、という音とともに魔獣は消え去った。


 苦労して作った魔獣避けのネックレスの効果に、テス様は満足気に何度も頷いている。
 だが、胸に手を当てたティナが、申し訳なさそうにテス様を見ていることに、オスカーが気づいた。

「ティナ、どうかした?」
「……あのね、オスカー、テスおじさん……石、消えちゃったみたい」

「……は? はああっ⁈ 」

テス様は今までで一番といえるほど、目を見開いた。

 オスカーがティナの胸元を見ると、確かに石は無く、チェーンだけが輝いている。

「あ、本当に無い……」

 石の消えたネックレスを外し、テス様に渡すと、彼はネックレスを握りしめ、しゃがみ込み項垂れた。

「まさか、効果が一度だったとは……苦労したのに……」

落ち込むテス様の頭を、ディマルカスがポンポンと叩く。

「ま、しっぱいというものは、だれにでも有ることだ。次に同じことをしなければ、それでいい」

「ははっ! それ、父上の真似だろっ! 似てるーっ、わははっ」

 ラディリアスが腹を抱えて笑っていると、ディマルカスも一緒になって笑った。

項垂れていたテス様も、二人の笑顔に釣られるように「だな!」っと言って笑っている。


 そんな3人を見て、オスカーの腕に抱かれているティナも楽しそうに笑う。


 何だかおかしな結婚式になったけれど、ティナが笑っているのなら、それでいい、とオスカーは思うのだった。
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