R-Face ~アンドロイドと人工知能と、策謀と日常と、そして時折昭和

kaonohito

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第10話 量産機計画

Chapter-57

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 startup ros_ 


 Starting R.OS Ver2.1
 copyright T.Samonji 2006-2013
 Upper MEMORY 32MB OK
 Lower MEMORY 131040MB OK
 Storage File System check...NO PROBLEM
 I/O Pinging checksum...NO PROBLEM
 Complete Operating system Starting.

 Run up R-AI Application Ver2.1
 Loaded A.I. Database Files...complete
 PERSONAL LETTER R-F01[FELLIO]
 Sequencer calling...Condition GREEN
 Ended Starting step and Begin Running.


 瞳を開く。視界が広がる。
 真っ先に目に入るのは、ベージュの天井、スパイラルハーネスで吊り下げられたケーブルの束。
 次いで、覗き込んでくる、2人の男性の姿。

「よし、身体を起こしてみろ」

 メガネをかけた小柄な男性の言葉に、ゆっくりと上半身を起こし、今まで横たわっていたベッドのようなそれに、腰掛けるようにする。
 視界の中に、続いて2人の女性が目に入った。ただし1人は、長い銀髪に、両耳の傍らに大型の可動式アンテナ、自分にちかしい存在だった。

「自分の名前を言えるか?」

「はい、R-F01 フェリオ、です」

 集光用耐摩耗コーティング光ファイバーの髪は、整えられたショートカット。小柄な、少女の姿。
 しかしその頭部、左耳の後ろには、シータやファイと同じバータイプのアンテナがついている。
 彼女は、朱鷺光の問いかけに淀みなく、そう答えた。

「俺のことが解るか?」
「はい、左文字朱鷺光さん。私の製作者です」

 フェリオは、穏やかな笑みに鈴を鳴らすような声で、そう言った。

「ここにいるメンバーのことは?」
「はい、もう1人の製作者の長谷川弘介さん、それと、私の一番上のお姉さんのR-1、オムリンです」

 フェリオは、そこまでよどみなく答えてから、1人の女性に視線を向けて、少し困ったような表情をした。

「ああ、彼女は平城真帆子。えっと……ちょっと事情があって、うちに滞在している」

 朱鷺光が、フェリオが逡巡していることに気づいて、そう説明した。

「あ、えっと……よろしくお願いします、平城さん」
「よろしく、ああ……ファーストネームで呼んでくれるかしら」
「あ、はい。えーっと、真帆子さん」

 言葉を交わしつつ、真帆子が右手を差し出すと、フェリオは握手に応えた。

「立ち上がってみてくれるか?」

 真帆子が離れると、今度は弘介が少し近づいて、フェリオのアンテナ基部からEthernetケーブルを取り外しつつ、フェリオにそう言った。
 イーサネットケーブルは、スパイラルハーネスに引っ張られて天井へと上がっていく。

「よいしょ、と……」

 フェリオが立ち上がろうとする。

「そのまま、ちょっといろいろポーズを取ってみてくれるか?」
「はい」

 弘介がそう言うと、フェリオは、いろいろな姿勢をとってみる。
 その傍らで、

「にしても、なんで、初期状態で朱鷺光さん達のことは知ってるんです? その割に私のことは知らなかったですし」
「そりゃ、ファイのマスターコピーが叩き台だし」

 と、訊ねる真帆子に対し、朱鷺光は、両手を頭の後ろに回すようにし、どこかすっとぼけた様子で、そう答えた。

「あ、だからこんな短期間で開発できたんですか?」
「いや、A.I.形成そのものは今回の騒ぎが始まる前から仕掛けておいたもんだよ」

 真帆子が少し呆れたように言うが、朱鷺光は弁明するようにそう言った。
 一方で、

「コンディションチェックかけてみてくれ、特にオートバランサー周り」
「はい」

 弘介の指示に、フェリオがそう応える。

「今回のネーミングには、何か意味があるのか?」

 オムリンが、朱鷺光に訊ねる。
 朱鷺光は、腕をほどいて、軽く身を起こすように姿勢を直した。

「FELLOWのもじり。仲間、を意味する英単語だな」
「生粋の日本人らしい、朱鷺光さんの考え方ね」

 朱鷺光がオムリンに説明すると、その視線が向いている後ろから、真帆子がそう言った。

「まぁ……ね」

 朱鷺光が苦笑しながら言う。

「どういう意味だ?」

 オムリンが、2人に向かって問いかけてくる。

「英語圏では、単語の文字記号をバラバラにするってあまり一般じゃないんだよ」
「例えば“dog”を逆さまにして、って言うと、日本人は“god”を思い浮かべるわよね。だけど、英語圏ではこういう考え方をしないの」

 朱鷺光に続いて、真帆子が説明する。

「だから、日本では“逆さ言葉”とか、“回文”って、幼い頃から慣れ親しむものだけど、英語圏ではアナグラムとかはもう暗号の域なのよ。もちろん、それほど大げさなものではないけど」

 真帆子は、軽い笑みで総説明するも、わずかに置いてから、少し驚いたような顔になり、

「…………R-1がそんな事を気にするなんて、珍しいんじゃない?」

 と、言った。

「私にも好奇心はある」

 オムリンは、珍しく、心外な、と言った感じの表情になって、そう言った。

「特に、私達の名前に関することには気になる事が多いんだ」
「R.Seriesの名前…………」

 オムリンの言葉に、真帆子が、キョトン、とした表情をする。

「……そう言えば、R-2からR-4までは、ギリシャ文字に由来してるんだったわね?」
「ファイは間違えたけどな」

 朱鷺光が言葉を発しようとしたところへ、弘介が2人には背後を見せたままそう言った。

「お前ね、俺が説明しようとことを先んじるんじゃないよ」
「事実だろ?」

 朱鷺光が、おどけ混じりに抗議する声を上げるが、弘介は、顔だけで振り向き、唇を尖らせた感じで、そう言った。

「セルフコンディションチェック完了、オールグリーンです」

 フェリオの言葉に、弘介がそちらに顔を向ける。

「オートバランサーは?」
「はい、許容範囲です」

 フェリオが笑顔になって答えると、弘介は軽く胸をなでおろすような仕種をした。

「はー、重心高さが変わると、気を使うぜやっぱり」

 その一方で、真帆子が、朱鷺光の傍らで、親指を唇に当てながら、少し考え込む。

「さて、そうしたら片付けしないとな」

 朱鷺光が、手をぱんぱんとたたきながらそう言って、メンテナンスデッキの周囲に広げられた防水シートを巻き上げようとする。

「私が手伝えばいいか? それともシータを呼んでくるか?」

 オムリンが、朱鷺光の背後からそう訊ねる。

「んー、わざわざ手伝いを呼ぶほどでもないだろう、それほどとっ散らかってもいないし」

 朱鷺光は作業室内を見回すようにして、そう言った。

「解った」

 オムリンはそう言うと、朱鷺光と弘介とともに、防水シートを巻き上げ始めた。

「あ、私もお手伝いします!」

 フェリオが言う。

「それじゃあ、このシート巻き取ってくれるか? 俺は工具の片付けをするから」

 そう、弘介が言った。すると、朱鷺光が一旦身体を上げて、不満そうな顔で弘介に視線を向ける。
 防水シートは巻き取っていくとそこそこ重い。しかもかがんでの作業になるので、結構きつい。
 なので朱鷺光は、弘介が厄介事をフェリオに任せたな、と、声には出さずに表現したわけだ。

「シータ呼べばいいじゃないかよ……」

 工具を集めながら、弘介はそう言った。

 真帆子は立ち尽くして考え込んでいたが、別に朱鷺光も弘介も、それを咎めるようなことはしなかった。

「オムリン……は……?」

 真帆子が言うと、オムリンが身を起こして、真帆子を見るその表情が、一瞬口元を釣り上げた。


「うっわー! 可愛いー!!」
「あわわ……」

 リビングでお披露目会となるや、颯華そうかはフェリオの姿を見るなり、そう言って、フェリオに抱きついた。
 フェリオは一瞬慌てるも、しっかりと姿勢を立て直す。

「まーた趣味丸出しにして……元ネタずいぶん古くない?」
「わかるお前もそれなりだろうがよ」

 それを見ていた爽風さやかは、隣りにいる朱鷺光に対して、呆れ果てたように言い、ジトっとした視線を朱鷺光に向けた。
 それに対して、朱鷺光は戯けたような苦笑でそう言い返した。

「ずいぶん小柄なようじゃが……性能は満足できているのかいの?」

 その爽風とは朱鷺光を挟んで反対側から、ローソファの背ずり越しに、光之進が朱鷺光に問いかける。

「動力性能は、スペック上はファイとほぼ同じに仕上がってるはずだけど」
「ファイよりあんなに小柄で?」

 朱鷺光が光之進に言うと、また爽風が朱鷺光の方を向いてそう言った。

「ファイやシータは冗長性があるからなぁ、今までの運用実績から見直して、余計なところ省けばこれぐらいはできるんだよ」

 朱鷺光が、またやはり爽風に説明する。

「なるほどねぇ……」

 それまでフェリオに抱きついて髪をわしゃわしゃしていた颯風が、そのフェリオの両肩をつかんで少し間を開けると、フェリオの顔をしげしげと見つめた。

「それ以外の性能は?」

 光之進が、朱鷺光に問いかける。

「センサー類とか、とりあえずコンピュータ周りはどうなるか解らんから、ファイと同じものにしてあるけど……」
「カスタマイズの余裕はない、と?」
「いや、OSはシロと同じ2.1だし、後から拡張する余裕は残してあるよ」
「ふむ……運用試験にはいつから投入できる?」
「そのことなんだけど……」

 それまで、光之進に説明していた朱鷺光だったが、それを問いかけられると、少し言葉を潜めた。

「うちでまず運転試験したいのはあるけど、それも兼ねて少し時間をもらってもいいか?」
「ふむ? この前の件と何か関係があったりするのかの?」
「解らん。そこからして調べたいんだ」
「解った。まぁ急がせはせんよ。急いては事を仕損じる、からの」

 朱鷺光が少し険しい表情で言うのに対して、光之進はどこか飄々とした様子でそう言った。

「また力が必要ならいつでも言ってこい」
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