7 / 19
雅人さんの過去と義兄貴との再会
しおりを挟む
毎回、新しいお客様に会う時には緊張する。俺には万が一に備えて緊急用のブザーを渡されている。大音量で「助けてー」と音声が出るし何かあればホテル側が突入する場合もある。それと……仕事の時は防犯用のチョーカーに付け替える。これは刃物でも切れない仕様だ。万が一突然ヒートになってアルファに頸を噛まれたとしても大丈夫なようにと安全面は確保されてる。俺たちオメガがここで安全に働けてるのも雅人さんのおかげだ。でもそれは雅人さんの妹さんのおかげなのだ。
雅人さんの妹さんはオメガだった。両親も兄妹もアルファなのに自分だけがオメガだったという現実を受け止められず高校卒業してすぐ家を飛び出してしまった。でもオメガというだけで仕事をする場所がなくて結局、娼婦の仕事をするしかなかった。毎日何人も相手にするうちに誰の子かわからない子を身ごもってしまった。妹さんが働いてたところはセキュリティーもずさんだったし責任も取らなかった。それどころか妹さんを切り捨てた。子どもがお腹にいる中、仕事もできない。家にも帰ることができずに結局は自殺してしまったそうだ。雅人さんと家族は妹さんをずっと探していたが見つからず結局、変わり果てた姿で戻ってきた。雅人さんは弁護士として大手で働いていたのをやめてこの業界に足を踏み入れた。妹さんみたいなオメガを増やしたくないと、弁護士で培ったノウハウを生かし働く人もここを利用する人にもちゃんとした職場にしようと……家族や友達からは色々言われたが、この業界から身を引くことはしなかった。利用者に身分の提出を求めたのも雅人さんのところが初めてだったからか最初は偽造者も多かった。そのため、違法や事故を未然に防ぐために知り合いの警察官と連携をとるようになった。そのおかげでここは安心して働けるとオメガの中で広がった。また利用者たちにも、ここを利用したことがばれないようにする配慮をしたおかげで利用者も増えていき、この業界では有名なお店だった。
◇◆◇◆◇◆
雅人さんから送られた部屋番号を再度確認して俺は緊張しながら部屋のチャイムを鳴らした。
「ガチャ」という音とともにドアが開いた。でもお客様の顔を見て俺は固まってしまいその場から動けなくなった。
「入って」
腕を引かれソファーに促された。俺の隣に座った義兄貴は俺の手を両手で固く握りしめて「ようやく見つけた」と……苦しそうな声を出した。
「なんで……」
ひきつれた声が出たと同時に身体が震えた。この5年、見つからずに生きてきたのに……
「色々、探したんだ。ここにいるなんて考えてもみなかった。もっと早くに見つけてたら……本当に悪かった」
そう言って控えめに俺を抱きしめてきた。俺はなんでここにいるかなんてわからずにパニックになってしまった。息が苦しくて……苦しくて……それと同時に頭の中が真っ白になったのを最後に俺の記憶はプツリと途切れた。
どのくらいの時間が経ったのかわからないが誰かが話している声がして目を覚ました。雅人さんと義兄貴が俺の寝ているベットの横に座っていた。
「目、覚めたか?」
「海里、気分は?」
俺はなんで雅人さんがいるのか訳がわからなくて2人の顔を交互に見上げていた。
「お前の本当の名前は海里だったんだな」
そう雅人さんに言われて義兄貴が俺のことを話したと察した。それと同時に俺はこのまま義兄貴に実家に戻されるんだろう。知られたくなかった。この仕事をしてることを義兄貴にだけには……きっと軽蔑されるだろう。今まで自分が必死に過ごしてきたけど一度も忘れられなかった義兄貴の顔はあの頃より年齢を重ねても屓目秀麗になっていた。義兄貴にお似合いのアルファ女性と結婚しているのだろうか?そう考えるだけで胸がチクリと痛くなった。
「海里、帰ろう。生きるためにこの仕事をしてきたんだと思うけどもういいだろう。父さんも義母さんも心配してる。海里が生きてくれていてくれただけでも俺たちは嬉しいよ」
そう言って俺の頭を撫でようとした義兄貴の手を振り払った。
「そんな綺麗事、言わなくていいよ。アルファからオメガになった俺のことなんて最悪だと思ってるんだろ?こんな仕事をしてる俺のことなんて軽蔑してるんだろ?オメガになった俺はこの仕事しかまともに働くことができなかったんだよ。義兄貴はアルファの女性と結婚した?お義父さんの会社を継いでるんだろ?アルファ様は凄いよな~生まれたときから順風満帆に生きられて。生きづらいなんて感じたことなんかないだろ。でも俺も感謝しないとな。アルファ様がいるおかげでこの仕事ができてるんだよ。俺はこの通り元気で生きてるけど、あの家には二度と戻らないって決めて家を出たんだ。このままほっといてくれよ」
言いたいことだけ言って布団を被った。義兄貴の顔は見られなかった。
そんな一方的に言いたいことだけ言った俺なのに義兄貴は怒ることもせず布団の上から撫でてくれていた。義兄貴の優しい手つきに涙が溢れそうになったとき雅人さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「海、仕事だ。明日の9時までこいつはお前の客だ。高い金払ってお前との時間を買ったんだ。プロならプロらしくしっかりやれ!今までだって色んな客を相手にしてきたんだろう?その根性はどこにやっちまったんだ。逃げも隠れもせずにこいつと向き合え。それでもやっぱりここがいいと思ったら帰ってこい。俺はお前の意思を尊重するから。大嶋、お前もちゃんと話せ、海は賢いからちゃんと聞いてくれるだろうから……」
そう言うとガチャリとドアの開閉する音が聞こえた。雅人さんは帰っていったんだ。俺は義兄貴とどうやって向き合おうかと考えてると義兄貴が話し出した。
雅人さんの妹さんはオメガだった。両親も兄妹もアルファなのに自分だけがオメガだったという現実を受け止められず高校卒業してすぐ家を飛び出してしまった。でもオメガというだけで仕事をする場所がなくて結局、娼婦の仕事をするしかなかった。毎日何人も相手にするうちに誰の子かわからない子を身ごもってしまった。妹さんが働いてたところはセキュリティーもずさんだったし責任も取らなかった。それどころか妹さんを切り捨てた。子どもがお腹にいる中、仕事もできない。家にも帰ることができずに結局は自殺してしまったそうだ。雅人さんと家族は妹さんをずっと探していたが見つからず結局、変わり果てた姿で戻ってきた。雅人さんは弁護士として大手で働いていたのをやめてこの業界に足を踏み入れた。妹さんみたいなオメガを増やしたくないと、弁護士で培ったノウハウを生かし働く人もここを利用する人にもちゃんとした職場にしようと……家族や友達からは色々言われたが、この業界から身を引くことはしなかった。利用者に身分の提出を求めたのも雅人さんのところが初めてだったからか最初は偽造者も多かった。そのため、違法や事故を未然に防ぐために知り合いの警察官と連携をとるようになった。そのおかげでここは安心して働けるとオメガの中で広がった。また利用者たちにも、ここを利用したことがばれないようにする配慮をしたおかげで利用者も増えていき、この業界では有名なお店だった。
◇◆◇◆◇◆
雅人さんから送られた部屋番号を再度確認して俺は緊張しながら部屋のチャイムを鳴らした。
「ガチャ」という音とともにドアが開いた。でもお客様の顔を見て俺は固まってしまいその場から動けなくなった。
「入って」
腕を引かれソファーに促された。俺の隣に座った義兄貴は俺の手を両手で固く握りしめて「ようやく見つけた」と……苦しそうな声を出した。
「なんで……」
ひきつれた声が出たと同時に身体が震えた。この5年、見つからずに生きてきたのに……
「色々、探したんだ。ここにいるなんて考えてもみなかった。もっと早くに見つけてたら……本当に悪かった」
そう言って控えめに俺を抱きしめてきた。俺はなんでここにいるかなんてわからずにパニックになってしまった。息が苦しくて……苦しくて……それと同時に頭の中が真っ白になったのを最後に俺の記憶はプツリと途切れた。
どのくらいの時間が経ったのかわからないが誰かが話している声がして目を覚ました。雅人さんと義兄貴が俺の寝ているベットの横に座っていた。
「目、覚めたか?」
「海里、気分は?」
俺はなんで雅人さんがいるのか訳がわからなくて2人の顔を交互に見上げていた。
「お前の本当の名前は海里だったんだな」
そう雅人さんに言われて義兄貴が俺のことを話したと察した。それと同時に俺はこのまま義兄貴に実家に戻されるんだろう。知られたくなかった。この仕事をしてることを義兄貴にだけには……きっと軽蔑されるだろう。今まで自分が必死に過ごしてきたけど一度も忘れられなかった義兄貴の顔はあの頃より年齢を重ねても屓目秀麗になっていた。義兄貴にお似合いのアルファ女性と結婚しているのだろうか?そう考えるだけで胸がチクリと痛くなった。
「海里、帰ろう。生きるためにこの仕事をしてきたんだと思うけどもういいだろう。父さんも義母さんも心配してる。海里が生きてくれていてくれただけでも俺たちは嬉しいよ」
そう言って俺の頭を撫でようとした義兄貴の手を振り払った。
「そんな綺麗事、言わなくていいよ。アルファからオメガになった俺のことなんて最悪だと思ってるんだろ?こんな仕事をしてる俺のことなんて軽蔑してるんだろ?オメガになった俺はこの仕事しかまともに働くことができなかったんだよ。義兄貴はアルファの女性と結婚した?お義父さんの会社を継いでるんだろ?アルファ様は凄いよな~生まれたときから順風満帆に生きられて。生きづらいなんて感じたことなんかないだろ。でも俺も感謝しないとな。アルファ様がいるおかげでこの仕事ができてるんだよ。俺はこの通り元気で生きてるけど、あの家には二度と戻らないって決めて家を出たんだ。このままほっといてくれよ」
言いたいことだけ言って布団を被った。義兄貴の顔は見られなかった。
そんな一方的に言いたいことだけ言った俺なのに義兄貴は怒ることもせず布団の上から撫でてくれていた。義兄貴の優しい手つきに涙が溢れそうになったとき雅人さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「海、仕事だ。明日の9時までこいつはお前の客だ。高い金払ってお前との時間を買ったんだ。プロならプロらしくしっかりやれ!今までだって色んな客を相手にしてきたんだろう?その根性はどこにやっちまったんだ。逃げも隠れもせずにこいつと向き合え。それでもやっぱりここがいいと思ったら帰ってこい。俺はお前の意思を尊重するから。大嶋、お前もちゃんと話せ、海は賢いからちゃんと聞いてくれるだろうから……」
そう言うとガチャリとドアの開閉する音が聞こえた。雅人さんは帰っていったんだ。俺は義兄貴とどうやって向き合おうかと考えてると義兄貴が話し出した。
281
あなたにおすすめの小説
その言葉を聞かせて
ユーリ
BL
「好きだよ、都。たとえお前がどんな姿になっても愛してる」
夢の中へ入り化け物退治をする双子の長谷部兄弟は、あるものを探していた。それは弟の都が奪われたものでーー
「どんな状況でもどんな状態でも都だけを愛してる」奪われた弟のとあるものを探す兄×壊れ続ける中で微笑む弟「僕は体の機能を失うことが兄さんへの愛情表現だよ」ーーキミへ向けるたった二文字の言葉。
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
【完結済】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜
キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。
そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。
近づきたいのに近づけない。
すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。
秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。
プロローグ+全8話+エピローグ
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる