αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの

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思い出のケーキ

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涙と鼻水で酷い顔を洗ったあと、しばらく洗面台の前でにらめっこをしていた。どんな顔で義兄貴の前に立とうかと……でもそんな俺の気持ちを知っていたのか義兄貴が洗面台の前にやってきた。

「海里、また難しい顔してるぞ。あまりにも遅いから迎えに来た」
俺の後ろに立って俺の頬を両手で挟んだりして変顔をさせる「やめてよ」と振り向くと義兄貴の目と合った。
バチンと音がしそうなほど心が揺さぶれた。あ~本当に義兄貴が好きだわ。自覚してしまってだんだんと顔が赤くなるのを感じた途端、義兄貴は俺の額にキスを落とした。そして何事もないように「ルームサービス頼んだんだ。そろそろ届くと思うから食べようか。本当は外で食べてもよかったんだけどごめんな今の海里を誰にも見せたくなかったから。海里が何が好きなのかわからないから苦手なものがあったら食べなくてもいいからね」と俺の腰に手を当てて部屋にと誘導されたそのタイミングで料理が次々と運ばれてきた。

前菜、オニオングラタンスープ、魚や肉料理、籠に入ったパンやフルーツが乗ってるシャーベット……フルコースの料理がテーブルいっぱいに並べられた。
「こちらは冷蔵庫に入れておきましょうか?」
ギャルソンが声をかけてきた。それは真っ白い小さな箱に赤いリボンがかけられていた。

「お願いします」
義兄貴が伝えると備え付けの冷蔵庫にしまった。何が入ってるんだろう?無意識に目で追ってると義兄貴はあれは後でのお楽しみだからと俺を椅子に座らせた。
「海里はお酒は飲めるのか?」
そう聞かれて一応……というと俺には軽めのシャンパンを義兄貴は白ワインを頼んで2人で乾杯をして食べ始めた。こんなにおいしい料理なんて久しぶりだな。なんて思って口に運ぶけど、もともと小食だったがこの仕事を始めてから1日1食しか食べないようになってしまい俺は半分もしないうちにお腹がいっぱいになってきた。

「もうごちそう様か?」
申し訳なくて膝に置いたナフキンを握りしめた。こんな俺にごちそうしてくれてるのに満足に食べられない。でも無理して食べるとお腹が痛くなって余計に心配をかけてしまう。

「海里、無理して食べなくてもいいが……いつもそのくらいしか食べられないのか?昔から小食だったけど、あの頃より食べられないんじゃ……」
義兄貴は眉間に皺を寄せていた。
「ごめんなさい。俺あんまり食べられないんだ。食べると調子が悪くなるからあんまり食べないようにしてる」
そういうとそうか……もっと軽めのご飯にすればよかったな。明日の朝は軽食にするからと言われたが俺は兄貴と泊まる予定はない。確かに俺の時間を買ったのかもしれないけど俺はお金を返すつもりでいた。話が終わったら帰ろうと……

「これは食べれるか?」
さっき冷蔵庫に入れていた小さな箱を俺の前に置いてくれた。義兄貴に言われて開けてみるとイチゴのショートケーキだった。
「どんなに食が細くてもそれだけは食べられただろう?」
確かに小さい頃から食が細かった。でもやっぱりケーキは別腹で特にいちごのショートケーキが俺のお気に入りだった。だから俺があまり食べない日には誰かがショートケーキを買ってきてくれた。でもそれも昔の話だ。俺は家を出てからあえてこのケーキは食べないように過ごしてきた。俺の好物を家族みんなが買ってきてくれたという思い出のケーキだったから……俺の顔がだんだんと曇ってきたのを見て義兄貴は悪い子ども扱いしてしまったなと頭を掻きながらその箱を俺の前からどかしてくれた。

2人の間の沈黙が怖かった。義兄貴と話し合えって言われたけどそんな雰囲気はなくて、どんな話をしていいのかわからなかった。ただ俺はこの場から義兄貴の前から逃げたかった。前と一緒で……でもその前に言いたいことだけは言おうと拳に力を込めた。

「義兄貴はアルファの女性と結婚するんだろ?もう結婚してるの?指輪つけてないみたいだけど……昔、酔っぱらって言ってたもんなオメガは嫌いだって。お義母さんのことで嫌な思いいっぱいしたから、だからアルファの女性と結婚するって。それなのにオメガになった俺のこと好きとか勘違いするようなこと言うなよ。きっと俺の義兄貴が好きって気持ちと義兄貴が俺を好きって気持ちは違うんだからさ。だからもうこれ以上は心配しなくていいから。俺はなんとかやっていくし、母さんにも……これからはちゃんと連絡を取るから」
俺はカバンから財布を取り出して入ってた5万円を義兄貴の前に置いた。

「ごめん。今手持ちこれしかなくて、ホテル代にもならないかもしれないけどあとで残りの分は払うから」
そういってコートを手に持ち部屋を出ようとしたら義兄貴に手首を掴まれた。

「言い逃げか?言いたいことだけ勝手に言って……俺とちゃんと話し合えって言われたこと忘れたのか?」
鋭い目つきで俺は蛇に睨まれた蛙のようにその場に動けなくなった。義兄貴は俺の手首を離さずに握りしめていた。俺を逃がさないように……


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