αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの

文字の大きさ
19 / 19

安心できる場所

しおりを挟む
俺は次の日には退院できると思ったが夜中に具合が悪くなってしまったせいで、数日間、食生活の改善と治療のため入院することになった。本当は早く帰りたかったけど今のままじゃまた迷惑をかけてしまうから我慢することにした。

お義父さんも涼ちゃんも仕事に行ってしまったせいで面会時間に間に合わなかったのか来なかった。母さんは来てくれると期待してたが、熱が出てしまって来れなくなってしまったと看護師さんが教えてくれた。だから俺は毎日1人ぼっちだった。1日1日時間が過ぎるうちに俺の心はまた暗闇に落ちていくようだった。病室の窓から見下ろすと中庭が見えた。面会に来てる人だろうか?みんなでベンチに座って笑いあっている姿が羨ましくて俺はベットに寝転んだ。

俺はここに帰ってきて本当によかったんだろうか?結局みんなに迷惑かけて……それに涼ちゃんは俺が入院した日は一緒にいてくれたが、あれから3日もたったのに1度も面会に来てくれていない。確かに仕事が忙しいのかもしれない。俺のヒートのせいで休ませてしまったし……だけどなんだか寂しい……あんなに1人でも頑張っていたのに温もりに触れてしまったから……早く退院して会いたいよ。俺は1人で枕を濡らした。

「海里ごめんな。なかなか面会時間に来れなくて」
面会時間まで残り5分のところで涼ちゃんが会いに来てくれた。とっても嬉しいのに素直じゃない俺はそっけない態度をとってしまった。でもそんな俺の態度でも涼ちゃんは変わらずに接してくれた。

面会終了のアナウンスが聞こえてきて涼ちゃんがジャケットを着るのをただ見ていた。
「明日は来れると思うから待っててね」
頭を撫でられて嬉しいはずなのに俺はその手を振り払って布団にもぐった。涙がこぼれてくるけど泣いてるのを見せたくなかった。布団の上から撫でてから、そっと出てってしまった。どうして俺は素直に気持ちを伝えられないのだろう。本当はもっと一緒にいたいとか、ずっと抱きしめてほしいとか言いたいことは山ほどあるのに……1人で我慢する生活を送ってきたからか素直に言葉に出すのが難しかった。
涼ちゃんは俺のために色々と動いてくれてることなんてその時はわからなかった。

それから数日が経って俺は退院することになった。まだ完全には治ってないので飲み薬と通院はしないといけないんだけど。先生からはストレスを溜めないように素直に生活することと、ご飯は3食食べなさいと言われた。自分の気持ちに素直にならないといけないことはわかってるけどそれがなかなか難しい。俺が考え込んでいると先生は素直に自分の気持ちを言葉にするのも治療の1つ訓練なんだよ。と……

俺は迎えに来てくれた涼ちゃんに「ありがとう」と伝えてみた。ぶっきらぼうな言い方しかできなかったけど涼ちゃんは「退院おめでとう」と言ってくれた。
車に乗り今日から涼ちゃん家に行くと思っていたが車は実家の車庫に入っていった。

「海里、今日からまた4人で暮らそう。海里はまだ本調子じゃないだろ?それに父さんも義母さんも心配してるからさ。それと……勝手に決めちゃったけど俺、会社辞めるんだ。元々海里を探す目的のために警察官になったんだけど将来は父さんの会社を継ぐことを約束してたから。だからその引継ぎのために動いてて面会にも行けなくてごめん。寂しかっただろうし、本当は怒ってただろう?海里はずっと我慢してるんだよな。海里、俺は海里のことが1番好きだよ。もしかしたら海里は疑ってるかもしれないけど……それでもいいと今は思ってる。いつか俺の愛をわかってくれて、海里がそれに答えてくれる日が来ると信じてる。体調も万全じゃない今の海里を1人にさせるのはやっぱり心配だから、海里が嫌じゃなければこの家でまた4人で始めるのもいいと考えた。義母さんも家にいるから」

俺がいなくなったせいで大学卒業してすぐお義父さんの会社を継げなかったんだと思うと胸が苦しかった。みんなに迷惑かけて、それでも俺を温かく迎えてくれた。涼ちゃんの温かい腕の中で俺は先生に治療の訓練と言われたことを思い出し今の気持ちを伝えた。
「涼ちゃん、これからもずっと一緒にいてください。1人は寂しいから」思わず涼ちゃんの腕を掴むとその手に涼ちゃんの手が重なった。

「当たり前だ。海里が嫌だと言っても、もう二度と離れないから。アルファの独占欲は凄いんだぞ。番だけが1番大切なんだ。一生、海里だけを好きでいるから安心して俺のそばにいろよ」
そう言って抱きしめてくれた。この腕の中が一番安心する場所だと感じながら俺は身をゆだねた。




◇◆◇◆◇◆

それから数ヶ月後、体調も良くなった頃、俺たちは番になった。お義父さんも母さんも喜んでくれた。素直になれないときもあるけれど、それでも涼ちゃんがいつも一緒にいてくれる。俺が不貞腐れても、すぐに抱きしめてたくさんの愛情をくれる。それだけでやっぱり安心できる自分がいるのに気がつく。



俺はこれからも涼ちゃんと生きていく。



end……

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ひろくま
2025.07.16 ひろくま

初めまして。色々とあったけど海里と涼太が結ばれてよかったです。
海里くんの辛さにこちらまで涙が…。涼太くん見つけてくれてありがとう。
番うこともできてよかったです。できれば二人に出来る子供のお話も読みたいですm(_ _)m

2025.07.16 なの

ひろくまさんコメントありがとうございます。リクエストいただきましたが、2人の今後については、考えておりませんでした。すみません。

解除

あなたにおすすめの小説

その言葉を聞かせて

ユーリ
BL
「好きだよ、都。たとえお前がどんな姿になっても愛してる」 夢の中へ入り化け物退治をする双子の長谷部兄弟は、あるものを探していた。それは弟の都が奪われたものでーー 「どんな状況でもどんな状態でも都だけを愛してる」奪われた弟のとあるものを探す兄×壊れ続ける中で微笑む弟「僕は体の機能を失うことが兄さんへの愛情表現だよ」ーーキミへ向けるたった二文字の言葉。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

【完結済】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜

キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。 そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。 近づきたいのに近づけない。 すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。 秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。 プロローグ+全8話+エピローグ

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

どうか溺れる恋をして

ユナタカ
BL
失って、後悔して。 何度1人きりの部屋で泣いていても、もう君は帰らない。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。