猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの

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契約という名の運命

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桐生が初めて店を訪れてから一週間が過ぎた。悠月は毎日、彼が再び現れることを期待していたが、桐生の姿を見ることはなかった。

「悠月、元気ないニャ」

黒猫のマルが心配そうに見上げてきた。

「大丈夫だよ」

悠月はそう答えたが、なぜか胸の奥が寂しかった。たった一度会っただけなのに、どうしてこんなに気になるのだろう。

そんな気持ちでいると、店の扉のベルが鳴った。
振り返ると桐生が約束通り現れた。

今日は紺色のスーツではなく、カジュアルなシャツとジャケット。それでも品の良さは変わらず、むしろ親しみやすさが増していた。

「こんにちは、悠月さん」

「桐生さん……」

悠月は慌てて立ち上がろうとして、椅子につまずきそうになった。

「大丈夫ですか?」

桐生がさっと手を差し伸べた。その瞬間、悠月の心臓が大きく跳ねた。

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」

桐生は軽く頭を下げると、また猫カフェエリアに向かった。猫たちは昨日以上に彼の傍に寄ってきた。

「考えていただけましたか?」

「あの、契約って具体的には……?」

悠月は緊張しながら尋ねると、桐生は優しく微笑んだ。

「まず、俺がこの店の共同経営者になること。資金面での支援と、経営の立て直しを行います」

悠月と健太郎は顔を見合わせた。

「でも、どうして?」

「この店と、猫たちが気に入ったからです」

桐生は微笑んで、視線は悠月に向けられた。

「それに……悠月さんには、お願いがあります」

桐生の表情が少し真剣になった。

「俺も一緒に、住まわせてもらいたい」

「え?」

悠月の顔が一気に赤くなった。

「な、なんで一緒に……?」

「経営を軌道に乗せるには、二十四時間体制で取り組む必要があります。それに……悠月さんには、特別な才能がある。猫たちとのコミュニケーション能力です」

悠月の心臓が跳ねた。まさか、気づかれている?

「猫の気持ちを理解できる人は貴重です。この店の再生には悠月さんの力が不可欠なんです」

ほっとしたような、でも少し寂しいような複雑な気持ちになった。ただ、桐生は悠月の特殊能力には気づいていないようだ。

健太郎は悠月の肩に手を置いた。

「悠月、お前はどう思う?」

「僕は……」

悠月は迷った。桐生の提案は魅力的だが、一緒に住むという条件が引っかかる。でも、このままでは本当に店が無くなってしまう。

「僕が契約すれば、本当にみんなを守ってくれるんですか?」

「約束します」

玲音の声に嘘はなかった。
悠月は猫たちを見回した。みんな心配そうに自分を見つめている。この子たちを守るためなら……

「分かりました。契約します」

「そうか……」

健太郎は優しく微笑んだ。

「わかった。桐生さん、よろしくお願いします」

***

翌日、桐生は詳細な契約書を持参した。

「資金提供、経営コンサルティング、マーケティング支援。すべて俺の会社が担当します」

契約書には、確かに「共同居住による密接な連携」という項目があった。

「桐生さんの部屋はどうしたら……」

「ここの二階をもう少し改装して、悠月さんと俺の二人で住めるようにします」

悠月は今住んでいる二階を見上げた。健太郎と二人で暮らしているが、桐生が加わるとなると確かに改装が必要だった。

「叔父さんは?」

「健太郎さんには、一階奥にあるスペースを改装して移ってもらいます。プライベートも確保できますし、店の管理もしやすくなる」

なるほど、と悠月は納得した。店の奥には確かに部屋がある。今は物置になっているが……

「期間は?」

「とりあえず一年。店が軌道に乗ったら、契約内容を見直しましょう」

一年……悠月にとっては長い時間に感じられた。

「分かりました」

悠月は震える手でペンを取った。

「本当に、よろしいんですか?」

桐生の優しい声に、悠月は頷いた。

「はい。猫たちのためにも」

契約書にサインをした瞬間、なぜか運命が大きく動いた気がした。

***

二週間後、健太郎の部屋と二階の改装が完了した。
桐生の手配で、あっという間にモダンで住みやすい空間に生まれ変わっていた。リビング、キッチン、それぞれの個室、そして猫たちも自由に行き来できる設計。

「すごい……」

悠月は改装された部屋を見回して感嘆した。

「気に入ってもらえて良かった」

桐生は大きなスーツケースを持って現れた。

「今日から、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

悠月は緊張で声が震えていた。年上の、しかもこんなに魅力的な男性と一緒に住むなんて。

「悠月、無理はしないでください。俺たちはパートナーです。対等な関係です」

その言葉に、悠月の緊張が少しほぐれた。

「はい。桐生さん」

「玲音でいいです」

「玲音……さん」

夜、それぞれの部屋に入る前、玲音が言った。

「明日から、新しいニャンコの隠れ家の始まりです」

悠月は窓から夜空を見上げた。満月が美しく輝いている。
新しい生活への期待と不安が入り混じった気持ちで、悠月は眠りについた。

でも、そのときはまだ、知らなかった。
満月の夜、桐生の部屋からは人間のものとは思えない、低い唸り声が聞こえていることを――


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