猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの

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甘い日常と隠された秘密

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「おはよう」

玲音の声で、悠月は目を覚ました。

改装された二階のリビングから、美味しそうな匂いが漂ってくる。悠月は慌てて起き上がり、パジャマのまま部屋を出た。

「あ、おはようございます」

キッチンでは玲音がエプロン姿で朝食を作っていた。その姿があまりにも自然で、悠月は一瞬見とれてしまった。

「悠月はパンケーキ、好きですか?」

「は、はい。大好きです」

「良かった。猫たちの分も作りましたよ」

玲音は小皿に猫用の特別なパンケーキを盛り付けていた。

「猫用のパンケーキなんてあるんですか?」

「俺の手作りです。小麦粉の代わりに米粉を使って、砂糖は入れずに……」

「すごい……」

悠月は感動した。玲音は本当に猫のことを考えてくれている。

「悠月、ありがとうニャン!」
「玲音、大好きニャ!」

猫たちが嬉しそうに鳴いている。悠月には彼らの声が聞こえるが、玲音にも何となく伝わっているようだった。

同居生活が始まって一週間。店には確実に変化が現れていた。

玲音の提案で、午前中は従来通りの喫茶店営業、午後は猫カフェメインの営業に切り替えた。さらに、SNSでの情報発信も始めている。

「今日も新しいお客さんが三組来ましたね」

悠月は嬉しそうに報告した。

「悠月の接客が良いからですよ」

玲音の褒め言葉に、悠月の頬がほんのり染まる。

「そんなことないです」

「いえ、本当に。猫たちも悠月といる時が一番リラックスしている」

玲音は優しく悠月の頭を撫でた。その瞬間、悠月の心臓が大きく跳ねる。

「あ、あの……」

「ごめんなさい。つい」

玲音は慌てて手を引っ込めたが、その頬も少し赤くなっていた。

その夜、悠月は喉が渇いて目を覚ました。

キッチンに向かう途中、玲音の部屋の前を通りかかった時、中から低い声が聞こえてきた。

「……大丈夫だ。もう少しの辛抱だ」

誰かと電話をしているのだろうか。でも、声の調子がいつもと違う。もっと野性的で、どこか苦しそうで――

「悠月?」

突然ドアが開いて、玲音が顔を出した。

「あ、すみません。水を飲みに……」

「そうですか。俺も喉が渇いて」

玲音も一緒にキッチンに向かった。月明かりの中で見る玲音の横顔は、いつもより鋭く見える。

「玲音さん、お仕事大変ですか?」

「え?」

「さっき、お電話されてたみたいで」

玲音の表情が一瞬強張った。

「ああ、海外の取引先です。時差があるので」

「そうなんですね」

でも悠月には、それが嘘のように感じられた。

***

翌日は満月だった。
夜になると、猫たちがそわそわし始めた。

「今夜は特別な夜だニャ」
「玲音、大丈夫かニャン」
「悠月、気をつけてニャ」

猫たちの会話が、いつもより深刻に聞こえいた。

「みんな、どうしたの?」

悠月が尋ねても、猫たちははっきりと答えてくれない。

夜中、悠月は再び目を覚ました。
今度は、明らかに人間のものではない声が聞こえる。低い唸り声、そして何かを我慢しているような苦しそうな息遣い。

玲音の部屋からだった。

悠月は心配になって、そっとドアに近づいた。

「玲音さん?大丈夫ですか?」

しばらく静寂が続いた後、いつもの優しい声が返ってきた。

「大丈夫です。ちょっと悪夢を見ただけで……」

「本当に?」

「はい。心配をかけてすみません」

でも悠月には分かっていた。あれは悪夢の声ではない。

翌朝、玲音はいつもより疲れているように見えた。

「昨夜はすみませんでした」

「いえ、大丈夫です。でも、無理しないでくださいね」

悠月は心配そうに玲音を見つめた。

「悠月は、優しいですね」

玲音は悠月の手をそっと握った。その手が、いつもより熱い。

「俺、悠月に出会えて本当に良かった」

「僕も……」

二人の距離が縮まった瞬間、ミケが間に飛び込んできた。

「おはよう!今日も良い天気だね!」

「あ、ミケ」

悠月は慌てて手を離した。玲音は苦笑いしている。

「猫たちは、タイミングが絶妙ですね」

「そうですね」

でも悠月は気づいていた。ミケが故意に邪魔をしたことを。

「悠月、気をつけて」

ミケの小さな声が聞こえた。

その日の午後、悠月は一人で考え込んでいた。
玲音の正体について、猫たちは何かを知っている。でも教えてくれない。

「コロさん……」

悠月は長老猫のコロに話しかけた。

「玲音さんのこと、何か知ってるんですよね?」

コロは悠月をじっと見つめた。

「悠月、君はどう思う?」

「優しくて、頼りになって、でも……時々、人間じゃないみたいに感じることがあります」

「そうか」

コロは小さくため息をついた。

「時が来れば、分かる。でも今は、君の心に従いなさい」

「心に?」

「君は玲音を、どう思ってる?」

悠月の頬が赤くなった。

「それは……」

答える前に、玲音が店に戻ってきた。

「悠月、お疲れさまです」

「お帰りなさい」

玲音の笑顔を見ていると、正体なんてどうでもいいような気がしてくる。

でも心の奥で、小さな不安が芽生え始めていた。

この優しさは本物なのか。それとも、契約のためだけなのか――

夕日が店内を染める中、悠月は複雑な気持ちで玲音を見つめていた。


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