5 / 12
月夜に現れた真実
しおりを挟む
同居生活が始まって三週間。悠月と玲音の関係は、少しずつ自然なものになっていた。
朝は玲音が作る朝食、夜は叔父さんと三人で店の売上を確認しながらの夕食。何気ない会話の中で、悠月は玲音の優しさに触れるたびに、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「悠月、今日はお疲れさまでした」
閉店後、玲音が悠月の肩にそっと手を置いた。
「玲音さんこそ。今日は新規のお客さんが五組も来てくださいましたね」
「悠月の接客のおかげです」
玲音の手が、優しく悠月の髪を撫でる。最初は驚いていた悠月も、今ではこの優しい触れ合いが自然に感じられるようになっていた。
「あの……玲音さん」
「はい?」
「僕、玲音さんと出会えて……嬉しいです」
悠月は恥ずかしくなって俯いた。
「俺も悠月と一緒にいると、心が安らぎます」
玲音の声が、いつもより低く、温かい。二人の距離が縮まった時、またもやミケが間に割って入った。
悠月は苦笑いした。最近、猫たちが二人の邪魔をすることが多い気がする。
その夜、悠月は眠れずにいた。玲音への気持ちが日に日に大きくなっている。でも同時に、彼の正体への疑問も消えない。
満月の夜の唸り声、猫たちの意味深な態度、そして時々見せる野性的な表情――
「悠月、起きてるの?」
ベッドの端で、コロが心配そうに見つめていた。
「コロさん。眠れなくて」
「玲音のこと?」
「……はい」
悠月は正直に答えた。
「僕、玲音さんのことが好きになってしまったみたいです。でも、彼のことを何も知らない……」
コロは長い間、悠月を見つめていた。
「悠月、君は強い子だ。だから教えてあげる」
「え?」
「玲音は、ライオン族の獣人よ」
悠月の心臓が止まりそうになった。
「獣、人……?」
「そう。満月の夜には、本来の姿に戻らざるを得ない。でも君を驚かせたくなくて、必死に我慢してる」
コロの言葉に、悠月は様々なことが繋がった。猫たちが懐く理由、野性的な雰囲気、満月の夜の苦しそうな声――
「でも、なんで僕と契約を?」
「それは、玲音本人から聞きなさい。でも一つだけ言えるのは」
コロは悠月に近づいた。
「あの人の君への気持ちは、本物よ」
翌日の夜、激しい雨が降り始めた。
店は早めに閉めて、悠月と玲音は二階で過ごしていた。でも玲音の様子がおかしい。そわそわと落ち着かず、時々窓の外を見つめていた。
「玲音さん、大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫です」
でも玲音の額には汗が浮かんでいた。
その時、雨が止み雲間から満月が顔を出した。
「っ……!」
玲音が突然苦しそうに身を屈めた。
「玲音さん!」
悠月が駆け寄ろうとした瞬間、玲音が振り返った。その瞳は金色に光っていた。
「悠月……離れろっ」
玲音の声が、いつもと違う。低く、野性的で……
「でも……」
「お願いだ。今は……」
玲音の体が震えている。必死に何かを抑えようとしているのが分かった。
悠月は決心した。
「玲音さん、僕は大丈夫です」
「悠月……?」
「コロさんから聞きました。玲音さんが獣人だということ……」
玲音の表情が驚愕に変わった。
「知って……た……」
「はい。でも……怖くありません」
悠月は玲音に歩み寄った。
「玲音さんは玲音さんです。姿が変わっても」
玲音の瞳から、涙が一筋流れた。
「悠月……」
「無理しないでください。僕の前でも、ありのままの玲音さんでいてください」
その言葉に、玲音の緊張が解けた。
月光が強くなると同時に、玲音の体に変化が現れた。
瞳の金色が、まるで炎のように鮮やかに輝き始めた。髪は漆黒の艶を増し、月光を受けて美しく煌めく。そして――
頭上に、立派な獣の耳がゆっくりと現れた。
玲音の全体的な雰囲気も変わった。普段の穏やかな表情に、野性的な美しさと威厳が加わっている。それでいて、悠月を見つめる眼差しは変わらず優しかった。
「これが……俺の本当の姿……ライオンの獣人だ」
玲音の声は低く、いつもより深みがあった。普段の丁寧な口調とは違うが、威圧感はない。
「怖くは……ないか?」
「全然……むしろ玲音さんらしい気がします」
玲音は驚いたような、嬉しそうな安堵の表情を見せた。
玲音の手が悠月の頬に触れた。
「玲音さん……」
「今は『さん』はいらない。俺たちは対等だ」
優しいが、どこか野性的な響きを持つ声。
「悠月……愛している」
その言葉に悠月は頬を染めた。
二人はソファに座り、悠月は玲音の話を聞いた。
「獣人は、生涯の伴侶を見つける本能がある。悠月に出会った瞬間、運命を感じた」
悠月の心臓が激しく鳴り始めた。
「だが、契約という形にしたのは……悠月を束縛したくなかったからだ。嫌になったら、いつでも契約を破棄できるように」
「玲音さん……」
「でも俺の気持ちは、最初から愛情だ。契約じゃない!」
玲音は悠月の頬にそっと手を当てた。
「悠月を守りたい。一緒にいたい。一生……守りたい」
悠月は玲音の手に自分の手を重ねた。
「玲音……が、人間でも獣人でも、関係ありません」
月光の下で、二人は静かに見つめ合った。
「悠月……キスしてもいいか?」
玲音の問いかけに、悠月は頷いた。
優しく、温かなキス。悠月の初めてのキスは、月夜の下で愛する人と交わされた。
「愛してる、悠月」
「僕も……愛してます」
猫たちが、遠くから静かに二人を見守っていた。
「やっと素直になったニャ」とコロが呟いた。
「これで安心だニャーン」とミケが安堵の声を上げた。
嵐は過ぎ去り、月光が二人を優しく照らしていた。
朝は玲音が作る朝食、夜は叔父さんと三人で店の売上を確認しながらの夕食。何気ない会話の中で、悠月は玲音の優しさに触れるたびに、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「悠月、今日はお疲れさまでした」
閉店後、玲音が悠月の肩にそっと手を置いた。
「玲音さんこそ。今日は新規のお客さんが五組も来てくださいましたね」
「悠月の接客のおかげです」
玲音の手が、優しく悠月の髪を撫でる。最初は驚いていた悠月も、今ではこの優しい触れ合いが自然に感じられるようになっていた。
「あの……玲音さん」
「はい?」
「僕、玲音さんと出会えて……嬉しいです」
悠月は恥ずかしくなって俯いた。
「俺も悠月と一緒にいると、心が安らぎます」
玲音の声が、いつもより低く、温かい。二人の距離が縮まった時、またもやミケが間に割って入った。
悠月は苦笑いした。最近、猫たちが二人の邪魔をすることが多い気がする。
その夜、悠月は眠れずにいた。玲音への気持ちが日に日に大きくなっている。でも同時に、彼の正体への疑問も消えない。
満月の夜の唸り声、猫たちの意味深な態度、そして時々見せる野性的な表情――
「悠月、起きてるの?」
ベッドの端で、コロが心配そうに見つめていた。
「コロさん。眠れなくて」
「玲音のこと?」
「……はい」
悠月は正直に答えた。
「僕、玲音さんのことが好きになってしまったみたいです。でも、彼のことを何も知らない……」
コロは長い間、悠月を見つめていた。
「悠月、君は強い子だ。だから教えてあげる」
「え?」
「玲音は、ライオン族の獣人よ」
悠月の心臓が止まりそうになった。
「獣、人……?」
「そう。満月の夜には、本来の姿に戻らざるを得ない。でも君を驚かせたくなくて、必死に我慢してる」
コロの言葉に、悠月は様々なことが繋がった。猫たちが懐く理由、野性的な雰囲気、満月の夜の苦しそうな声――
「でも、なんで僕と契約を?」
「それは、玲音本人から聞きなさい。でも一つだけ言えるのは」
コロは悠月に近づいた。
「あの人の君への気持ちは、本物よ」
翌日の夜、激しい雨が降り始めた。
店は早めに閉めて、悠月と玲音は二階で過ごしていた。でも玲音の様子がおかしい。そわそわと落ち着かず、時々窓の外を見つめていた。
「玲音さん、大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫です」
でも玲音の額には汗が浮かんでいた。
その時、雨が止み雲間から満月が顔を出した。
「っ……!」
玲音が突然苦しそうに身を屈めた。
「玲音さん!」
悠月が駆け寄ろうとした瞬間、玲音が振り返った。その瞳は金色に光っていた。
「悠月……離れろっ」
玲音の声が、いつもと違う。低く、野性的で……
「でも……」
「お願いだ。今は……」
玲音の体が震えている。必死に何かを抑えようとしているのが分かった。
悠月は決心した。
「玲音さん、僕は大丈夫です」
「悠月……?」
「コロさんから聞きました。玲音さんが獣人だということ……」
玲音の表情が驚愕に変わった。
「知って……た……」
「はい。でも……怖くありません」
悠月は玲音に歩み寄った。
「玲音さんは玲音さんです。姿が変わっても」
玲音の瞳から、涙が一筋流れた。
「悠月……」
「無理しないでください。僕の前でも、ありのままの玲音さんでいてください」
その言葉に、玲音の緊張が解けた。
月光が強くなると同時に、玲音の体に変化が現れた。
瞳の金色が、まるで炎のように鮮やかに輝き始めた。髪は漆黒の艶を増し、月光を受けて美しく煌めく。そして――
頭上に、立派な獣の耳がゆっくりと現れた。
玲音の全体的な雰囲気も変わった。普段の穏やかな表情に、野性的な美しさと威厳が加わっている。それでいて、悠月を見つめる眼差しは変わらず優しかった。
「これが……俺の本当の姿……ライオンの獣人だ」
玲音の声は低く、いつもより深みがあった。普段の丁寧な口調とは違うが、威圧感はない。
「怖くは……ないか?」
「全然……むしろ玲音さんらしい気がします」
玲音は驚いたような、嬉しそうな安堵の表情を見せた。
玲音の手が悠月の頬に触れた。
「玲音さん……」
「今は『さん』はいらない。俺たちは対等だ」
優しいが、どこか野性的な響きを持つ声。
「悠月……愛している」
その言葉に悠月は頬を染めた。
二人はソファに座り、悠月は玲音の話を聞いた。
「獣人は、生涯の伴侶を見つける本能がある。悠月に出会った瞬間、運命を感じた」
悠月の心臓が激しく鳴り始めた。
「だが、契約という形にしたのは……悠月を束縛したくなかったからだ。嫌になったら、いつでも契約を破棄できるように」
「玲音さん……」
「でも俺の気持ちは、最初から愛情だ。契約じゃない!」
玲音は悠月の頬にそっと手を当てた。
「悠月を守りたい。一緒にいたい。一生……守りたい」
悠月は玲音の手に自分の手を重ねた。
「玲音……が、人間でも獣人でも、関係ありません」
月光の下で、二人は静かに見つめ合った。
「悠月……キスしてもいいか?」
玲音の問いかけに、悠月は頷いた。
優しく、温かなキス。悠月の初めてのキスは、月夜の下で愛する人と交わされた。
「愛してる、悠月」
「僕も……愛してます」
猫たちが、遠くから静かに二人を見守っていた。
「やっと素直になったニャ」とコロが呟いた。
「これで安心だニャーン」とミケが安堵の声を上げた。
嵐は過ぎ去り、月光が二人を優しく照らしていた。
95
あなたにおすすめの小説
動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
筋肉質な人間湯たんぽを召喚した魔術師の話
陽花紫
BL
ある冬の日のこと、寒さに耐えかねた魔術師ユウは湯たんぽになるような自分好み(筋肉質)の男ゴウを召喚した。
私利私欲に塗れた召喚であったが、無事に成功した。引きこもりで筋肉フェチなユウと呑気なマッチョ、ゴウが過ごす春までの日々。
小説家になろうにも掲載しています。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる