【完結】獣王の番

なの

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エピローグ

獣王の独白

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王の寝室には高い天井から下がるシャンデリアの光は落とされ、窓から差し込む満月の光だけが、静かに室内を照らしている。

広いベッドの真ん中で、ユリアンと、その隣にぴったりと寄り添う小さな王子が安らかな寝息を立てている。
その穏やかな寝顔は、この世の何よりも尊く美しいその姿を、ライオネルは飽きることなく、ただじっと見つめていた。

――まるで、瞬きをする時間さえ惜しいとでも言うかのように。

(……俺の世界は、今、この腕の中にある)

――初めてユリアンと会った、あの謁見の間。
彼の存在を認めてしまえば、自分が自分でなくなってしまうと本能的に感じた。だから、拒絶した。
冷たい言葉で、容赦なく突き放した。
父の影に怯え、愛することから逃げ続けていた、愚かで、臆病な俺。

(あの頃の俺に、教えてやりたい)

その臆病さを乗り越えた先に、こんなにも温かく満ち足りた未来が待っているのだと。
お前が拒絶したその存在こそが、お前の凍りついた心を溶かし、真の王へと導く、唯一無二の光なのだと。

深夜の書庫で、お前の揺るぎない知性に触れた。
薬草園で、お前の分け隔てない優しさに触れた。
戦場で、お前の民を想う気高さと、愛する者を守る勇気に触れた。
そして、この腕の中で、お前の深く、海のような愛に、触れた。
お前は、いつも俺の予想を超え、俺が築き上げた分厚い心の壁を、いともたやすくこじ開けていった。

お前を傷つけたくなくて、遠ざけようとした時もあった。この腕から引き離そうとしたことさえあった。

だが、離れてみて初めて知ったのだ。お前のいない世界は、色がなく、味気なく、息をするのさえ苦しいのだと……。

(力を失って、良かったのかもしれない)

ライオネルは、自らの掌を静かに見つめた。
かつて、この手は国の全てを力で支配してきた。だが、その力は、同時に俺を孤独にし、父と同じ過ちを犯させるのではないかという、終わりのない恐怖を
与え続けた。

だが、今は違う。
この手は、愛する者たちを、優しく撫で、抱きしめるためにある。
真の強さとは何か。
お前が、そのか細い体で、俺に教えてくれた。

ライオネルは、眠るユリアンの頬に、そっと唇を寄せた。シルクのような髪が、指をすり抜けていく。
そして、その隣で眠る、我が子の小さな額にも。

「……ユリアン。……アステル」

我が子の名は、アステル。この国の古い言葉で、「星」を意味する。

ユリアンという月が、俺という夜を照らしてくれたように、この子が、未来の国を照らす、希望の星となるように。そんな願いを込めて、二人で名付けた。

「俺が、お前たちを、生涯、守り抜く」

それは、誰に聞せるでもない、静かな、しかし、何よりも力強い王の誓い。
そして、一人の男が、最愛の家族に捧げる、永遠の愛の誓いだった。

ライオネルは、愛しい二人が眠るベッドに、そっと体を滑り込ませる。
そして、二人まとめて抱きしめるように、その腕の中に、温かい世界を閉じ込めた。ユリアンの甘い香りと、アステルの幼いミルクの匂いが、混じり合う。
これが、幸せの香りなのだと知った。
窓の外では、満月が、三人の幸せな寝顔を、優しく、静かに、見守っていた。
拒絶から始まった物語は、今、ここに、愛に満ちた結末を迎えた。
しかし、それは終わりではない。
新しい伝説の、始まりの夜だった。

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