塩対応な悪役令嬢なのに、溺愛逆ハーレムって本当ですか?

夏乃みのり

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ダンスパーティーの喧騒は、最高潮に達していた。
その熱狂とは裏腹に、ホールの片隅にあるデザートビュッフェのテーブルだけが、奇妙な静けさと、高い緊張感に包まれていた。

「……」

セレスティナは、三皿目のオペラ(ケーキ)に、ゆっくりとフォークを入れている。
その完璧な所作は、まるで、世界で最も重要な任務を遂行しているかのようだった。

(……このチョコレートの層、素晴らしいわ。パティシエを、公爵家に引き抜きたいくらい……)

彼女の目の前には、三人の男たちが、仁王立ちになっていた。
皇太子アルフォンス。
騎士ギルバート。
魔術師ルシアン。

彼らは、先ほど、セレスティナに華麗に撒かれた(戦線離脱された)まま、呆然と、彼女の優雅な食事風景を眺めていた。

「せ、セレスティナ様……」
ミレイナだけが、この異常な空間で、目を輝かせている。

「あ! 皆様! くじ引きは、終わりましたの?」

その、無邪気すぎる一言が、三人の男たちを、現実に引き戻した。

「……ああ。もう、いい」
最初に口を開いたのは、皇太子アルフォンスだった。
彼は、セレスティナの(ケーキに夢中な)横顔を見つめ、決意を固めたように、息を吐いた。

「くじ引きなど、どうでもよくなった」

「は?」
ミレイナが、きょとんとする。

「フン」
ギルバートが、腕を組み、獰猛に笑う。
「同感だ。あんな女、運任せで手に入るタマじゃねえ」

「ククッ」
ルシアンが、楽しそうに肩をすくめた。
「その通りだね。彼女は、我々が思っている以上に、手強い(面倒くさい)ようだ」

「(……ん?)」
フォークを口に運ぶ寸前、セレスティナの動きが、わずかに止まった。

(……何? 今、諦める、という流れかしら?)
(だとしたら、こんなに素晴らしいことはないわ)

彼女の胸に、淡い、淡い期待が、芽生えた。
面倒事が、ようやく、これで、終わるかもしれない。

だが、三人の男たちは、彼女のそんなささやかな希望を、真正面から打ち砕くために、集結したのだった。

アルフォンスが、セレスティナにではなく、隣に立つ、二人のライバルに向き直った。

「ギルバート・アシュフォード。ルシアン・ヴァーミリオン」

「なんだよ、皇太子。改まって」
「おや、演説かい?」

「私は、今夜、決意した」
アルフォンスは、この国の第一王子として、高らかに宣言した。

「私は、正々堂々、この国の皇太子として、彼女の心を射止めてみせる。小細工なしの、真正面からだ」

「……ほう」
ギルバートが、挑発的に口の端を吊り上げる。

「上等だ。だが、家柄なんざ、あいつには通用しねえぜ? 俺は、俺の実力で、力ずくで、あいつを奪い取る。お前(皇太子)から、な」

「ククッ。力ずく、ね。蛮族のようだ」
ルシアンが、二人を嘲笑う。

「二人とも、忘れていないかい? 彼女の『本質(あの底なしの魔力)』に、気づいているのは、この私だけだ」
「彼女の知性を満たし、その秘密を共有できるのは、私だけだよ。彼女が、本当に選ぶのは、この私だ」

セレスティナの目の前で。
彼女を、完全に、蚊帳の外に置いたまま。
三人の男たちによる、「彼女を、いかにして落とすか」という、世にも面倒なプレゼンテーションが、始まってしまった。

「私こそが、彼女を幸せにできる!」(アルフォンス)
「いいや、あいつを、本気でドキドキさせられるのは、俺だけだ!」(ギルバート)
「残念だが、彼女の『魂』が、求めているのは、私だろうね」(ルシアン)

バチバチバチッ!

三人の視線が、空中で激しく交錯する。
彼らは、今、暗黙の「同盟」を結んだのだ。

(抜け駆けは、許さない)
(彼女を、落とすのは、自分だ)
(だが、ライバルが、誰かは、認めてやる)

「彼女を落とすのは、この私だ!」
「いや、俺だ!」
「いいや、私に決まっている!」

「「「…………」」」

「(……うるさい)」
セレスティナは、本日、何度目かになる溜息を、心の底でついた。

(わたくしの意思は、どこにあるのかしら)
(というか、わたくしは、今、モンブランが食べたいのだけれど……)

彼女は、三人の男たちが繰り広げる、レベルの高い(面倒な)口論を、完全にBGMとして処理し始めた。

「きゃあああ! セレスティナ様!」
ミレイナだけが、この状況を、完璧に楽しんでいた。
「皆様、セレスティナ様のために、火花を散らして……! まるで、物語のワンシーンみたいです!」

(……ああ。そうね。他人事なら、確かに、そう見えるかもしれないわね)
セレスティナは、ミレイナの能天気な感想に、遠い目をした。

彼女は、ふと、三人のイケメンと、その隣で目を輝かせる、ヒロイン(ミレイナ)を、交互に見比べた。

金髪碧眼の、完璧超人の皇太子。
黒髪金眼の、俺様系の騎士。
年齢不詳の、神秘的な魔術師。
そして、ピンクブロンドの、愛らしい聖女。

(……こうして見ると)
(……完璧な、布陣ではないかしら)

セレスティナは、騒がしい四人を眺めながら、新しいケーキ(モンブラン)の皿を、そっと手元に引き寄せた。

(いっそ)
(この面倒な三人全員と、この無邪気なヒロイン(トラブルメーカー)が)
(まとめて、四人で、くっついてくれれば、いいのに)

(『セレスティナは、我々四人の、共通の友人だ!』とか、そんな感じで)

「(……お願いだから)」
セレスティナは、モンブランの頂上にある栗を、フォークで突き刺しながら、心の底から、切実に、願った。

「(わたくしを巻き込まないで、あなたたちだけで、幸せになってくださいまし……)」

彼女の、その悲痛な願いなど、知る由もなく。

「いいだろう! 学園祭の終わりは、新たな戦いの始まりだ!」
「フン。誰が、最初に、あいつを陥落(おと)させるか、勝負だ!」
「ククッ。楽しみだね。君たちの、絶望する顔が」

三人の男たちは、勘違いの炎を、さらに燃え上がらせる。
彼らの面倒な日常(セレスティナ・アタック)は、明日から、さらに、加速することが決定した。

(……帰りたい。もう、本当に、帰って寝たいわ……)

セレスティナは、モンブランの濃厚な甘さを、現実逃避のように、味わい続けるのだった。
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