塩対応な悪役令嬢なのに、溺愛逆ハーレムって本当ですか?

夏乃みのり

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「「「冥府の闇よ、集え!」」」

三人の幹部が、同時に最大戦力の魔術詠唱を開始した。
中庭の空気を支配していた闇の魔力が、圧縮され、凝縮していく。
それは、並の魔術師なら、その余波だけで意識を失うほどの、濃密な死の気配。

「(だ、だめ……! あんな魔術、学園が……!)」
ミレイナは、拘束されたまま、絶望に目を見開いた。

「セレスティナ様! 逃げて! 早く逃げてください!」

ミレイナが、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
だが、セレスティナは、動かない。
まるで、目の前で起きていることが、他人事であるかのように、静かに佇んでいるだけ。

「死ね! 小娘!」
「聖女もろとも、塵となれ!」
「――極大暗黒槍(ダークネス・ランス)!」

三方向から、学園の校舎さえ、たやすく貫通するであろう、極太の闇の槍が、セレスティナめがけて、同時に放たれた!

「いやああああああ!」

ミレイナが、思わず目を閉じた。
絶望的な、瞬間。

だが。

ピタッ。

三本の闇の槍は、セレスティナに到達する、数メートル手前で。
まるで、見えない、分厚い壁に阻まれたかのように、寸分違わず、静止した。

「「「…………は?」」」

幹部たちの、間抜けな声が、漏れた。

「な……!?」
「馬鹿な! 我が魔術が、止まっただと!?」
「結界……!? いや、術式反応がない!?」

三本の巨大な槍は、セレスティナの前で、ただ、ぷかぷかと、浮いている。

「(……え?)」
ミレイナが、恐る恐る、目を開ける。
そこには、信じられない光景が、広がっていた。

セレスティナは、その赤い瞳を、心底、面倒くさそうに、細めていた。

「……皆様」

静かな、鈴の鳴るような声が、響いた。
それは、怒号よりも、よほど、冷たい響きを伴っていた。

「先程から、大変、騒がしいですけれど」

「(……!)」

「わたくしの、貴重な睡眠時間を」

セレスティナは、ゆっくりと、顔を上げた。
その赤い瞳は、今、明確な「不快感」と「怒り」によって、冷たく、燃えている。

「――妨害するのは、どなたですか」

その言葉が、引き金だった。

ゴオオオオオオオオオオッ!!

セレスティナ・フォン・ヴァイスハイトの体から、今まで、完璧に、面倒だからと隠蔽されていた、規格外の魔力が、解放された。

それは、炎でも、氷でも、雷でもない。
ただ、圧倒的なまでの、「純粋な魔力の圧」だった。

「(なっ……!?)」
ミレイナは、息が詰まるのを感じた。
(この力……! 暴走した時、私を助けてくれた、あの優しい力と、同じ……!)
(でも、違う! もっと、冷たくて、強大で、底が知れない……!)

中庭を覆っていた、闇の魔術結社による、不気味な紫色の結界が、セレスティナの魔力圧に「上書き」されていく。

ミシミシ、パリンッ!

空気が、悲鳴を上げた。
学園全体を覆っていた、高度な空間結界が、まるで、薄いガラス細工のように、いともたやすく、粉々に砕け散った!

「「「がっ……!?」」」

幹部たちが、同時に、膝をついた。
魔力の逆流。
自分たちの結界が、あまりにも強大な力によって、無理やり破られた、その衝撃だった。

「う……! あ……!」
「ば、馬鹿な……! 我が結社、数百年かけて構築した、この大結界が……!」
「たった、一人で……!?」

彼らは、信じられない、というように、目の前の令嬢を見上げた。
彼女は、ただ、静かに立っているだけ。
だが、その体から放たれる、無色透明のオーラは、空間そのものを、歪ませていた。

「(……計測不能(オーバーロード)!?)」
リーダー格の男が、魔力測定の補助具(スカウター)を見て、絶句した。
「(なんだ、こいつは……! 人間か!?)」
「(この魔力量……! 我が主、に、匹敵……いや、それ以上……!?)」

彼らの脳裏に、初めて「死」という、現実的な恐怖が、浮かび上がった。

セレスティナは、そんな幹部たちの狼狽(ろうばい)など、どうでもよさそうに、軽く、首を傾げた。

(……ああ。ようやく、空気が綺麗になったわ)
(これで、心置きなく、眠れ……いや)

彼女の視線が、まだ、ミレイナを拘束している「影の手」と、震えている幹部たちに、向けられた。

(……まだ、ゴミ掃除が、終わっていなかったわね)

「さて」

セレスティナが、ゆっくりと、一歩、踏み出す。

「わたくし、今、とても、眠いの」
「ですから、早く、終わらせましょうか」

「ひっ……!」
「く、来るな! 化け物め!」

幹部の一人が、恐怖に駆られ、残った魔力を振り絞り、再び、闇の魔術を放った!

「死ねえええ!」

セレスティナは、それに対して。

「(……うるさいわね)」

ただ、指を、一本、立てただけだった。
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