塩対応な悪役令嬢なのに、溺愛逆ハーレムって本当ですか?

夏乃みのり

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「死ねえええええ!」

幹部の一人が、恐怖に駆られて放った最後の闇の魔術。
それは、すべてを飲み込むような、黒い奔流(ほんりゅう)だった。

ミレイナは、息を呑んだ。

だが、その奔流は。
セレスティナが、面倒そうに、すっと立てた、人差し指の、その先端に触れた瞬間。

フシュルルルル……。

まるで、熱い鉄に触れた雪のように、音もなく、蒸発し、消滅した。

「「「…………」」」

幹部たちの顔から、血の気が引く。
ミレイナの口が、あんぐりと開かれる。

「う……」
「あ……」
「そん、な……」

自分たちの最強の魔術が、指先一つで、塵(ちり)にされた。
その、あり得ない現実に、三人の幹部は、完全に、戦意を喪失した。

「(……逃げろ!)」
「(こいつは、だめだ! 主に、報告を……!)」

三人が、同時に、転移魔術を発動させようと、後ずさる。

だが、セレスティナは、それよりも、遥かに、早かった。
いや、彼女は、一歩も、動いてすらいなかった。

彼女は、ただ、その赤い瞳で、騒々しく逃げようとする、三つの「ゴミ」を、冷ややかに、見つめた。

(……逃がすわけ、ないでしょう)
(ここで逃がしたら、また、わたくしの昼寝を、邪魔しに来るかもしれない)
(それは、最高に、面倒だわ)

(一番、静かで、手っ取り早くて、後始末が楽なのは……)

セレスティナは、結論を出した。

「……皆様」

彼女は、まるで、パーティーで、騒がしい客を、たしなめるかのように、静かに、告げた。

「少し、頭を、冷やされては、いかがですの?」

「……え?」

その言葉が、魔術の起動キーだった。
詠唱も、魔法陣も、何もない。
ただ、彼女の「意思」だけが、この空間の、物理法則を、書き換えた。

ピキッ。

「……?」
リーダー格の男が、自分の足元を見た。
中庭の美しい芝生が、白い霜(しも)で、覆われ始めている。

「な……!?」

ピキピキピキッ!

その霜は、恐ろしい速度で、彼らの足首を、膝を、腰を、飲み込んでいく!
絶対零度の氷が、彼らの体を、下から、侵食していく!

「う……! うわあああああ!?」
「つ、冷たい! 動かん! 体が!」
「こ、氷結魔術!? 詠唱なしで、この規模を!?」

三人の幹部が、この世のものとは思えない恐怖に、絶叫する。

「や、やめろ!」
「助けてくれ!」
「我らを、殺せば、我が主が、黙っては……!」

彼らは、必死で、闇の魔術で、抵抗しようとした。
だが、セレスティナの、底なしの魔力の前では、彼らの魔術など、ロウソクの火にも、等しかった。
氷は、彼らの魔術ごと、すべてを、凍てつかせていく。

「(きゃあああ! すごい!)」
ミレイナは、恐怖よりも先に、感動に打ち震えていた。
(セレスティナ様! なんて、圧倒的なの……!)
(あんなに怖かった悪者たちが、まるで、赤子のようだわ!)

拘束されていたミレイナの腕も、影の手が、術者ごと凍りついたことで、解放された。

「が……」
「が……」

リーダー格の男が、最後の力を振り絞り、セレスティナを、睨みつけた。
その顔は、恐怖と、憎悪と、そして、理解不能なものへの、畏怖(いふ)に、歪んでいた。

「(……お、お前は……! 一体……! なに……も……)」

パキィィィィン!

それが、彼らの、最後の言葉だった。
三人の幹部たちは、それぞれ、恐怖に歪んだ表情のまま、完璧な「氷のオブジェ」と化した。

シン……。

中庭に、静寂が、戻った。
先ほどまでの、死闘が、嘘のように。
ただ、美しい、三体の氷像が、そこに立っているだけだった。

セレスティナは、自分の「作品」を、ふむ、と一つ、眺めた。

(……これで、よし、と)
(この氷は、わたくしの魔力で、特別に、コーティングしてある)
(百年は、溶けないでしょう。騎士団が、回収に来るまで、このままで、大丈夫ね)

彼女は、満足げに、頷いた。

「(……ああ、疲れたわ。魔力を使ったから、余計に、眠くなってしまった)」

彼女は、ふわりと、ミレイナの元へ、振り返った。

ミレイナは、解放された腕を押さえながら、憧れの人が、今、何をしたのか、まだ、理解が追いつかない様子で、呆然(ぼうぜん)と、立ち尽くしていた。

「せ、セレスティナ様……! あ、あの……!」

セレスティナは、そんなミレイナの混乱など、お構いなしに。
完璧な淑女の笑み(無表情)を、浮かべた。

そして、スカートについた(かもしれない)氷の欠片を、優雅に、手で払いながら、こう、呟いた。

「……ふぅ」

「これで、ようやく、静かになりますね」

(……素敵―――!)
ミレイナは、その、あまりにも、クールで、圧倒的で、塩対応な、勝利宣言(?)に、再び、感動の雷に、打たれたのだった。

(……さて。昼寝の、続きを、しましょうか)

セレスティナの頭の中は、すでに、植物園のベンチのことで、いっぱいだった。
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