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王都に、運命の朝が訪れた。
王城のジェラルド殿下の私室。
そこは今、ゴミ溜めのような有様になっていた。
掃除をするメイドがいないため、脱ぎ散らかした服や食べ残しの食器が散乱し、異臭を放っている。
「……寒い」
ジェラルド殿下は、薄汚れた毛布にくるまって震えていた。
暖炉の薪も尽きているが、補充してくれる従僕はいない。
「くそ……。なぜ私がこんな目に……。私は王太子だぞ……」
隣では、ミナがブツブツと文句を言っている。
「殿下ぁ、お腹空きましたぁ。堅パンはもう嫌ですぅ。クロワッサンが食べたいですぅ」
「うるさい! 私だって空腹だ! 厨房に行っても『食材の在庫がありません(嘘)』と追い返されるんだ!」
二人が惨めに言い争っていると、部屋のドアが乱暴に開かれた。
入ってきたのは、顔色の悪い侍従だ。
「殿下。国王陛下より、勅命です」
「ち、父上から!?」
ジェラルド殿下はガバッと跳ね起きた。
侍従が差し出したのは、金色の縁取りがされた豪華な封筒。
王家の紋章が押されている。
「こ、これは……『最終審問会への召喚状』……?」
殿下は震える手で封を開け、中身を読んだ。
『明朝10時、大広間にて緊急審問会を開く。
対象者:ジェラルド、ミナ、アレクセイ、ラミリア。
議題:婚約破棄騒動の真実、および王家の今後について』
読み終えた殿下の顔に、パァッと色が戻った。
「おお! おおお! ついに父上が動いてくださったか!」
「え? どういうことですか殿下?」
「分からんかミナ! 『王家の今後について』だぞ! 父上は、この混乱を収拾するために、叔父上(アレクセイ)を断罪するつもりなのだ!」
「えっ、本当ですか!?」
「決まっているだろう! 叔父上は私に対し、暴力と脅迫を行った。しかも、国の重要人物であるラミリアを私物化し、国政を停滞させた。これは立派な反逆罪だ!」
殿下は完全に自分の都合の良いように解釈した。
脳内変換機能がカンストしている。
「父上は賢王だ。情に流されず、正しい判断を下すはずだ。つまり、叔父上からラミリアを取り上げ、私に返し、叔父上を処罰する気だ!」
「すごぉい! さすが殿下! じゃあ、私たちは助かるんですね!」
「ああ! これで私の借金もチャラになり、元の優雅な生活が戻ってくる!」
二人は手を取り合って喜んだ。
まさに『溺れる者は藁をも掴む』ならぬ、『溺れる馬鹿は幻覚を見る』である。
「よし、ミナ! 支度だ! 最高に華やかな服で出席するぞ! 勝者の凱旋パレードだ!」
「はい! ……でも殿下、洗濯してくれる人がいないので、ドレスがシワシワなんですけど」
「……気にするな! 遠目に見れば分からん!」
***
一方、公爵邸。
「……ラミリア、緊張しているか?」
控室の鏡の前。
アレクセイ様が、背後から私に声をかけた。
今日の私は、先日彼が贈ってくれたミッドナイトブルーのドレスを着ている。
首元にはサファイア、指にはあの『真実の愛』のブルーダイヤモンド。
完璧な武装だ。
「はい、少しだけ。……でも、不安はありません」
私は鏡越しに彼と目を合わせ、微笑んだ。
「だって、私には最強の味方がいますから」
「当然だ。誰が相手だろうと、お前には指一本触れさせん」
アレクセイ様は私の肩に手を置き、その美貌をさらに輝かせるような自信満々の笑みを浮かべた。
今日の彼は、黒の儀礼服に身を包んでいる。
威厳と色気が同居していて、直視するのが危険なレベルだ。
「それに、今日の審問会は、ただの断罪劇ではない。……お前がこれまで積み重ねてきた『信頼』が、形となって現れる場だ」
「信頼、ですか?」
「行けば分かる。……さあ、行こうか。私の愛しい『勝利の女神』よ」
エスコートされ、私は馬車に乗り込んだ。
公爵家の馬車は、王城へと向かって滑るように走り出した。
***
王城の大広間は、異様な熱気に包まれていた。
普段のパーティーとは違う、ピリピリとした緊張感。
そして、参列者の顔ぶれが凄まじかった。
国内の有力貴族はもちろん、各国の外交官、大手商会の会長たち、さらには騎士団の隊長クラスまでが勢揃いしている。
彼らは皆、固唾を呑んで「その時」を待っていた。
「国王陛下、入御!」
ファンファーレが鳴り響き、国王陛下が入場し、玉座に就く。
その顔は厳しく、場を圧倒する覇気を纏っている。
「これより、ジェラルド第二王子とアレクセイ公爵家に関する、最終審問会を執り行う!」
陛下の宣言と共に、重厚な扉が開かれた。
まずは、上手(かみて)側の扉から、ジェラルド殿下とミナ様が入場する。
「…………」
会場がざわめいた。
理由は明白だ。
二人の格好が、あまりにも「残念」だったからだ。
殿下の服は、遠目に見てもサイズが合っておらず、袖口がほつれている。
ミナ様のドレスは派手なピンク色だが、裾が泥で汚れており、シワだらけ。
髪もボサボサで、宝石の代わりに安っぽいガラス玉のアクセサリーをつけている。
「ふふん、見たか! 皆が私に注目しているぞ!」
殿下は勘違いして胸を張った。
それは注目ではなく、「うわぁ……」というドン引きの視線なのだが。
「次は、下手(しもて)側の扉より、アレクセイ公爵、ならびにラミリア嬢!」
名前が呼ばれた瞬間、会場の空気が一変した。
ガチャリ。
扉が開く。
そこから溢れ出したのは、圧倒的な「光」だった。
「おお……!」
参列者たちから、感嘆の声が漏れる。
堂々と歩いてくるアレクセイ様と、その腕に手を添える私。
二人の衣装は完璧にコーディネートされ、洗練された美しさを放っている。
何より、その姿勢。
背筋を伸ばし、凛とした表情で前を見据える姿は、まさに王者の風格。
「な、なんだあいつらは……!?」
ジェラルド殿下が、眩しそうに目を細める。
私たちが歩くたびに、参列者たちが自然と道を空け、深々と頭を下げる。
「ラミリア様……! お待ちしておりました!」
「今日も素敵です!」
「我々は味方ですぞ!」
小声での声援が飛ぶ。
ゴンドル会長が親指を立て、騎士団長が敬礼し、外交官がウィンクを送ってくる。
これが、アレクセイ様の言っていた「信頼の形」か。
私たちは玉座の前まで進み、優雅に礼をした。
「よく来た、アレクセイ、ラミリア」
国王陛下が、穏やかな声で私たちを迎える。
そして、ジェラルド殿下の方を向き、声を低くした。
「ジェラルド、ミナ。……その薄汚い格好はなんだ。王家の威信を泥で塗る気か?」
「ち、父上! これには訳が!」
殿下は慌てて進み出た。
「全ては叔父上のせいです! 叔父上が私の資産を凍結し、使用人を奪ったから、こんな惨めな姿にさせられたのです! 父上、どうか悪逆非道な叔父上を裁き、ラミリアを私に返してください!」
殿下は自信満々に訴えた。
会場がシーンと静まり返る。
全員が「こいつ、まだ状況が分かってないのか?」という顔をしている。
国王陛下は、深いため息をついた。
「……ジェラルド。お前は、なぜ私がこの審問会を開いたと思っている?」
「え? それはもちろん、私の権利を回復し、叔父上を罰するためでしょう?」
「…………」
陛下は天を仰いだ。
そして、怒りを押し殺した声で言った。
「裁判を始める。……ラミリア嬢、準備は良いか?」
「はい、陛下」
私は一歩前に出た。
手には、あの「爆弾」入りの分厚いファイル。
「これより、ジェラルド殿下の数々の不正、職務怠慢、ならびにミナ様の経歴詐称に関する証拠を提示いたします」
「は、はあ!? 不正だと!? 言いがかりだ!」
殿下が叫ぶが、私は冷徹な事務官モードで眼鏡(伊達)をクイッと上げた。
「言いがかりではありません。数字は嘘をつきませんので。……さあ、殿下。一つずつ、答え合わせをしていきましょうか?」
私の背後で、アレクセイ様が腕を組み、楽しそうに笑った。
まるで、これから始まるショーを一番の特等席で楽しむ観客のように。
「やれ、ラミリア。徹底的にだ」
「はい、あなた」
法廷対決(物理なし、論理のみ)の幕が上がった。
王城のジェラルド殿下の私室。
そこは今、ゴミ溜めのような有様になっていた。
掃除をするメイドがいないため、脱ぎ散らかした服や食べ残しの食器が散乱し、異臭を放っている。
「……寒い」
ジェラルド殿下は、薄汚れた毛布にくるまって震えていた。
暖炉の薪も尽きているが、補充してくれる従僕はいない。
「くそ……。なぜ私がこんな目に……。私は王太子だぞ……」
隣では、ミナがブツブツと文句を言っている。
「殿下ぁ、お腹空きましたぁ。堅パンはもう嫌ですぅ。クロワッサンが食べたいですぅ」
「うるさい! 私だって空腹だ! 厨房に行っても『食材の在庫がありません(嘘)』と追い返されるんだ!」
二人が惨めに言い争っていると、部屋のドアが乱暴に開かれた。
入ってきたのは、顔色の悪い侍従だ。
「殿下。国王陛下より、勅命です」
「ち、父上から!?」
ジェラルド殿下はガバッと跳ね起きた。
侍従が差し出したのは、金色の縁取りがされた豪華な封筒。
王家の紋章が押されている。
「こ、これは……『最終審問会への召喚状』……?」
殿下は震える手で封を開け、中身を読んだ。
『明朝10時、大広間にて緊急審問会を開く。
対象者:ジェラルド、ミナ、アレクセイ、ラミリア。
議題:婚約破棄騒動の真実、および王家の今後について』
読み終えた殿下の顔に、パァッと色が戻った。
「おお! おおお! ついに父上が動いてくださったか!」
「え? どういうことですか殿下?」
「分からんかミナ! 『王家の今後について』だぞ! 父上は、この混乱を収拾するために、叔父上(アレクセイ)を断罪するつもりなのだ!」
「えっ、本当ですか!?」
「決まっているだろう! 叔父上は私に対し、暴力と脅迫を行った。しかも、国の重要人物であるラミリアを私物化し、国政を停滞させた。これは立派な反逆罪だ!」
殿下は完全に自分の都合の良いように解釈した。
脳内変換機能がカンストしている。
「父上は賢王だ。情に流されず、正しい判断を下すはずだ。つまり、叔父上からラミリアを取り上げ、私に返し、叔父上を処罰する気だ!」
「すごぉい! さすが殿下! じゃあ、私たちは助かるんですね!」
「ああ! これで私の借金もチャラになり、元の優雅な生活が戻ってくる!」
二人は手を取り合って喜んだ。
まさに『溺れる者は藁をも掴む』ならぬ、『溺れる馬鹿は幻覚を見る』である。
「よし、ミナ! 支度だ! 最高に華やかな服で出席するぞ! 勝者の凱旋パレードだ!」
「はい! ……でも殿下、洗濯してくれる人がいないので、ドレスがシワシワなんですけど」
「……気にするな! 遠目に見れば分からん!」
***
一方、公爵邸。
「……ラミリア、緊張しているか?」
控室の鏡の前。
アレクセイ様が、背後から私に声をかけた。
今日の私は、先日彼が贈ってくれたミッドナイトブルーのドレスを着ている。
首元にはサファイア、指にはあの『真実の愛』のブルーダイヤモンド。
完璧な武装だ。
「はい、少しだけ。……でも、不安はありません」
私は鏡越しに彼と目を合わせ、微笑んだ。
「だって、私には最強の味方がいますから」
「当然だ。誰が相手だろうと、お前には指一本触れさせん」
アレクセイ様は私の肩に手を置き、その美貌をさらに輝かせるような自信満々の笑みを浮かべた。
今日の彼は、黒の儀礼服に身を包んでいる。
威厳と色気が同居していて、直視するのが危険なレベルだ。
「それに、今日の審問会は、ただの断罪劇ではない。……お前がこれまで積み重ねてきた『信頼』が、形となって現れる場だ」
「信頼、ですか?」
「行けば分かる。……さあ、行こうか。私の愛しい『勝利の女神』よ」
エスコートされ、私は馬車に乗り込んだ。
公爵家の馬車は、王城へと向かって滑るように走り出した。
***
王城の大広間は、異様な熱気に包まれていた。
普段のパーティーとは違う、ピリピリとした緊張感。
そして、参列者の顔ぶれが凄まじかった。
国内の有力貴族はもちろん、各国の外交官、大手商会の会長たち、さらには騎士団の隊長クラスまでが勢揃いしている。
彼らは皆、固唾を呑んで「その時」を待っていた。
「国王陛下、入御!」
ファンファーレが鳴り響き、国王陛下が入場し、玉座に就く。
その顔は厳しく、場を圧倒する覇気を纏っている。
「これより、ジェラルド第二王子とアレクセイ公爵家に関する、最終審問会を執り行う!」
陛下の宣言と共に、重厚な扉が開かれた。
まずは、上手(かみて)側の扉から、ジェラルド殿下とミナ様が入場する。
「…………」
会場がざわめいた。
理由は明白だ。
二人の格好が、あまりにも「残念」だったからだ。
殿下の服は、遠目に見てもサイズが合っておらず、袖口がほつれている。
ミナ様のドレスは派手なピンク色だが、裾が泥で汚れており、シワだらけ。
髪もボサボサで、宝石の代わりに安っぽいガラス玉のアクセサリーをつけている。
「ふふん、見たか! 皆が私に注目しているぞ!」
殿下は勘違いして胸を張った。
それは注目ではなく、「うわぁ……」というドン引きの視線なのだが。
「次は、下手(しもて)側の扉より、アレクセイ公爵、ならびにラミリア嬢!」
名前が呼ばれた瞬間、会場の空気が一変した。
ガチャリ。
扉が開く。
そこから溢れ出したのは、圧倒的な「光」だった。
「おお……!」
参列者たちから、感嘆の声が漏れる。
堂々と歩いてくるアレクセイ様と、その腕に手を添える私。
二人の衣装は完璧にコーディネートされ、洗練された美しさを放っている。
何より、その姿勢。
背筋を伸ばし、凛とした表情で前を見据える姿は、まさに王者の風格。
「な、なんだあいつらは……!?」
ジェラルド殿下が、眩しそうに目を細める。
私たちが歩くたびに、参列者たちが自然と道を空け、深々と頭を下げる。
「ラミリア様……! お待ちしておりました!」
「今日も素敵です!」
「我々は味方ですぞ!」
小声での声援が飛ぶ。
ゴンドル会長が親指を立て、騎士団長が敬礼し、外交官がウィンクを送ってくる。
これが、アレクセイ様の言っていた「信頼の形」か。
私たちは玉座の前まで進み、優雅に礼をした。
「よく来た、アレクセイ、ラミリア」
国王陛下が、穏やかな声で私たちを迎える。
そして、ジェラルド殿下の方を向き、声を低くした。
「ジェラルド、ミナ。……その薄汚い格好はなんだ。王家の威信を泥で塗る気か?」
「ち、父上! これには訳が!」
殿下は慌てて進み出た。
「全ては叔父上のせいです! 叔父上が私の資産を凍結し、使用人を奪ったから、こんな惨めな姿にさせられたのです! 父上、どうか悪逆非道な叔父上を裁き、ラミリアを私に返してください!」
殿下は自信満々に訴えた。
会場がシーンと静まり返る。
全員が「こいつ、まだ状況が分かってないのか?」という顔をしている。
国王陛下は、深いため息をついた。
「……ジェラルド。お前は、なぜ私がこの審問会を開いたと思っている?」
「え? それはもちろん、私の権利を回復し、叔父上を罰するためでしょう?」
「…………」
陛下は天を仰いだ。
そして、怒りを押し殺した声で言った。
「裁判を始める。……ラミリア嬢、準備は良いか?」
「はい、陛下」
私は一歩前に出た。
手には、あの「爆弾」入りの分厚いファイル。
「これより、ジェラルド殿下の数々の不正、職務怠慢、ならびにミナ様の経歴詐称に関する証拠を提示いたします」
「は、はあ!? 不正だと!? 言いがかりだ!」
殿下が叫ぶが、私は冷徹な事務官モードで眼鏡(伊達)をクイッと上げた。
「言いがかりではありません。数字は嘘をつきませんので。……さあ、殿下。一つずつ、答え合わせをしていきましょうか?」
私の背後で、アレクセイ様が腕を組み、楽しそうに笑った。
まるで、これから始まるショーを一番の特等席で楽しむ観客のように。
「やれ、ラミリア。徹底的にだ」
「はい、あなた」
法廷対決(物理なし、論理のみ)の幕が上がった。
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