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「では、審理を開始する」
国王陛下の重々しい声が響き渡った。
大広間の中央。
私とアレクセイ様、そしてジェラルド殿下とミナ様が向かい合って立っている。
「まず、被告人ジェラルド。そなたは『ラミリアが公爵家の金を横領した』『ラミリアがミナをいじめた』と主張しているが、その証拠はあるのか?」
陛下の問いに、殿下は待っていましたとばかりに鼻を鳴らした。
「ありますとも! 父上、これをご覧ください!」
殿下が自信満々に取り出したのは、ピンク色の表紙がついた一冊のノートだった。
「これはミナの日記です! ここには、ラミリアから受けた陰湿ないじめの数々が、血涙と共に綴られています!」
「ほほう、日記か」
「読み上げます! 『○月×日、ラミリア様に階段から突き落とされた。痛かった』『△月□日、ラミリア様に教科書を燃やされた。悲しい』……どうです! これこそ動かぬ証拠!」
殿下は勝ち誇った顔で私を指差した。
ミナ様も「思い出しただけで涙が……」と嘘泣きを始めている。
会場の貴族たちがざわめいた。
「日記か……」「証拠能力としては弱くないか?」という冷静な声が大半だが、殿下は気づいていない。
私は静かに、手元の分厚いファイルを開いた。
そして、眼鏡(伊達)の位置を直しながら、淡々と言った。
「陛下。反論および、事実確認をさせていただいても?」
「許可する」
「ありがとうございます。……では、ジェラルド殿下。その日記、拝見してもよろしいですか?」
「ふん、見るがいい! 己の罪に震えるがいいさ!」
殿下から日記を受け取った私は、パラパラとページをめくり、わずか数秒でパタンと閉じた。
そして、冷徹な事務官の目で殿下を見据えた。
「……詰めが甘いですね」
「な、なんだと?」
「まず一点目。この日記の『△月□日』の記述ですが、この日は王立学園の休校日です。校舎は結界で封鎖されており、生徒は入れません。どうやって教室で教科書を燃やしたのですか?」
「えっ? あ、いや、それは……校庭で!」
「当日は暴風雨警報が出ており、外出禁止令が発令されていました。嵐の中で教科書を燃やす? キャンプファイヤーの達人でも不可能です」
「ぐぬっ……!」
「次に二点目。この日記に使われているインクですが」
私は日記の文字を指差した。
キラキラとラメが入った、可愛らしいインクだ。
「これは『トゥインクル・インク』ですね。王都で流行中の」
「そ、そうだ! ミナは流行に敏感だからな!」
「このインクが発売されたのは、つい『先週』ですが」
「…………はい?」
会場の時が止まった。
殿下とミナ様の動きも止まった。
「いじめがあったとされるのは『三ヶ月前』ですよね? なぜ、先週発売されたインクで、三ヶ月前の日記が書けるのですか? ミナ様は時をかける少女なのですか?」
「あ、あ、あの……それは……!」
ミナ様が顔面蒼白で泳ぐ目をきょろきょろさせる。
私は追撃の手を緩めない。
「答えは簡単。この日記は、昨日か一昨日にまとめて捏造されたものだからです。筆圧の強さ、文字のかすれ具合から見ても、短時間で急いで書いたことは明白。……素人の偽装工作ですね。やり直しを命じます」
私は日記を殿下に突き返した。
バサリ、と床に落ちる音が響く。
「くっ……! こ、こんなものは些細なミスだ! いじめの事実はあるんだ!」
殿下は顔を真っ赤にして叫んだ。
「それなら横領はどうだ! ラミリア、貴様は私の金を使い込んでいたはずだ! 毎月、莫大な金が消えていた! あれは貴様の懐に入っていたんだろう!」
「やれやれ……」
私は呆れてため息をついた。
これだから、数字の読めない経営者は困る。
「では、こちらの資料をご覧ください」
私は合図をした。
すると、控えていたアレクセイ様配下の文官たちが、巨大な模造紙を掲げた。
そこには、複雑な折れ線グラフと棒グラフが描かれている。
「これは、過去三年間の王太子費の収支決算報告書です」
私は指示棒を取り出し、グラフを叩いた。
「赤い線が、殿下の『支出』です。右肩上がりですね。まるで昇り龍のごとく」
会場から失笑が漏れる。
「そして、青い線が、国から支給される『予算』です。見ての通り、三年前から支出が予算を大幅に上回っています。通常なら、ここで破産です」
「な、なんだと……? だが、私は普通に買い物できていたぞ!」
「ええ。そこで登場するのが、この緑の線です」
私は一番下の、地を這うような線を指差した。
いや、よく見ると、その線はマイナス領域から必死に赤字を埋めようと上に伸びている。
「これは、『ラミリア・バーンスタインの個人資産からの補填』です」
「……は?」
「殿下が予算オーバーするたびに、私が実家のドレスを売り、宝石を売り、食費を削り、へそくりを切り崩して穴埋めをしていました。その総額は……」
私は具体的な金額(城が一つ買えるレベル)を読み上げた。
「ひぃっ!?」
会場の貴族たちが悲鳴を上げた。
「えげつない……」「ラミリア様、聖人か?」「いや、ただのATM扱いじゃないか」という同情と軽蔑の声が渦巻く。
「殿下。貴方が『金が消えていた』と感じたのは、私が貴方の無駄遣いを必死に食い止めるために、一部の口座を凍結して管理していたからです。横領? 逆です。私が貴方に『貸付』をしている状態です」
私はニッコリと笑い、一枚の請求書を殿下の目の前に突きつけた。
「というわけで、こちらが未払い分の請求書になります。利息は法定内ですが、延滞損害金が含まれておりますので、ご注意ください」
「い、一、十、百、千……億!?」
殿下は桁を数えて白目を剥いた。
「は、払えるわけがない! 私は王族だぞ! なんで私が金を払うんだ!」
「借りたものは返す。幼稚園児でも知っているルールです」
私は冷たく切り捨てた。
論理と数字の前では、王族の権威など紙屑同然だ。
「う、嘘だ……。嘘だ嘘だ! 全部デタラメだ!」
追い詰められた殿下は、錯乱状態で喚き散らした。
「ミナ! お前からも言ってやれ! ラミリアがいかに悪毒で、お前がいかに清らかか! お前は聖女の力を持っているんだろう!?」
殿下がミナ様に縋る。
ミナ様はビクリと震えた。
「えっ、あ、その……」
「そうだ、聖女の力だ! ミナの祈りで奇跡を起こせば、皆も信じるはずだ! やってみろ!」
無茶振りである。
しかし、ここで引くわけにはいかないミナ様は、震える手で祈るポーズをとった。
「お、おおお……聖なる光よぉ……私に力をぉ……」
シーン。
何も起きない。
ただ、ミナ様が奇妙な踊りを踊っているだけのシュールな光景が続く。
「……プッ」
誰かが吹き出した。
それを皮切りに、会場中からクスクスという笑い声が広がる。
「あれが聖女? ただのパントマイムじゃねえか」
「痛々しいな」
「ラミリア様のプレゼンの方がよっぽど『神』がかっていたぞ」
嘲笑の嵐。
ミナ様の顔が赤から青、そして土色へと変わっていく。
「ち、違うんです! 今日は調子が……!」
「いい加減になさい」
そこで、低く、しかし絶対的な声が響いた。
アレクセイ様だ。
彼は今まで黙って私の「独壇場」を見守っていたが、ついに一歩前に出た。
「茶番は終わりだ。……ミナ・フォン・ロードヴィッヒ男爵令嬢」
「ひぃっ! は、はい!」
「お前の経歴だが……『名門女子修道院を首席で卒業』となっているな?」
アレクセイ様は一枚の書類を掲げた。
「修道院長に確認したところ、『そのような名の生徒は在籍記録なし』との回答だ。……お前、本当はどこから来た?」
「そ、それは……!」
「さらに、お前の実家の男爵家だが、三代前に断絶しており、現在は誰も住んでいないはずだ。お前は、誰からその戸籍を買った?」
「ッ!!」
ミナ様が息を呑む。
図星だ。
アレクセイ様の情報網は、世界中の裏社会にまで及んでいる。
彼女の嘘など、薄紙一枚剥がすより簡単に見破られてしまったのだ。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
ミナ様はその場に泣き崩れた。
もはや、反論の余地はない。
「勝負あり、ですね」
私はファイルをパタンと閉じた。
その音は、まるで裁判官が木槌を叩く音のように、大広間に響き渡った。
「ど、どうしてだ……」
ジェラルド殿下は膝から崩れ落ち、呆然と私を見上げた。
「なぜだ、ラミリア……。貴様は無能だったはずだ……。地味で、取り柄がなくて、私の後ろをついてくるだけの女だったはずだ……。なぜ、こんな……」
「殿下」
私は眼鏡(伊達)を外し、彼を真っ直ぐに見下ろした。
かつての婚約者としてではなく、彼を見限った一人の女性として。
「私は無能ではありませんでした。……貴方が、私を『無能な都合の良い女』という枠に押し込めて、見ようとしなかっただけです」
「…………」
「貴方が私の仕事を『雑用』と呼び、私の献身を『当たり前』だと思っていた間に、私は学び、繋がり、力をつけていました。……貴方が遊んでいる間に、です」
私の言葉は、静かだが、殿下の心に深く突き刺さったようだった。
「さて、陛下」
私は玉座の国王陛下に向き直った。
「私の主張は以上です。証拠書類一式は、後ほど提出いたします」
「うむ。……見事であった」
陛下は深く頷き、そして憐れみの目で息子を見た。
「ジェラルドよ。……今の論戦を見て、まだ自分が正しいと思うか?」
「…………」
殿下は答えられなかった。
口を開けば、また私が数字で殴り返すことを理解してしまったからだ。
彼の心は完全に折れていた。
「……ふん。つまらん」
アレクセイ様がつまらなそうに鼻を鳴らした。
「もっと骨があるかと思ったが、ラミリア一人に手も足も出ないとはな。私が手を下すまでもなかった」
彼は私の肩を抱き寄せ、誇らしげに微笑んだ。
「見たか、これが私の妻だ。……美しく、そして誰よりも賢い。国一番の宝石とは、彼女のことだ」
会場中から、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
それは、新しい公爵夫人への祝福であり、愚かな王子への別れの挨拶でもあった。
こうして、法廷対決は私の完全勝利で幕を閉じた。
しかし、物語はまだ終わらない。
追い詰められたミナ様が、最後の「毒」を吐き出そうとしていたことに、私たちはまだ気づいていなかった。
国王陛下の重々しい声が響き渡った。
大広間の中央。
私とアレクセイ様、そしてジェラルド殿下とミナ様が向かい合って立っている。
「まず、被告人ジェラルド。そなたは『ラミリアが公爵家の金を横領した』『ラミリアがミナをいじめた』と主張しているが、その証拠はあるのか?」
陛下の問いに、殿下は待っていましたとばかりに鼻を鳴らした。
「ありますとも! 父上、これをご覧ください!」
殿下が自信満々に取り出したのは、ピンク色の表紙がついた一冊のノートだった。
「これはミナの日記です! ここには、ラミリアから受けた陰湿ないじめの数々が、血涙と共に綴られています!」
「ほほう、日記か」
「読み上げます! 『○月×日、ラミリア様に階段から突き落とされた。痛かった』『△月□日、ラミリア様に教科書を燃やされた。悲しい』……どうです! これこそ動かぬ証拠!」
殿下は勝ち誇った顔で私を指差した。
ミナ様も「思い出しただけで涙が……」と嘘泣きを始めている。
会場の貴族たちがざわめいた。
「日記か……」「証拠能力としては弱くないか?」という冷静な声が大半だが、殿下は気づいていない。
私は静かに、手元の分厚いファイルを開いた。
そして、眼鏡(伊達)の位置を直しながら、淡々と言った。
「陛下。反論および、事実確認をさせていただいても?」
「許可する」
「ありがとうございます。……では、ジェラルド殿下。その日記、拝見してもよろしいですか?」
「ふん、見るがいい! 己の罪に震えるがいいさ!」
殿下から日記を受け取った私は、パラパラとページをめくり、わずか数秒でパタンと閉じた。
そして、冷徹な事務官の目で殿下を見据えた。
「……詰めが甘いですね」
「な、なんだと?」
「まず一点目。この日記の『△月□日』の記述ですが、この日は王立学園の休校日です。校舎は結界で封鎖されており、生徒は入れません。どうやって教室で教科書を燃やしたのですか?」
「えっ? あ、いや、それは……校庭で!」
「当日は暴風雨警報が出ており、外出禁止令が発令されていました。嵐の中で教科書を燃やす? キャンプファイヤーの達人でも不可能です」
「ぐぬっ……!」
「次に二点目。この日記に使われているインクですが」
私は日記の文字を指差した。
キラキラとラメが入った、可愛らしいインクだ。
「これは『トゥインクル・インク』ですね。王都で流行中の」
「そ、そうだ! ミナは流行に敏感だからな!」
「このインクが発売されたのは、つい『先週』ですが」
「…………はい?」
会場の時が止まった。
殿下とミナ様の動きも止まった。
「いじめがあったとされるのは『三ヶ月前』ですよね? なぜ、先週発売されたインクで、三ヶ月前の日記が書けるのですか? ミナ様は時をかける少女なのですか?」
「あ、あ、あの……それは……!」
ミナ様が顔面蒼白で泳ぐ目をきょろきょろさせる。
私は追撃の手を緩めない。
「答えは簡単。この日記は、昨日か一昨日にまとめて捏造されたものだからです。筆圧の強さ、文字のかすれ具合から見ても、短時間で急いで書いたことは明白。……素人の偽装工作ですね。やり直しを命じます」
私は日記を殿下に突き返した。
バサリ、と床に落ちる音が響く。
「くっ……! こ、こんなものは些細なミスだ! いじめの事実はあるんだ!」
殿下は顔を真っ赤にして叫んだ。
「それなら横領はどうだ! ラミリア、貴様は私の金を使い込んでいたはずだ! 毎月、莫大な金が消えていた! あれは貴様の懐に入っていたんだろう!」
「やれやれ……」
私は呆れてため息をついた。
これだから、数字の読めない経営者は困る。
「では、こちらの資料をご覧ください」
私は合図をした。
すると、控えていたアレクセイ様配下の文官たちが、巨大な模造紙を掲げた。
そこには、複雑な折れ線グラフと棒グラフが描かれている。
「これは、過去三年間の王太子費の収支決算報告書です」
私は指示棒を取り出し、グラフを叩いた。
「赤い線が、殿下の『支出』です。右肩上がりですね。まるで昇り龍のごとく」
会場から失笑が漏れる。
「そして、青い線が、国から支給される『予算』です。見ての通り、三年前から支出が予算を大幅に上回っています。通常なら、ここで破産です」
「な、なんだと……? だが、私は普通に買い物できていたぞ!」
「ええ。そこで登場するのが、この緑の線です」
私は一番下の、地を這うような線を指差した。
いや、よく見ると、その線はマイナス領域から必死に赤字を埋めようと上に伸びている。
「これは、『ラミリア・バーンスタインの個人資産からの補填』です」
「……は?」
「殿下が予算オーバーするたびに、私が実家のドレスを売り、宝石を売り、食費を削り、へそくりを切り崩して穴埋めをしていました。その総額は……」
私は具体的な金額(城が一つ買えるレベル)を読み上げた。
「ひぃっ!?」
会場の貴族たちが悲鳴を上げた。
「えげつない……」「ラミリア様、聖人か?」「いや、ただのATM扱いじゃないか」という同情と軽蔑の声が渦巻く。
「殿下。貴方が『金が消えていた』と感じたのは、私が貴方の無駄遣いを必死に食い止めるために、一部の口座を凍結して管理していたからです。横領? 逆です。私が貴方に『貸付』をしている状態です」
私はニッコリと笑い、一枚の請求書を殿下の目の前に突きつけた。
「というわけで、こちらが未払い分の請求書になります。利息は法定内ですが、延滞損害金が含まれておりますので、ご注意ください」
「い、一、十、百、千……億!?」
殿下は桁を数えて白目を剥いた。
「は、払えるわけがない! 私は王族だぞ! なんで私が金を払うんだ!」
「借りたものは返す。幼稚園児でも知っているルールです」
私は冷たく切り捨てた。
論理と数字の前では、王族の権威など紙屑同然だ。
「う、嘘だ……。嘘だ嘘だ! 全部デタラメだ!」
追い詰められた殿下は、錯乱状態で喚き散らした。
「ミナ! お前からも言ってやれ! ラミリアがいかに悪毒で、お前がいかに清らかか! お前は聖女の力を持っているんだろう!?」
殿下がミナ様に縋る。
ミナ様はビクリと震えた。
「えっ、あ、その……」
「そうだ、聖女の力だ! ミナの祈りで奇跡を起こせば、皆も信じるはずだ! やってみろ!」
無茶振りである。
しかし、ここで引くわけにはいかないミナ様は、震える手で祈るポーズをとった。
「お、おおお……聖なる光よぉ……私に力をぉ……」
シーン。
何も起きない。
ただ、ミナ様が奇妙な踊りを踊っているだけのシュールな光景が続く。
「……プッ」
誰かが吹き出した。
それを皮切りに、会場中からクスクスという笑い声が広がる。
「あれが聖女? ただのパントマイムじゃねえか」
「痛々しいな」
「ラミリア様のプレゼンの方がよっぽど『神』がかっていたぞ」
嘲笑の嵐。
ミナ様の顔が赤から青、そして土色へと変わっていく。
「ち、違うんです! 今日は調子が……!」
「いい加減になさい」
そこで、低く、しかし絶対的な声が響いた。
アレクセイ様だ。
彼は今まで黙って私の「独壇場」を見守っていたが、ついに一歩前に出た。
「茶番は終わりだ。……ミナ・フォン・ロードヴィッヒ男爵令嬢」
「ひぃっ! は、はい!」
「お前の経歴だが……『名門女子修道院を首席で卒業』となっているな?」
アレクセイ様は一枚の書類を掲げた。
「修道院長に確認したところ、『そのような名の生徒は在籍記録なし』との回答だ。……お前、本当はどこから来た?」
「そ、それは……!」
「さらに、お前の実家の男爵家だが、三代前に断絶しており、現在は誰も住んでいないはずだ。お前は、誰からその戸籍を買った?」
「ッ!!」
ミナ様が息を呑む。
図星だ。
アレクセイ様の情報網は、世界中の裏社会にまで及んでいる。
彼女の嘘など、薄紙一枚剥がすより簡単に見破られてしまったのだ。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
ミナ様はその場に泣き崩れた。
もはや、反論の余地はない。
「勝負あり、ですね」
私はファイルをパタンと閉じた。
その音は、まるで裁判官が木槌を叩く音のように、大広間に響き渡った。
「ど、どうしてだ……」
ジェラルド殿下は膝から崩れ落ち、呆然と私を見上げた。
「なぜだ、ラミリア……。貴様は無能だったはずだ……。地味で、取り柄がなくて、私の後ろをついてくるだけの女だったはずだ……。なぜ、こんな……」
「殿下」
私は眼鏡(伊達)を外し、彼を真っ直ぐに見下ろした。
かつての婚約者としてではなく、彼を見限った一人の女性として。
「私は無能ではありませんでした。……貴方が、私を『無能な都合の良い女』という枠に押し込めて、見ようとしなかっただけです」
「…………」
「貴方が私の仕事を『雑用』と呼び、私の献身を『当たり前』だと思っていた間に、私は学び、繋がり、力をつけていました。……貴方が遊んでいる間に、です」
私の言葉は、静かだが、殿下の心に深く突き刺さったようだった。
「さて、陛下」
私は玉座の国王陛下に向き直った。
「私の主張は以上です。証拠書類一式は、後ほど提出いたします」
「うむ。……見事であった」
陛下は深く頷き、そして憐れみの目で息子を見た。
「ジェラルドよ。……今の論戦を見て、まだ自分が正しいと思うか?」
「…………」
殿下は答えられなかった。
口を開けば、また私が数字で殴り返すことを理解してしまったからだ。
彼の心は完全に折れていた。
「……ふん。つまらん」
アレクセイ様がつまらなそうに鼻を鳴らした。
「もっと骨があるかと思ったが、ラミリア一人に手も足も出ないとはな。私が手を下すまでもなかった」
彼は私の肩を抱き寄せ、誇らしげに微笑んだ。
「見たか、これが私の妻だ。……美しく、そして誰よりも賢い。国一番の宝石とは、彼女のことだ」
会場中から、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
それは、新しい公爵夫人への祝福であり、愚かな王子への別れの挨拶でもあった。
こうして、法廷対決は私の完全勝利で幕を閉じた。
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