「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊

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第6話 大事な仕事

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異常を異常として認識したのは、問題が重なってからだった。

結界の補強に使う魔力量が、明らかに増えている。魔力供給の調整が追いつかず、都市全体で不安定な時間帯が生まれ始めた。個別に見れば小さな問題だが、同時に起きる頻度が増えている。

「……さすがに、おかしい」

管理棟で最も経験の長い魔術師が、そう呟いた。彼は記録棚の前に立ち、過去数年分の数値を机に並べる。結界核の反応、魔力導管の流量、補強魔法の使用履歴。それらを一つずつ照らし合わせ、しばらく黙り込んだ。

「流れが、違う」

結界核は正常で、導管にも破損はない。それでも数値は戻らない。単発の異常ではなく、魔力そのものの巡り方が変質している。

「こんな状態、以前はなかったはずだ」

誰かがそう言い、別の魔術師が恐る恐る口を開く。

「……前の管理担当は、何をしていたんだ?」

その一言をきっかけに、記録は改めて精査された。

魔力循環の調整。結界の負荷分散。事故として表に出る前の、微細な歪みの処理。派手な魔法は一切使われていない。それなのに、“起きなかった問題”の数が異様に多い。

「これ……全部、一人で?」

声が落ちた。

魔法を撃たなかった理由が、ようやく形になる。問題が起きる前に、流れを整えていたのだ。触らず、足さず、逃がす。数値だけでは判断できない微妙な調整を、日常的に行っていた。

「代わりはいない、ということか」

その結論に至った瞬間、室内の空気が重く沈んだ。

「呼び戻すべきだ」

そう言った者はいた。だが、すぐに別の声が重なる。

「追放したのは、こちらだ」
「今さら、何と言う?」
「責任問題になる」

誰も、その言葉を否定しなかった。判断を誤ったことは分かっている。だが、それを公に認めることは、別の問題だった。

結界の歪みは、その間にも広がっていく。補強魔法で抑え込むほど、別の区画に負荷が集中する。魔力は行き場を失い、都市全体が不安定になりつつあった。

「……限界が近い」

そう告げた魔術師の声には、はっきりとした恐怖が混じっていた。

その頃、私はすでに別の国の研究区画にいた。ここでも、魔法は使わない。ただ流れを見て、必要なら整える。それだけで、結界は安定している。

「助かります」

そう言われることはあっても、派手な称賛はない。だが、それでいい。

魔法を使わなかったのではない。使わずに済むようにしていただけだ。その違いを理解する場所に来ただけの話だ。

一方、フローリア王国では、最後の判断が迫っていた。呼び戻すか。それとも、このまま進むか。

国は、もう一度だけ選択を誤る。
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