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第3章 音楽の才能と胃痛のお茶会
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薔薇の香りがふわりと立ちのぼる。
紅茶を口に含んだ瞬間、心まで解けていくような柔らかな甘みが広がった。
(……美味しい。こういうの、久しぶりだな)
内心でそっと感嘆しながら、微笑みを崩さないように気をつけて飲み干す。
アレクシスはすぐに気づいたらしい。
「気に入ったようだな。包ませよう」
「そ、そこまでしていただかなくても……」
「そうしたら、俺のこと、また思い出してもらえるだろ?」
あまりに自然な口調で、心臓が跳ねる。
私は笑顔の裏で内心震えていた。
(……異世界男子の口説き文句、恐ろしすぎる……! こんなの態度に出したら一瞬で詰む……!)
アレクシスは軽くカップを置くと、ふと話題を変えた。
「ところで……森に潜むのは、戦術書では推奨されないよな?」
赤い瞳が射抜くようにこちらを見て、私は息を呑んだ。
「……味方の人数が少なかったので。正面からではなく、奇襲の方が有利だと思いました」
「なるほど」
アレクシスの瞳が一瞬、鋭く細まる。
氷のように張りつめた空気が走り、彼が単なる軽口だけの男ではないことを告げた。
(……やっぱり、この人。領主一族で、しかも騎士。かなり策士だ……)
だが次の瞬間、彼はふっと笑い声を漏らし、その緊張感を霧散させる。
「やっぱりエレオノーラは面白い!」
広間に明るい声が響き、側近たちもほっと肩を揺らす。
「授業の方はどうだ?」
「読み書きも計算も、領内で習っていましたから……ついていけています」
そんなやり取りをしているうちに、話題は「学院の七不思議」へと移った。
図書館に夜な夜な現れる“ページを食べる影”だとか、礼拝堂の鏡に映る“もうひとりの自分”だとか。
「俺は一度、図書館で見張ったけどな。……結局何も出なかった」
アレクシスが笑う。
「ふふ……試したんですか」
「当然だろ? 気になるじゃないか」
思わず口元が緩んだ。
序列一位の領主一族とこうしてくだらない話題で笑っている自分が不思議でならない。
やがて茶器が片付けられ、静かにお茶会はお開きとなった。
館を後にしたとき、私は心の底から深いため息をついた。
(……無事に終わった。本当に、無事に……)
胃の奥の緊張が、ようやく解けていくのを感じた。
紅茶を口に含んだ瞬間、心まで解けていくような柔らかな甘みが広がった。
(……美味しい。こういうの、久しぶりだな)
内心でそっと感嘆しながら、微笑みを崩さないように気をつけて飲み干す。
アレクシスはすぐに気づいたらしい。
「気に入ったようだな。包ませよう」
「そ、そこまでしていただかなくても……」
「そうしたら、俺のこと、また思い出してもらえるだろ?」
あまりに自然な口調で、心臓が跳ねる。
私は笑顔の裏で内心震えていた。
(……異世界男子の口説き文句、恐ろしすぎる……! こんなの態度に出したら一瞬で詰む……!)
アレクシスは軽くカップを置くと、ふと話題を変えた。
「ところで……森に潜むのは、戦術書では推奨されないよな?」
赤い瞳が射抜くようにこちらを見て、私は息を呑んだ。
「……味方の人数が少なかったので。正面からではなく、奇襲の方が有利だと思いました」
「なるほど」
アレクシスの瞳が一瞬、鋭く細まる。
氷のように張りつめた空気が走り、彼が単なる軽口だけの男ではないことを告げた。
(……やっぱり、この人。領主一族で、しかも騎士。かなり策士だ……)
だが次の瞬間、彼はふっと笑い声を漏らし、その緊張感を霧散させる。
「やっぱりエレオノーラは面白い!」
広間に明るい声が響き、側近たちもほっと肩を揺らす。
「授業の方はどうだ?」
「読み書きも計算も、領内で習っていましたから……ついていけています」
そんなやり取りをしているうちに、話題は「学院の七不思議」へと移った。
図書館に夜な夜な現れる“ページを食べる影”だとか、礼拝堂の鏡に映る“もうひとりの自分”だとか。
「俺は一度、図書館で見張ったけどな。……結局何も出なかった」
アレクシスが笑う。
「ふふ……試したんですか」
「当然だろ? 気になるじゃないか」
思わず口元が緩んだ。
序列一位の領主一族とこうしてくだらない話題で笑っている自分が不思議でならない。
やがて茶器が片付けられ、静かにお茶会はお開きとなった。
館を後にしたとき、私は心の底から深いため息をついた。
(……無事に終わった。本当に、無事に……)
胃の奥の緊張が、ようやく解けていくのを感じた。
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