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リリーナは帳面を閉じ、ふぅと小さく息を吐いた。
窓の外から聞こえる子どもたちの笑い声に、そっと目を細める。
「──終わったか?姫さま」
木の扉がノックもなく開いて、見知った顔が入ってくる。
背の高い青年。鋭い目元に無造作な黒髪、堅苦しい礼儀とは無縁の態度。
リリーナの侍女たちが揃って顔をしかめる相手──それが、エドガーだった。
「……またノックもしないで入ってきて」
「しても聞こえてないだろ。おまえ集中すると周りが見えなくなるからな」
呆れたように肩をすくめながら、彼は窓辺の椅子に勝手に腰を下ろした。
レイナだったら目を丸くして止めるところだが、リリーナは怒らなかった。
エドガーとは、そういう関係だった。
「何か用?」
「用もなく来ちゃ駄目か?」
「……駄目じゃないけど。暇なの?」
「いや。宰相家のカミラ様に、『あの姫がまた無理して倒れる前に見張ってこい』って押し付けられた」
「…………」
返す言葉に詰まったリリーナの表情を見て、エドガーは笑う。
この男は、いつも遠慮がない。
けれどその無遠慮さが、どこか心地よいのだと、リリーナは思っていた。
「そんな顔するなよ。別に責めちゃいない。……ただ、お前が無理してるのは、俺にはわかる」
「……どうして?」
「俺の姉貴と、お前の母君──第二王妃様は、仲が良かったろ。
だからさ、あんたが何を考えて、何を守ろうとしてるのか……少しくらいは、見えるつもりでいる」
「……おせっかいね」
「乳兄妹だからな」
「……ずるいわ、その立場」
リリーナは、微かに笑った。
彼の前でだけは、少しだけ“姫”を降りることができる。
エドガーの前では、無理に聖女を演じる必要がない。
「で、どうせまた、何か私に言いたいことがあるんでしょう?」
「まあな。……お前、そろそろ“使える駒”と“背負うべき荷物”を分けて考えないと、詰むぞ」
「詰ませるわけないじゃない。私は勝つために動いてるのよ。弟のために」
その言葉には、微塵の揺らぎもなかった。
そして、それを聞いたエドガーもまた──ただ静かに目を伏せた。
「……まったく、愛が重いな。リリーナ様は」
「ふふ。自覚してる」
リリーナは紅茶を一口啜る。
それは、温もりと冷たさが同居するような笑みだった。
窓の外から聞こえる子どもたちの笑い声に、そっと目を細める。
「──終わったか?姫さま」
木の扉がノックもなく開いて、見知った顔が入ってくる。
背の高い青年。鋭い目元に無造作な黒髪、堅苦しい礼儀とは無縁の態度。
リリーナの侍女たちが揃って顔をしかめる相手──それが、エドガーだった。
「……またノックもしないで入ってきて」
「しても聞こえてないだろ。おまえ集中すると周りが見えなくなるからな」
呆れたように肩をすくめながら、彼は窓辺の椅子に勝手に腰を下ろした。
レイナだったら目を丸くして止めるところだが、リリーナは怒らなかった。
エドガーとは、そういう関係だった。
「何か用?」
「用もなく来ちゃ駄目か?」
「……駄目じゃないけど。暇なの?」
「いや。宰相家のカミラ様に、『あの姫がまた無理して倒れる前に見張ってこい』って押し付けられた」
「…………」
返す言葉に詰まったリリーナの表情を見て、エドガーは笑う。
この男は、いつも遠慮がない。
けれどその無遠慮さが、どこか心地よいのだと、リリーナは思っていた。
「そんな顔するなよ。別に責めちゃいない。……ただ、お前が無理してるのは、俺にはわかる」
「……どうして?」
「俺の姉貴と、お前の母君──第二王妃様は、仲が良かったろ。
だからさ、あんたが何を考えて、何を守ろうとしてるのか……少しくらいは、見えるつもりでいる」
「……おせっかいね」
「乳兄妹だからな」
「……ずるいわ、その立場」
リリーナは、微かに笑った。
彼の前でだけは、少しだけ“姫”を降りることができる。
エドガーの前では、無理に聖女を演じる必要がない。
「で、どうせまた、何か私に言いたいことがあるんでしょう?」
「まあな。……お前、そろそろ“使える駒”と“背負うべき荷物”を分けて考えないと、詰むぞ」
「詰ませるわけないじゃない。私は勝つために動いてるのよ。弟のために」
その言葉には、微塵の揺らぎもなかった。
そして、それを聞いたエドガーもまた──ただ静かに目を伏せた。
「……まったく、愛が重いな。リリーナ様は」
「ふふ。自覚してる」
リリーナは紅茶を一口啜る。
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