病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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庭の木漏れ日の下で、笑い声が跳ねた。

「わあっ、見て、姉上! 虫が飛んでるよ!」

木の葉の間を追いかけて跳ねる少年――ユリアン王子。
王家の末子にして、まだ八歳の少年は、金色の髪を風になびかせながら笑っていた。
その瞳は澄んだ青。姉を見つけるたびにきらきらと輝く。

「ユリアン、走りすぎると転ぶわよ」

「平気だよー!」

言いつつも、リリーナの声がすると、すぐに立ち止まって振り返る。
駆け戻ってくる仕草は、まるで忠犬のようだった。

リリーナは、庭の石造りのベンチに腰を下ろし、白い日傘を片手に彼を見守っていた。
薄紅のドレスが日差しに透け、彼女の病的な白さをいっそう際立たせる。

「……ねえ、姉上」

ユリアンがふと、膝に手をついてリリーナを見上げた。
無邪気さの奥に、少しだけ陰りがあるように見えた。

「ん?」

「……ほんとに、元気なの?」

リリーナの手が、ぴたりと止まった。
白い扇子を閉じる音が、静かに響く。

「なあに、突然。誰かに何か言われたの?」

「ううん……なんとなく、でも……。
最近、まわりの大人が変なこと言ってるの。
“姫様は無理をしすぎだ”とか、“どこかの貴族が毒を盛ったんじゃないか”とか……」

「……そんな話、耳に入っちゃったのね」

「わかんないよ、よくは……でも、嫌な感じするの。
姉上が笑ってても、時々、すごく遠いところを見てるみたいで……
……ぼくのこと、ちゃんと見てる?」

リリーナは一瞬だけ言葉を失い、それから微笑んだ。
右手を伸ばし、ユリアンの頬にそっと触れる。

「見てるわ。見逃すわけがないでしょう?」

「……でも」

「私はね、あなたの笑顔を守るために、ここにいるの。
だから、たとえ少し身体が弱くても、心は大丈夫よ」

ユリアンは何かを言いかけて、そっと抱きついた。

「……ずっと、そばにいて」

「ええ。ユリアンが望むなら、どこにも行かないわ」

小さな背中に、優しく手を添える。
リリーナにとって、ユリアンだけが“本物の光”だった。

(だけど、この子の未来は、私の犠牲では叶えたくない)
(守りながら、選ばせる。誰かに仕立てられた王ではなく、自分の足で立つ王に)

「ねえ、ユリアン。今度の学問の講義、私も少し付き合ってあげるわ。
一緒に問題を解きましょう。……できたらご褒美をあげる」

「ほんと!? やったー! ……でも、無理しないでね?」

「大丈夫よ。あなたが笑ってくれたら、それが何よりの薬になるもの」

リリーナの笑顔はやさしかった。
けれどその瞳の奥に、鋼のような決意が隠されていることを、まだユリアンは知らなかった。
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